FYRE
Netflixドキュメンタリー『FYRE:夢に終わった史上最高のパーティー』の感想&考察です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Fyre: The Greatest Party That Never Happened
製作国:アメリカ(2019年)
日本では劇場未公開:2018年にNetflixで配信
監督:クリス・スミス

あらすじ

オシャレな私有島に集う豪華な音楽フェスとして派手に売り出された「FYRE(ファイア)」。参加を申し込んだ者は誰もが夢のような時間を過ごせると確信し、興奮していた。しかし、その期待は、ある実業家の思い上がりとずさんな運営によって起きた未曾有の惨事で絶望に変わる。

ネタバレなし感想

最悪の音楽フェス…その舞台裏

先日発表された米アカデミー賞の2018年のノミネート作品。Netflixオリジナルの『ROMA ローマ』が多数ノミネートされて、「映画業界も変わったな~」なんて言っている人も少なくありません。映画館よりもインターネットなのかと批判気分な人もいます。でもちょっと待ってください。既存の映画業界はもっと前からインターネットに擦り寄っていたことをお忘れですか?

それは宣伝の話。今や劇場公開作品を宣伝する主戦場はインターネット、とくにSNSだと言っても過言じゃありません。映画館のポスターやチラシなんてマニア向けのもの。もっとも一般層にリーチするのはSNSです。だから映画宣伝側はこぞって公式アカウントを作り、SNSで宣伝を展開。話題の芸能人を使うのも、予想外のコラボをするのも、全てはSNS上で「バズる」ため。

拡散するためなら誰でも使います。映画ブロガーや個人イラストレーターの中には、公式から直接的もしくは間接的な経由で記事や絵を宣伝狙いで作成することに関わっている人も珍しくなくなってきました。こういう拡散力のある人物を「インフルエンサー」と呼びますが、実際に口コミでのヒット現象も起きている以上、ビジネス的にはSNSに転がる“使えるカード”は使いきる戦法が常套手段なんでしょうね。

そうした光景をいち映画ファンとして見ていると、それってウケさえすればいいという世界に究極的にはなってしまうのでは?と疑問を感じないでもないです。でも、インターネットが支配する今の世の中で何らかの活動をしていると、こういう「バズる」というシステムとは縁を切れないんですよね。おそらくこれからは映画内容自体も「バズる」ことを前提に特化させた作品だって生まれていくでしょう。それは映画が劇場で公開されるか、ネットで配信されるかなんていう問題よりはるかに大きい変化じゃないでしょうか。

そんな世の中の「バズる」至上主義がもたらす最悪の弊害をこれ以上ないインパクトで私たちに突きつけるドキュメンタリーが本作『FYRE:夢に終わった史上最高のパーティー』です。

本作は2017年にバハマで開催された「Fyre Festival(ファイア・フェスティバル)」という音楽フェスを題材にしたドキュメンタリー作品。これだけだととっても楽しそうな内容に思えるじゃないですか。ところがどっこい、地獄です。言いすぎだろうと思うでしょうけど、全くオーバーな表現ではないのです。地獄も地獄…災害レベルですよ。

見切り発車で大失敗をしでかすサービスやイベントはたくさんあります。別に「失敗することは」は悪いことじゃない…その経験を反省して次に活かせばいい。そういう教訓めいたポジティブシンキングもできます。でも本作の“それ”はその範疇では収まらない悲劇。とんでもない事態が起こったのでした。

なぜこんなことが起こってしまったのか。その経緯が本作では語られていきます。あとは鑑賞して、実際に呆然としてください。

なんというか、いろいろなドキュメンタリーを観てきたし、その中には社会問題や歴史問題など深刻なテーマのものも多くありましたけど、そんなシリアスさのないはずの本作が一番キツイかもしれない…そう思わざるを得ないこの気持ち。観ないとわからないので、ぜひ共有したいですね…。

これから大きなイベントや事業を企画している人、もしくはそんなプロジェクトに関与している人。絶対に必見です。あなたの想像をはるかに上回る“失敗”がこの世にはあるのです。そして、今まさにあなたは関わっているのかもしれませんよ。

