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『アルテミスと妖精の身代金』感想(ネタバレ)…酷評なんて悪ぶる子は気にしない

アルテミスと妖精の身代金

酷評なんて悪ぶる子は気にしない…映画『アルテミスと妖精の身代金』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:Artemis Fowl
製作国:アメリカ(2020年)
日本では劇場未公開:2020年にDisney+で配信
監督:ケネス・ブラナー

アルテミスと妖精の身代金

あるてみすとようせいのみのしろきん
アルテミスと妖精の身代金

『アルテミスと妖精の身代金』あらすじ

ある日、アイルランドにある屋敷で暮らすアルテミスのもとに行方不明の父親を誘拐したと語る犯人から1本の電話がかかってくる。身代金としてとある品を要求されたアルテミスは、父親を取り戻すため、天才的な頭脳を武器に妖精たちの財産強奪を企てる。別の世界で社会を築く妖精たちも密かに部隊を指揮して動き出す中、この勝負に勝つのはどちらなのか。

『アルテミスと妖精の身代金』感想(ネタバレなし)

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酷評だけど気にせずに

いつも上手くいくとは限らない。それがこの世の不条理。映画だってときに酷評されることがあります。作り手にしてみれば避けたい事態ですが、そうも言っていられません。作品を発表すれば感想が返ってくるのは創作における絶対に無視できない法則みたいなものですから。

今回紹介する映画『アルテミスと妖精の身代金』は企画段階からちょっと躓いていました。

原作はアイルランドの児童文学作家「オーエン・コルファー」が生み出したファンタジー小説「アルテミス・ファウル」シリーズです。2001年から刊行され、2012年に8巻目が出版され、完結を迎えました。アイルランドでは大人気の作家のようですけど、私は全然知りませんでした。2000年代初めは「ハリー・ポッター」の空前の大ブームで児童向けファンタジー小説が脚光を浴びていましたし、注目度も必然的に高かったのでしょうかね。

この小説の映画化の計画は、まさに1巻が世に出た2001年から始まっていました。いかに映画業界が次なる原石として児童向けファンタジー小説に目をつけていたか窺えますね。この初期の時点ではミラマックスが映画化を進めていました。しかし、企画は難航。そうこうしているうちに2013年にディズニーの手に映画化権利は渡り、また練り直しが始まります。そして、おそらく何度か企画が再生成を繰り返した後、2015年に“ケネス・ブラナー”監督が手がけることが発表され、2019年8月9日に公開予定となりました。

ところが2020年5月に公開日は延期。ここまでは、まあ、よくあります。しかし、コロナ禍によって劇場公開できる状況ではなくなってしまい、やむを得ず劇場を諦め、動画配信サービス「Disney+」で配信することになったのです。日本ではアメリカから2か月遅れて2020年8月14日に「Disney+」で配信されました。

ふう、とりあえず良かった…と思ったのも束の間、これがなんと酷評の嵐。批評家の評価も底打ち状態であり、批評サイト「Rotten Tomatoes」での批評家スコアは「9%」まで下落。その痛烈なコメントを以下に簡単にピックアップしておきます。

「2020年の最悪の映画」
「失敗したハリーポッター」
「観た子どもは90分間殺される」
「理解不能な災害」
「無料だから助かった」
「コロナでも封じられない失望」

ディズニーの実写映画でここまで最低クラス評価な作品、いつぶりだろうか…。

でもこんなことを書いちゃいましたけど、映画の感想は人それぞれ。面白いと褒める人だっています。そういう人に出会うために映画は生まれてくるのかもしれない(カッコつけた風に)。

ただ本作『アルテミスと妖精の身代金』、ちょっと宣伝ミスもあるなと私は思います。巷の宣伝では、ディズニーらしくないダークな雰囲気があるかのようにアピールされ、「悪のハリー・ポッター」なんて紹介もされています。ポスターも少しマッドでおどろおどろしいビジュアルじゃないですか。

けど、実際に鑑賞したうえで言いますけど、本作は別に大人向けでもない。むしろ結構対象年齢が低い(小学校低学年くらい?)と思いました。たぶん小学校高学年くらいだともう「ガキっぽい」と見向きもしなくなるかもしれない。それくらいのターゲット層なんです。

なのでそのつもりでどっしり構えて観てほしいな、と。そうしたら変にハードルを上げずに済みますし…。

もちろんディズニーなだけあって映像は非常に綺麗でファンタジックな世界観を楽しめるので、そこを期待する人は全然OKでしょう。

俳優陣ですが、主役を演じた“フェルディア・ショー”はオーディションで抜擢された子で、ヒロインを演じた“ララ・マクドネル”もほぼ新人。かなりフレッシュな若さが際立ちます。

その一方で、脇を固めるのは“コリン・ファレル”、“ジョシュ・ギャッド”、“ジュディ・デンチ”など実力派。“ジュディ・デンチ”がディズニー実写映画にちゃんとした役で出るのは初めてですよね(『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズでカメオ出演ならしたことがある)。

