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『五日物語 3つの王国と3人の女』感想(ネタバレ)…ノミは飼えますか?

五日物語 3つの王国と3人の女

ノミは飼えますか?…映画『五日物語 3つの王国と3人の女』の感想&考察です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Il racconto dei racconti
製作国:イタリア・フランス(2015年)
日本公開日:2016年11月25日
監督:マッテオ・ガローネ
五日物語 3つの王国と3人の女

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五日物語 3つの王国と3人の女

『五日物語 3つの王国と3人の女』物語 簡単紹介

3つの王国に住む、異なる世代の3人の女たち。それぞれに世界があり、自分の立場がある。彼女たちは「母となること」「若さと美貌」「大人の世界への憧れ」という各々の欲望を自身の胸に抱いていた。この沸き上がる欲への渇望は簡単には抑えることはできない。何としてでも手に入れたい。やがて彼女たちの願いは叶えられるが、その結果、彼女たちは逆らえない運命に翻弄されていく。
この記事は「シネマンドレイク」執筆による『五日物語 3つの王国と3人の女』の感想です。

『五日物語 3つの王国と3人の女』感想(ネタバレなし)

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おとぎ話の原型

子どものころに幾度となく聞かされてきた数多くの「おとぎ話」たち。これらの物語は古き伝統みたいな印象をつい抱きがちですが、実際は長い歴史のなかで、いわばリメイクやリブートを繰り返してきて、今の形があるわけです。たぶん「三匹の子豚」なんかは100回くらいリメイクされている…のかも。『スター・ウォーズ』の続編とかでゴチャゴチャ心配しているのがちっぽけな気分です。

そんな「おとぎ話」にも当然ながら原型があります。例えば有名な「グリム童話」が参考にしたとされるのが、17世紀初めに執筆された「ペンタメローネ(五日物語)」という寓話です。これは、ナポリ王国の軍人であり詩人でもあったジャンバティスタ・バジーレがナポリ方言で書いた民話集だそうです。「グリム童話」が1812年なので「ペンタメローネ(五日物語)」はそれよりもなんと約200年くらい古いことになります。

それだけ古ければそもそもの原型が何だったのか、現代人には理解不可能な領域に到達していますよね。きっと当時は何か新鮮さとか、オリジナリティとして大衆を驚かせた要素もあったのかもしれないですが、こうなってしまうと古すぎて私たちにはわからない。もう、文学者や歴史学者にお任せするほかないです。

ともあれ、この「ペンタメローネ(五日物語)」を映画化したのが、本作『五日物語 3つの王国と3人の女』。監督は、カンヌ国際映画祭にて『ゴモラ』(2008年)と『リアリティー』(2012年)で2度のグランプリを受賞する快挙をとげたイタリア監督“マッテオ・ガローネ”

あの知る人ぞ知る「ペンタメローネ(五日物語)」の映画化ということで、童話好きは必見です。文学史的にもチェックしておきたい作品ではないでしょうか。

といっても、文学的リテラシーを要求される難解な作品なのではと警戒する必要もないと思います。私はそういう文学史とか全然わかりませんが、自分なりに楽しめました。文学に興味がない人は、徹底してリアルに世界観を作り上げた映像を楽しむといいでしょう。

出演陣は“サルマ・ハエック”、“バンサン・カッセル”、“トビー・ジョーンズ”、“ジョン・C・ライリー”、“シャーリー・ヘンダーソン”など、いかにも童話に出てきそうなメンツ(なんだその紹介)。

まあ、でもキャストよりも私の注目点はやはりアート。とくに美術の造形は素晴らしいです。『クリムゾン・ピーク』でもその才能をいかんなく発揮した“ギレルモ・デル・トロ”監督の美術造形が好きな人は、本作にも共通の楽しさを見い出せるかもしれません。言ってしまうとクラシックな特撮作品の雰囲気があるので、マニア向けではありますね。

忠告としては、一般向けのベタなファンタジーでは全然ないです。魔法の呪文を唱えて不思議なことが起こる、今日からみんなもファンタスティックな世界へ! そういう生易しさは皆無です。むしろ子どもは観るのは遠慮した方がいいかもしれません。ガッツリとどギツイ映像もありますし、抽象的な言い方になってしまいますが、遠慮ない感じ。アダルトな表現もバッチリ入っています。

そのあたりをしっかり踏まえたうえで、400年近く経って再び新生した元祖ファンタジーを楽しんでください。

↓ここからネタバレが含まれます↓

『五日物語 3つの王国と3人の女』感想(ネタバレあり)

