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『COP CAR コップ・カー』感想(ネタバレ)…大人よ、子どもを侮るなよ

COP CAR コップ・カー

大人よ、子どもを侮るなよ…映画『COP CAR コップ・カー』(コップカー)の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Cop Car
製作国:アメリカ(2015年)
日本公開日:2016年4月9日
監督:ジョン・ワッツ

COP CAR コップ・カー

こっぷかー
COP CAR コップ・カー

『COP CAR コップ・カー』物語 簡単紹介

荒野で遊ぶ少年2人が1台のパトカーを偶然見つけ、そのままパトカーを無邪気に乗り回し始める。しかし、車を盗まれたことに気付いた持ち主の保安官から無線が入る。さらに少年たちは、車のトランクにとんでもないものが入っていたことを知る。まだ何も世の中に恐怖があることを知らない子どもたち。その子どもに人生を滅茶苦茶にされて焦る大人。どんな結末へ走っていくのか。
この記事は「シネマンドレイク」執筆による『COP CAR コップ・カー』の感想です。

『COP CAR コップ・カー』感想(ネタバレなし)

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超注目監督の作品は見逃せない

子どもの頃はいろいろと“やんちゃな”悪い事をした人はたくさんいるはずです。石を投げつけて窓ガラスを割るとか、花壇の花を引っこ抜くとか、壁に落書きするとか、パトカーを盗むとか…。

はい、そんな盗んだパトカーで走り出す子どもたちを描く一作。それが本作『COP CAR コップ・カー』です。「cop」はお巡りさんのことですから、タイトルがそのまますぎますね。

でも、この映画、なかなかバカにできない青春活劇になっています。ちょっとほっこりするような後味もあったりして、個人的には好きです。パトカーを盗んているんですよ。しかもさらにヤバい状況が起こったりするんですよ。普通ならサスペンス。でも、あれ、心が温かい…。ジュブナイル好きにはかなりオススメな一作かなと。こうやって子どもは成長するんだよねという気持ちといえばいいのかな。

本作の監督は“ジョン・ワッツ”。本作で監督2作目となるまだまだ新人ではありますが、デビューの経歴が変わっていて有名です。彼は、映画学校時代にホラー映画『クラウン』のフェイクトレーラーをYoutubeにアップし(しかも製作総指揮としてホラーの帝王イーライ・ロスの名前を勝手にクレジットする)、話題となりました。そのうえ、それを見たイーライ・ロスがこのフェイク映画を本当に作ってしまおうと逆に提案したことで、監督デビューが実現してしまいました。まさにイーライ・ロスに認められた男といったところであり、この経歴の時点で“やんちゃ”すぎます。どうりでこんな映画を作るわけです。

そんなジョン・ワッツは、あの「スパイダーマン」最新作『スパイダーマン ホームカミング』(2017年7月に米公開予定)でメガホンをとることが決定しています。常識的にはあり得ないすごい大躍進です(最近のハリウッドは、若手監督が大作を撮ることが目立つような気がします)。

超注目監督のジョン・ワッツ2作目となる本作は、会心の出来です。正直1作目の『クラウン』を見ただけではジョン・ワッツという映画クリエイターの才能はよくわからなかったのですが(イーライ・ロスに認められるのはすごいけど一発ネタに終わることもあるし)、『COP CAR コップ・カー』を見れば一目瞭然です。なんたって映画最初のセリフが「チ○コ」ですから。なんじゃこりゃと思いつつ、目が離せない展開がずーっと続く良質なサスペンスが見られます。

そして、これはネタバレを控えるために詳しく言及できませんが、最高の“ケヴィン・ベーコン”映画でもあります。もうずっと“ケヴィン・ベーコン”のターン(ただし攻撃に失敗している)。愛らしい彼の姿を眺めることができて、幸せという名の満腹感に満たされます。

子どもたちと“ケヴィン・ベーコン”の愉快な追いかけっこを見たい方はぜひ鑑賞してみてください。

↓ここからネタバレが含まれます↓

『COP CAR コップ・カー』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(前半):車の鍵は閉めましょう

卑猥な単語を意味もなく連発しながらトボトボと歩く2人の少年。トラヴィスハリソンは家出中でした。あてどなく歩いているだけで自分たちが何キロ進んだかもよくわかっていません。周りは何もない荒涼とした田舎の風景。建物ひとつなく、森すらも見えません。

すると動物の穴を見つけて枝でほじくり返して遊びます。食べ物は非常食として持ってきたスナックだけ。

大きな木の傍に行くと、目立たない草原にポツンと止まっている警察の車を発見。身を伏せて様子を窺いますが、誰もいないようです。

その車に触れるかで度胸試しをすることにします。タッチしてまた走って戻ってくるひとりの子。次はもうひとりの子。何もありませんでした。

2人はもっと接近して車内を調べますが、鍵がかかっています。しかし、運転手側はドアが開きました。ひとりの子は運転席に飛び乗って、運転するマネをしてすっかり調子に乗ります。そして2人で運転ごっこをして大満喫。

そのとき、キーを発見。これはもしかしてもしかすると…。

キーを差し込むとエンジンがかかります。びっくりしてすぐに降りる2人。またすぐに飛び乗り、アクセルを踏むと車はゆっくり動き出します。

もうこうなったら運転してしまおう。自分たちは警官。これは自分たちの車…。

こうして警察の車は子どもにハンドルを支配されて好き勝手に蛇行運転。スピードをあげたり、サイレンを鳴らしたり、自由気ままです。

その少年たちが来る少し前、1台の別の警察車両から降りてきたのはひとりのサングラスの男性警官。あたりを見渡し、服を脱ぎ、おもむろに口笛を吹きます。そしてシートを広げ、後部トランクを開け、手袋をはめ、中から重たいものを引っ張り出します。死体です。

