オーロラ 消えた難破船
Netflix映画『オーロラ 消えた難破船』の感想&考察です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Aurora
製作国:フィリピン(2018年)
日本では劇場未公開:2019年にNetflixで配信
監督:ヤム・ララナス

オーロラ 消えた難破船

あらすじ

大型客船が海岸近くの岩場に衝突して難破。大勢の犠牲者が出た。しかし、警備隊は遺体回収作業をさっさと完了させてしまい、まだ大切な人の帰りを待つ遺族は途方に暮れる。事故を起こした近くの島で宿を営む女性リアナとその妹リタは警備隊や遺族が撤収した後も、遺体を探すことをやめなかった...。

ネタバレなし感想

また、宿泊ですか?

大型連休や長期休暇シーズンになるといつもの日常を離れてどこか旅行に足を運びたくなる人も多いかと思います。その際に楽しみな要素のひとつが宿泊場所となるホテル選びですよね。

あれ…この出だし、『ホテル・エルロワイヤル』でも書いたな…。
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いや、でもしょうがないんです。今回紹介する本作『オーロラ 消えた難破船』“宿”を舞台にした映画なのですから。邦題は「消えた難破船」なのに、舞台は“宿”なのかと思うでしょうけど、そのとおり。というか、この邦題、さすがにちょっとどうなの…(観れば私のツッコミたい理由がわかるはず)。

でもこちらの映画はそんなゴールデンウイークの旅行気分を盛り上げるようなゴージャスな映画では全くありません(じゃあなんで紹介したんだ)。

なにせ海難事故で死亡した大型客船の乗客が死者になって出てくるホラーですからね。

逆に旅行気分の浮かれたテンションを一気に冷やす効果があります。“たくさんの連休でハシャいでいるんじゃねぇぞ”と嫉妬の敵意をむき出している、平常勤務の皆さんはぜひ本作を観て気分を落ち着かせてください。

ただ事前に言っておかないと勘違いさせてしまうのでハッキリしておきますが、本作はいわゆるエンタメ系のホラーでは全くありません。お化け屋敷タイプで観客をキャーキャー怖がらせる要素はほぼゼロです。そういうのを期待しないでくださいね。

ホラードラマと言えばいいのかな。“ドラマ”に比重が置かれており、物語上で常に漂う“死者”という部分もあくまで「追悼」の意味が強いです。

本作はフィリピン映画なのですが、フィリピンの作品で私が見たものとして最近は『バードショット』という映画もありました。あちらはスリラーサスペンスでしたが、でもやはり「死者への追悼」の側面が色濃かったです。それと基本は同じと思ってもらえればOK。重苦しい作品です。
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『オーロラ 消えた難破船』はフィリピンではそれなりのヒットを記録したようで、日本ではNetflixオリジナルとして配信されました。

なかなかフィリピン映画なんて観ないので、私も詳しく語れないのですが、主演の“アン・カーティス”はフィリピンではとても有名な女優のようです。フィリピン系オーストラリア人で、映画やテレビに引っ張りだこで、モデルやアーティスト活動も成功しており、多数の賞に輝いているという、もはや完全無敵のキャリアを誇っています。ちなみにモデルなので当然美人なのでしょうけど、『オーロラ 消えた難破船』ではそうした華やかさは全くない非常に地味で抑えた演技を披露しています。

監督の“ヤム・ララナス”はホラー映画を過去にもいくつか撮っている人で、2004年に自身が監督した『Sigaw』という作品は、後の2008年にセルフリメイクとしてアメリカで映画化しています(タイトルは『519号室(原題:The Echo)』)。私はこの人の作品は今回で初体験でした。

海外のホラー映画を観てみたい人、休日にすることもなく暇な人、そんな人たちはこの映画で違う刺激を味わってみませんか。

オススメ度のチェック
ひとり◯(ホラーが苦手でも観れるはず)
友人◯(暇つぶし感覚で気軽に)
恋人◯(暇つぶし感覚で気軽に)
キッズ◯(死体が出てくるので若干怖い)

