チョ・ピロ 怒りの逆襲
Netflix映画『チョ・ピロ 怒りの逆襲』の感想&考察です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

英題:Bad Police
製作国:韓国(2019年)
日本では劇場未公開:2019年にNetflixで配信
監督:イ・ジョンボム

チョ・ピロ 怒りの逆襲

あらすじ

犯罪にも汚職にも手を染めるどうしようもない刑事の男、チョ・ピロ。監察に睨まれる中、巨悪の陰謀に巻き込まれてさらなる崖っぷちに立たされる。しかし、事件の鍵を握る女子高生の少女と出会い、その反抗的な態度に手を焼きつつも、チョ・ピロの心に正義の炎が灯る。

ネタバレなし感想

こっちはダメなおじさんです

映画好きだと人に映画をオススメする機会も多く(だからこの感想ブログを書いているのですが)、そういう場合、大手の有名作品(ハリウッド大作とか)なら簡単に勧めることもできるのですが、なかなかマイナーな分野、とくに日米以外の特定の国の映画を人に観てもらうのは意外に大変です。

例えば、韓国映画なんて一生で一度も鑑賞したことのない人に“見てみて”と推奨して実際に見てもらうハードルは高いです。なにせ見たことがないので、面白さの想像すらついていないわけですから。

でもその人が未鑑賞な国の作品の魅力を伝え、第一歩を踏ませることはとても大きな価値があるとも思っています。その一歩でそこから無限大の映画鑑賞の世界が切り開けます。もしかしたら一気に年間映画鑑賞本数を激増させてくれるかもしれない。映画ファンとしてひとりでも多くの人に映画に親しんでもらうためには、有名作の宣伝ばかりではなく、こういう新境地を踏み出す後押しをする方も重要だと考えているしだいです。

で、そんなとき、韓国映画の場合、よくオススメしやすいのが2010年の“イ・ジョンボム”監督の『アジョシ』です。韓国映画好きには非常に有名な作品であり、大きなインパクトを与え、いまだに持ち出されることの多いマイルストーンな映画でもあります。私も当時、鑑賞して衝撃を受けました。今、振り返るとすごくベタな作品なんですけどね。ミステリアスなイケメンが、幼い少女を、大人たちの犯罪の魔の手から守る…クライム・アクション・サスペンス。ただ、この映画はとにかくスタイリッシュでスマートでした。それこそ男女問わず惚れるほどに。私はこの映画で「アジョシ=おじさん」だと韓国語を覚え、さらにカッコいい男の象徴として「アジョシ」という単語を認識してしまったため、以降、別作品でとくに平凡でむしろみすぼらしいような男が「アジョシ」と呼ばれているのを見ると“こんなのアジョシじゃない!”と変な違和感を抱くようになるという、謎の後遺症がしばらく発生しました。

とにかく…なんだっけ…『アジョシ』、凄いなって話です(それでいいのか)。

その『アジョシ』の監督である“イ・ジョンボム”の最新作が日本ではNetflixオリジナルで独占配信されました。それが本作『チョ・ピロ 怒りの逆襲』です。

先に言っておきます。『アジョシ』みたいなスタイリッシュでスマートな雰囲気を期待しないでください。真逆です。見苦しい人間の汚さたっぷりの映画ですので。

“イ・ジョンボム”監督作としては『アジョシ』『泣く男』に続く、またもや大人の男と未成年の少女のバディ感のある“守り守られ”な物語です。こういうのが定石の作風なのですかね、この監督の。

ただ、決定的に過去作と違うのは主人公の男。コイツがとにかくクズな刑事です。どれくらいのクズかというと、強盗をしている(しかも若い部下にやらせて自分は高みの見物)、汚職も日常茶飯事、街の不良たちも手下にしている、金のことばかり考えている、弱い(肉体的にも精神的にも)、心理戦も苦手(顔に出る)…こんな感じで刑事として採点すると100点満点中3点くらいの人間です。もう絶対に付き合いたくないタイプの奴です。

主人公を演じているのは“イ・ソンギュン”。韓国版『白い巨塔』とかで有名ですが、どちらかといえば素朴なホーム感のある魅力の俳優。今作『チョ・ピロ 怒りの逆襲』ではそのイメージは崩壊しますが、でも…というあたりに注目。

こうなってくるとギャグなの?と思ってしまいそうですが、想像以上にシリアスで重たい題材がバックボーンにはあります。実は韓国を震撼させた“ある事件”が重要なキーワードであり、その犠牲者への鎮魂の意味もある作品で…。その鎮魂という意味では『オーロラ 消えた難破船』にも通じますね。
まあ、そうは言っても難しい映画ではないので、まずはこのダメなおじさんであるクズ刑事にお付き合いください。

オススメ度のチェック
ひとり◯(韓国映画好きなら観ておくべし)
友人◯(暇つぶしに見るのも良い)
恋人◯(暇つぶしに見るのも良い)
キッズ△(やや残酷描写あり)

