レボリューション 米国議会に挑んだ女性たち
Netflixドキュメンタリー『レボリューション 米国議会に挑んだ女性たち』の感想&考察です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Knock Down the House
製作国:アメリカ(2019年)
日本では劇場未公開:2019年にNetflixで配信
監督:レイチェル・リアーズ

レボリューション 米国議会に挑んだ女性たち

あらすじ

みんなが勝てないと思っていた。でも諦めたくなかった。巨額の富を持つ現職議員に対抗し、志を掲げて2018年の民主党予備選挙に出馬した女性新人候補者。彼女たちは社会の底辺の代表。大企業からの支援も受けずに草の根で努力する。そんなアレクサンドリア・オカシオ=コルテスなど4人を追う。

ネタバレなし感想

“上”に勝つために立ち上がった

「上級国民」というワードが日本のネット界隈で急速に濫用されるようになりました。

元はと言えばネットスラングであり、半ば冗談的に自分より上位にいる相手を貶すための言葉だったのですが、今ではかなり幅広い層のネットユーザーが(おそらく出典も気にすることなく)好き勝手に使っている印象です。2019年4月に東京の東池袋で起きた死者を出した自動車暴走事故の際は、加害者がキャリアのある人物だったため、その「上級国民」という言葉が盛んにネット上を飛び交いました。なかには事実無根のデマも拡散し、陰謀論じみた情報さえ平然と出回る状況で、一種のモラルパニックに近い状態に。大手メディアさえもこの「上級国民」騒動を取り上げたりもして、かなりの騒ぎでした。

この背景には格差社会への不満が国民の間に溜まっていることが影響していると指摘する意見は少なくありません。確かに今の日本は中流階級が消え、“上”と“下”に分かれてしまった社会の貧富構造があり、そのストレスは怒りの引き金になっています。

私もその気持ちはよ~くわかりますし、格差の是正は喫緊の課題だと思いますが、正直「上級国民」なんていう言葉は嫌いです。なぜならその言葉が何を問題視しているのかもあやふやで、解決策につながらないため。これでは憎悪をばらまいているだけであり、ただのヘイトスピーチになりかねません。もしくは一過性のガス抜きで終わるだけです。凄惨な交通事故も社会問題も何も防げないでしょう。

ではどうすればいいのか?

その理想的な道しるべになるような作品が本作『レボリューション 米国議会に挑んだ女性たち』です。

本作はドキュメンタリーであり、2018年アメリカ合衆国選挙(いわゆる「2018年中間選挙」)を題材にしています。西暦偶数年に行われ、4年ごとの大統領選挙と重複しないようになっているので、“中間選挙”と呼ばれます。上院議員のうちの3分の1、下院議員全員が改選となり、アメリカ政治の顔ぶれが大きく変わります。2018年の中間選挙は、ドナルド・トランプ大統領になってから初のものだったため、このトランプ政権を踏まえて、どんな議論が起こるのか注目されていました。

そして、いざ始まってみると、新しい流れが巻き起こっていました。それが「Progressivism(プログレッシビズム)」というものです。

アメリカの政治はこれまで「左vs右」「民主党vs共和党」のような対立軸が歴史的に続いてきましたが、21世紀のプログレッシビズムは「下vs上」が主要なトピックになっています。社会の上位にいるものが下位にいるものを搾取している…これを解決しよう。そういう流れですね。

『レボリューション 米国議会に挑んだ女性たち』はその21世紀のプログレッシビズムの代表となる、政治経験すらない若き女性たちが選挙に出馬していく姿を追ったものです。

どうしても今のアメリカ政治を描いた作品を聞くと「反トランプ的なやつでしょ?」と安易に思いがちですが、本作はそうではなく、権力を握る大物政治家との戦いが主です。トランプばかりが槍玉にあげられますが、民主党のヒラリー・クリントンやリベラルに人気のバーニー・サンダースだって権力者。そんな政治を支配する富裕層権力者に挑むのは、主婦やアルバイトで働いていた労働者階級の名もなき女性たち。彼女たちはどうやってその強敵に挑戦するのか、そこが見どころ。

本作に映る女性たちは陳腐な言葉で相手に憎悪をぶつけたりしません。面と向かい合って、理路整然と論点を議論する。理知的な姿勢がいかに大事かを痛感できる作品になるはずです。

「政治に興味ないし、派手な大作アクション映画だけでいいです」とか思っている、そこのあなた。この「下vs上」というプログレッシビズムの流れは今後のアメリカの潮流ですから、きっとMCUとかは映画の背景に導入してくるに違いないですよ(もうスパイダーマンやアントマンがそれな気がしますが)。