予告動画






↓ここからネタバレが含まれます↓





ネタバレあり感想

見捨てられた遺体

海底の映像から始まり、映像は海上へ。そこから海を滑るようにカメラが進みながら、オープニングクレジット。怪獣映画みたいな物々しいBGMに何事かと思いながら、画面は浜辺にある家のような建物へゆっくりズームアップ。するとその建物の前の海岸に女性がひとり立っています。カメラがパッと切り替わり、その見つめる先には横倒しになった巨大な船がドンと登場。

本作はおそらくドローン撮影なのかな、ロケーション自体はあまり変わらないのですが、その風景を最大限に活かしたダイナミックな映像が印象に残ります。そのせいかとてつもないスケールのデカイ物語が展開されるのかと身構えてしまいますが、実際はそんなことはなく、キャラクター的にはミニマムです。

主人公となるのは冒頭でも映っていた女性、名前はリアナ。彼女は宿を経営しており、まだ幼い妹のリタと一緒。こんな海岸の目と鼻の先に宿泊施設があるのもかなりどうなのという設定ですが、まあ、そこは置いときましょう。

その宿のそれほど離れていない沖合で起きた大型客船の事故。多数の犠牲者が出たらしく、海上警備隊が捜索作業にあたり、映画冒頭ではこの事故現場に最も近いリアナの宿が活動拠点になっているのか、事故被害の行方不明者の遺族たち多数が集まり、警備隊に説明を受けています。

そこで伝えられた内容は「船に近づくな」「遺体はほぼ見つけた」「捜索は終了だ」という悲しいお知らせ。悲しみに沈む遺族はどうしようもなく、この宿から撤退していきます。

この場所は本島から少し離れた島らしく、この事故の影響で観光地としての客足にも大打撃を受けたのか、周囲の店はどこも売り家となり、閑古鳥が鳴く状態。リアナもリタのためにもここを出たらと促されます。

しかし、警備隊のリーダー格っぽい男は、多くの遺体が船から出られずにいて、潮流が変わって遺体が打ちあがる可能性があるので、宿を開けておけとリアナに言ってきます。ただし、自分から遺体探しをするようなマネはするなと釘を刺されるリアナ。わざわざこれまでの海難事故の酷い遺体の写真を見せられ、君の仕事じゃないと強く忠告されます。

オーロラ 消えた難破船

宿へ押しかける怨念

それでもリアナは不思議と使命感にかられたのか、遺族の姿に心を痛めたのか、自分から遺体探しのために行動に出ます。船を出してもらい、誰にも見つかることのなく存在する亡骸を見つけることに腐心する日々。

それと同時にこの宿で不気味な現象が起こり始め、不安な気持ちにも襲われていくリアナ。水中に大勢の人がいる悪夢を見たかと思えば、双眼鏡を覗くと海の岩場に一瞬人が見えたり、はたまた捜索に協力してくれたエディーの船に一瞬男が直立不動していたのを目撃したり…。ついには2階のある部屋に震える裸の男がいるのを見かけ、怖くなってリタに2階にあがらないように言いつけます。

一方で、事故で海中を漂う船荷を回収してテキトーに売りさばこうかと考えたエディーに対して、それでは泥棒だと強く反対するリアナは、険悪なムードに。

そうこうしていると、遺体捜索の協力を頼んだ知り合いの青年リッキーが海中で遺体を発見。回収してきた腐敗した遺体を前に気分を悪くする一同ですが、警備隊にバレないように私が慎重に身元を探るとここでも諦めないリアナ。本島で行方不明者リストを確認しますが、手掛かりはなく…。

その裏で謎の独断行動を密かにしているリタ。それはまるで誰かに操られているようで…。そこに現れるのは巨人のように背の高い大柄な男。彼にはあの船と密接な関わりがあったのでした。

リッキーは唯一の事故の生存者であるフィリップから“何が起こったのか”を聞きます。そして語られる事件の衝撃な実態。船に積まれていた“ある男の遺体”。船内の酷い状況。異常な現象。憑りつかれたように岩場へ舵を進める船長。パニック。火の海…。並行してリアナとリタの身に起こる現象も激しさを増し、ついにはあの事故の渦中に迷い込んだような異次元空間を彷徨い…。

