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『ノック・ノック』感想(ネタバレ)…イーライ・ロスが描く「ゲスの極み」は誰か

ノック・ノック

イーライ・ロスが描く「ゲスの極み」は誰か…映画『ノック・ノック』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Knock Knock
製作国:アメリカ(2015年)
日本公開日:2016年6月11日
監督:イーライ・ロス
性暴力描写

ノック・ノック

のっくのっく
ノック・ノック

『ノック・ノック』物語 簡単紹介

妻と子どもと離れ、仕事のために1人留守番することとなったエヴァン。今日はゆっくりと自分の時間を過ごすつもりであった。その夜、ノックの音に玄関のドアを開けると、困り果てた様子の2人の若い女性が立っていた。外は悪天候。道に迷ったという2人を親切心から家の中へ招き入れたエヴァンは流されるままに彼女たちと一夜をともにしてしまう。それは耐えがたい地獄の始まりだった…。
この記事は「シネマンドレイク」執筆による『ノック・ノック』の感想です。

『ノック・ノック』感想(ネタバレなし)

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最弱のキアヌ・リーブス

学生たちがジャングルの奥地に住む食人族に食べられまくる『グリーン・インフェルノ』を監督したイーライ・ロスの次作。それが『ノック・ノック』。お次はどんな最低人間を見せてくれるんだとワクワクしている人は安心してください。本作も非常に悪趣味極まりない中身となっています。

公式には宣伝されていませんが、本作は1977年に公開された『メイクアップ』(邦題では「狂気の3P」というマヌケな副題がついてます)の実質的リメイクです。本作のストーリーの大筋も『メイクアップ』をほとんどなぞっています。唯一違う点はラストです。『メイクアップ』には衝撃のラストがありましたが、本作は…その目で見て確認してください。

主人公を演じるのはキアヌ・リーブス。キアヌ・リーブスといえば2015年に公開された『ジョン・ウィック』では愛する妻の残した愛犬を殺されたことがきっかけで復帰した最強の殺し屋を熱演、カッコよくアクションを決めていました。しかし、本作ではそれとは真逆。凄まじい落差です。弱い、情けない…残念すぎるキアヌ・リーブスが見られます。

主人公エヴァンは理想的な家族を持つ普通の父親。雨の激しく降るある日の晩、留守番をしていたエヴァンは家のドアをノックする音を聞きます。そこにはずぶ濡れの若い女性が2人。しかも美人です。世の男はこういうシチュエーションに遭遇したらどうするでしょうか。家に招き入れる? その理由は表面的には親切心かもしれませんが、でも下心が絶対ないといいきれますか? こんな状況になってみたいと正直に断言する人もなかにはいるでしょう。しかし、男以上に女のほうがゲスの極みだった! 美女の皮をかぶった狂人がそんな男を滅茶苦茶な目に遭わせる映画が『ノック・ノック』です。

どれくらい滅茶苦茶かというとたいていの人はドン引きするレベルです。グロ要素はないですが、エロ要素はたっぷりあります。ただ、それ以上に胸糞悪い描写の連続です。やりたい放題、阿鼻叫喚の地獄絵図が繰り広げられます。もうわざと観客が嫌がりそうなことをあえてやりまくっているような露悪性が爆発していますので、覚悟してください。『グリーン・インフェルノ』よりも「この映画は無理だ」と脱落者がたくさん出現するくらいですから…。

内容が内容だけにかなり人を選ぶ映画であることは間違いなく、誰かと一緒にこの映画を見に行く際はよく考えて注意しましょう。キアヌ・リーヴスが出ているからといって、間違ってもデート・ムービーではないのは一目瞭然だとは思いますが…。

ちなみにこれより先の後半感想では、元映画『メイクアップ』のネタバレも含んでいるので、気になる人は注意してください。

↓ここからネタバレが含まれます↓

『ノック・ノック』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(前半):家に入れてもいいのか

閑静な住宅地。そこで妻と子どもと幸せな家庭を満喫していたエヴァン

ベッドで妻のカレンとイチャイチャしていると2人の子どもがチョコレート・ケーキを持ってきてくれます。さらに父の日ということでプレゼントも。それはシールだらけの時計。エヴァンはイタズラ好きの子どもと戯れます。

仕事の関係でエヴァンは犬と留守番で、自分以外が旅行に出ることになってしまいます。寂しいですがしょうがないです。

友人のルイスが訪ねてきます。カレンは芸術家なので家にはいろいろなアート用の素材が送られてきます。

車で出発する妻と子を見送ります。

こうして家で犬と2人きりになったエヴァン。その夜は激しい土砂降り。エヴァンは音楽を聴きながら仕事部屋で建築のデザインをしていました。家族からテレビ通話があり、無邪気に会話をして「おやすみ」と言って切ります。

するとノックの音。こんな夜中、しかも悪天候に一体誰が…。ゆっくり玄関に近づき、「誰だ?」と声をかけると、「開けてもらえませんか?」と弱々しい声。

玄関の戸を開けると、ずぶ濡れと若い女性が2人立っていました

「グレゴリーさんの家はどこですか? これで3軒目で、みんな休暇で留守で…」

グレゴリーというのは聞かない名前です。携帯が水没したせいで住所もわからないと言います。タクシーを降ろされてもう20分も探しており、疲れ切っているようです。

「申し訳ないが役に立てない」と謝り、クシャミをする女性にティッシュをあげます。「よければ電話を使って」と家の中に招き入れるエヴァン。「パソコンを使わせてもらえますか?」と言われ、了承します。エヴァンはiPadとタオルを持って渡します。急いでタオルで体を拭く2人の女性。

