ちはやふる
映画『ちはやふる 上の句/ちはやふる 下の句』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:ちはやふる 上の句/ちはやふる 下の句
製作国:日本
製作年:2016年
日本公開日:2016年3月19日・2016年4月29日
監督:小泉徳宏

【個人的評価】
 星 7/10 ★★★★★★★
 

Plot Summary

綾瀬千早、真島太一、綿谷新の3人は幼い頃、新に教わった「競技かるた」でいつも一緒に遊んでいたが、新は家の事情で遠くへ引っ越してしまう。高校生になった千早は、新に会いたい一心で「競技かるた部」創設を決意し、高校で再会した太一とともに部員集めに奔走、全国大会を目指す。

ネタバレなし感想

3つの愛が詰まっている青春映画

日本は映画でもドラマでも漫画でも学校時代の青春を描くのが好きな国です。それだけ日本人にとって青春時代の重要性が高いということですが、やはり学校と言えば「部活」。本作は「部活」のなかでも「競技かるた」を舞台とした作品として特徴性が語られますが、そういうのは置いておいても純粋に青春映画として完成度が高い映画だと思います。なにせ本作は青春映画を好んでいる人を満足させるのはもちろんのこと、普段こういう青春映画を見ない人からも高い評価を得ているのですから。

私なりに考える評価の高さの理由として、本作には3つの愛が揃っています。

まず「競技かるた」への愛が伝わること。当たり前ですが本作では以下のような百人一首の歌が頻繁に読まれます。
ちはやぶる神代も聞かず竜田川  
からくれなゐに水くくるとは
本作ではこの歌をただの「競技かるた」の機械的なルールのひとつとして流さず、物語上の重要な要素として大切に扱っています。「競技かるた」について知らなくても問題ありません。この映画を見れば「競技かるた」が好きになれる、そういう作品になっているだけで凄いことです。

次に愛せる「キャラクター」が描かれていること。この手の映画はキャラクターが評価の大きなポイントになります。私は原作コミックを読んでいないので、原作のキャラクターを再現できているのかどうかはわからないですが、映画としては完璧だと思います。自分なりの好きなキャラクターに出会えるでしょう。

そして、「チーム」愛を一貫して描きとおすこと。『上の句』では「チーム」の力の強さに気付き、『下の句』では「チーム」の力の強さを他者に伝え見せます。「チーム」モノの映画としてはロジックが非常によく出来ている映画です。

本作は2部作ですが、『上の句』だけでも物語として成立しています。『下の句』を見ればさらに美味しいので、お好みに合わせて楽しみましょう。

予告動画







↓ここからネタバレが含まれます↓




ネタバレあり感想

互いを輝かせるキャラクター(と役者陣)

主役の“千早”を演じる広瀬すずは、『海街diary』でも片鱗が見えましたが、素晴らしいヒロイン力を持っていると改めて実感できました。漫画らしいオーバーなキャラを嫌味なくストレートに体現できるパワーは圧倒されます。わざとらしさを感じさせない、まさに“千早”そのもの。彼女はこういう体技を駆使する直球なキャラが合っています。決して繊細な演技ができているわけではないですが、まだ若いこの時点でここまでのハイレベルですから、今後の成長に注目したいところ。

下の句

千早のかるたへの憧れの存在である“新”を演じる真剣佑も魅力的でした。全然知らない俳優でしたが、父親があのアクションスターの千葉真一だったとは…。大人しい風貌の中にカリスマ性を秘めている…“新”というキャラとシンクロしており、配役がぴったり。“新”の本気モードを見たいと思わせます。彼はアメリカ生まれで英語も流暢であり、今後は日米双方での活躍に期待です。

そんな千早と新に複雑な感情を抱く“太一”は、最も共感しやすいキャラで素直に好感がもてます。演じる野村周平は正直言って周りの同世代役者と比べれば演技の魅力は落ちますが、そこがカリスマに囲まれ苦悩する“太一”の凡人感と一致して逆に良い化学反応が生まれていました。意外だったのが、恋愛描写はあまり前面にでていなかった点。“太一”と“新”の“千早”への想いはそれとなく「競技かるた」をとおして裏でみせており、ノイズにはさせない上手い見せ方でした。

他の若者組もみんな良かった。千早のつくった「競技かるた部」の面々は、映画の限られた時間のなかでも輝いていました。また、千早たちの前に立ち塞がる“どSの須藤”・“ひょろ”・“クイーン”といった強敵たちも独自のカリスマ性と高校生らしいスキの交ざり合いが魅力的でした。

本作は各キャラクターがバラバラになることなく、互いに作用しあって魅力を高めていたのが素晴らしく、本作が青春映画として個人的にも記憶に残る一本になった一番の要因です。