大作に見えつつ、実際は約95分とかなり短いファンタジー映画なので、ちょっとした隙間時間に気楽に再生視聴すると良いのではないでしょうか。

オススメ度のチェック

ひとり ◯(俳優ファンならば)
友人 ◯(暇つぶし気分で)
恋人 ◯(暇つぶし気分で)
キッズ ◯(子どもなら楽しめる…はず)
↓ここからネタバレが含まれます↓

『アルテミスと妖精の身代金』感想(ネタバレあり)

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見た目は子ども、中身は…

アイルランドの海岸にそびえたつ屋敷。ここはファウルという一族の領地です。いつもは静かな場所ですが、今は世界中からマスコミが大量に押しかけて、騒然としていました。なんでも現在の領主であるアルテミス・ファウル1世と関連がある世界的に有名な遺物コレクションのひとつが盗まれたようです。

前代未聞の窃盗事件の裏には何があるのか、メディアが騒ぎ立てる中、逮捕されたのはマルチ・ディガムズという長髪長髭のモジャモジャした小汚い男でした。彼はすぐさまMI6の海上プラントにある施設に拘束され、怪しいカメラの前で尋問を受けます。

マルチ・ディガムズは飄々と語りだします。これはアルテミス・ファウル、それも1世ではなく2世、息子の物語だ、と。そして魔法の物語でもあるのでした。

3日前、12歳のアルテミス・ファウル少年は、大波をサーフィンして満喫していました。彼は頭脳明晰で優秀すぎるくらいであり、学校ではどうしても浮いてしまいます。なので全く馴染めず、セラピーに対してもバカげていると一蹴するほどです。

屋敷で一緒に暮らす父ファウル1世は、アイルランドの御伽噺に詳しく聡明で、子どもであるアルテミスも特別な想いを抱いていました。そんな父は仕事で出かけてしまい、窓からヘリで発つ父を見つめるアルテミス。

屋敷にいるのはアルテミスと、従者でボディーガードでもあり、いつもこっちを監視しているドモボイ・バトラー。そしてバトラーの姪であるジュリエット・バトラーは同年代なので、よく遊び相手にもなっていました。

何事もなくいつもの日常を過ごしていると、突然、驚きのニュースが飛び込んできました。父が消えたというのです。しかもいくつかの遺物も消え、その不可解さに世間はファウルを犯罪者なのかと疑い始めていました。

ショックも覚めない状況でさらに電話がかかってきます。父からだと思ったアルテミスはすぐに出るのですが、その相手は謎の声。そのうえ、父を誘拐したと怪しく語り、確かに捕らわれた父の声を確認。そして、「アキュロス」を探せと謎の声は指示し、タイムリミットは3日間だと一方的に告げてきます。

どういうことなんだとバトラーを問いただすと、隠されたライブラリを見せてくれます。けれども「アキュロス」というのはバトラーも知らないらしいです。父はこの人間の世界とは別の場所から何かを見つけたのかもしれない…。

そう、実は地下、アンダーグラウンドにあるヘブン・シティには全くの独自空間が広がっており、そこは妖精たちのホームでした。多様な妖精たちが社会を築き上げ、高度なテクノロジーも存在しています。

エルフで地底警察(LEP)の偵察隊(合わさるとレプラコーンになる言葉遊び)に所属するホリー・ショートは、指揮隊長であるコマンダー・ルートの命令で、地上へと単独で派遣されます。それは特別なミッション。

そしてアルテミスとホリー・ショートの運命はぶつかることになり…。

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犯罪組織ごっこが楽しい年頃

『アルテミスと妖精の身代金』は意外と子ども向けと解説しましたけど、その理由は主人公の設定にあると思います。まずこの子がかなり特殊です。アイルランドの犯罪組織の御曹司なんですよ。

で、本作はそこに対して善悪論を持ち込むことはとくになく、結構あっさり割り切って悪に徹しています。悪人ライフをエンジョイしているのです。それも子どもが…。

『キングスマン』の子ども版というか、私はアラン・パーカー監督の『ダウンタウン物語』も連想もしましたけど、要するにちょっと大人びた(と本人は思っている)子どもが自信たっぷりにごっこ遊びに興じているような、そんな作風ですよね。

作中でアルテミスはスーツにサングラスといういかにもなファッションスタイルでバシッとキメて、華麗にハイテク武器を使いこなす。子どもらしい究極の悪ぶりを満喫する。そこに周りの大人も全力で乗ってあげる。

かなりリアルで陰惨な社会問題も内包されている「ハリー・ポッター」とは全然違う作品性で、『アルテミスと妖精の身代金』はポップなエンタメに特化しています。

まずこの作品のポジションを受け入れられるかが重要になってきますね。そもそもこれが無理となれば、作品に対しても冷めてきますから。

作中のギャグとかもかなり低年齢感があります。“ジョシュ・ギャッド”演じるマルチ・ディガムズの、子どもたちが思わず「おぇ~~」と反応しそうな、気持ち悪い映像をあえて連発するノリとか。久々にこんな気色悪いドワーフを見た…。口を広げて凄い勢いで地面を進み始めたときのインパクトは酷い(良い意味で)。

