記憶の夜
Netflix映画『記憶の夜』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Forgotten  
製作国:韓国 
製作年:2017年 
日本では劇場未公開:2018年にNetflixで配信 
監督:チャン・ハンジュン 

【個人的評価】
 星 6/10 ★★★★★★

あらすじ

引っ越し先でも父・母・兄との4人の温かい家族生活が待っているはずだった。しかし、ジンソクは何か違和感を感じていた。そんな中、秀才で尊敬している兄が雨の夜に何者かに誘拐されてしまう。そして、19日後、兄は突然家に帰ってきた。しかも、誘拐されていた間の記憶は失ってしまっていた。一体、兄に何が起こったのか…。

ネタバレなし感想

韓国映画はNetflixを味方につけて…

絶好調のNetflix。オリジナル・コンテンツの充実を図るNetflixは、世界中の有能なジャンルをガンガン手中に収めています。日本であればアニメです。邦画実写ではなくアニメに手を伸ばすあたり、ちゃんとニーズがわかっているんだなぁ…(頑張れ、邦画実写)。

そんななか、お隣の韓国の映画界はガラパゴス化が進む日本と違って、完全にグローバルでの知名度を確実なものにしており、それはNetflixの扱われ方でも見て取れます。

なんといっても最新の韓国映画がNetflixオリジナルで配信される機会が増えていく増えていく。2017年はポン・ジュノ監督の『オクジャ』が凄かったですが、2018年は『新感染 ファイナル・エクスプレス』で話題騒然となったヨン・サンホ監督の最新作『Psychokinesis』が待ってます。悔しいけど、ワクワクが止まらない…踊らされてる、自分。
『新感染 ファイナル・エクスプレス』感想(ネタバレ)…電車で逝こう!
ということで待ちきれない人のためにも、他にもNetflixオリジナルで配信された最新韓国映画をここでひとつ。それが本作『記憶の夜』です。

本作はNetflixがシナリオを気に入り、制作初期の段階から、すでにワールドワイドライセンス契約を締結して、韓国で公開された後、全世界に同時配信されました。

監督は“チャン・ハンジュン”という人なのですが、あまり聞いたことがない…。それもそのはず、監督・脚本・俳優とマルチに活動している一方で、監督作はどれも日本劇場未公開だったようです。そんな監督の最新作がいきなり鑑賞できるのですから、凄い時代ですよ。

主演は“カン・ハヌル”。韓国芸能界で話題のイケメン俳優らしいけど、私はどちらかといえばオッサン俳優ばかりを韓国映画で目にしているので、全然知らなくて…。彼のファンである日本の方は、こうやって主演作が見られるようになって、きっと歓喜しているでしょうね。

ストーリーは簡単に言ってしまえば「記憶喪失系スリラー」です。よくあるやつですね。察しのとおり、ネタバレが絶対にダメなやつですので、悩む暇があったら真っ直ぐNetflixのサイトを開き、再生ボタンを押すにかぎります。






↓ここからネタバレが含まれます↓





ネタバレあり感想

初心者向けでわかりやすい

「記憶喪失系スリラー」というジャンルはトリックを前提としたストーリーになるため、語り口が難解になりがちだったりします。その点、本作は伏線を丁寧に回収することで、非常にわかりやすい物語になっているのが特徴です。この手のジャンルにあまり触れていない人でも楽しめる、初心者向けな一作だと思います。

本作はまず車でハッと目覚める主人公のジンソクから始まります。スリラーの冒頭の鉄板ネタは「交通事故」だとよく他の映画の感想でも書きましたが、ここでも事故は起こるかと思えば、穏やかな引っ越しする家庭の姿。でも、映画を全て鑑賞したらわかるとおり、“事故は起こってました”ね。やっぱりスリラー映画の交通事故発生率は80%くらいなんじゃないかな…。

で、新生活がスタートするのですが、ここからも不吉な伏線を張りまくり。見覚えのある家、引きづる兄の左足、1997年のカレンダー、開かずの部屋、引っ越し業者のセリフ、主人公が服用する薬…。主人公のナレーションで物語が進行するというのも、“信頼できない語り部”として観客を混乱させます。

