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『アースクエイクバード』感想(ネタバレ)…Netflix;そばを食べてます

アースクエイクバード

そばを食べてます…Netflix映画『アースクエイクバード』の感想&考察です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Earthquake Bird
製作国:アメリカ(2019年)
日本:2019年にNetflixで配信
監督:ウォッシュ・ウエストモアランド

アースクエイクバード

あーすくえいくばーど
アースクエイクバード

『アースクエイクバード』あらすじ

ある時、日本で暮らしていた外国人女性リリーが行方不明になる。友人であるルーシーに容疑がかけられるが、2人の女性の間にはミステリアスな日本人カメラマン、禎司の存在があった。警察はルーシーを取り調べるが、彼女はなかなか確かなことを話そうとしない。東京の闇夜の中で、ルーシーにとりつく死の気配が充満していく…。

『アースクエイクバード』感想(ネタバレなし)

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「映画を見る会」の憂鬱の中で…

毎月のように世界のどこかで国際映画祭が開催されていますが、2019年10月28日から11月5日、第32回東京国際映画祭が開催されました。映画好きの方は赴いていろいろな作品を実際に鑑賞した人もいると思います。

しかし、この日本が満を持して贈る映画祭は、大手映画会社とクールジャパン政策を掲げる国の支援もあって成り立っているものですが、その在り方に関しては国内外から厳しい意見が相次いでいるという側面もあります。海外メディア、日本の評論家や監督、審査委員長からさえも寄せられるその声を一言でまとめると「独自性がない、寄せ集めだ」という批判です。これに関しては私も同感ですし、来場した一般客も気づいていると思います。ただの大規模先行上映会でしかないな、と。

つい最近、内閣総理大臣が主催する「桜を見る会」が私物化だと指摘されて大きな問題になりましたが、この東京国際映画祭も似たり寄ったりな気がします。「映画を見る会」です。こちらはちゃんと映画を観ているぶん、まだマシなのですけど…。

そんな2019年の東京国際映画祭の特別招待作品として上映されたのが『アースクエイクバード』です。本作はNetflixの映画ですが、それは今やたいしてどうでもいいことであって…。問題はなぜ『アースクエイクバード』を上映したのかということ。

それに関する言及らしいことはほぼなく、もっぱら日本の映画情報サイトが話題にするのは出演俳優のことだけ。『アースクエイクバード』は「三代目 J SOUL BROTHERS from EXILE TRIBE」の“小林直己”が主要登場人物を演じており、ハリウッドへの飛躍!として注目しやすいポイントがある作品でしたから、そこに関心が集約するのも無理はないです。でも本当にそれしか語られないので、「あれ、じゃあ俳優と日本が舞台だという理由だけで映画祭に呼んだのだろうか…」と邪推するのも無理はないですよね。

“小林直己”と共演の“アリシア・ヴィキャンデル”が東京に招かれてレッドカーペットを歩きましたが、海外からは「西洋人枠」として揶揄されてもいたのも可哀想な話です。確かに客寄せパンダにしか使われていなかったのですけど…。

せっかく上映するならもっと『アースクエイクバード』の中身について語ってよ!ということで、この感想ブログではお決まりのような表面的紹介でなく、できる限り作品性に踏み込んでいつものように感想を書いていきたいと思います。

本作は日本が舞台であると説明しましたが、原作小説があってその著者「スザンナ・ジョーンズ」自身が日本在住経験アリの人なんですね。イギリスの作家なのですが、「能」の研究がきっかけで日本に興味を持ち、日本にも何年か住み、そのときはラジオのスクリプト・エディターとプレゼンターをして働いていたようです。その日本在住に初めて小説を書き、2001年に発表されたデビュー作「The Earthquake Bird」がイギリスで賞に輝きました。でも日本にゆかりのあるわりには日本での知名度は低め。映画化されて初めて日本の晴れ舞台で名が知られるというのも、数奇な境遇ですね。

この小説の映画化を手がけたのが巨匠“リドリー・スコット”の映画会社「Scott Free Productions」でした。“リドリー・スコット”と日本の組み合わせと言えば、1989年の『ブラック・レイン』を思いだします。大阪を舞台に日本人俳優も多数出演した『ブラック・レイン』…この製作経験が『アースクエイクバード』に活かされたのかは知りませんが、流れとしてはわからないでもないことです。