ハリウッド映画にも間接的に影響を与える、アメリカの選挙。映画ファンも関心を持っておいて損はないでしょう。

オススメ度のチェック
ひとり◎(政治初心者でもわかりやすい)
友人◎(議論する価値あり)
恋人◎(自分の主張をし合おう)
キッズ◎(政治への関心をもつきっかけに)

予告動画






↓ここからネタバレが含まれます↓





ネタバレあり感想

どこにでもいそうな女性たち

『レボリューション 米国議会に挑んだ女性たち』は2018年アメリカ合衆国選挙に手をあげた4人の女性にスポットをあてています。具体的には「アレクサンドリア・オカシオ=コルテス」、「ポーラ・ジーン・スウェアレンジン」、「コーリ・ブッシュ」、「エイミー・ヴィレラ」の4名。他にもこの選挙で大物政治家に立ち向かった候補者はいたでしょうが、本作では4人に絞っています。

4人に絞った理由は定かではないですが、もちろん限られた時間で取り上げるにはこれくらいの人数がちょうどいいというのもありますし、この4人がバランスよく今のアメリカの社会下層に暮らす人たちの象徴としての要素をそれぞれで持っているというのも挙げられるでしょう。そもそもアメリカの社会下層に暮らす人たちと言っても、いろいろですから。

まず作中で最初に映るアレクサンドリア・オカシオ=コルテス

彼女はニューヨーク14区候補として出馬しているとおり、典型的なニューヨーカーの労働者層。日夜、ウェイトレス兼バーテンダーとして働きづめであり、その姿はいたってどこにでもいそうな女性。それでも実はオカシオ=コルテスは、経済学と国際関係学で学位を取得して大学を卒業していますし、卒業後は地元で出版社を起業するなど、キャリアを順調に前進していました。でも、大学在学中に父が亡くなり、母を支えるために、今のワークスタイルにならざるを得ず…。また、オカシオ=コルテスはニューヨーク市ブロンクス区のプエルトリコ系の家庭出身というのも大きなアイデンティティになっていました。それに作中で何度も映っていましたが、献身的に支えるパートナーの存在も印象的です。

続いてポーラ・ジーン・スウェアレンジン

彼女はウェストバージニア州上院議員候補として出馬。ウェストバージニア州といえば、鉱業で発展した自然豊かな地域であり、今も炭鉱など鉱業従事者が多く暮らしています。しかし、その業界は非常に闇深く、さまざまな問題が起こってもいます。新エネルギーの台頭により需要の減った炭鉱で働いた人は使い捨てられ、病気で苦しんでいますし、爆発事故などで直接死亡する事態も。それでも地元のリーダーは炭鉱業者と結託し、何もせず。森林は破壊され、環境汚染が進む一方です。炭鉱夫の父を持つポーラ・ジーンもまたそんなウェストバージニア州のどこにでもいる女性のひとり。まさに林業と鉱業を生業とするようなアメリカの田舎を代表する労働者層の人間です。

3人目はコーリ・ブッシュ

ミズーリ州1区候補として出馬する彼女はアフリカ系。看護師であり、聖職者であり、2児の母親でもある彼女ですが、やはり最大の関心事は人種差別。ミズーリ州と言えば、作中でも言及されているとおり、2014年に「ファーガソン事件」が起こったところ。18歳の黒人青年マイケル・ブラウンがコンビニからの帰り道、警官と言い合いになり、そのまま射殺されてしまった事件。警察の対応に起こった市民は抗議し、それでも事件の詳細を伏せる政府の対応に暴徒化。ミズーリ州知事は、ファーガソンに非常事態を宣言して夜間外出禁止令を出すなど騒然となりました(結局、撃った警官は不起訴)。男性黒人議員は多いようですがそれでも何も地域が改善しない状況に、あとは立ち上がれるのは黒人女性のみ。

最後はエイミー・ヴィレラ

ネバダ州4区候補で出馬する彼女は、他3名と違ってあまり地域色を積極的に体現している感じではありませんでしたが、個人で背負っているものがありました。エイミーの娘シャーリンが22歳の時、血餅の症状で緊急病棟に搬送されたものの、保険に加入していなかったため、医師は検査を拒否。そのまま何もできずにシャーリンは肺塞栓症を発症し、脳死。息を引き取るまでずっとそばにいてあげた映像が辛いです。エイミーは愛する娘の遺灰とともにこの挑戦にのぞみ、それは同時にアメリカに毎年3万人いるとされる同じ立場の者たちの代弁者にもなっています。犠牲者の遺族が選挙に出るというパターンですね。