アクションもタイムフリーズのパニック場面とか、本当に何が何だかわからないけど、とりあえず映像的な派手さはありますし、見ていて飽きるわけでもないです。トロールとの室内バトルは単純に楽しいですね。正直、あの倒し方は納得はいかないけど…(あの家の強度の基準がムラありすぎだろうに)。

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ドラマシリーズの総集編みたい

ただ、この『アルテミスと妖精の身代金』は残念ながら中途半端な実写化だったのではと思う部分も全体的に多々あります。

なんかドラマシリーズのシーズン1の第1話~第3話あたりの総集編を見ている気分ですよね。良いシーンの繋ぎ合わせみたいな…。うまくマルチ・ディガムズのナレーションを挟みながら進むことで補っているけど、かなり説明が足りないです。

だいたい本作では主人公はあの屋敷から全然動いていないんですよ。こんな主人公が動かないファンタジー物語があるのか!ってくらい、家から出ていない。

その代わり、壮大に登場する妖精世界。エルフ、ノーム、ゴブリン、ドワーフ、ケンタウロス、トロールなど各種の種族がひしめき合い、こここそ観客が見たい!と思わせる世界のはずですが、あまり掘り下げられることもなく、ホリー・ショートは人間の地上世界に来てしまいます。

そしてキャラクターの葛藤めいたものはあまりよくわからないまま、終盤に急に子どもじみた態度をとるアルテミスと、ホリー・ショートのなんかいつのまにか認められるという実績達成で、ハッピーエンドな雰囲気だけが漂い…。

せめてあと20分増やしてもいいから各キャラの心理をもっと丁寧に描いてほしかったところ。子ども向けであってもそこは手を抜かないでほしい部分です。

本作は原作の1巻と2巻をまとめた物語になっているようで、あちこちで脚色もあって削られたキャラクターもいます。ちょっとそのストーリーアレンジは芳しくなかったかもですね。

あの誘拐犯の悪役もしっかり扱ってほしかったですよね。一応、声はドラマ『ウォッチメン』で印象的に活躍した“ホン・チャウ”が演じているそうで、もっと活躍してほしかった…。

監督の“ケネス・ブラナー”と言えば、舞台演劇でも有名で名を挙げており、実写版『シンデレラ』や最近だと『オリエント急行殺人事件』を監督していました。実力はじゅうぶんすぎるほどのはずですが、この『アルテミスと妖精の身代金』は不発だったかな…。子ども向け作品があまり得意ではないのかもしれないけど…。

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現代的アップデート…なのか?

少し古い作品を再び映像化したりする際、必ず求められてくるのが現代的アップデート。何も義務的な話ではなく、ちゃんと観客が楽しいと思えるかどうかをその都度、時代に合わせて調整するのは作り手として当然のことです。

『アルテミスと妖精の身代金』も原作と違う部分はかなりあります。

例えば、“ジュディ・デンチ”演じるコマンダー・ルートは原作では男性だったのが女性に変更。802歳の指揮官が、まだ84歳のホリー・ショートのメンターになる構図にすることで、老齢の女性から若き女性への連帯的なコネクションを描く…このアレンジは悪くなかったです。まあ、本音を言えばもう少し組織図としての状況を描写してほしかったですけどね。

しかし、他のアレンジではちょっと首をかしげたくなるものがチラホラ散見され…。

バトラーという頼れるキャラクターは、原作ではユーラシア人ということになっていましたが、映画版では黒人に変更され、“ノンソー・アノジー”が演じています。まあ、アフリカ系の人を出しておきたかったのだろうと事情は察します。でもさすがにこの役柄はどうなんだ、と。黒人を富裕階級の従者の役にあてるというのは、ハッキリ言って全然現代的じゃない、いつの映画だよと言われてもしょうがないのではないでしょうか。よりによって絶妙にお茶らけた役柄のせいで、余計にステレオタイプに見えるし…。

さらに人気も高いホリー・ショート。彼女は原作では褐色系の肌のキャラクターだったのを、今作では白人に変更したため、やっぱりホワイトウォッシングだと批判されました。事前の発表でもファンからの“どうなんだ”という指摘もあったくらいなのですが、本当にどうなんだ…。原作に準拠した役者を見つけるのはディズニーなら難しくなかっただろうに…。

もちろん“ララ・マクドネル”はとても魅力的に演じているのですけどね。
ただ、こういう問題性のあるキャスティングは後々俳優のキャリアにおいて尾を引きづるもので、結局は俳優自身の印象として背負うことになります。若い俳優にそんな負担を与えないためにも製作陣はもっと考える必要があったのではないかと思うのですが…。

『アルテミスと妖精の身代金』の続編は難しそうですが、いつかアニメシリーズ版とかで復活すると良いですね。その時は今度こそ納得のクオリティでね。

『アルテミスと妖精の身代金』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 9% Audience 20%
IMDb
4.1 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 3/10 ★★★

作品ポスター・画像 (C)2020 Disney

以上、『アルテミスと妖精の身代金』の感想でした。

Artemis Fowl (2020) [Japanese Review] 『アルテミスと妖精の身代金』考察・評価レビュー