それとさらに本作の監督“ウォッシュ・ウェストモアランド”も実は日本と関係のある人なのでした。最近は『コレット』という作品を監督したばかりの“ウォッシュ・ウェストモアランド”監督も、日本で暮らした経験があるそうです。意外に日本を身をもって知る海外クリエイターって、いっぱいいるものなのですね。

そんな関係者が日本寄りな『アースクエイクバード』ですから、作中の日本描写の出来も気になってくるものです。お話としてはミステリーなので、詳しくはネタバレになるので語れないのが困りものですが、ひとまず日本人ならではの視点でも楽しめる作品になるのではないでしょうか。

もちろん俳優目当てで観てもいいです。日本のマスコミは「美」ばかりをもてはやす“アリシア・ヴィキャンデル”ですが、昨今は『トゥームレイダー ファースト・ミッション』でパワフルな活躍も見せ、パブリックイメージなどクソくらえなフリースタイルっぷりを披露しています。『トゥームレイダー ファースト・ミッション』はヘンテコ日本な島が舞台でしたけど、『アースクエイクバード』では普通の日本にやってきて、忙しい忙しい。

他にも『マッドマックス 怒りのデス・ロード』や『アンダー・ザ・シルバーレイク』でおなじみの“ライリー・キーオ”も出演しています。

日本語と英語が入り乱れる物語なので、吹き替えよりも字幕をオススメします。

Netflixオリジナル作品として2019年11月15日より配信中です。

オススメ度のチェック

ひとり ◯(俳優ファンも選択肢に)
友人 ◯(映画好き同士で時間があれば)
恋人 ◯(地味めなストーリーだけど)
キッズ △(大人のドラマです)
↓ここからネタバレが含まれます↓

『アースクエイクバード』感想(ネタバレあり)

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「君を撮りたい」と言われたら

1989年の東京。電車に乗っているひとりの白人女性。駅に降りると、駅構内の柱には行方不明者のポスターが貼ってあります。そこに書かれている白人女性と、この電車を降りた白人女性ルイザ・フライ(ルーシー)は実は深い関係があるのでした。

ルーシーはいつものように出社。職場の笹川事務所では翻訳の仕事をしているらしく、今日も映画の字幕つけの作業に取り掛かります(ちなみに作中の映画は『ブラック・レイン』)。そんな中、同僚から「ニュース、見た?」と言われ、新聞を渡されるとそこには「東京湾に女性遺体」と一面大きな文字が。

すぐに警察が職場にやってきてルーシーは任意同行で取り調べを受けることになります。翻訳付きで刑事から事情聴取を受けるルーシー。「リリーがいなくなった夜は何をしていましたか」「あなたは最後に会った人ですよね」「傘を持って出ていったらしいですね」と明らかにルーシーがリリー失踪の件で、何かを知っていると疑う警察。それに対して「追いつけなかった」と流暢な日本語で説明するルーシー。「独身? ボーイフレンドは?」の質問に「いない」と答え…。

ここで場面がスッと変わります。観客に一瞬わかりませんが、回想シーンに移っています。

ルーシーが街を歩いていると、写真を撮ってくる長身の日本人男性に遭遇。あまりに無遠慮に撮影してくるものだから、思わず「許可をとるべきじゃない?」と若干のオコなルーシーですが、「許可はとらない、その瞬間を逃がすから」といけしゃあしゃあと持論を展開する男。「人は撮らない。水、建物、反射した光を撮る」と語るものの、「でも私を撮った」と食いつくルーシーに、男は「My name is Teiji」と紹介するのでした。

何か気になることがあったのか、そのまま二人で食事をすることにしたルーシーと禎司。そばをすすりながら、探り合いつつ本心を話していくと、禎司は「君を撮りたい」と告げてきます。

禎司に誘われるままに彼の作業場兼自宅な部屋へ。独り暮らしという割にはずいぶんだだっぴろく異質感のある雰囲気。そこでパシャパシャとルーシーを撮り始めるますが、急にグラグラと地震で揺れ始め、ロッカーに隠れる二人。ライターの火ごしに見つめ合う二人の顔。

