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『グリーンルーム』感想(ネタバレ)…血みどろ青春劇の開演です

グリーンルーム

血みどろ青春劇の開演です…映画『グリーンルーム』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Green Room
製作国:アメリカ(2015年)
日本公開日:2017年2月11日
監督:ジェレミー・ソルニエ
ゴア描写
グリーンルーム

ぐりーんるーむ
グリーンルーム

『グリーンルーム』物語 簡単紹介

パットがボーカルを務める極貧な若者バンドは、とあるライブハウスでようやく出演にこぎつける。随分と汚く粗暴な場所ではあるが、あまり贅沢を言える立場ではないことはわかっている。ところが、そこはネオナチだらけで、しかも楽屋で凄惨な殺人の現場を目撃してしまう。焦って楽屋に閉じこもったバンドメンバーたちは、危険なネオナチ集団の狂気の魔の手から逃れようと必死に画策するが…。
この記事は「シネマンドレイク」執筆による『グリーンルーム』の感想です。

『グリーンルーム』感想(ネタバレなし)

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グリーンは、嫌な感じだよ!!

「緑色」というと現代ではすっかり自然豊かな「エコ」のイメージが強いです。しかし、英語の「Green」は、嫉妬、陰湿、青臭いなどネガティブなイメージもある単語だそうです。なんか日本人にはあまり伝わらない感覚ですね。

本作『グリーンルーム』はまさにネガティブな方の緑色そのものな内容の作品。若者たちが陰惨な恐怖に襲われます。決して観葉植物でいっぱいなお部屋の話ではないのです。舞台は出演者控え室となる楽屋。もともと楽屋は、なんでも壁が緑で塗られていることが多かったことから、英語で「green room」というらしく。本作のタイトルは、楽屋の「Green」とネガティブの「Green」をひっかけているわけですね。

ちなみに本作の監督ジェレミー・ソルニエの前作は『ブルー・リベンジ(原題:Blue Ruin)』。色シリーズみたいになっているのは偶然なのでしょうか?

『グリーンルーム』はライブハウスという閉鎖的空間でのシチュエーション・スリラー。このジャンルといえば、2016年は恐怖の盲目老人の家に閉じ込められた若者たちの脱出劇を描いた『ドント・ブリーズ』が注目を集めました。

本作も『ドント・ブリーズ』に似ている…と言いたいところですが、結構違う点も多いです。まず、バイオレンスが際立っています。要所要所でショッキングな映像が飛び込んできて、残酷描写が苦手な人は「ウワッーーー」となるし、好きな人は「ヤッホーーイ」となります。ゴアの度合いで言えば、痛々しいリアルなグロ系かな。

そして、もう一つの違いは…これは実際に観て雰囲気を味わってほしいところ。私はコレはブラックコメディなんじゃないかと思いながら楽しみました。ピリピリした緊張感が時間とともに増長していくサスペンス・スリラー…ではなく、ブラックユーモアを交えた血みどろ青春劇という印象。こういう青春ドラマもありです。

主演はリブートした新『スター・トレック』シリーズでも大活躍中だった若手“アントン・イェルチン”。独特な演技力があって非常に有望な俳優だったのですが、残念なことに2016年6月19日、事故で亡くなってしまいました。27歳という若さでこの世を去るというのはあまりにもツラいことであり、本当に悲しくてしょうがないのですが、私たちにできるのはそんな彼の出演する映画を語り継ぐことくらいです。

『グリーンルーム』はいろいろな感情が突発する、カオスティックな映画ですけど、私の中では“アントン・イェルチン”への追悼の気持ちが色濃かったのは否定できませんけど…。

↓ここからネタバレが含まれます↓

『グリーンルーム』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(前半):攻めてます!

車の中で目を覚ます若者たち。バンはなぜかコーン畑の中に突っ込んでいます。状況もわからず眠気眼で「事故ったのか?」「こっちが聞きたい」と状況を把握しようとします。

パット、サム、タイガー、リースの4人は旅をしながらパフォーマンスをしている「エイント・ライツ」というバンド仲間です。どうやら居眠りをしてしまい、そのままエンジンをかけた状態で、この朝を迎えたようです。

とりあえず2人が近くの建物まで自転車で向かい、慣れた手つきで他人の車からガソリンを失敬します。こうやってろくにカネもないという貧相な手持ちでこの旅をしていました。

4人はなんとか今日は屋根のある寝床を確保。翌朝、ラジオのホストで髪が尖っているトサカ男から演奏のチャンスをもらいます。4人は全然売れてもいませんが、音楽性に関しては一家言持っています。

「音楽に必要なのはリズムであり攻撃性だ」

それでも今回もろくに報酬もない演奏だけで終わってしまいました。抗議すると、いとこのダニエルに紹介させると言ってくれます。場所はポートランドの近くだそうです。

「明日の昼。出番は3時。ギャラは350ドル。ただしスキンヘッドが多い」

「スキンヘッドなんてどこにでもいるだろう」と気にしないパットたち。トサカ男も「右翼も左翼もいてグループには属してない」と言い切ります。

車を走らせ続け、森の中にあるライブハウスに到着。確かにスキンヘッドの男たちが大勢います。楽器を搬入し、準備を開始。荷物は楽屋に置きます。中に入ってハッキリわかりましたが、明らかにここにはネオナチが多数います。実はユダヤ人であるパットは、ステージに立つなり、土壇場で曲を変えようと言い出します。

そしてパフォーマンス開始。

「ナチ・パンクス。ぶっ殺すぞ!」

その過激な歌詞に露骨に怒りを露わにして、モノを投げつけてくる聴衆も。しかし、ブーイングも気にせずに歌い上げ、ポリシーである攻撃性全開の音楽スタイルで攻めていきます。

パフォーマンスが終わり、楽屋に戻ろうとすると、楽屋は次のバンドが使用中とのことで、その場でギャラをもらい、帰ることに。しかし、携帯を忘れたのでパットが楽屋に取りに行きます。

ガチャっとドアを開けてパットが目にしたのは、床に倒れた人…。

これはヤバイかもしれない…。

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バンドどころじゃない!