それでも本作がわかりやすいのは先にも言ったとおり伏線の回収が丁寧なため。わざわざ伏線回収時はフラッシュバックのように関連シーンをもう一度見せてくれるし、伏線も「ここ、怪しい伏線ですよ~」とアピールするように強調しますから。

本作のトリックは大まかに分けて3段オチになっています。兄は実は兄ではなかった!他の家族も!→今は1997年ではなく2017年だった!→自分は殺人者だった!…という流れ。この3段オチも1個1個懇切丁寧に説明してくれるので理解しやすいです。どれだけサポートが行き届いてくれるんだってくらいの優しさですよ。

もちろん、これは気になった人もいるでしょうが、トリック自体はかなり無理のあるものです。とくに年代を誤魔化すのはいくらなんでも厳しいです。ちょっと外を出歩けば気づくでしょうし、家でもTVとか食品パッケージの説明とかでわかりますよね。そもそも引っ越し業者くらい、用意した偽装業者を使えよとは思いましたが。ただ、一応、事件の再現のために一時的に騙すだけでいいということや、主人公が神経症を抱えているという理由で、理屈づけはされてました。

だいたい「記憶喪失系スリラー」というジャンル自体、ありえないものですから、リアリティはそこまで気にしなくてもいいかなと思います。

記憶の夜

「1997年」というキーワード

一方で、この親切丁寧なストーリーテリングの弊害として「先が読めてしまう」欠点も指摘されそうです。とくに普段からこの手の「記憶喪失系スリラー」を観まくっている人は、すぐにオチが読めます。というか、このジャンルのオチはいつもワンパターンなんですけど。

ただ、個人的には「先が読めるから」という理由で、映画にマイナス評価を与えることはしない性分なので、気にしてません。だって、例えば、ディズニー映画はみんなハッピーエンドだって観る前からわかっているじゃないですか。でも面白いです。大事なのは「先が読めないこと」ではなく「その過程が楽しいこと」だと思ってます。もちろん先の読めない展開が面白さになっている映画もあって、好きですけどね。

では本作の面白さはどこか。私は「時代性」なんじゃないかと感じました。

つまり「1997年」の部分です。

この年は、「アジア通貨危機」と呼ばれるアジア各国の急激な通貨下落現象が起きました。日本では直接的影響はなかったのであまり有名ではないですけど、韓国では作中でもニュースが流れていましたがとんでもない異常事態を引き起こし、1997年の経済危機は「朝鮮戦争以来、最大の国難」と今なお語られています。

この経済の衰退こそが本作の事件の引き金です。なので全体を見ると、完全な悪が存在しない作りになっています。あの父親の医者でさえ、やったことは悪いにせよ、経済に翻弄された犠牲者ですから。だからこそのあの切ないエンディングです。

1997年の経済危機について、今の韓国の若者の間でどれくらい認知度があるのかは知りませんが、きっと風化はしているでしょう。そういう現代社会に対して、あらためて過去の歴史を思い出させ、警鐘を鳴らす意味もこの映画にはあるのだと思います。交番にいる今は1997年だと思い込んでいる主人公をパシャパシャとスマホで撮る若者がチラっと映りますが、これなんかまさにそういう意図なんじゃないでしょうか。世間知らずはどっちなのかと。

きっと他にも1997年の韓国ネタがたくさん込められているのだと思いますが、残念なことに、私は日本人。わからない…。

でも、やはり韓国映画は、社会問題とエンタメの絡ませ方が非常に上手いですよね。またまた実感させられました。日本だとそういう映画があっても、どうも説教臭いことが多いですから。本作はスマホで撮る若者のワンカットだけで暗示する、このスマートさ。良いです。

本作、苦言を呈するなら、アクションは物足りないかな。でもこれは私が普段からコッテリな韓国アクションを見すぎているせいであり、味覚障害になっているだけかも…。

©Netflix