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『イーグル・ジャンプ』感想(ネタバレ)…「キングスマン」スタッフが贈るNEW師弟コンビ

イーグル・ジャンプ

「キングスマン」スタッフが贈るNEW師弟コンビ…映画『イーグル・ジャンプ』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Eddie the Eagle
製作国:イギリス・アメリカ・ドイツ(2016年)
日本では劇場未公開:2017年にDVDスルー
監督:デクスター・フレッチャー
イーグル・ジャンプ

いーぐるじゃんぷ
イーグル・ジャンプ

『イーグル・ジャンプ』物語 簡単紹介

マイケル・エディ・エドワーズは近眼で運動音痴だが、幼い頃からオリンピック選手になることに憧れていた。しかし、運動能力があるわけでもなく、やる気だけが溢れているのみだった。ある日、偶然目にしたスキージャンプに心惹かれ、国の代表選手になろうと決心する。オリンピックの舞台で飛んでみたいという夢ができた。素人が挑むにはあまりに危険なスポーツであり、周囲に嘲笑されるが彼は諦めない。
この記事は「シネマンドレイク」執筆による『イーグル・ジャンプ』の感想です。

『イーグル・ジャンプ』感想(ネタバレなし)

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ウルヴァリン師匠!ジャンプを教えてください

来年、2018年は韓国の平昌で冬季オリンピックが開催されます。そして、今年の2月後半からは冬季アジア大会が札幌で催され、オリンピックを目指すアスリートたちが集結します。

こんな時期にこれ以上ないぴったりな映画が、本作イーグル・ジャンプ。実在のスキー選手「マイケル・エドワーズ」の半生を描いた伝記ドラマです。

マイケル・エドワーズは有名なスキー選手となるのですが、その有名さの理由は下手だったから。そんな彼が「オリンピックに出たい」という想いだけをエネルギーに猛進する物語です。いわゆる「ダメな奴が頑張って何かを成し遂げる系」のジャンルですね。『マダム・フローレンス!夢見るふたり』にも通じるものがありますが、下手でも頑張る人は応援したくなるものです。オリンピックアスリートの育成が課題視される昨今、本作のような純粋なスポーツへの想いを奮起させるような作品は貴重だと思います。

それなのに…本作が劇場公開されずにDVDスルーというのはなんだか悲しい…。ちなみに、札幌で開催される冬季アジア大会はチケットの販売が低迷していて、イマイチ盛り上がっていないらしいです。本作とコラボして劇場公開でムーブメントをつくるとか、すればいいのに…。

本作を製作するのはなんと『キック・アス』(2010年)や『キングスマン』(2015年)など痛快アクションで根強いファンを獲得している“マシュー・ボーン”。スタッフも他のマシュー・ボーン作品と重なるため、すごくマシュー・ボーン作品っぽい軽快さがあり、シンプルで観やすい伝記映画になっています。音楽での盛り上げあり、コメディあり、下ネタあり…いつものマシュー・ボーン節に期待してください。

しかも、主人公マイケル・エドワーズを演じるのは、『キングスマン』で主役を射止めた新人“タロン・エガートン”。『キングスマン』とはまた違うキャラですが、同じような愛嬌が漂っているのは彼の天性なのかも。今作もメガネキャラだし。そして、『キングスマン』ではコリン・ファースが師でしたが、今作では師匠キャラは「ウルヴァリン」の“ヒュー・ジャックマン”が演じます。まさかの「X-MEN」と「キングスマン」のマシュー・ボーン作品の異世界クロスオーバーなのか…(違う)。とにかく、新しい師弟コンビにも注目です。

とまあ、これだけの売りがあるにも関わらず、劇場未公開はないだろうに。ちょっとしつこいですけど、いや、これは何度でも言わせてもらいます。ほら、こうやって感想でごねていれば、恵まれない劇場未公開作品の数を減らせるかもしれないし…(淡い希望)。

少し私が『イーグル・ジャンプ』の観客集客力を計算してみましょうか。“マシュー・ボーン”のネームバリュー、これでまず私が映画館に行くのは確実。1人ですね。次に“タロン・エガートン”という今いきなり人気を集めているフレッシュな若手俳優のファンが惹かれて寄ってきます。まあ、私ですね。続いてオールドな映画ファンからも支持がアツい“ヒュー・ジャックマン”の出演と聞けば、また違った客層も見込める。はい、私も行きます。

あれ、全部、私だな…。

うん、はい、ともかく『イーグル・ジャンプ』は観客を呼べますって。今からでも遅くないので、どこかで劇場公開しないかなぁ。

↓ここからネタバレが含まれます↓

『イーグル・ジャンプ』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(前半):僕が選手になる

1973年。マイケル・エドワーズ(エディ)という少年はオリンピック選手になってチャンピオンになるのが夢でした。今は「水中での息止め」でチャンピオンになれると意気込んでいます。近眼で足を引きずり運動も得意ではないエディでしたが、それで諦める気は全くありません。

母はそんなエディを素直に応援します。「ここにメダルを入れなさい」と缶ケースを渡します。

一方の父はそんな息子の無謀なオリンピックの熱は早く冷めてほしいと思っていました。

でもエディは諦めません。その思いは消えることなく、エディは成長していきます。あらゆることに挑戦しました。そのたびに眼鏡は壊れます。失敗の証である壊れた眼鏡だけが缶ケースに溜まっていきます。そんなエディに父は怒ります。「お前には無理だ!」