レボリューション 米国議会に挑んだ女性たち

余裕の大物政治家たち

ただ、いくら自由の国「アメリカ」とはいっても何も政治経験もコネもない人間が、しかも若い女性が政治家になるのはとても困難。立候補するのすら至難の業で、署名集めに奔走。一方のライバルとなる巨人たちは大物支援者だらけで余裕のファイティングポーズ

オカシオ=コルテスの相手は、何年も一人勝ちしている超大物「ジョー・クローリー」。ポーラ・ジーンの相手は、炭鉱企業と癒着する「ジョー・マンチン」。コーリ・ブッシュの相手は、投票するのが地域の伝統みたいになっているとも言われる「レイシー・クレイ」。エイミー・ヴィレラの相手は、作中であまりピックアップされませんでしたが「スティーブン・ホースフォード」です(たぶん年齢が46歳と比較的若めで対比にならないと判断したのかな)。

これらのライバルたちはすでに権力者。当然、有利。オカシオ=コルテスの例だと、選挙資金はオカシオ=コルテスが必死に駆けずり回ってなんとか2100万円集めたのに対し、ジョー・クローリーは約3億7千万円をポンっと用意してくるわけです。

作中に映っている姿からも相手の「余裕ですけど? まあ、そっちも頑張りなよ」みたいな“舐めプ”姿勢がガンガン伝わってきます。なんか「反トランプ」を掲げておけばOKみたいな感じです。

その“舐められている”現実が最も伝わるブロンクスの討論会のシーン。クローリーは代理の人が来て、しかもその人は本当にベタな定型文な回答しかできない(「クローリー議員は頑張っています、信じています」)。隣に座るオカシオ=コルテスは本当に屈辱だったでしょうけど、結果、彼女の有能さが対比で伝わるというのが面白い。完全にクローリーは意図せず援護支援しちゃってます。

結果、オカシオ=コルテスはクローリーに歴史的勝利をおさめたわけですが、たぶんこの“舐めプ”が勝敗を決めましたよね(もしクローリーが最初から全力だったらどうなっていたことか)。

それだけ自惚れているわけですが…。こういう民主党重鎮の体たらくを見ていると、トランプが勝つのも納得ですね…。

選挙投票前にもう一度見よう

あと、この女性たちを支える存在も印象深かったです。

「Justice Democrats(ジャスティス・デモクラッツ)」「Brand New Congress(ブランド・ニュー・コングレス;真新しい議会)」という組織が実際のサポーターとしてバックにいるわけですが、白人富裕層が政治を支配している状況を打破したいという目的のもと、活動する彼ら彼女らの存在は素晴らしいですね。クラウドソーシングで候補者を推薦してもらったというから驚きですし、これぞ本当の民主主義です。

また、女性たちの傍には家族やパートナーがいて一番の支えになってくれている。その姿も当たり前の光景に思えますが、これまでの政治支配者層の“支え”は大物や大企業の献金だったわけで、そこからこの普遍的な“支え”になっただけでも転換なんですよね。

もちろんこれでアメリカの政治が変わるとはとても楽観視はできません。『華氏119』でマイケル・ムーアが指摘しているように予断を許さない危機的な状況は続きますし、権力者の権威が消えたわけでもありません。
『華氏119』感想(ネタバレ)…マイケル・ムーアによるアメリカの余命宣告
オカシオ=コルテスも議員になれましたが、彼女へのバッシングも相変わらず酷いです。最近は学生時代のダンス動画が非難のまとになっていました(批判者いわく踊っているとダメらしいです)。

『レボリューション 米国議会に挑んだ女性たち』の冒頭で、女性の身支度は大変で、世間にどう見られるか考えて決断しないといけないという話をオカシオ=コルテスがしていましたが、そのとおり。政治家になれてからもその苦難は続きます。それが今の現実。

でも、ひとりの当選者が無数の名もなき人間たちの挑戦心に火をつけるならいいじゃないですか。有権者の見方も変えるかもしれません。『レボリューション 米国議会に挑んだ女性たち』だってクラウドファンディングで作られてNetflixが1000万ドルで買い取ったドキュメンタリーですよ。どこでどう評価されるかもわかりません。

日本人だって「与党vs野党」の戦いにもうんざりでしょう。今こそそんな二項対立ではない、本当の国民の代表が必要かもしれない。この前の選挙であなたは誰に投票しましたか。「有名どころでいいや」とテキトーに紙に名前を書いていませんか。あなたの選挙区に本作のような人物はいませんでしたか。

選挙投票前にもう一度見たいドキュメンタリーでした。

ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 100% Audience 33%
IMDb
6.7 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 6/10 ★★★★★★

作品ポスター・画像 (C)Netflix