予告動画






↓ここからネタバレが含まれます↓





ネタバレあり感想

この主人公、これでも警察です

『チョ・ピロ 怒りの逆襲』の舞台設定は2015年の韓国・安山市。この時と場所が実はものすご~く大事なので覚えておいてください。

夜、どこかの建物内で壁に穴をあける不審な帽子の男。どうやらATMの金を裏から盗み出しているようで、ごそごそと札束をバックに詰め、さっそくズラかろうと外に出るとその場に偶然いた男に目撃されます。すると、その犯行現場を見てしまった男を背後から殴り倒す別の男。帽子の男に指示を出していたのはコイツのようです。盗んだ金は2800万ウォン。その金をちょろまかそうとした若い帽子の男を叱る調子のよさそうなリーダー風情のオッサン。なぜか塩をまいて清めはじめ、清めていると捕まらないんだよとわけのわからない理論を言い放つこの男。ギチョルという若い男をあしらって帰らせ、意気揚々と一服するコイツこそ、刑事であるチョ・ピロ、そう、この男が主人公なのです

もう観客の8割ぐらいは幻滅してそうですが、この男はそういう奴。

テレビで7800億ウォンもの裏金問題で騒ぎとなっている韓国の大企業テソングループのニュースが映り、チョン・イヒャン会長が「これは陰謀です」と主張する姿を見ながら「大企業になるとスケールが違うな。俺に金をくれれば出してやるのに」と吐き捨てるチョ・ピロ(警察です)。警察署内でも普通に賄賂に手を染めながら、同僚の監察には「ケツの穴まで調べ上げて刑務所にぶちこんでやる」と脅されているチョ・ピロ(警察です)。ちなみにこの頻繁に「ケツ」を強調するセリフの連続…終盤の伏線だったんですかね。

このチョ・ピロ、別に裏社会を牛耳っている怖い奴でもなんでもなく、完全に舐められているほどの小物臭が漂っており、作中でも「チョチョチョ、チョ・ピロ」と同僚に名前をからかわれる体たらく。バカです。

そんなチョ・ピロはチンピラと一緒に手を出していた事業が上手くいかず、大金が必要になったため、警察の押収品倉庫に侵入するという大胆にもほどがある計画を立案。なぜか捕まらないと自信満々で話ながら、ここでもギチョルに侵入させるいつもの作戦。今回はチンピラたちと連携し、別の場所でチンピラチームが警報を切る手はずになっていました。ところがチンピラのひとりが「俺、色覚以上があるので緑と赤の区別ができません、両方切りました」とまさかのカミングアウト。やっぱりバカの友人はバカなのか。それを聞いて慌てて倉庫へ向かったチョ・ピロは、中にいるはずのギチョルに呼びかけますが、返事なし。静かすぎる空気に不審に思っていると、目の前のドアが膨張。間髪入れず、大爆発。倉庫は派手に炎上。その場で茫然としながら、卒倒するチョ・ピロなのでした。

この時点で、中で爆発に巻き込まれたギチョルには悪いですが、チョ・ピロに対して私も“ざまあみろ”くらいにしか思いません。まあ、無理ないですよね。

チョ・ピロ 怒りの逆襲

正義が最後に爆発する

チョ・ピロが目覚めるとそこは病院のベッド。

火災現場に偶然いたなんて状況は明らかに怪しく、疑われまくりのチョ・ピロは焦ります。頭を撃ちぬいた倉庫主の男が見つかり、保険金目当てで倉庫に火を放ったという予測で捜査が進みますが、どうもおかしい。ギチョルの焼死体を調べると、鈍器で殴られた痕があり、出火前に死んでいることが判明。しかもギチョルの部屋に行くと金庫にあるはずの大金がない。アパートの監視カメラに映っていたのは、ギチョルと付き合いのあった女子高生のミナ。こいつが怪しいと睨んだチョ・ピロはひとまず彼女を探し始めます。

ミナを探すチョ・ピロは彼女のバイト先の店で、「ソン・ジウォンの父です」と言う男に会います。去年の2014年、警官になるのが夢だったソン・ジウォンという若い女子高生が事故で亡くなり、その件で、警察が彼女の名前入りの制服を遺族に渡すということがあり、それに関わっていたチョ・ピロ。なんとミナはソン・ジウォンの同級生で親友だったようです。

一方、裏金捜査は難航し、釈放されたチョン会長は、配下のクォン室長が映った動画を鑑賞中。それは倉庫爆発の一件にテソングループが関与している証拠。この動画はどこに送られた?とチョン会長が聞くと、刑事だと答えるクォン室長。

