1987、ある闘いの真実
映画『1987、ある闘いの真実』の感想&考察です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:1987
製作国:韓国(2017年)
日本公開日:2018年9月8日
監督:チャン・ジュナン

あらすじ

1987年1月、全斗煥大統領による軍事政権下の韓国。南営洞警察のパク所長は北分子を徹底的に排除するべく、取り調べを日ごとに激化させていた。そんな中、行き過ぎた取り調べによってソウル大学の学生パク・ジョンチョルが死亡してしまう。警察は隠蔽のために画策するが、拷問致死ではないかと記者は疑い、事態は混迷していく…。

ネタバレなし感想

1987年の韓国で起きたこと

どんな国でもその国の“今”を形作る原点になった「年」があると思います。

例えば、アメリカなら、アメリカ独立宣言を採択した「1776年」や、アメリカ同時多発テロ事件が起こった「2001年」と答える人が多いでしょう。日本なら、広島・長崎に原爆が投下されて終戦を迎えた「1945年」や、東日本大震災&福島第一原子力発電所事故の起こった「2011年」を思い浮かべる人も少なくないはずです。

では韓国はどうでしょうか。

日本は、食や芸能など韓国カルチャーが日々たくさん入ってきて親しんではいますが、このそれほど離れていない隣国の歴史には非常に疎いです(日本も韓国史に大きく絡んでいるわりに)。

実際に韓国の人々にアンケート調査をしたわけではないですが、きっと自国の“今”を形作る原点になった「年」を質問すればこう口にする人が多いのではないでしょうか。

「1987年」だと。

1987年。日本はバブル景気に浮かれていた時期。隣の韓国は激動の転換点を迎えていました。韓国では1979年から俗に「ソウルの春」と呼ばれる民主化ムードの高まりが起こり、一方で政権は軍事色をどんどん強め、政府に反対する民衆を武力で押さえつけていました。その軍事政権と民主化を求める国民の対立が頂点を極め、決定的な事件が勃発し、ついに民主化を勝ち取ったのが「1987年」なのです。

日本は民主主義の国ですが、民主主義を勝ち取ったという自覚がありません。終戦によってアメリカの占領下のもと、なかば流れで民主的な憲法と政治体制が作られたようなものです。そのせいか、どうも民主主義の重要性を強く認識する国民性が乏しい国になってしまっている節があります。

そんな日本人にこそ、ぜひ本作『1987、ある闘いの真実』を観てほしいです。

本作はまさに1987年の韓国を舞台に、民主化を勝ち取ることにつながる“決定的な事件”をサスペンスフルに描いた骨太の歴史ドラマ。

本作の面白さは端的に言って、3つ。

ひとつは「普通に政治サスペンスとして最高に面白い」ということ。この手の歴史モノは観客に事前知識を要求せざるを得ない面も多々ありますが、本作は全然気にしなくてOK。想像以上に話の本筋はシンプルで、ジャンル的なクライムサスペンスとして楽しめます。

ふたつ目は「贅沢なキャストと時代の再現性」です。本作はとにかくキャスト陣が豪華で、韓国映画界のオールスター状態。“キム・ユンソク”、“ハ・ジョンウ”、“ユ・ヘジン”、“カン・ドンウォン”と、男性陣は怖い顔、渋い顔、クセのある顔、イケメンと、だいたい網羅していますし、紅一点的な登場となる女性には『お嬢さん』で鮮烈なインパクトを残した“キム・テリ”が抜擢。
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加えて、それら俳優たちが1987年当時を完全再現した街で演技合戦するのですから、たまりません。

3つ目は「この映画を今の時代に作る重み」です。本作で描かれることは過去の話ですけど、韓国ではつい最近も政治腐敗によって政権交代したばかり。そんな中で本作の公開は、韓国国民の政治に対する厳しい視線を忘れないためと言っても過言ではない役割を果たしているのではないでしょうか。そして本作は韓国では観客動員数700万人を超える大ヒットを記録するというかたちで答えを出しました。こういう映画が大衆にウケるあたりに、日本との国民性の違いがモロに表れていますよね。本作は韓国の各映画賞を総なめにもしています。

日本人が本作を観て「へ~、韓国ってこんなことがあったんだ~」と関心するのもいいのですが、それ以上に「じゃあ、今の日本はどうなんだろう」と重ね合わせたくなるでしょうし、そのオーバーラップな見方の拡大は、決して間違ってはいないと私は思います。

こんな本作のような大作映画がこの先もしばらくは作られることはないだろう日本で、私たちができることはこれくらいですから。

予告動画






↓ここからネタバレが含まれます↓





ネタバレあり感想

リレー方式の観客誘導の絶妙さ

本作はかなり歴史に重点を置いたヘビーなドラマということで、登場人物もバンバン出てきて、情報整理が追い付かないかもしれません。

公式サイトに登場人物の相関図があったので、以下に図を引用しておきます。

1987、ある闘いの真実_相関図

ほとんどが実在の人物であり(永登浦刑務所の看守のハン・ビョンヨンは実在の複数の人物を組み合わせたキャラクター)、本作で描かれるドラマが本当に起こったことだという重みをあらためて痛感します。

主要キャラの中では唯一の女性であるヨニは完全に架空の人物です。このヨニがいわば現代を生きる韓国の若者を象徴するキャラであり、“今”の観客と1987年の時代をつなぐ導き役でもあります。