予告動画






↓ここからネタバレが含まれます↓





ネタバレあり感想

アイディアはタダです

世界最大のテックイベント「Web Summit」。そこで悲劇の前兆が顔を出しました。

起業家のビリー・マクファーランドと、ラッパーのジャ・ルールが共同創業者となって、このイベントで発表したプロジェクト。それが「FYRE」というサービスです。これまで著名なアーティストに出演交渉をする際はコネも必要で、非常に煩雑な工程を経由しなくてはいけませんでした。そこで、このサービスではアーティストの検索ができて、アプリでそのままシンプルに出演の予約をすればいいという、芸能界に革命を起こすものだ…そう高らかにアピールする二人。

「FYRE」はこの時点では大衆の関心を惹きつけはしません。でも、一部で評価する声をあげる人もいました。ビリーは投資家とコネがあり、ジャは芸能界とコネがある…企画の狙いも明確で、メリットもわかりやすい。「FYRE」の秘めたる可能性を、創業チームは信じていました。

そこで宣伝方法を考えることになったディレクターのデイビッド・ロウはこう提案します。

「イベントを開いたら?」

これが悲劇の開幕の合図でした。

ファイア・フェス…この派手な宣伝スタイルにビリーとジャはノリノリ。さっそくイベント案を考え出します。

イベント・プロデューサーのアンディ・キングいわく、ビリーは「バハマに島を買った。そこでフェスを開く」と言い、その島の名はコロンビアの犯罪組織指導者にして伝説の麻薬王パブロ・エスコバルにちなんだ「パブロ・エスコバル・アイランド」だとか。ファイア元社員のJ.R.も「ビリーがその場で思いついたんだろうね」と当時を語ります。ただの音楽イベントではなく、1万人とパーティをして一夜を明かすゴージャスなバカンスを売りにする。美しい楽園で美しい人々と美しい音楽という最高の体験…コンセプトは良いと誰もが認めるアイディア。そう、アイディアだけなら…。

宣伝だけは大成功

「FYRE」の企画は3つのチームで支えられていました。サービスのシステムを開発するエンジニア・チーム。イベントの宣伝を担当するマーケティング・チーム。イベント運営を行う現場チーム。

マーケティング・チームとして、Fuckjerryがソーシャルメディアを任され、ジェリーメディアのCEOミック・パージスキやジェームズ・オリガーは「場所と音楽フェスというコンセプトだけがこの時点ではあった」と話します。

そこでそのコンセプトを元に動画を作ることになりますが、一見普通の宣伝手段に思えますが、この時点で何かがオカシイ。開催地ということになっているバハマのノーマンズケイで、スーパーモデルの美女をわんさか集めて、ビリーやジャが朝から晩までパーティ三昧をする…その姿を専属のカメラマンが撮影。そう、ただパーティしているだけなのです。

音楽フェスどころかイベントの経験もない、マーケティング担当のグラント・マーゴリンは頑張りました。ボードを並べろ、デカイ焚火を出せ、豚もいる…ビリーたちの要望に全力で答えます。担当と言っても、制作権限はなく、言いなり。
 
何のため呼ばれたのかもよくわかっていないモデルたちに、撮影時の写真をSNSに投稿してもらい、バズって大喜びのビリーたち。これは凄いと広告会社も金の投資を惜しまなくなっていき、いよいよ大々的なキャンペーンを展開。モデル、アーティスト、俳優ら著名人400人に、同じ時間に一斉に「FYRE」のオレンジ一色のタイルを投稿してもらい、サイトにアクセスして動画を見てもらう作戦。

結果、インターネット中に熱狂と興奮が拡散。宣伝だけで見れば、「FYRE」は大成功なのでした。

FYRE:夢に終わった史上最高のパーティー

大惨事を生み出した原因

しかし、問題はイベント運営を行う現場チーム。

この現場チームが集められて動き出したのは、開催の6週から8週前。1万人クラスのイベントにしては遅すぎる出だし。

そして、そもそも「あの島にあの人数は入らない」という問題が浮上。それでもビリーは皆あの島に泊まると言い張りますが、担当者のキースは1回、自分で島に泊まってみたところ、酷い体験だったと痛感。これではヤバいと伝えますが、キースはクビになります。

ところがここでもっと根本的な問題が。

島を買ったのか? 