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こういうファンタジーもたまにはいい

最近のファンタジー映画はもっぱら「最新のVFXを駆使」とか「3DCGで豪華に映像化」みたいな宣伝文句が並ぶものばかり。『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』なんてまさにそういう映画でした。

その手のイマドキのファンタジー映画に慣れた人には、本作は相当な奇異に映るでしょう。派手なエフェクトやカメラワークで圧倒するようなことは何もしないのですから。要するにアトラクション的なものではなく、絵画観賞のように観るべき映画だといえます。

個人的には昔の日本の特撮にも通じるものがあるなんて考えながら新鮮に楽しめました。おとぎ話の原型にありがちな、どギツイ場面も丁寧に映像化しているのが見どころ。心臓をむしゃむしゃ食べる王女や、老化の恐ろしいあの感じ、皮を剥ぎ血まみれになった女など、決して想像したくない…でも気になるシーンがしっかり映像化されていて良かったです。とくにクリーチャーが好きですね。序盤の海底に眠る大トカゲとかは派手じゃないぶん本当にいそうです。巨大なノミは、ペットショップで売ってるなら飼ってみたいとさえ思うかも…でも何を食べるのだろうか…。

映像を堪能した本作ですが、ストーリーは深く考えないほうがいいでしょう。「女の性」を描くなんて宣伝されていますが、そこまでテーマを設定するような作品ではありません。寓話ですから、緻密な伏線などで練られた脚本を楽しむものでもないですし。確かに性に踏み込む共通の童話的な語り口で描かれるテーマがあるので、そこを解釈しながら楽しむ余地はありますが。

本作は、「ペンタメローネ(五日物語)」の全てを映画化したものではなく、そのなかから3つの物語を選んで組み合わせたものです。「ペンタメローネ(五日物語)」は全51話から成り立っているので、実質6%ほどしか映画化されていないともいえます。全部映画化するならエピソード17くらいいる計算です。本作のマッテオ・ガローネ監督も考えての今回の3つの物語の選択だったのでしょうが、見せ方としてはそこまで効果的ではない気もします。

いや、さすがにそれは言いすぎにしてもやはり芸術的な鑑賞スタイルで楽しむ感じはあるので、今作のエピソード・チョイスもそういうアート的な視点で作りがいのあるものをあえて選んでいるのかもしれません。いかんせん私は原作を読んでいないので、そこらへんの製作者の意図をイマイチつかめていないのですよね。

しかし、個人的には大いに楽しむことができました。やっぱり自分は根っからの特撮好きということもあって、多少のストーリーの掴みにくさとかはあっても気にならない、それよりも映像センスを堪能できてしまうので問題なし。いいじゃないですか、あの水中映像だけでも最高ですよ。子どもの頃、泳げないくせに水中に特殊なスーツを着て自由に潜航できたりしたらいいのにとか考えたなぁ。

今のCG全盛期にこれほどまでの本格的な特撮撮影を見られることも貴重ですからね。それだけでも本作の価値は特筆に値します。本当は特撮の歴史を延々と語りながら、本作の面白さを観ていくのも良いのですが、そんなの始めたら収拾がつかなくなるのが目に見えているのですよね…。

監督の“マッテオ・ガローネ”は『ゴモラ』(2008年)、『リアリティー』(2012年)でカンヌ国際映画祭にて高評価を獲得しているカンヌ常連の映画人。アーティスティックなセンスでこうした映像表現を現代に極め続ける人が存在してくれるだけで個人的には嬉しいかぎりです。

それにしても、ひとりの日本人として思うのですが、やっぱりヨーロッパのロケーションの力が凄いですね。本作の冒頭で武骨な潜水服男が大トカゲと水中戦を行うあの場所は、アルカンタラ渓谷で撮影されており、実際に川を歩いて観光できます。ノミを飼育する王が住む城は、八角形が特徴のデルモンテ城。他にも、ロッカスカレーニャ城、ドンナフガータ城、サッセートの森などなど、実在する場所ばかり。CGなんてなくてもここまで魅力的な環境があるんだから、ズルイなぁ…。

でも、日本にもお城とか魅力的建造物などはいっぱいあるんですけどね。ただ、映画撮影は禁止されているのでしょう。うーん、もったいない!

『五日物語 3つの王国と3人の女』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 83% Audience 57%
IMDb
6.4 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 6/10 ★★★★★★

作品ポスター・画像 (C)2015 ARCHIMEDE S.R.L. – LE PACTE SAS いつか物語

以上、『五日物語 3つの王国と3人の女』の感想でした。

Il racconto dei racconti (2015) [Japanese Review] 『五日物語 3つの王国と3人の女』考察・評価レビュー