レヴェナント
映画『レヴェナント 蘇えりし者』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:The Revenant
製作国:アメリカ
製作年:2015年
日本公開日:2016年4月22日
監督:アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ

【個人的評価】
 星 7/10 ★★★★★★★
 

Plot Summary

熊に襲われ、瀕死の重傷を負ったハンターのヒュー・グラス。狩猟チームメンバーのジョン・フィッツジェラルドは、そんなグラスを足手まといだと置き去りにし、反抗したグラスの息子も殺してしまう。なんとか動けるようになったグラスはフィッツジェラルドへの復讐心を燃やし、厳しい大自然の中を生き延びていく。

ネタバレなし感想

アメリカで最も有名な猟師の伝説が蘇る

ディカプリオが酷い目に遭う映画『レヴェナント 蘇えりし者』(ざっくりした修飾語)。

第88回アカデミー賞で作品賞を受賞したのは『スポットライト 世紀のスクープ』でしたが、3冠を達成した本作はそれ以上に最も話題になった作品です。監督賞をとったアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥは『バードマンあるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』に続いて2度目であり、主演男優賞をとったレオナルド・ディカプリオは念願の受賞でした。そして、撮影賞に輝いたエマニュエル・ルベツキは史上初の3年連続での受賞を記録しました。批評的に強烈なインパクトを残した作品であることは間違いありません。言うまでもないですが見ておいて損はない映画です。

ただし、日本人にはわかりにくい部分もあり、それが時代背景と主人公です。作中では全く説明されません。なぜかというと、おそらくアメリカでは非常に有名な話だからでしょう。当然ながら日本人は知る由もないので、映画を見る前に勉強しておくと理解が進みやすいと思います。

原作は作家マイケル・パンクの小説『蘇った亡霊:ある復讐の物語』(The Revenant: A Novel of Revenge)。忘れてはならないのが、本作の主人公はヒュー・グラスはアメリカ西部開拓時代の実在の猟師だということ。アメリカではとても人気のある人物で、すでに1971年に『Man in the Wilderness』というタイトルで映画化されているほどです。

彼はスコットランド・アイルランド系の両親を持つ白人で1783年にペンシルベニア州で生まれました。猟師になる前は何をしていたかはよくわかっていません(一説には海賊だったという話もあります)。とにかく彼はポーニー族のネイティブ・アメリカンと結婚し、猟師として生活します。西部開拓時代のアメリカでは、白人たちはネイティブ・アメリカンから土地を次々と奪い、野生動物を狩りつくし、侵略していきました。ヒュー・グラスもそんな白人のひとりでしたが、彼を一躍有名にしたのは熊に襲われたエピソードです。猟の最中にヒュー・グラスは熊に襲われ、死にかけます。そのまま死んだと思った仲間はヒュー・グラスを見捨てますが、実はヒュー・グラスは生きており、瀕死の重体のままなんとか約320キロを歩いて居住地にたどり着きます。そして、見捨てた仲間に復讐を遂げるのです(ただしかなり脚色されているともされ真実は不明です)。

このエピソードが本作『レヴェナント 蘇えりし者』でもメインで描かれています。ちなみに復讐を遂げた彼は猟師を続け、1833年にアリカラ族のネイティブ・アメリカンに殺され、生涯を終えたようです。

そんな壮絶な復讐をとげたヒュー・グラスを演じたレオナルド・ディカプリオも命懸けでした。徹底的にリアルを追究した撮影は実際の自然環境と同じ場所で行われ、ディカプリオ自身も埋められ、凍った川に突き落とされ、生肉を食べるなど、体を張りました。映画のなかのディカプリオはもはや演技というよりも本当に同じ目に遭わされているといってもよいレベル。ちょっとした拷問です。ほんと、俳優って大変ですね…。

そして、役者だけでなく、撮影に関わったスタッフも過酷だったようです。自然光だけで撮ることにこだわったゆえに1日のうち数時間しか撮影ができず、結局当初の期間内に撮影が終了せず、スタッフが帰ってしまうという事態が発生。スタッフからも不満が多かったらしく、完成しただけでも凄いのですが、それがオスカーをとってしまうというのはもはや製作者の執念が評価された作品といえるでしょう。