場所は変わって、お墓の前を通り過ぎ、ルーシーが向かったのはチェロ演奏の場として通う古そうな日本民家。仲良くしてもらっている人から、誕生日プレゼントに盆栽をもらいます。

さらに場所は変わって、カラオケのあるクラブ。さっきまで歌ってい男ボブから、リリーという白人女性を紹介されます。まだ日本に来て3週間らしく、DCが嫌でここに来たと語るリリー。日本語がわからないようでいろいろ助けてほしいと相談してきます。かなり気さくな人柄で、「ジャパニーズ・ルーシーね」とすっかり打ち解けてくるリリー。そんな彼女に対して、「あんな子、世話できない」とボブに愚痴るルーシーでしたが、とくに拒否するだけの理由もありませんでした。

一方で禎司にどんどんと惹かれていることを自覚するルーシーは、ついにキスを交わし、体を重ねます。そんな中、お世話になっている日本民家の山本さんがルーシーの目の前で階段から落ちたことを体験したばかりで、「死が私について回っている」と意味深に悩みを吐露するルーシー。そんな彼女に禎司は「見せたいものがある」と言って渡したのが、自分を育ててくれたというおばの棺の写真。おばの死後に鹿児島から東京に来たと語るのでした。

リリーのお世話係を続けるルーシーは、住まい探しを手伝ったり、日本語を教えたりと、なんだかんだで仲を深めていきますが、リリーが禎司に興味を持ち始めます。

そして、ルーシー、リリー、禎司の3人の運命が交差するとき、何かが起こるのでした。

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「コーヒーをひとつください」

私は日本人なのでやっぱり海外のレビュアーには評価できないであろう、『アースクエイクバード』の日本描写に関して堂々と論じさせていただくと、本作の日本描写はとても自然だったと思います。

さすが日本経験のある原作者&監督&制作企業の揃い踏みなだけあり、よくありがちな外国人の妄想の中の「ファンタジー・ジャパン」のような酷さは皆無です。

逆に自然すぎて“むしろ違和感がないことが違和感”…というくらいかもしれません。東京と佐渡島で実際に撮影しているので背景もそのまんまですし、中国人や韓国人に日本人をやらせるのではない、ちゃんと本物の日本人キャスティングですし。あらためて思いましたけど、真面目にやろうと思えば普通に日本描写をこのクオリティにできるなら、なんでこれまでの凡百の日本舞台の海外映画はあんな残念だったのか、と。やや疑問も抱かないわけではないですが。“ウォッシュ・ウェストモアランド”監督のインタビューによればスタッフの95%が日本人だったようで、やはり製作チームの問題なのかな。

まあ、一部で変じゃないかと思うシーンもなくはなかったですけど。地震時にあんなロッカーに隠れるのか?とかね…。

主演の“アリシア・ヴィキャンデル”ですが、なによりも想像以上に多めだった日本語セリフ。正直、外国の方が日本語を話すシーンは他作品でもあったりしますが、中には字幕がないと聞き取れないよ!と思うものもあって…(ローニンさん…)。それに対して今回の“アリシア・ヴィキャンデル”は偉そうな物言いになりますけど、合格点というか、よくぞゼロベースでこれほどの日本語をペラペラと話せるようになったな、と。日本には4カ月間滞在したらしく、日本語を8週間かけて勉強したそうで、それであの流暢さなら素晴らしい語学力じゃないでしょうか。私が8週間でスウェーデン語をスウェーデン人に聞き取れるように話せと言われても絶対に無理ですね…(しかもそれプラス演技するわけですから)。

本人いわく日本語セリフのシーンはあれで正しいのか自分で判断できずに不安だったそうですが、良い日本語でした(本人にこの称賛は届かないと思うけど)。これからもし日本語を話す白人女性の役が必要になったら、“アリシア・ヴィキャンデル”を呼びましょう。

それ以前にあの“アリシア・ヴィキャンデル”が普通に東京の街並みに馴染んでいるのがすごく貴重な光景でした。若干人の多い電車に立って乗っていたり、そばをすすっていたり、振り袖を着たり、なかなか見られない姿のレアショットばかり。今作ではいつもヒロイン性全開な役が多い“アリシア・ヴィキャンデル”が少し凡人感のある一歩下がったキャラだったので、余計に新鮮ですよね。