キャラクターの輝きを喰う演出

キャラクターは完璧でそれだけでも良い映画だったのですが、ゆえにそのぶんここが残念だなぁと気になる点も強く印象に残りました。

これは邦画によくある傾向ですが、過剰演出が目に付きます。とくに音楽。例えば、クイーンの圧倒的な実力を前に千早が一方的にやられる場面では、(まるで『ダーク・ナイト』のハンス・ジマーのような) 緊迫感を煽る重々しいBGMと演出が組み合わさり、正直言って耳障りです。クイーンは“音もなく”かるたをとると語られていたのに…。ただでさえ音が重要な作品ですし、せめてかるたの試合中は抑えた音楽にするか無音でも良いくらいだと思うのです。サントラに収録されている、劇中最初にタイトルとともに流れる「つながれ つながれ! つながれ!!」という曲を中心に、全体的に抑えてほしかった。本作の現状では、劇中で吹奏楽部の練習音でかるたに集中できない千早たちが描かれていましたが、まさしく映画を見る私もまったく同じ気持ちでした。 

そして、音楽のみならず無理に全カットを名場面にしようとしている感がひしひしと伝わってくる感じが気になります。例えば、スローになったり、急に走ったり、土砂降りのなか待っていたり…。きっと漫画の名シーンを再現したいのでしょうが、漫画ならひとコマひとコマを濃密に書くことでしか表現できないのでそれでいいのですが、それを映画でやると過剰になります。どこに物語上のピークがあるのかわかりずらくなるだけです。

あとはセリフのくどさが苦しい部分も…。『下の句』で千早の留守電メッセージを2度繰り返す必要性はなかったなとか。セリフで一番気になるのは原田先生です。『下の句』終盤で新へ「君がかるたをする理由はひとつじゃなくてもいいんじゃないか?」と助言するなど、なにかとメンター役を担当する原田先生。本作に限って言えばこういう大人のメンターは必要なかったんじゃないかと思います。若者だけの相互作用でもじゅうぶん成長できていますし、なんか原田先生の良いコト風なセリフで締めるのは違う気がします。

とにかくせっかくの魅力的なキャラクターが演出に付き合わされてる感があります。あの素晴らしい役者陣であれば、そんな小細工いらなかったでしょう。あと純粋に変なシーンも気になりました。『下の句』の序盤、千早と新が遭遇するシーンで、新が仰向けに倒れた千早に覆いかぶさりますが、新が先に転倒したのだからああいう体勢になるのはおかしいのでは? 

良かった演出ももちろんあって、とくにギャクのテンポ感はとても心地よかったです。また、弾いたかるたが仲間の気持ちを変える、仲間どうしで手を触れるといった“つながり”をみせる演出は『上の句』『下の句』ともに一貫しており、グッときます。『下の句』ラストで、千早が観客側に手を伸ばすような絵になる演出は感動的な終わり方でした。

戦術を描く難しさ

本作では千早たちは「チームで戦う」という戦略を確立させていきます。この点は前編・後編をとおしてしっかり描かれていたの思うのですが、一方で戦術の描写が疎かになっていました。例として挙げられるのが、千早たちに負けた須藤が千早に渡す、自身のチームで歴代の先輩から受け継がれてきた本。千早に「チームで戦う」ことの大切さを気づかせる名場面ですが、結局その本の内容が具体的にどう活かされたのかわからずじまいです(読み上げてはいましたが)。練習での特訓や相手の利き腕別の対策などせっかく描写された戦術もどこかへ行き、千早を筆頭に太一や「競技かるた部」の仲間たちがなぜ勝てたのか(健闘できたのか)、うやむやです。そういえば吹奏楽部の練習音問題はどう解決したのでしょうか…。

唯一の戦術が光ったシーンは『上の句』終盤の太一の勝利。あそこは戦術と太一の千早への片思いという物語が上手く重なっており唸らせてくれました(これもチーム戦術ではなく個人戦術になってしまうのですが)。『下の句』にはそういう戦術が輝くシーンはなかったのが残念。

上の句2

ただ、これは「競技かるた」の特性上、難しい問題だなとも思います。「競技かるた」は団体戦といっても個人どうしの勝敗の足し算の比較で決まるものですし、サッカーや野球とは違ってできる戦術の幅が極端に少ないです。いざ勝負が始まれば描ける戦術もどうしても限られます。本作でも「かるたがいちばん楽しかったころ」を思い出すことで苦境を乗り越えていたように、結局のところ精神論や根性論になってしまうのは仕方なしなのかもしれません。それでも戦術をしっかり描くことは、キャラだけでなく勝負にも実在感を与えるうえで重要です。

本作は続編製作が決定したそうで、次回はぜひ難しい戦術の描写にチャレンジしてほしいところです。