エディは父に左官の仕事を教わることに。その現場がスキー場だったため、そこでエディは冬のオリンピックに出ることに情熱を燃やし始めます。

こうしてエディは大人になり…。

1987年。冬季オリンピックのイギリス代表選考が始まりました。選考委員長のダスティン・ターゲットは「スキー滑降」チームの代表候補14人の若者を紹介します。目指すは1988年カルガリー五輪出場です。

しかし、ひとりだけ場を乱す眼鏡の男が…。エディです。

「きみは残念だが代表選考会に呼ぶつもりはない」

そうターゲットは穏便に言い聞かせます。「タイムでは負けてない」とエディは訴えますが「きみにはオリンピック選手の素質がない」と言われてしまいます。

エディは父からも「役に立つ資格をとれ」と言われ、意気消沈。諦めるしかないのか…。

しかし、部屋でふと思いつきます。「スキージャンプ」という競技もあるぞ…。

危険なスポーツです。大怪我する人もいます。でもカッコいいじゃないか…。

さっそく英国オリンピック協会本部に行きますが、そもそもスキージャンプのチームはないと告げられます。選手自体が1929年以来いないのです。

だったら自分がなればいい。ドイツへ行こう。山が待っている。屋根裏に隠したスキー板をまたも取り出して、両親にスキージャンプでオリンピックに出ると宣言します。さすがに父は愛想をつかしますが、エディはもう決めました。

こうしてエディはひとりでドイツのガルミッシュの国際スキージャンプ強化合宿所へ。この時点でスキージャンプの経験はゼロです。あるのは情熱だけ。でもコーチは必要かな…。

大丈夫か、エディ…。

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マシュー・ボーンはやっぱりコンビが魅力

『イーグル・ジャンプ』は伝記映画としては極めて普通の作品です。トリッキーな展開もないですし、映画の結末もあっさり着地します。「話が単純すぎる」とか「ちょっと物足りない」という意見もわかります。

いや、でもこのシンプル・イズ・ベストな気持ちよさが最高の解放感になっているんじゃないでしょうか。

また、本作のストーリーテリングのストレートさはマイケル・エドワーズの人柄が表れているのではないしょうか。15m級飛んだら40m級、40m級飛んだら70m級、70m級飛んだら90m級…そんな単純でいいのかという感じですが、この馬鹿の一つ覚えのような「俺には飛ぶしかない!」精神こそマイケル・エドワーズの持ち味です。周囲にどんな呆れられようとも気にしない愚直さをそのまま脚本化したかたちといえるでしょう。

意図的にベタにしているであろう数々の演出も私的にはツボです。ヴァン・ヘイレンの「Jump」を起用するあたりのあからさますぎる音楽ネタとか。音楽の使い方はやっぱりマシュー・ボーン作品、上手いですね。ラストの90m級を飛んだときの、エディのジャンプを見守る各人が口をあんぐり開けているシーンのスローモーションなんかは、ベタすぎる!と思いつつもでもGood!と思ったり。エディに批判的な人たちも「うぉぉぉ」となっているのが良いです。

劇中でも描かれるとおり、エディのような実力のない存在がオリンピックに出ることに批判的な人がいるのは当然。現にこの後、「エディ・ジ・イーグル ルール」という規則ができ、オリンピックに出場するには国際大会上位でなければいけないことになりました。

とはいえ本作で全面に描かれるのは「スポーツが好き」ということ。順位も記録も名声も金もいらない、ただ最高の瞬間を味わいたい。この感情はきっと全アスリートの心にあるもののはず。こういう初心の純粋な衝動は、アスリートであろうとなくとも多くの人に共感できる…だからこその「うぉぉぉ」です。私はスポーツに人生を投じた経験はないですけど、この気持ちはわかるし、ゆえに感動できます。

オリンピックなどどうしても国旗を背負うことになるスポーツ大会を題材にした映画は、なにかとナショナリズム的な国家を代表する側面が強調されがちですが、本作にはそういう部分は1ミリもなく、ただただスポーツに全身全霊を捧げるアスリートを応援する。私はこういうスポーツ映画もやっぱり大事なのではとも思います。

マシュー・ボーン作品には欠かせないものである師弟コンビも今回も良かった。セックス方式ジャンプ講座に始まり、師弟で訓練している過程とか最高です。“ヒュー・ジャックマン”が普段着でジャンプする絵は、それだけでギャグになるのがまたくだらなくも堪らない。あのぶっとんだリアリティを潔く破壊する演出のためらいなさ、本当に凄いものです。

個人的にはいつまでもあの師弟コンビのイチャイチャが観たかったな…。もうずっとこのコンビでいろいろなスポーツに挑戦し続けるドラマシリーズにしてほしい。

やっぱり師弟というのは、ああいう実力を素直に継承させようとするフラットでシンプルな関係じゃないと。このへんはなんでも力で押さえつけようとする日本のスポーツ人材育成の現場でも散見されるパワハラ体質とは大違い。ちょっと見習ってほしいですね。

たぶん“ヒュー・ジャックマン”に教えてもらえるなら、スポーツ好きになる人は急増するでしょうから。

『イーグル・ジャンプ』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 81% Audience 82%
IMDb
7.4 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 8/10 ★★★★★★★★

作品ポスター・画像 (C)20th Century Fox イーグルジャンプ

以上、『イーグル・ジャンプ』の感想でした。

Eddie the Eagle (2016) [Japanese Review] 『イーグル・ジャンプ』考察・評価レビュー