物語は淡々としていますが、映画としてはとんでもない苦労の塊でできている本作。そのへんの事情も頭の片隅に入れておきながら見るのも良いかもしれません。

予告動画






↓ここからネタバレが含まれます↓





ネタバレあり感想

熊は怖い(直球の感想)

見終わった後の感想は、とにかく映像が凄いの一言。圧巻です。そして、詩的というか絵画的な作品だなという印象を受けました。 映像の凄さは言葉では全く説明できないので何とも言えませんが、以下のメイキング映像からもその凄さがあらためて伝わります。


今はコンピューターグラフィックスで何でも室内&屋外セットやグリーンバック撮影で完成できてしまう時代ですが、それでもあえて野外撮影にこだわった執念は、評価しないがおかしいくらいの映画愛だと思います。

一方で、CGでも凄いなと思うシーンがありました。

それが、多くの人が印象に残るであろうヒュー・グラスが熊に襲われるシーン。さすがにいくらリアルに野外撮影しているといっても、熊は本物を使うわけにはいきませんから、基本はCG。この熊のCGのビジュアル的リアルさは昨今のハリウッド映画からすでに動物CG表現はいきつくところまでいったと感じていましたが、本作は襲い方のリアルさが新鮮でした。まあ、私は熊に襲われた経験があるわけでもないので偉そうなことは言えませんが…。

よくある動物パニック映画のようにわかりやすい機械的な襲い方をせず、まるで本物の獣の思考があるかのようにムラのある襲い方をします。あの「攻撃は止んだか…」と思わせて、またグワッとくるシーンは本当に怖い。そうした生々しい描写により非常に恐怖を感じる場面に仕上がっていました(熊に襲われるシーンが長めに撮られているのはストーリー上の重要な意味合いもあるように思いましたが、それは後述)。

“蘇った”のではなく“祟られた”

映像と比べて、ストーリーは確かに単調な復讐劇といえなくもありません。白人vsネイティブ・アメリカン、ヒュー・グラスvs熊といったわかりやすい戦いのシーンは序盤に集約されており、あとは淡々とサバイバルが進行します。復讐の動機も、息子を殺され自身をも見捨てたかつての仲間への憎しみという個人的なものに見えます。

だから、思った以上に飽きてくるとか、地味でつまらないと言った感想も無理もないとも思います。いわゆる波乱万丈エンターテインメントとは全然違いますから。

revenant

しかし、もう少し深く解釈してみると違ったものが見えてくると思います。

タイトルの「revenant」とは「戻ってくる」とか「亡霊」という意味ですが、単純にヒュー・グラスがたまたま生き永らえて復活したという意味として考えてよいのでしょうか。そもそも熊にあそこまで襲われ傷を負った時点で普通は死んでいてもおかしくありません。それでも“蘇った”のは特殊な事態です。

私はこれは野生動物やネイティブ・アメリカンを含めた自然的な力によるものを示しているように感じました。実際に、蘇って以降のヒュー・グラスはまるで自然に憑依されたかのように復讐に向けて突き進みます。ヒュー・グラスの生い立ちや身なりからもそれを示唆する要素があります。ヒュー・グラスはネイティブ・アメリカンの女性と結婚しており先住民と関係がありますし、衣装は自分を襲った熊の毛皮を身に纏います。ヒュー・グラスは野生動物やネイティブ・アメリカンの亡霊でもあるのです。とすれば、あの生命力も納得がいきます。

そうやって考えると本作は『もののけ姫』に似ています。『もののけ姫』の主人公アシタカは、①自然に刃を向け呪われてしまう、②自然的な力により致命傷から復活する、③自然と人間の間に苦しみながら生きる、といった要素を抱えており、ヒュー・グラスと一致します。日本の自然信仰的にいえばヒュー・グラスは“蘇った”というよりは“祟られた”といえるでしょう。印象的な熊に襲われるシーンは“祟られた”瞬間でもあるのです。ネイティブ・アメリカンの一団が終盤にヒュー・グラスを見逃す場面も、“祟られた”存在に触れたくなかったのかもしれません。

まさにアメリカ版『もののけ姫』と呼ぼう…というのは大袈裟かな。

とりあえずディカプリオさん、お疲れ様です。

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