どうやら正式には購入を完了していないらしく、しかも島のオーナーは麻薬王のイメージを払拭したいと思っていたそうで、でもガッツリPVには「パブロ・エスコバル」の名を使ってしまい、結局、追い出されてしまうチーム。

ここに来て「開催場所」探しが始まり、なんとかエグズーマという街のある島の一部エリアに決まったものの(宣伝は無人の私有地の島を貸し切り)、開催まで残り45日。

島ではファイア・フェスが地域経済を活性化すると期待しており、「雇用創出」という言葉は魅力的なもの。しかし、島にやってきたのは災害だとはこの時点では知らず…。

開催地は工事現場みたいな殺風景。電気なし、水なし、ネット環境なし、泊まる場所もなし。参加者が泊まれる目途は全くなく、限られた予算で出来たのは、避難用テント同然の宿泊スペース(宣伝では豪華ヴィラ)。自転車操業状態で資金が足りなくなったらまた金を調達してくるビリー。

残り10日。ケータリング会社との600万円の契約を解除。ビリーはチームに命令。「100万円で6000人の食事を2週間で用意しろ(なお参加者は豪華な食事が出ると思っている)」

開催日間近。参加者から問い合わせの嵐。批判的なコメントが相次ぐなか、究極の解決方法に出ます。それは「目障りな意見は全部消す」。

そして、ついに開催日、当日。意気揚々と島に訪れた参加者が見たものは…。あとは映像が全てを物語っていましたね。

本作の映し出す事態は他人事では見ていられませんでした。なぜなら誰でも起こりうるなと思うから。現場チームのひとりの発言がまさに言い表していました。

「私たちが問題を解決し続けたばかりにモンスターを作り出してしまった」

お金を集めることに長けた人、もしくはお金持ちの人。素晴らしく魅力的なビジュアルに満ちた動画や宣伝文句。私たちはそんな実体のないものに惹かれ、“いいね”と考えてしまう。でも、それは結局、空虚であり、そこに場合わせで中身を詰めているのは他でもない私たちなんですね。

本作で教えられることはひとつ。「安易に他者を増長させるとヤバい」ってことじゃないでしょうか。

私たちは日々、ネット記事やSNSのコメントなんかを目にして「この人は支持できる!」なんて気楽に接しているけど、それは回り回って最悪の事態を起こすかもしれないのです。

ドキュメンタリー自体にも騒動が!?

実は「Fyre Festival」を題材にしたドキュメンタリーは本作だけではありません。

NetflixのライバルであるHuluは同じ題材のドキュメンタリー『FYRE FRAUD』をサプライズ的に発表&配信して話題になりました。

それだけなら「タイミングが重なっちゃったんだね~」で話は済むのですが、なんとHuluの方は作品内の終盤に「Netflixのドキュメンタリーは“Fyre Festival”のマーケティングに関わったFuckjerryが製作に関わっている」ことを指摘し、批判気味に伝えるというまさかのファイティングポーズ&挑発。

これにカチンときたのか、Netflixのドキュメンタリーの監督が反撃。Huluの方にはビリーの独占インタビューがあるのですが「Netflixもビリーの取材を考えていて、そのときにビリーからHuluは出演料約2700万円でオファーしてきたと言っていた」と暴露。有罪判決を受けた人に大金は払えないからやめたけど、Huluはどうなの?とこちらも批判返しをしたのでした。

私はどっちも非難も擁護もしないですが、正直、そのドキュメンタリー対立騒動を見ても、それってただの双方がWin-Winになる炎上商法なんじゃないかと冷淡にしか思えない…。ましてやまさに「Fyre Festival」の一件はそういう教訓を私たちに教えてくれるものじゃないですか。この世は「バズる」ことが全てだよ…と。皆、企業も個人もそのために意味も分からず活動しているんだ…と。

つまり、地球の全てが「Fyre Festival」の会場なんです。あなたが選べるのは3つだけ。ビリーになるか、従業員になるか、参加者になるか。

さあ、どれがいいですか?

ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 91% Audience --%
IMDb
7.4 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 7/10 ★★★★★★★

(C)Netflix