ダウンサイズ
映画『ダウンサイズ』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Downsizing 
製作国:アメリカ  
製作年:2017年 
日本公開日:2018年3月2日 
監督:アレクサンダー・ペイン 

【個人的評価】
 星 7/10 ★★★★★★★

あらすじ

ノルウェーの科学者によって人間の身体を縮小する方法が発見され、13センチにまで小さくなること(ダウンサイズ)が可能になる。「人類縮小200年計画」が立ち上がり、各国で小さくなることを選ぶ人々が徐々に増えていく。アメリカのネブラスカ州オマハで平凡な生活を送る、平凡な男ポール・サフラネックは、縮小された世界に希望を抱き、ダウンサイズを決意するが…。

ネタバレなし感想

小さくなったらどうする?

“マッド・デイモン”はなぜネタにされそうな役ばかり回ってくるのでしょうか。火星で独りぼっちになったかと思えば、次は万里の長城で化物と戦っているし…。
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そして、今度は“小さくなってしまいました”

そんな13cmの“マッド・デイモン”が拝めるのが『ダウンサイズ』です。

本作は、人間の体を13cm程度まで小さくするという“ドラえもん”的な最新技術が発明された近未来が舞台。小さくなれば今の乏しい資産も倍化する!という手軽に億万長者になれる方法の登場に、まるで今の“ビットコイン”みたいに一部の人々が殺到。“小さい人”のコミュニティが作られ、大盛況になっていくなか、“マッド・デイモン”演じる主人公の夫婦もまた興味を惹かれて…という物語です。一応、人口が増えすぎた地球での社会問題を解決するという大義名分がこの技術の開発にはあったのですが、小さくなりたい人は完全に贅沢な暮らし目当てというのが皮肉です。

そう、この映画は完全に社会風刺を狙った「ディストピアSF」になっています。

面白いのは本作の監督があの“アレクサンダー・ペイン”だということ。これまでアカデミー賞に何度もノミネートされたり、受賞したりする常連であり、最近も『ファミリー・ツリー』『ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅』が高く評価されている人です。もっぱらアメリカ社会の家族や夫婦をブラックユーモアをたっぷり混ぜ込んで風刺するのが得意でした。

しかし、今作は思いっきりSFであり、フィルモグラフィーとしてかなりの異色作。監督も慣れないVFXに四苦八苦したとのこと。それでも実は以前から企画はあって温めていたらしく、監督の念願叶って実現にこぎつけたようです。

ところが、本作、アメリカでの公開の結果、賛否両論が…。その理由は、まず予告動画で想像されるような小さい世界で大冒険!みたいなエンタメではないということでしょう。『アントマン』とは違います。そして、風刺がいつも以上にストレートかつエッジが効いている点も大きい気がします。結構、今のアメリカ社会にグサグサ刺さるものになってますから。

つまり、ディストピアSFとしては非常にユニークで、マニア大喜びな一作といっていいと思います。例えば、ナショナル・ボード・オブ・レビュー(米国映画批評会議)の2017年ベスト10に選ばれていますし、『メッセージ』や『ブレードランナー 2049』でおなじみのドゥニ・ヴィルヌーヴ監督は2017年の面白かった映画に本作を挙げているくらいです。

「ダウンサイズ」という技術が何を風刺しているのか、考えながら鑑賞すると興味深く楽しめるでしょう。






↓ここからネタバレが含まれます↓





ネタバレあり感想

ダウンサイズが意味するもの

冒頭、ヨルゲン・アスビョルンセン博士が生物を小さくさせる技術を開発し、その5年後に研究者たちの前で自信満々に発表します。これで人間文明の過度な発展で脅かされている地球環境は救われ、持続可能な社会が生まれます…と。

このビジョンは確かに理論上は正しいです。ところが、そうは問屋が卸さないのが世の中というもの。

それから10年後、ダウンサイズ技術は開発者の意図とは明らかに違う目的を持った人たちの手で世界に広がっていきました。消費が激減して経済が低迷したり、敵国の人種を縮小して差別に使ったり…。しかし、本作の物語で焦点をあてているのはそれらではありません。

この映画の主人公は「裕福になりたい人たち」です。では、アメリカ社会で一番不満を抱え、変革を望んでいる人たちは誰でしょうか。それは…あのドナルド・トランプを大統領にした人々、つまり“中流白人保守層”ですね。

“マッド・デイモン”演じる主人公のポール・サフラネックとその妻オードリーの夫婦なんて、典型的な社会の隅でくすぶっている“中流白人保守層”です。この年になってやっと学生ローンの返却を終わったばかりで、まだ生まれた家にいて、何も人生の栄光を掴めていない気がする…そんな漠然とした不満。

そんな状態で突然あらわれたダウンサイズはまさに新しい“アメリカン・ドリーム”。ダウンサイズを紹介するセミナーみたいなところで、いかにも“中流白人保守層”が憧れそうな豪華な家や生活を見せるあたりとかも。