それをシートで引きずって運ぶ男。重くて苦労します。まだトランクには別の死体がありますが、まずは1体だけ。そしてその死体を穴に入れて石灰を混ぜつつ隠します。

それが終わって休みつつ、また作業に戻るために車へ帰ります。

車がない…。

どこへ行った…? きょろきょろとあたりを見渡すも車が消えているのは確かです。

死体を乗せた車は子ども2人が爆走させているとも知らずに慌てる男でしたが…。

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子どもサスペンスの傑作

冒頭いきなり「チ○コ」のセリフから始まる本作『COP CAR コップ・カー』の物語は、終始子どものノリで進行します。田舎の何もなさそうな荒野で遊びに使えそうなものを探して時間をつぶす子どもたちは、見るからに刺激に飢えています。そこで見つけたパトカーはつまらない日常に降ってわいた刺激的なおもちゃです。「車を運転したことある? 」の質問に「あるよ。マリオカート」と答える子どもたち。子どもにしてみれば日常はまさにゲームそのもの。なので、恐ろしい事件に巻き込まれていることが判明したあとも、子どもたちにはあまり危機感がありません。

映画を見ていると、子どもらしい危なっかしい行動に私たち大人側は「おいおい、大丈夫かよ」とつい突っ込みたくなります。子どもが銃口をのぞき込むシーンは、絶対にここで子どもが死んだりしないとわかっていてもハラハラします。といってもこの監督ならやりかねないような気がしてそれも不安を増長させるのですけど(この監督は過去作でも子どもが酷い目にあうシーンも撮っています)。

一方で「F○ck」と言うのは良くないと言い出したり、自分たちを車に閉じ込めた男を銃で撃つのをためらったり、子どもなりの善悪基準も描かれています。

こうした子ども特有の何をするかわからない感じが本作のサスペンスの要であり、見ていて全く飽きません。

この映画の、そういう良いほうにも悪いほうにも簡単に傾く子どもたちの素の姿をあるがままに描いているのが好きで、大人側の正しさの押しつけもない、無添加な子どもたちがいいですよね。意外にこういう映画は少なくて、結構子どもというキャラクターに対して、大人が理想を押し付けてしまったりすることが多いので、なんだか安心します。まあ、劇中では常にハラハラさせられるのですが。

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大人は死んでも、子どもは成長する

一番良いのは子どもに説教するキャラがいないということ。大人の登場人物はどこか抜けているのです。

ケヴィン・ベーコン演じる保安官は、パトカーを盗られて荒野を激走するシーンや、車のロックを頑張って開けようとするシーンなど間抜けな場面の方が目立ちます。サングラスをかけるケヴィン・ベーコンはもはやギャグ。私は映画を見る前は、ケヴィン・ベーコンが銃を乱射しながら子供たちを追いかけ回すスリラーだと思っていましたが、どちらかといえばコメディ、いや思いっきりコメディに傾く瞬間もありましたね。まさかこんなにもケヴィン・ベーコンを「愛しい」と思うほど、一挙手一投足に夢中になるとは思いませんでした。見ていて“いじりたくなる”可愛さ。もっといじめたい…。

狙撃地点を探して右往左往するトランク男に対しての子どもたちの「何しているの?ウンコだろ」のやりとりといい、他の大人もアホだらけ。最も説教する立場にいたあのオバチャンがあっけなく死ぬあたり、この映画は清々しくて良いです。うるさい大人はいらん!の精神ですね。

子ども側にしてみれば、「あ、大人ってやっぱり怖いんだな…」と思うと同時に、「でも、大人も案外、バカだな…」とも思わせる。この“大人”への批評もユニークじゃないでしょうか。そこを単純にスラップスティックなギャグにしてしまうファミリー映画は多々ありますが、ちゃんとサスペンスとして成立させるような本作のスタンスは珍しいと思います。

この自由奔放でありながら自分なりの善悪を持つ子どもと、自己の利益のために必死に悪に傾倒する大人の対比は、本作の肝であり、とても印象的です。

とくに大人がなんだかんだやって結局全滅している間に、子どもたちはいつまにか大人さえも手の届かない成長をみせているわけです。最後に車を真っすぐ走らせる子どものあの姿は、ひとつのステージを乗り越えて一皮むけた少年の姿でした。ようするに、大人が思っている以上に、子どもは大人の助けがなくても勝手に成長していくし、大人たちは勝手にヘマしているだけ。そんなチクリとした皮肉も見えて、いい映画です。だから、最後の後味は「チ○コ」で始まった映画とは思えないほどの、気持ちの良い感動があるんですよね。だから大人の象徴である「チ○コ」を冒頭で言わせたのか(考えすぎです)。

映像づくりや演出は陳腐ではなく丁寧で、子どもと大人のリアルな対比のさせ方も上手い。これが“ジョン・ワッツ”監督の手腕なのでしょうか。きっちりバイオレンスも見せてくれる、ジュブナイル映画の新たな担い手として今後も大いに期待できる才能ですね。

あとケヴィン・ベーコンをもっと追い詰めていきたいです(しつこい)。いっそのこと5時間くらいジワジワ虐める映画とかでも私は全然OKです。

『COP CAR コップ・カー』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 80% Audience 52%
IMDb
6.3 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 8/10 ★★★★★★★★
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関連作品紹介

ジョン・ワッツ監督作の感想記事です。

・『スパイダーマン ホームカミング』

作品ポスター・画像 (C)Cop Car LLC 2015 コップカー

以上、『COP CAR コップ・カー』の感想でした。

Cop Car (2015) [Japanese Review] 『COP CAR コップ・カー』考察・評価レビュー