そんな“アリシア・ヴィキャンデル”の前に現れる怪しさMAXのカメラマン、禎司を演じた“小林直己”。今回の演じた禎司は、全く人間的な背景の見えてこない不気味な存在でしたが、“小林直己”が見事に体現していたのではないでしょうか。日本人から見ても、コイツ、絶対に何かある!という佇まいですもんね。というか、あんなそば屋いないです、ホストです。新手の客引きだと普通は思う…。

リリーとダンスするシーンの妙なスイッチの入り方とか、凄く良かったので、本当はもっと暴れまくるシーンが見たかったのですけど、頭にガラス破片が刺さっちゃいましたからね…。あれでまだ動き回っていたら、面白かったのだけどな…。

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異国の地で死を考える

『アースクエイクバード』は単純な事件解決型のミステリーだと思っていると拍子抜けします。どちらかと言えばスピリチュアルな作品です。

本作の根底には「死生観」が重要な要素になっています。主人公のルーシーが子ども時代から死を身近に経験しており、加えてそれが自分の因果によって生じているのではないかという漠然とした不安を抱えたまま大人になった人間です。

そんな死を自分で背負ってしまった彼女が、日本という異国の地に足を踏み入れて、そこで生活をしているうちに、その国の土着の死生観に触れて、自分の死のトラウマが再び呼び起こされていきます。

そのトリガーになるのが禎司でした。彼はカメラマンであり、カメラに関しては作中でも語られるように西洋からその撮影機器が日本に伝わった際には「魂が抜かれる」と日本人には思われていました。ルーシーは禎司に思うがままに撮られ続けることで、自分の何かが抜かれていきます。

同時に、再び身の回りで不審な死が相次ぎ、三角関係も勃発したことで自分でも理解できない殺意すらも抱き、己を見失っていくルーシー。

しかし、ラスト、山本階段転落事件の意外な真相と、それに後悔を抱えている日本人の本心を聞き、自分以外でもこの異国の地に同様の悩みを持つ人がいることを知ります。もしかしたらそれはルーシーの中にある、日本という国を見る目線に自然と含まれていた特異性が消えた瞬間かもしれません。どこでも同じなんだ、と。彼女はこの時に初めて背負っていた死を降ろせたのでしょうか。

また、『アースクエイクバード』は、外国人が日本に来て感じるであろう異邦人としての“あるある”が詰まった作品でもあります。取り調べ中の「日本人の女とは違う」という刑事の嫌味な言葉への反論や、日本語を全然話せなければ日本では生きられないリリーの生活苦の境遇など、日本風刺も少し混ざっている感じもしました。

スピリチュアルな死の文化を投影するあたりは、“ウォッシュ・ウェストモアランド”監督もインタビューで名前を出している“黒沢清”っぽさを匂わせるところでしたね。

全体的にかなり薄く表面をなぞる展開だったのはやや物足りなさを生じさせるところでした。とくにタイトルにもなっている「アースクエイクバード」の扱いは薄いです。事実、地震に呼応して鳴く鳥という要素はそんなに膨らませづらい部分ではありますが。たぶん外国人にとっては「地震=日本的」という変換になるので、それだけでも不吉さなどの予兆になるという意図なのでしょう。ただ、我々日本人にとってはあまりに地震慣れしすぎていますから、今さらちょっとの地震程度で不穏さは感じないという…。

不満はあれど、日本描写への上出来さなど学べることの多い海外作品だったのではないでしょうか。

『アースクエイクバード』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 61% Audience –%
IMDb
6.4 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 5/10 ★★★★★
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関連作品紹介

“アリシア・ヴィキャンデル”の出演映画のうち、感想記事の一覧です。

・『トゥームレイダー ファースト・ミッション』
…日本の古代の伝説をめぐって、走る、飛ぶ、戦う!

・『光をくれた人』
…マイケル・ファスベンダーとの幸せオーラで目が眩しい。

・『リリーのすべて』
…多数の賞を受賞した名演が見れます。

・『エクス・マキナ』
…アンドロイドを熱演し、一躍有名になったターニングポイント。

作品ポスター・画像 (C)Scott Free Productions, Netflix

以上、『アースクエイクバード』の感想でした。

Earthquake Bird (2019) [Japanese Review] 『アースクエイクバード』考察・評価レビュー