ネオナチは主張していることはまごうことなき差別ですけど、存在そのものが凶悪なモンスターというわけではない。それはわかっている。でもなんか怖い。そんな感覚をそのままぶっこんだような映画でした。

パットが率いているパンクバンド「エイント・ライツ」は正直に言ってそこまで話題沸騰のグループではありません。いや、全然人気は獲得できていません。ゆえに極貧も極貧で、なんとかあちこちを巡って知名度をあげたいところですが、その移動費すらもままならない始末。私は音楽性は何もわからないので言及できませんが、音楽が下手なのか、それともビジネスの才能がないのか、ともかく全く伸びる兆しがないこのバンド。

ウジウジしていてもしょうがないので、なんとかどこでもいいのでパフォーマンスしようと藁をもつかむ思いで、やっとコネもあってステージを確保。久々にライブハウスでの公演が決まって、さっそく当日。ここで決めないともう後がないのはみんなわかっているので、意気揚々と全力を出すぞと熱唱。

しかし、そこはネオナチのスキンヘッドがいっぱいいるバーでした。まあ、別に客を選んでいる余裕は自分たちにはないのでそれは構わないのですが、攻撃性がオレたちのモットーみたいな感じで息巻いていた以上、ここで引き下がるのはカッコ悪い。パットたちはネオナチ相手にあえて挑発的な歌をぶつけます。

ところが、パフォーマンス終了後に楽屋で死体を目撃してしまい、事態は急転直下。これはどんなにアホでもヤバい状況にいることはわかります。

すぐにでもこの危うい楽屋から逃げ出そうとしますが、知ってはいけない事実を知ってしまったことをネオナチの奴らも気づき、バンドメンバーを部屋に監禁。ネオナチの巣窟で逃げ場を失ったバンドはもう音楽人生どころではなく、今の自分の命が危険なシチュエーションに直面し、パニック。

若者バンドとネオナチ、普通では対立しないこの二者の何とも言えない、戦慄のバトルが始まるのでした。

「グリーンルーム」は誰の血で真っ赤に染まるのか…。

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犬だって帰りますよ、嫌だもん

観る前は“ゴア表現”が見どころのサスペンス・スリラーだと思っていた『グリーンルーム』。確かにアントン・イェルチン演じるパットが腕をズタズタにされるシーンはかなり痛々しく、主人公たちを襲う最初の人体破壊描写ということもあって、インパクト大です。

でも生々しいのはバイオレンスだけじゃないのが本作の魅力。むしろバイオレンスは効果音であり、メインメロディは人間模様にありました。

『グリーンルーム』に登場する人物たちは皆、私たちと同じボンクラ市民。ひとつの事件をきっかけにそんな人間たちの虚勢が脆くも崩れていくさまを描いた作品が『グリーンルーム』でした。

まず、音楽では威勢のいい罵詈雑言で強がっていた主人公たちバンドメンバーは、殺人事件を目撃してしまい「ヤベぇよ、超ヤベぇよ…」状態。自分たちも盗みなど違法行為を平気でしてたのに、いざ窮地になると「警察が来るまで俺たちは部屋から出ないからな!」と国家権力に泣きつくのみ。警察は望み薄とわかると、もうオロオロの右往左往。「どうすんの?どうすんの!」と言っているうちに、次々仲間が殺されていきます。その姿は同情するくらい可哀想だけど、どこか滑稽。

対する敵であるネオナチ集団。こいつらは序盤こそ得体のしれない雰囲気が漂っており、さぞ極悪なプロフェッショナル軍団なんだと思っていたら、あれれ…。見張りの大男はあっさり若い奴らに逆に人質にされてしまい、事件を大事にしないために少数ずつ送り込む作戦もジリ貧に。あげくに恋愛沙汰で裏切者が発生する始末。この裏切者も「俺はあいつらの動きを熟知している!」と言った瞬間に撃ち殺されるという死亡フラグの回収っぷり。

ネオナチ集団のリーダーであるオーナーがだんだん情けなく見えてきます。ネオナチってだいたいネタ扱いだよね…。統率が取れているようで、意外にボロボロで行き当たりばったりな殺人計画とか、まあ、殺しはさすがにないにしても、日常の私たちの会社とか学校とかにも当てはまる感じで、妙に親近感が出てくる気も…

最凶兵器に思えた犬もノイズ音で帰っちゃうという、犬までボンクラなのが、もう別の意味で痛々しい…。『ドント・ブリーズ』の犬と全然違う!

いや、でも私は『グリーンルーム』の登場人物のことを馬鹿にできないなと思ったり。たぶん同じ目に遭ったら、これよりひどい醜態をさらすだけです。普段、映画を観て、そこはこういう行動をとるほうがいいだろうとか文句言ってるくせにね…。そう、人間は完璧じゃないから、ダメな失敗もするのです。だから、あの、うん、ドンマイ。

最後の気の抜けた終わり方を観て、主人公と一緒に「俺たちってちっぽけな人間だよな」とあらためて胸に刻んだのでした。

『グリーンルーム』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 90% Audience 75%
IMDb
7.0 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 7/10 ★★★★★★★

作品ポスター・画像 (C)2015 Green Room Productions, LLC. All Rights Reserved. グリーン・ルーム

以上、『グリーンルーム』の感想でした。

Green Room (2015) [Japanese Review] 『グリーンルーム』考察・評価レビュー