マン・アップ!
映画『マン・アップ!60億分の1のサイテーな恋のはじまり』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Man Up
製作国:イギリス・フランス
製作年:2015年
日本公開日:2016年7月16日
監督:ベン・パルマー

【個人的評価】
 星 6/10 ★★★★★★
 

Plot Summary

性格に難ありな34歳のナンシーは恋人は欲しいと思いつつもいま一歩前に踏み出せず独身生活を送っていた。ある日彼女は、他の女性とブラインドデートするはずだった40歳の男性・ジャックにデート相手と勘違いされ、言い出せないままジャックと一緒に過ごすハメになる。

ネタバレなし感想

難しく考えず「Man up」でいこう

古今東西、恋愛は人間の最大の悩み。今の時代は恋愛を指南する本やネット上の記事が世に溢れており、実にいろいろなアドバイスやらテクニックやら哲学やらが並んでいます。相談相手に困らない一方、逆に情報が多すぎるくらいです。割と書いてあることはだいたいが抽象的で、最終的にはベタな内容になっていることがほとんどですけど、中にはこれはマジで言っているのかというような奇妙な進言もあります。これもどれも正解のない恋愛ゆえに、雑多な情報が氾濫してしまうのでしょう。

そんな情報過多の時代に『マン・アップ!60億分の1のサイテーな恋のはじまり』という映画は、たった一つの言葉を恋愛に悩む人に投げかけるだけ。

それがタイトルにある「Man up」です。

「Man up」という英語表現は、逃げ腰な男性に対して「男だろ!シャキッとしろよ!」みたいなニュアンスで使うスラング。日本でもこういう男性への激励のような扇動のような表現はありますし、男であれば一度は言われたことがあるのではないでしょうか。

ただ本作では、この「Man up」は男性だけに向けられたものではなく、性別・年齢関係なく恋愛に足踏みする全ての人への応援ワードとなっています。全く嫌味もなく、率直に使われているので、まさの本作を象徴するフレーズです。

このシンプルさが本作の肝であり、男女ともに気軽に観れるラブコメとして非常に完成度が高い映画だと思います。下ネタもバンバン飛び交う映画なのですが、下世話なラブコメではありません。恋愛映画はどうしても観客個人の経験や価値観で受け入れづらいことがあったりしますが、今作はそこまで避けられるような内容は少ないと思います。

主演はコメディならまかせろ、安心のサイモン・ペッグ。『ワールズ・エンド 酔っぱらいが世界を救う!』(2014年)、『宇宙人ポール』(2011年)、『ショーン・オブ・ザ・デッド』(2004年)と数多のコメディ映画で発揮していた痛快なキャラは本作でも健在。こう言ってしまっては失礼ですが、明らかに冴えなさそうな見た目が常に親近感を感じるという、いつも美味しいキャラ。作品によってはメカニックな技術屋だったりしますが、全然頭良さそうに見えないという…。そこも含めて可愛く、人気の理由です。 


これだけ愛されキャラでも、やっぱりモテないという設定になっていても「うん、モテないね」と観客が共通認識を持てるのがいい。まさに出しとけば外れなしな俳優です。

お相手役を演じたレイク・ベルもサイモン・ペッグに負けず劣らず、ナイスなテンションで楽しい。この女優は日本だと知名度が低めですが、原題『In a World...』という作品で監督デビューしており、非常に評価の高い作品ですのでぜひこちらも見てほしいです。まあ、残念なことにその作品は『私にだってなれる!夢のナレーター単願希望』という何ともアレな邦題をつけられてしまったのですが…。

ほかに特筆すべきは、ダニエル・クレイグ以降の『007』でボンドのサポート役の真面目なキャラを演じていたロリー・キニアが、本作ではどうしようもないアホキャラを熱演していて新鮮なので必見です。

恋愛に一歩踏み出せないとき、もしくはただサイモン・ペッグの顔が見たいとき、この映画を鑑賞しましょう。

予告動画







↓ここからネタバレが含まれます↓





ネタバレあり感想

酔っぱらった若者たちの正しい使い方

本作を観た私の第一印象は、意外と優等生というか上品な作品だったということ。

いや、主演のイメージのせいか、もっとドタバタなギャグ満載の作品かと思ったのです。ただ、それは偏見で、別にサイモン・ペッグ出演作は一部の映画が特出しているだけで、結構スタンダードなテンションを守っている作品もたくさんあります。

本作の物語はベタであり、目新しさはないのですが、ほどよくシンプルにまとまっていてとても観やすかったです。

まず、ストーリーが冒頭を除き、基本的に二人が出会って別れるまでの1日を描くという『ビフォア』シリーズと同じ構成です。


ちゃんと最後に2人がくっつくあたりが違いますが、これくらいシンプルなのが一番いいのですよね。そして、今作は主人公カップルだけでなく、それに加えて、ラストはさまざまな年代のカップルが幸せそうに寄り添う場面を流し、劇中の下ネタとはほど遠いずいぶん品のある着地をしてみせます。あのストーカー男・ショーンも、いい奴と思いきや最後まで糞野郎っぷりをみせつけてましたが、どこか憎めないのは、それくらいどうでもいいかという幸せオーラが作品全体を包んでいるからなのでしょう。まあ、あのショーンのしつこいギャグは完全にイギリス・ジョークでしたけどね。

マン・アップ!

かといってベタな感動演出だらけでもなく、感動シーンになりそうになるとコメディ要素で巧妙にお茶を濁すのも大人なつくりです。よくある場合だと、何かに動機づけられた主人公がひとりで疾走するという展開がベタな感動演出として使われますけど、本作にもそんな場面はあるのですが、そこにギャグも交ぜているのでワザとらしい感動さは薄れてます。酔っぱらった若者たちの正しい使い方でしたね。それにしてもサイモン・ペッグが主演するコメディ映画の多くはたいてい終盤にサイモン・ペッグが爆走するシーンがある気がする…。

また、コメディとしても、単にバカな行動をとるというギャグ映画では終わってないのがいいところ。ある意味、自己啓発的な無数の言葉に翻弄される現代への皮肉が作品全体に込められており、そういう批評的コメディセンスもほどよい感じです。

ジャックの元妻に救いを少しは提示しても良かった気はしましたが…。

本作では「ブラインドデート」が物語のきっかけです。共通の友人の紹介をとおして見ず知らずの2人が本人たちだけで出会いデートするというものらしく、要はものすご~くカジュアルお見合いです。日本ではあまりなじみがないですけど、ネットで知り合うみたいなのが増えているとも聞くし、これも「ブラインドデート」のようなもんです。よく知らない相手との付き合う機会とは、今後の時代はもっと増えていくのかもしれません。なんというか、他者の決めたお見合いをする時代だった昔から、プライベートで個人の意思でお見合いしまくれる時代に変化したんですね。凄い変わったなぁ…。

日本だといまだにネットで知り合ったような出会いで恋愛するのは軽すぎると否定的に見る動きもありますが、もうそんなこと言っているのは価値観が狭いことの証明にしかならないのかもしれません。それよりも出会いを楽しみ、真剣に相手に向き合うことの方が大事。

大事なのは「Man up」精神と、場を盛り上げるモブですね。できれば後ろからサイモン・ペッグが応援してくれるとスムーズに愛を告白できる気がしてきた。いや、邪魔かな…。

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