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『グッドナイト・マミー』感想(ネタバレ)…お菓子をくれなきゃゴキブリを食わすぞ

グッドナイト・マミー

お菓子をくれなきゃゴキブリを食わすぞ…映画『グッドナイト・マミー』の感想&考察です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Ich seh, ich seh
製作国:オーストリア(2014年)
日本公開日:2016年1月12日
監督:ベロニカ・フランツ、セベリン・フィアラ
グッドナイト・マミー

ぐっどないとまみー
グッドナイト・マミー

『グッドナイト・マミー』物語 簡単紹介

森に囲まれた田舎の一軒家で母親の帰りを待つ9歳の双子の兄弟。周りには刺激的なものがあるわけでもなく、遊び相手は限られる。ところが、帰ってきた母親は顔の整形手術によって頭部が包帯でぐるぐる巻きな姿となり、さらに性格まで別人のように冷たかった。母の姿からはそれまでの愛情は見えてこない。幼い兄弟は本当に自分たちの母親なのか疑いを抱き始め、次第にエスカレートしていく。
この記事は「シネマンドレイク」執筆による『グッドナイト・マミー』の感想です。

『グッドナイト・マミー』感想(ネタバレなし)

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イタズラではすまされない

イマドキの日本の若者のあいだではハロウィンの仮装はすっかり市民権を得ているようで、街中でパーティ感覚で仮装している人をこの時期はよく見かけます。混乱を防ぐために警察も大量に出動しているみたいで大変ですが。

そういえばイギリスでは「殺人ピエロ」の出没が話題になっていたりもしました。

英国で、不気味な格好をして通行人らを怖がらせる「殺人ピエロ(Killer Clown)」の出没が増えている。殺人ピエロ(恐怖のピエロ)の流行は米国で始まったもので、英国でも各地で警察に通報が寄せられている。気味の悪いピエロ姿で飛び出して人々を怖がらせる愉快犯に加え、中には刃物をちらつかせた者もいたという。この問題をめぐりロンドン警視庁は11日、通報があった複数の事案について捜査を行うと明らかにした。うち3件については、刑事犯罪に当たると判断しているという。

引用:AFP

人に迷惑をかけない範囲であれば何でもいいんですけどね。

そう、ハロウィンならいいですが、いきなり知っている人の見た目が変化したらどう思うか? ましてや性格まで変化したら?

そんな状況が生じたある親子を描いたホラー映画が『グッドナイト・マミー』です。

タイトルの「マミー」は「mommy(お母さん)」と「mummy(ミイラ」の言葉遊び。その名のとおり、ある日、頭が包帯でぐるぐる巻きな姿で帰ってきた母親と、その双子の子どもたちのお話しです。これだけ聞くと、「いや、怪我とかならよくあるシチュエーションじゃないの」という感じですが、母親の様子がどうもおかしい…子どもは違和感を感じ始めて、ついに惨劇が起きてしまう。

ネタバレは記事の後半で書くとして、ネタバレなしでいえることは、本作は意外な展開をみせます。私は「子育て」の歪みみたいなのを描いた映画だなと思いました。

ホラーとしても、スプラッタな演出やワッと驚かす演出は控えめ。それよりも、嫌~な感じがずっと続く映画で、そここそが見どころです。

あと、虫が苦手な人は観てられないです。本作ではなぜかは知らないけれど、子どもがゴキブリをしかも大量に飼育しているのです。ゴキブリの分類学に詳しくないのであれですが、ヨロイモグラゴキブリのようなペットでたまに飼われるやつです。本作はオーストリア製作の映画であり、オーストリアの首都ウィーンにあるシェーンブルン動物園でもゴキブリの展示があるみたいなので、もしかしたらオーストリアではゴキブリをペットにするのは変ではないのか? いやでも、あれは変だろう…。それもまた、嫌~な感じの一例でもあります。

とにかく虫嫌いの人は映像を直視できないシーンも多発するので、そこだけは警告をしておきます。

「Trick or Treat !(お菓子をくれなきゃイタズラするぞ!)」 なんて軽いノリじゃすまないですよ。

↓ここからネタバレが含まれます↓

『グッドナイト・マミー』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(前半):ママが変?

トウモロコシ畑を駆ける少年2人。鬼ごっこをしているのか、視界の悪い畑をいかして神出鬼没に相手を翻弄します。ひとしきり遊んだ2人。

「ルーカス?」と片方を呼び、とぼとぼと家に帰りました。

家は近くにあり、自然に囲まれたモダンな別荘風の建物。部屋に入るとすでに人がいました。

「ママ?」

その女性は頭に包帯を巻き、全く表情が見えません。目と鼻の穴と口だけがあいており、どこか不気味です。

母は「さっさと着替えなさい」と子どもを叱りつけました。そして飲み物を出します。「ルーカスのぶんは?」ともう片方の子は聞きますが、「欲しいなら自分で言いなさい」とひとりぶんしか出さない母。