ここまででもうわかったでしょう。本作の風刺のターゲットは“中流白人保守層”。要するにいつもの“アレクサンダー・ペイン”節が炸裂しているのです。

ダウンサイズ

8つのファックで語るアメリカ社会

超格安での豪華生活に夢中になったポールと妻は、ダウンサイズ化を決行。ここで全身の毛という毛を抜き、歯まで全部抜くという謎のプロセスが入りますが、これは赤ん坊の状態に戻っていることを疑似的に示している気がします。ダウンサイズ化する部屋で寝かされている人たちの姿はまるで死体安置所の遺体そのもの。まさに生まれ変わって転生しているみたい。

そして、電子レンジみたいな“チーン”の音とともに現れた、あっさり小さくなれたポール。しかし、ここでいきなり“アレクサンダー・ペイン”のブラックユーモアが直撃。夫婦の関係もあっさり崩壊です。

小さい世界で暮らすことになったポール。夢描いていた理想的な生活は早くも崩れ、何をすべきか迷います。そこで出会うのは豪勢なパーティ三昧生活を送るドゥシャンとその掃除屋で働くノク・ラン・トランという対極的な二人。ここでポールは、アメリカン・ドリームを体現するかに見えたこの小さい世界でも格差社会が存在することを知ります

ドゥシャンを演じた“クリストフ・ヴァルツ”は相変わらずの名演ですが、今作ではベトナム人のノク・ラン・トランを演じた“ホン・チャウ”がいいキャラしてました。いくつかの映画祭で助演女優賞にノミネートされたのですが、それもわかります。彼女の全く遠慮ない口調でアメリカ社会をズバズバ切り込んでいくのがたまらない。「8つのファック」の話とか名言ですよ。
What kind of fuck you give me? What kind? American people, eight kind of fuck. Love fuck, hate fuck, sex-only fuck, break-up fuck, make-up fuck, drunk fuck, buddy fuck, pity fuck.

サバイバリストになりたいですか?

人生の栄光を掴むために小さくなったポールが、それどころかさらにどん底の世界の現実を身をもって知ることになる…これでオチにしてもよさそうな物語。しかし、映画はまだ終わりません。

ノルウェーに行くことになったポールと小さな仲間たち。そこで出会ったのはダウンサイズの生みの親であるヨルゲン・アスビョルンセン博士。

彼は「小さくなって苦しむ人がいるとは思わなかった」と懺悔の言葉を口にし、「ダウンサイズは遅すぎた」「人間は失敗作」とすっかり絶望ムード。地球の崩壊は防げないことを悟り、地下にノアの箱舟のようなコミュニティ空間を創造し、何人かで暮らす計画を打ち明けます。

ここでポールはこれこそ人生の栄光を掴む本当のチャンスだと目を輝かせます。

本作の脚本の上手い部分は、ダウンサイズの後にさらにもうひとつこのステップを盛り込んでいることです。この博士の計画でもって、本作が風刺していること。それは「サバイバリスト(プレッパーズ)」でしょう。

サバイバリストというのは人間文明の終焉に備えて色々準備をすることに情熱を注ぐ人たちのことで、アメリカに一定数存在します。準備といっても、食料の備蓄とかの私たち日本人がやるような一般家庭の災害対策レベルではないです。大量の銃を保持したり、核シェルターを用意したり、要するに“ガチ”な人たちです。「PrepperCon」というイベントもあるくらいなのですが、それの参加者の様子とかを調べると、子どものお遊び感覚で銃撃戦ごっこしてたり、ギリースーツのファッションショーしていたり、「本当にコイツらは世界の終わりを生き抜く気があるのか?」と疑いたくなる感じなんですね。

サバイバリストはもともとアポカリプス(黙示)に備えるという発想が根底にあったため、宗教的な要素が強く、ゆえに“中流白人保守層”がなりやすいものでした。ところが、興味深いのは最近になってリベラルな人もサバイバリストになり始めているらしいのです。なんでも世界情勢やトランプ大統領とかを見て、この世の終わり感を実感しているとか…。

この映画もそれを踏まえているのかは定かではないですが、ダウンサイズ化をする人は白人だけではありませんでした。待合室の場面では、わざわざ黒人、アジア人、ユダヤ人などを均等に並べて、妙に多様性感を演出していました。

そして、あの博士。当初は地球を救おうとする立派な科学者だったのに、今ではサバイバリストにダウンサイズしているじゃないですか。

ポールは彼らサバイバリストに同調し、仲間を置いて、地下へのトンネルを歩いていきます。そこでたまたま近くにいた人に聞くわけです。「なんか、上がってない?」。すると、近くにいた人は答えます。「“洪水を防ぐ”ためだよ。じきに下るよ」。知能がダウンサイズしていない観客ならわかるはず。そんなので洪水を防げる気でいるのかと。ただでさえ小さいのに…。このノアの箱舟、欠陥だらけだぞ…。結局、人間は自分の“小ささ”を理解していないのか。

やっぱり仲間の元に戻ってきたポール。その判断は人生の栄光を掴むものではないけど、正しかったと思います。

ラスト、小さな世界の底辺コミュニティで、老人にチキンを渡すポール。そして、老人の姿をじっと見つめるのは、人間が逃げられないものがあることを噛みしめているからな気がしました。それは、“老い”であり、“死”。あとはその結末まで何を楽しみに生きるかですよね。

ということで、なんだ、『ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅』と同じプロットじゃないですか。“アレクサンダー・ペイン”監督は変わらないですね。

↑『ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅』もテーマは同じ。

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