しかし、ヨニが登場するのは中盤以降なんですよね。

本作の最初は、大韓ニュースに始まり、「急激に左傾化した反乱分子が暴力で民主主義を脅かしています」という政府の大本営発表。そして、次に映るのが、1987年1月14日の南営洞の対共分室で警察に捕まって拷問死したソウル大学の学生パク・ジョンチョルの事件を、パク対共捜査所長の指示で隠蔽する警察の面々。つまり、完全に政府の内部の側に最初の時点で観客は置かれます

そしてここが上手いのですが、まず前半パートで、ソウル地検公安部長のチェ検事という、内部から不満を持って権力に歯向かい反旗を翻す人間に観客を同調させ、続いて拷問致死を疑う記者たちにシームレスにバトンタッチするように観客の立ち位置を移します。

それで後半パート。記者の次は、民主化運動に感化された看守のハン・ビョンヨンに観客は視点を合わせ、民主化運動家のキム・ジョンナムに継承され、最後は肩書もない無垢なヨニが「デモに意味なんてない」という気持ちを翻して民主化運動の先頭に立つところでエンディング。

このように絶妙なストーリーラインによって観客が感情移入すべき相手をリレー形式で用意してくれているんですね。だから流れるままに観ているだけで、自分も民主化の熱を心に抱いてしまっている…本当に上手くできた導線です。

韓国映画といえば顔です

その巧みな構成のドラマを盛り上げるのはもちろん役者陣。

全員に言及していられないので要所要所だけピックアップしますが、まずは本作のヴィランにして影の主人公と言ってもいいパク所長を演じた“キム・ユンソク”。こいつがとにかく怖い。何をしでかすかわからず、それこそ何にでも噛みつく狂犬。主演作『チェイサー』で見せた暴走“キム・ユンソク”をまた堪能できました。

後は個人的に推しである“ユ・ヘジン”。彼が出てくるだけで、私は無条件に応援してしまう…。本作ではいかにも生真面目そうな看守役で、姉の娘ヨニにもバカにされ、作中で顔をネタにされるという自虐(?)も披露。なんか最近は辛そうな役ばっかりだな…。

ヨニを演じた“キム・テリ”も好演で、『お嬢さん』でも見られた純真で素な感じがフッと別の一面に変化する様が魅力的。まあ、“ユ・ヘジン”と同じ家系とは思えないけど…。

また、1987年の建物や街並みは全然残っていないなか、45000坪の敷地に大規模なオープンセットで1980年代の街並みをリアルに再現したという世界観表現は見ごたえ抜群。やはり、デモシーンは欠かせないものであり、そのためにはどうしても大規模舞台が必要です。私服のデモ弾圧部隊(通称「白骨団」と呼ばれたらしい)が学生含む民衆と対峙する迫力の場面は、このセットあってこそ。

日本の映画はたいてい過去の歴史モノでもスタジオセットにしてしまうことが多く、こじんまりした物語展開になりがちですが、韓国映画の出し惜しみのないスケールはやっぱり良いものであり、羨ましいですね。

1987、ある闘いの真実

安易な善悪の対立にしない

本作は宣伝でも「国家権力vs民主主義」みたい対立構図が打ち出されていましたが、実際に鑑賞してみるとそんな単純な二項対立ではない映画でした。

安易な善悪二元論にしていない、重要な役割を果たしているのがパク・チョウォン所長です。

彼は字幕でも「脱北者」と表示されていたように、北朝鮮側にいた人間。本作の冒頭、「望拝壇」という場所にいるシーンで初登場しますが、ここは朝鮮半島の統一を願って作られた軍事境界線近くの「臨津閣」にある“故郷を離れた人々が祭祀を行う場所”。パクという人間の心には常に失った家族の想いがあります。北朝鮮時代に権力の横暴によって家族を殺されたパクは、韓国に来て、彼なりの「秩序」をなそうとします。それは韓国上層部の思惑とは別個のパクだけの信念。なので自分の上層部にも平気で噛みつきます。

つまり、本作は「権力や支配に同じ権力や支配で対抗しようとした者(パク・チョウォン)」と「権力や支配に民主主義で対抗しようとした者(チェ、ハン、ヨニほか)」の対決なんですね。

終盤、教会に突入したパクは十字架のイエスを描いたステンドグラスの裏に映る“落ちそうになった民主化運動家のキム・ジョンナム”を目撃します。それはまるで「過去に苦しむ自分を本当に救うのは民主主義だったんじゃないか」と気づきかけるようなシーンともいえます。

民主主義の大切さに気づくのはヨニだけではない…若いヨニに対しては露骨なほどハッキリしたメッセージ性で民主主義の自覚を示すのですが、パクに対しては映画的なさりげない演出でそれを示す。実に上手い幕引きです。

本作と関連して観ることを強くオススメする映画がひとつ。『タクシー運転手 約束は海を越えて』です。1980年5月に韓国の光州で起きた「光州事件」を描いたもので、民衆の蜂起を鎮圧するために政府が凄まじい暴力を行い、多数の死傷者を出した韓国史に残る最悪の事件。『1987、ある闘いの真実』でもイ・ハニョルが漫画サークルのビデオ上映会の中でこの事件のドキュメンタリーを見せていました。韓国民主化運動の発端となった出発点でもあります。
『タクシー運転手 約束は海を越えて』感想(ネタバレ)…サンキュー、タクシー
合わせて鑑賞することで、韓国国民の民主化への高まりの経緯がさらにグッと伝わると思います。

日本にも自分たちで民主化を勝ち取ったと自覚する「年」がいつか来るのでしょうか。

ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 88% Audience 94%
IMDb
7.8 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 9/10 ★★★★★★★★★

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