その後、何かの名詞を紙に書き、それを相手のおでこに貼り、相手がヒントをもとにあてるゲームをします。

子どもたちは母に「MAMA」を書いた紙を貼ります。

「私は動物?」「いいえ」
「人間?」「はい」
「男性?」「いいえ」
「女性?」「はい」
「今も生きている?」「はい」
「テレビに出ている?」「はい」
「司会者?」「はい」
「有名人?」「まあね」
「ほかのヒントは?」「動物が好き」「子どもが2人いる」

それでもわからない母。

その夜、壁にゴキブリが歩いているのを見つける少年。実は部屋でゴキブリを大量に飼っているのでした。それを捕まえて飼育ケージに戻します。

ゲームをしていると母にそれを取り上げられ、不満たらたらな少年。「医師に安静にするように言われているから協力して」「誰かが訪ねてきてもママは留守だと言って」「ブラインドは閉じて」…そう母は指示し、部屋に籠ってしまいます。

その夜中、少年たちはコソコソと喋ります。「何か変だよ」「前と変わった」「手術のせいだよ」…いつもと違う母への不信感が強まります。

包帯を外して顔に何かを塗っている母を覗き見るも、その怪しさは増すばかり。

母は部屋に閉じこもってばかり。2人は他愛もなく遊ぶしかないです。そこにインターホンが鳴り、母を呼びに行き、部屋へ。包帯をしたままベッドに寝ており、立ち去りました。

食料品が届き、配達員の男が冷凍庫にしまってくれます。「こんなに大量に、パーティーでも開くのか?」

少年たちは外でを見つけ、ひそかに部屋に連れ込みました。ベッドの下に隠します。そんな子を怪しいと判断し、部屋を物色しだす母。反抗する息子を押さえつけます。母は昔は動物が好きな人でした。それなのに…。

夜。寝ている母。そこにゴキブリを放す少年。そのゴキブリは母の口の中へと…。

こうして少年による母への行動はエスカレートしていきました。この母は何かがおかしい。その警戒がじわじわと子どもの心を歪ませていきます。

少年たちはこの家が売られていることをネットで発見。さらに危機感を抱き…。

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子どもは怖いから油断するな

『グッドナイト・マミー』は説明がほとんどないままに導入します。

もう答えを言ってしまいますけど、本作は「実は双子の子どものひとりは既に死んでいた」というのが、意外な事実なわけでしたが、確かに伏線もしっかりしており見せ方も上手かったです。

でも、そのトリックは本作の魅力のメインではないと私は思ってます。そもそも、母親ではなく双子のほうが恐怖を与える側になる展開は、ホラーに造詣が深い人なら一発で見抜くこともあり得なくない話です。双子といえば、『シャイニング』(1980年)に代表されるように、心霊の象徴みたいなものですから。

双子云々よりも深く見てほしいのは、親と子の関係性です。最終的に最悪な目に遭うあの母親。よく見るとあまり子育てに関心なさそうでした。子どもも一人で(二人だと思っているけど)遊んでばかり。母親は自分の顔の傷ばかり気にしています。

一方、子どもはといえば、母親の見た目や性格の変化がきっかけのようにみえますが、母親のわが子への冷たさへの不満こそが裏の引き金でしょう。そして、子どもの純粋な残酷性を向ける。

それを象徴的に示すのが「」です。

私は本当に幼い頃、よくアリとかの「虫」をイジメたり殺したりしたものです(もちろん、他の動物にはそんなことしてないですよ)。でも、それって子どもなりの「生き物」と「モノ」の違いを理解するためのステップだと思うのです。子どもにとって一番身近な命が「虫」。それになぜか「虫」は命として軽んじられる傾向にあるのも特徴です。大人でさえも家や庭に侵入したいわゆる害虫は平然と殺します。それも殺虫剤とかで。よく考えてみてください。殺虫剤って毒ガスみたいなものですよ。ホロコーストです。

話を戻しますが、子どもにとって「虫」は「生き物」と「モノ」の中間のような存在なわけです。そして、本作の子どもは母親が「母親」じゃないと認識するや否や、「虫」のように扱ってきます。それこそ子どもの残酷性を全開にして。

ゴキブリもそういう意味だと感じました。「おまえは母親じゃない、ゴキブリだ」です。ゴキブリが母親の口に入るシーンはまさにそれでした。他にもよく映画を観てると、部屋の壁紙にはアリが描かれてたりと、「虫」の存在が印象的な作品です。

要は子育てに無頓着だった母親がしっぺ返しをくらう映画ともとれます。もしくは子どもの純粋な悪性に振り回される子育ての難しさといったところでしょうか。

子どもも虫も大事にしましょう。

『グッドナイト・マミー』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 85% Audience 65%
IMDb
6.7 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 7/10 ★★★★★★★

作品ポスター・画像 (C)WIEN 2014 ULRICH SEIDL FILM PRODUKTION グッドナイトマミー

以上、『グッドナイト・マミー』の感想でした。

Ich seh, ich seh (2014) [Japanese Review] 『グッドナイト・マミー』考察・評価レビュー