そんな巨悪の暗躍も知らないチョ・ピロは女子高生探しに奮闘中。ついにミナの居場所を見つけ、一緒にいたソニという女子高生とともに、金のありかを聞きだすチョ・ピロ。ソニに暴力をふるい、脅すあたりがやっぱりクズ。しかし、車に乗せていたところ、まんまと二人の女子高生に逃げられてしまいます。その車内でミナはギチョルが送ってきた動画の話をしていましたが、チョ・ピロは興味なし。

チーフに呼ばれ、警察署に戻ると、ナム検事に聴取されることに。A棟で発生した火災がB棟まで焼いたことと、そこにテソンの裏金の証拠が保管されていたことを知り、さらにギチョルが動画を送っていたことを聞かされるチョ・ピロは、ここで全てのつながりを把握します(ただし顔に出ている)。動画を持ってこいと言われ、今度は動画探しに奔走。

ミナの家へ強引に侵入すると、謎の男に襲われ、バトル勃発。帰ってきたミナも殺されそうになり、なんとかその場を逃げ出す二人。検事に呼び出された場所へ向かうと、またしてもあの謎の男に襲われます。そしてここでナム検事とテソンがグルだと発覚。ミナをビルの屋上から突き落とされそうになり、動画を持っていると白状。しかし、ミナは自ら飛び降りて、自殺。茫然とするチョ・ピロ。

その後、チョン会長に対面し、手土産に7800万ウォンを渡され、この一件はこれで終わりだと言わんばかりに返されるチョ・ピロは意気消沈。

しかし、ミナの残した言葉を読み、そこに“いいね”を押したチョ・ピロの心にはこれまでにない感情が燃え上がったのでした。共に暮らした女性ヒスクにやたらとカッコつけながら愛していると告げ、消えるチョ・ピロが向かうのは、テソンが参加する奨学証書授与式の式典。

チョ・ピロの怒りの逆襲が始まるのです。

若者たちの幸せを願うおじさん

作中でも示されていたのでわかった人はすぐにわかったと思いますが、『チョ・ピロ 怒りの逆襲』は2014年に韓国で起きた「セウォル号沈没事故」がベースになった物語です。この事故について知らない人はぜひWikipediaでも調べてほしいのですが、2000年代に入った韓国の歴史上最悪の事件のひとつとして、韓国国民の記憶に深く刻まれた闇です。

この300人以上の死者を出した事故。端的に悲惨さを語るのだとしたら、「腐敗・堕落した大人たちの過失によって、多くの若い命が犠牲になった」といえるでしょう。企業・警察・政府…あらゆる点で大人たちの醜さが浮き彫りになり、韓国の若者は悲しみ、激怒しました。

『チョ・ピロ 怒りの逆襲』は安山市が舞台。そして「セウォル号沈没事故」では修学旅行中の安山市の高等学校の生徒たちが悲劇に遭いました。作中のソン・ジウォンはまさにその犠牲者であり、ミナとソニは生き残った同級生なんですね。

なのでミナが反抗的な態度をとるのはもちろん性格が悪いからとかではなく、その事故を経験し、社会、大人たちを信用できなくなったためです。将来の夢は?と聞かれ、「巨人になって、大統領府の屋根を踏みつぶしたい」と言うほど憎しみをつのらせるミナ。リストカット痕のある手首からも、ミナの行き場のなさが伝わってきます。

そして、作中のテソン事件。これはまたしても醜い大人たちが若者を食い物にしている状況です。奨学金をばらまき若者を支援している風に表面上は思わせ、裏では巨額の利益を隠している大企業。その隠蔽のためなら殺人もいとわない。

そんな醜い大人たちを目の当たりにして完全に絶望したミナは「それでも大人かよ」「どいつもこいつもクズだ」と呟き、死ぬ。これは「セウォル号沈没事故」の延長の話なのです。

そこで自分もクズな大人だったチョ・ピロが若者たちのために立ち上がります。といっても、コイツ、弱いです。せっかくケツの穴に隠して持ち込んだ銃弾をこめた組み立て銃もあっさり奪われるほどに。終盤の風呂場で水責めされる状態は「セウォル号沈没事故」の犠牲者の死に際を連想させます

しかし、チョ・ピロは水から這い上がり、復讐を遂げます。そして式典に参加してパニックになった生徒たちに「すまない」と謝りながら、縄跳びをしているソン・ジウォンの姿を見たような気がして、血の涙を流すチョ・ピロ。ラストに車内から彼が見た、ミナたち若者の楽しそうなひと時は天国の光景なのか。「楽しくやれよ。そこで楽しくやれよ」の言葉が切なく響く、映画の終わり。

こんな悲しい映画だとは思わずに鑑賞したので、すっかり心が打ちのめされましたが、こういう若者に優しい“おじさん”だらけの世界になればいいのですけどね。

ROTTEN TOMATOES
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IMDb
6.8 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 6/10 ★★★★★★

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↑『アジョシ』…同じくイ・ジョンボム監督作。こっちのおじさんはかっこいい。
作品ポスター・画像 (C)Netflix

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