ロスト・バケーション
映画『ロスト・バケーション』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:The Shallows
製作国:アメリカ
製作年:2016年
日本公開日:2016年7月23日
監督:ジャウム・コレット=セラ

【個人的評価】
 星 8/10 ★★★★★★★★
 
あらすじ

医学生のナンシーは、休暇を利用して亡き母が教えてくれた秘密のビーチを訪れる。日が暮れるまでサーフィンを楽しむナンシーを突然サメが襲う。なんとか近くの岩場に逃げ着くも、サメは周囲を執拗に泳ぐ。海岸までの距離はわずか200メートル、時間とともに潮が満ちて足下の岩場が沈もうとしていた…。

やっぱり夏はサメ映画

「サメ映画」というジャンルは今や有名すぎてあらためて語ることもないのですが、サメ映画を見たことのない人に「おすすめは?」と聞かれると結構困っていました。というのも、サメ映画のノリをある程度知っている前提なお約束的流れが確立しています。「サメ映画=B級映画もしくはマニア向け」みたいなイメージを推進するようなぶっ飛んだ世界観の作品や悪趣味に偏った作品も実際多いです。サメ映画を一般に認知させた名作『ジョーズ』(1975年)でさえも、今の若者が見たら、あのBGMのせいもあって、ギャグっぽく見えかねません。


しかし、そんな悩みも解決しました。間違いなく本作『ロスト・バケーション』はサメ映画を一度も見たことがない人にもおすすめできる一作です。

古臭いマニアックな要素は一切なく、今の若者が見ても面白いといえる現代的なサメ映画に仕上がっています。若者受けを狙っているのか、映画序盤がCMやイメージビデオのようなおしゃれな映像になっているのも印象的です。とにかく敷居は低いので安心してください。

本作の凄いところはまだあります。本作は初心者向けサメ映画でありながら、これまでのサメ映画にはないオリジナリティもしっかり揃っているのです。

まずなんといっても本作がシチュエーション・スリラーだということ。シチュエーション・スリラーとは舞台となる状況を狭く限定したなかで恐怖が襲ってくる作品をいいます。

普通、サメ映画の舞台は海です。海は本来、広大で自由な空間のため、シチュエーション・スリラーにするにはひと工夫がいります。従来の作品では例えば『ジョーズ』は船の上、『ディープ・ブルー』(1999年)は研究施設のように人為的な要素で舞台設定をしていました。

ところが本作は違います。原題の「The Shallows」の意味するとおり舞台は“浅瀬”です。このひとつの舞台だけで映画一本を描ききっています。このありそうでなかった舞台設定で繰り広げられるサスペンスのアイディアがとにかくワクワクハラハラします。この舞台が本作の肝なので、邦題はそのまま「シャローズ」にしてほしかったくらいです。

そして忘れてはならないのが主役。一般的にサメ映画ではサメハンターとか研究者とかいろいろなポジションの人が登場して、またひとりまたひとりと襲われていくのが定番。しかし、本作の主人公は医学生のナンシーひとり。しかも水着美女です。サメ映画ルールでは水着美女はたいてい真っ先に死んだりするのですが、本作では彼女ひとりなので、当然、死ぬわけにはいきません。彼女ひとりに全ての役柄が集約されています。このシンプルなシチュエーションがサスペンスをいい感じに味付けしています。ちなみに、実は彼女以外に相棒キャラが登場するのですが…それは見てのお楽しみ。

グロな描写よりも痛い描写がたっぷりで、見終わったら絶対にサーフィンはしたくなくなりますが、見ないのはもったいない映画です。この夏、見る映画に迷ったらとりあえず本作を見ましょう。





↓ここからネタバレが含まれます↓ 




自然は敵であり、道具であり、友達である

本作はとにかく自然(野生生物)の使い方が上手く、フル活用しています。サメ映画だとたいていサメ以外の自然や生物は背景や環境映像にすぎなかったりするので、こういうふうに重要視してくれるのは生き物好きの私としてはとても嬉しい。主役のサメの見せ方ももちろん良かったですが、サメ以外の動物も印象に残るサメ映画は珍しいのではないでしょうか。

最初にクジラの死体をどーんと見せるインパクト絶大な導入はお見事。ここから序盤のおしゃれなバカンスは終わりをつげ、地獄が始まることを示す前兆として、これ以上ないアイテムです。

人間とサメ双方にとって危険なサンゴやクラゲを登場させたりと、安易に人間vs自然の構図にしないのも現実的で気に入りました。あと、イルカやカニの「大変そうですね」的な他人感もいいです。

そして、一番は主人公と同じく負傷するカモメ。『FAKE』の猫と並んで、今年の助演動物賞の最有力候補です(勝手に作った)。さすがに主人公の独り芝居では間が持たないゆえの配置なのでしょうが、これまた単なる動物ではなく相棒に近いキャラの扱いといえます。

ちなみにこのカモメ、ナンシーに「Steven Seagull」というあだ名をつけられていました(たぶん字幕では反映されてなかった)。これは俳優「Steven Segal(スティーブン・セガール)」が元ネタ。どうりで頼もしい奴だったわけですよ。

そんな自然や野生生物と対比させるように、21世紀の今を代表する最先端のガジェットも上手くミックスしていました。ナンシーはスマホアプリのSNSやUberなどを当たり前に使う現代っ子なわけで、そんな現代の若者が自然の恐ろしさを知る話でありつつ、決して現代(もしくは若者)を冷笑するような狙いは本作にはありません。ナンシーはウェアラブルカメラを駆使して最終的に発見されるわけですし。本作は前述した安易に人間vs自然の構図にしないというのも合わせて、社会的メッセージが大きく目立たないつくりだからこそ、構えず気軽に見れる良い映画になっています。
The Shallows
不満もなくはないです。一番の不満点はサメの倒し方。あれだとサメがさすがに馬鹿っぽいです。あの油で火だるまにする方法で良かったんじゃないかと思います。なんなら、クジラごと炎上させてもいいのではとも思わなくもない…。少なくとも人工物(照明弾)と何かの自然物を組み合わせて利用して勝ってほしかった。

ほか細かいツッコミをするなら、クジラの死体にすぐ気づかないのはなぜ?とか、獣医じゃないんだからカモメは診れないだろうとか、あの酔っ払いおやじの登場が唐突すぎるとか(最初死体なのかと思ってしまった)、まあ、多少ありますが、全体的に良かったので気にならなかったです。

それにしても、子どものときにサメ映画を見てなくて本当に良かった…。確実に海に行けなくなります。