2人の名前はベルジェネシス「見知らぬ2人を家に入れてくれてありがとう」と感謝し、エヴァンも「危険には見えなかったし。最悪、戦っても勝てると思うからね」と気楽に答えます。

全然場所が違ったらしく、エヴァンは「車を手配しよう」と言いますが、「タクシーを拾うのでご心配なく」と2人は遠慮します。でもここにタクシーなんて来ません。アプリで探すと45分後にタクシーは到着するとのこと。

「服を乾かしたいので乾燥機を借りてもいいですか?」と頼まれ、放置もできないのでOKするエヴァン。また、お米に入れれば携帯を直せるかもと女性のスマホを預かります。

しかし、この親切が大きな悲劇に直結するとは…。

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優しさは無力

『ノック・ノック』はスリラーらしく、美女二人が暴虐の限りを尽くす映像は凄まじいの一言です。この美女二人は完全にサイコパスの領域であり、やらかす行為は元映画である『メイクアップ』とほぼ同じ。『メイクアップ』では男の飼い猫を殺したりしていたので残酷度は抑え気味のようにも思えますが、美女二人を演じる役者陣の生き生きとした演技もあいまって『メイクアップ』以上にハチャメチャ感があります(二人は未成年にはどうしたって見えないけれども…)。

しかし、映画を見る前は、快楽に負ける情けない男を描いた作品だと思っていたのですが、案外違ってました。

エヴァンがつい下心で美女を招いて体を交えてしまったのならまだ話としてわかるのです。どんなに綺麗事を言って善人ぶっても男は男、性には抗えないということであれば、エヴァンが酷い目に遭っても自業自得として納得できます。

でも、本作ではエヴァンは純粋に良い人でした。パーティに来たけど場所がわからず友達とも連絡がとれないからネットを使わせてほしいとお願いしてきた見ず知らずの女二人に、心優しい親切なエヴァンはiPadを貸し、体を拭けるようにタオルも渡します。そして、家まで帰れるようにタクシーを手配してあげるという気遣い。別に家にあがらせようとするわけでもなく、どちらかと言えば早く帰ってほしいという態度が最初からありました。

一番の問題は、シャワー室でのセックスシーン。本作では美女の裸をみて一時の気の迷いで体を交えるわけではなく、半ば強引に男側がレイプされるような描写になっています。これではエヴァンは悪くありません。エヴァンには人から嫌われるような非がないのです。あえて探すのなら彼は比較的裕福な生活を送っていた「金持ち」ともいえますが、だからといって貧困層をバカにしたりするわけでもなく、真面目に働いていました。

エヴァンは下心に屈する不純な男というよりも、単に優しすぎてはっきり行動できない男でした。よく考えれば、妻と子が遊びに行ってるのに大人しく家で独り留守番しているあたり、このエヴァンは他人に強く言えない性格なのでしょう。

今回の一件は「親切だった」ことが招いた悲劇です。『ノック・ノック』では、サイコパス女たちがエヴァンを懲らしめた理由が「普通の男なら快楽に負けて私たちに合わせて楽しんでくれるのに、あなたは真面目すぎた」みたいな感じになっていたので、不純な男への罰という狙いがこの映画にはないのでしょう。イーライ・ロス監督が見せたのは「親切なんて狂人の前では無力だ」ということ。つまり、元映画『メイクアップ』とは狙いが全然違う作品になっているのです。

だからこそなのか、本作は元映画『メイクアップ』とラストが決定的に違います。『メイクアップ』では、暴れまくった美女二人が男の家を後にして道路に出た瞬間、車に轢き殺されるという衝撃的な結末を迎えます。一方、本作ではエヴァンはやられっぱなしで、美女二人は何の罰も受けません。これには正直言って物足りなさを感じる人もいるのは当然でしょう。でも、カタルシスがないのがこの映画の意図なのです。

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凶悪美女の後を継ぐさらなる悪人は…

しかし、さすがイーライ・ロス監督。元映画にあった衝撃シーンを削ってその代わりにさらなる意地悪をぶっこんできました。庭に首から下まで埋められ身動きの取れないエヴァンに対して、サイコパス女は彼のスマホを使って撮影していたセックス動画をSNSに流すというイマドキな嫌がらせをします。そして、スマホの画面上には動画が支持され拡散されていく様子が淡々と映し出されます。

つまり、イーライ・ロス監督は「ゲスの極みはインターネットで便乗して騒ぐ奴ら、おまえらもだよ!」と暗示しているのでしょう。うん、そういうことにしよう…。このメッセージは、『グリーン・インフェルノ』にもありました(ネット上でのみ偉そうに正義を語る学生たち…でも彼らは食人族に食べられて痛い目に遭っていました)。

映画の賛否はともかく、体を張りまくったキアヌ・リーブスには「羞恥に耐えてよく頑張った大賞」をあげたいです。親切なダメ男であるエヴァンを演じたキアヌ・リーブスは、されるがままに振り回される弱い男の役がぴったり。銃さえもまともに取り扱えないところはなんとも情けない…。キアヌ・リーブスへの好感が増しました。

本作にカタルシスがなくて物足りないという人は、映画物語の後に、お腹を空かせた食人族と殺し屋に復職したキアヌ・リーブスがサイコパス女とネット住民を強襲したという想像で楽しみましょう。

『ノック・ノック』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 36% Audience 20%
IMDb
4.9 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 5/10 ★★★★★
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関連作品紹介

イーライ・ロス監督作品の感想記事です。

・『サンクスギビング』

・『ルイスと不思議の時計』

・『デス・ウィッシュ』

作品ポスター・画像 (C)2014 Camp Grey Productions LLC ノックノック

以上、『ノック・ノック』の感想でした。

Knock Knock (2015) [Japanese Review] 『ノック・ノック』考察・評価レビュー