こうして事故が起きた理由と、犠牲者の無念、それらを防げず事後処理も粗雑な社会に対する怒り…全てが終盤に集約されていきます。

本当にあった出来事

『オーロラ 消えた難破船』、まさか邦題で船が消えるというラスト付近のサプライズ展開をばらすとは思いませんでしたよね。この邦題を考えた人は何を思ったのか…。

映像的にはダイナミックな撮影は良いのですが、事故の船の全体像もCGっぽさが丸出しなので若干冷めるという不満もあります。中盤に起こるホラー演出も、ホラーサスペンスには欠かせないタメの演出がそこまでなく、尻切れトンボ的に不気味なシーンが不定期に挿入されるので、イマイチ恐怖感は薄めです。終盤の海難事故の船内シーンもやはり緊迫感という意味では欠ける部分も目立ちます。

ただ、本作の趣旨はそこじゃないのかもしれません。

『オーロラ 消えた難破船』で題材になっている大型客船の事故。これは元になった事件があるのかはちょっと定かではないのですが、おそらく大きく影響を受けているのは「ドニャ・パス号」の事故なのではないかなと。

ドニャ・パス号というフィリピンの国内航路に就航していた大型の貨客船があったのですが、1987年12月にフィリピンのミンドロ島・パナイ島間のタブラス海峡にて小型タンカーと接触したことを発端に大火災を起こして、沈没しました。その時の犠牲者の数は4000人を超えるとも報告されており、史上最悪の海難事故として挙げられることもあり、「アジアのタイタニック号」と呼ばれることも。

この事故の原因がとても酷いもので、作中と似たような状況でした。もともとドニャ・パス号は20年以上前に日本で建造されて使われていた船をフィリピンの船会社が入手したもの。その際、あちこちを手当たり次第に改造し、完全に航行の安全性を度外視した状態にそもそもなっていました。そして、本来は日本では定員約600名だった船にあり得ない数の人を乗せて、過積載で利用。しかも、船長を含む船員たちの技術も乏しく、その操舵ミスで悲惨な事故を起こしたと言われています。他にも胸糞悪くなるような当時の不始末は山ほどあって…。

本作もおそらくそれと同じことが起き、限りなく人災に近い中で、事故が闇に葬られようとされる時、犠牲者の怨念ともいうべき存在が苦しみを訴えてくる…そういうストーリーです。まだ、本作は“救い”ではないですけど、死者の無念を示すフィクション展開があるので観客の気持ちは多少解放されますが、実際の出来事は…。

ちなみに本作のフィリピンでの公開日は12月なので、明らかにドニャ・パス号の事故日と合わせてきています。だから正真正銘の追悼映画なんですね。それをこうやってホラーテイストにしてしまうあたりもなかなか攻めているなと思いますが、ともかくその背景をわかっているのとわかっていないのとでは、この映画に対する受け取り方が180度変わってきてしまいます

物語も最初から最後まで鈍重でヘビーな空気を背負っているのも、凄惨な事故の重さゆえ。そのぶん映画としてのエンタメ的な見やすさは思い切って捨てていますが、それもこの題材ならやむを得ないかなと。最初は元になった(と思われる)事件があったなんて知らずに観て“ちょっと暗すぎて退屈かな”と思ったのですが、歴史を知ってしまうと何も言えない…。退屈とかそれどころじゃない、いや、そんなことを言ったらバチがあたるというか、犠牲者に申し訳がない…。

こうした題材をホラーにするのは不謹慎だと非難する声もあるでしょうけど、いろいろなメディアによるアプローチに転換することで、次世代に記憶や教訓を受け継ぐこともできたりしますから、私は評価したいところです。

ROTTEN TOMATOES
Tomatometer --% Audience --%
IMDb
5.3 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 6/10 ★★★★★★

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↑『ザ・ブリザード』…巨大タンカーの遭難事故を描いた映画。
作品ポスター・画像 (C)Viva Films

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