ブルーに生まれついて
映画『ブルーに生まれついて』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Born to Be Blue 
製作国:アメリカ・カナダ・イギリス 
製作年:2015年 
日本公開日:2016年11月26日 
監督:ロバート・バドロー 

【個人的評価】
 星 7/10 ★★★★★★★

あらすじ

黒人ミュージシャンが主流だった50年代のモダンジャズ界で、甘いマスクとソフトな歌声で女性を魅了し、一世を風靡したチェット・ベイカーだったが、やがて麻薬に溺れ、どん底の日々を送ることとなる。しかし、1人の女性との出会いにより、ベイカーは再生の道へと踏み出していく。


ハロー、チェット・ベイカー

「ジャズ史上で最も素晴らしいと思うトランペット奏者は誰ですか」と聞かれれば、その答えは人によってかなりバラつくのは容易に想像がつきます。しかし、「ジャズ史上で最も悲痛な人生を遂げたと思うトランペット奏者は誰ですか」と聞かれれば、“チェット・ベイカー”の名は有力な選択肢でしょう。

本作『ブルーに生まれついて』についてはそのジャズ・トランペット奏者、チェット・ベイカーに焦点をあてた伝記映画です。彼の成功、転落、再生の人生史を丁寧な物語と美しい映像、そして魅力的な音楽で描く、なんとも上質な映画に仕上がっています。

監督の“ロバート・バドロー”は、2009年に短編『The deaths of Chet Baker』ですでにチェット・ベイカーを題材にしているので、もはやチェット・ベイカーのプロです(なんだそれ)。ジャズファンも大満足の一作になっていることは間違いありません。

一方で、ジャズに関しては全くの門外漢の私でも楽しめるくらいですから、「ジャズとかそういうオシャレなの私はちょっと…」と謙遜する必要なしです。本作の面白さは、チェット・ベイカーという人間の矛盾を抱えた悲劇性にこそあります。派手さはないにせよ、小難しい話ではないし、意外と地味では終わらないインパクトもある映画だと思います。最後は「あぁ、そうか…」となるはず。

『MILES AHEAD マイルス・デイヴィス 空白の5年間』など実在のジャズ・トランペット奏者を題材にした最近の映画と合わせて観るのもよいでしょう。ちなみにマイルス・デイヴィスは本作『ブルーに生まれついて』でも重要なキャラクターとして登場します。

また、ラ・ラ・ランドと絡めて見ると面白いかもしれませんね。人間関係や展開が似ているので、比較のしがいがあるでしょう。

本作を観た後、あなたはチェット・ベイカーの演奏にどんな感想を持つでしょうか。






↓ここからネタバレが含まれます↓





イーサン・ホークの名演

なにより主演の“イーサン・ホーク”が素晴らしいの一言に尽きます。

ベテラン“イーサン・ホーク”の演技が優れているのはわかりきったことですが、こと本作に関してはその魅力が濃厚に漂ってくる。“イーサン・ホーク”のファン大満足の一作です。

“イーサン・ホーク”といえば内面的な欠点を抱えつつも表層上は常にカッコよさを振りまく二面性のあるキャラが非常に似合う俳優。今回、まさにチェット・ベイカーという役にドンピシャでした。なんでも、以前にチェット・ベイカーを演じる企画が持ち上がったことがあるらしく、それ自体は消えてしまいましたが、全く関係ない本作でまた巡ってくるという、運命的な関係性を感じます。

そういうこともあって役作りには熱心。6か月のトランペット訓練のかいあってか、吹いている姿は実に様になっています。もちろん、実際のシーンでは吹くフリをしているだけですが、血を吐きながら吹こうとするバスルームのシーンは彼自身が吹いているそうです。披露する歌はちゃんと“イーサン・ホーク”自身が歌ったもので、これもまた良い。

そんな“イーサン・ホーク”演じる全てを失ったチェット・ベイカーを支えるパートナーのジェーンを演じる“カルメン・イジョゴ”もまた良かったです。献身的に支えつつも、自身のキャリアに積極的に臨み、最終的に自立した意思決定を見せる姿が、ブルーと対比するようで魅力的。“カルメン・イジョゴ”は『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』にも出演していたようですが、全然気に留めてなかったなぁ…。『エイリアン コヴェナント』にも出るようなので、注目ですね。

ブルーに生まれついて

移り変わる共依存

本作を観る前はチェット・ベイカーの演奏を聴くとただただ「良い曲なだなぁ」と思うだけでしたが、観てしまうと「でも、この良い曲の裏にはこんなことがあるんだよね…」と複雑な気持ちになります。

本作は「共依存」を描いた映画だったと思います。チェット・ベイカーはヘロインと共依存関係になることで天才的トランペット奏者として輝けるんですね。そして、その関係性が暴力という外部の圧力で一方的に破壊されたあと、次にチェット・ベイカーが共依存関係になるのはジェーンです。ジェーンとの共依存関係によって今度は愛に輝くようになります。

しかし、チェット・ベイカーが徐々にトランペット奏者として実力を取り戻していくと、このジェーンとの共依存関係は保てなくなり…。バードランドでの復活ステージ。プレッシャーに吐いて表に立つ覚悟が持てないチェット・ベイカーの前には、自分を転落させるきっかけとなったヘロインと、治療のためのメタドンの二つ。そして、舞台で歌って演奏し、称賛を受けた彼が使ったのはヘロインでした。

その姿を見て、全てを察してリングを置いて立ち去るジェーン。ジェーンとの共依存関係から、ヘロインとの共依存関係に戻った瞬間です。ジェーンはヘロインなしにチェット・ベイカーがトランペット奏者に返り咲けるわけないとわかっていたのかもしれません。

トランペット奏者としての成功と愛は両立できない。このへんは『ラ・ラ・ランド』と通じるものがあります。

チェット・ベイカーにとって「再生=破滅」です。映画冒頭の牢屋に横たわるチェット・ベイカーのトランペットからタランチュラが出てくるシーンでも、それが暗示されていました。

ちなみに彼のその後を書いておくと、復活した演奏は評価を呼び、順調に再び階段を駆け上がっていきました。そして、1988年、オランダのアムステルダムのホテルの窓から転落死。ヘロインを異常なまでに過剰摂取していたそうです。

最終的には文字通りもう復活はできない“転落”をして終わったチェット・ベイカーの人生。やるせない天才…まさにブルーに生まれついた人だったんですね…。

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