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『ラビング 愛という名前のふたり』感想(ネタバレ)…愛に色は関係ない

ラビング 愛という名前のふたり

愛に色は関係ない…映画『ラビング 愛という名前のふたり』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Loving
製作国:イギリス・アメリカ(2016年)
日本公開日:2017年3月3日
監督:ジェフ・ニコルズ
恋愛描写

ラビング 愛という名前のふたり

らびんぐ あいというなまえのふたり
ラビング 愛という名前のふたり

『ラビング 愛という名前のふたり』あらすじ

1958年、アメリカのバージニア州。大工のリチャード・ラビングは、愛する恋人ミルドレッドから妊娠を告げられ結婚を申し込む。二人は結婚し、地元で暮らし始めるが、ある晩、自宅に押しかけてきた保安官に逮捕されてしまう。その理由は二人が異人種だったというもの。当時、バージニア州では異人種間の結婚は法律で禁止されていた。

『ラビング 愛という名前のふたり』感想(ネタバレなし)

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異人種間結婚を認めた裁判

2016年の米アカデミー賞は作品賞受賞が『ムーンライト』ということもあり、全体的に人種的なマイノリティに賞を与えたイメージが強いですが、確かに助演の男優・女優には『ムーンライト』のマハーシャラ・アリ、『フェンス』のビオラ・デイビスと黒人が輝きました。でも、主演の男優・女優は白人だったのでした。

そんななか主演女優賞で唯一アフリカ系アメリカ人として名前がノミネートされていたのが“ルース・ネッガ”です。私はノミネートが発表されたとき、この女優を知らなくて、誰だろう?と思ったのですけど、テレビドラマで結構活躍されていた人だったんですね。

その“ルース・ネッガ”の記念すべきアカデミー賞主演女優賞ノミネート作品となったのが、本作『ラビング 愛という名前のふたり』

本作は、アメリカの人種問題を語るうえでは重要な実際の「とある裁判」に関係した夫婦の話です。知っている人もいるとは思いますがあらためて説明すると、アメリカではかつて「異人種間結婚(人種の異なる人同士の結婚)」は禁止されていました。これは元をたどれば植民地時代から続くものであり、1900年代中頃になってもアメリカ南部の州の全てで異人種間結婚を禁止する法律が存在しました。

当時も別に白人と黒人との間にできた子どもはそれなりにいたようですけど、言い方が悪いですが、いわゆる奴隷的な主従関係を匂わすような、白人男性が黒人女性を“孕ませた”ケースも多かったのでしょうね。世間のイメージは良くないわけです。

そんななか、本作の主人公となるリチャードとミルドレッドの男女は、本当の愛情で結ばれた二人。しかし、二人の暮らすバージニア州も異人種間結婚を禁止していて、二人の関係も問題となります。それがアメリカの結婚の概念を揺るがす大きな裁判につながっていくとは知らずに…。

この裁判の結末は、もうこれはネタバレでもなんでもないので書いてしまいますけど、勝つわけです(当たり前です)。異人種間結婚は認められて今日に至ります。ただ、この裁判が凄いのは後のLGBTQの婚姻にも影響を与えているんですね。

こんな裁判について「ネタバレなし感想」の部分で書いてしまってネタバレにならないのかと心配になる人もいるかもですが、大丈夫。というのも、本作はこの裁判に関してドキュメンタリーチックに描く作品ではないからです。本作を観るだけだと裁判のことはよくわからないままな気がします。だから前情報として知っておいて損はないです。

本作はあくまで恋愛映画です。しかも、珍しいくらいの純愛映画。気を張らずに観ましょう。

↓ここからネタバレが含まれます↓

『ラビング 愛という名前のふたり』感想(ネタバレあり)

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正確な再現ドラマ

本作の題材であるラビング夫妻の裁判については、Wikipedia(ラヴィング対ヴァージニア州裁判)でも整理されているので、気になる人はそちらを参照すると良いでしょう。

この裁判はすでに映画化されています。それが1996年の『Mr. & Mrs. Loving』という作品で、残念なことにこちらはあまり史実に基づいていませんでした。そして、2012年にナンシー・バアースキー監督が『The Loving Story』というドキュメンタリーを製作。こちらは高い評価を得ています。

本作はこのドキュメンタリーを基に製作されており、そのため非常に史実に対して正確に作られているそうです。

例えば、舞台。実際にラビング夫妻が暮らしていたバージニア州で撮影されているのは当然として、序盤に拘留される拘置所も実際に閉じ込められた場所が現存していたため、そこで撮ったとか。本当にこの夫妻が置かれていた環境がそっくりそのまま再現されているわけです。なので、ミルドレッドがバージニア州に帰りたいと思う気持ちも、あんな綺麗な風景を見せられたら観客である私も納得です。

ドラマも史実に忠実。おそらく本作で一番ドキッとする映画的シーンである序盤の、夜に保安官がいきなり夫妻の家に突入してくる場面。あれは本当にあんな感じだったらしく、どうやら警察側は異人種間の性交渉を二人がしているだろうと狙って、あの時間に上がりこんだらしいですね。その直後、結婚証明書を示しても無視されたのも本当だったようです。

俳優もリアルでした。リチャードとミルドレッドを演じた主演の“ジョエル・エドガートン”“ルース・ネッガ”も、見た目はもちろん漂わせている雰囲気が本人たちに似ていて素晴らしい好演をみせてくれました。

ちなみに話が変わりますけど、本作で純朴そうな雰囲気をみせた“ジョエル・エドガートン”、監督デビュー作の『ザ・ギフト』では夫婦におぞましい悲劇を与える役を演じていて、ギャップが凄いです。本作を観た後に『ザ・ギフト』を観ると酷い気分になれます…。

個人的には「こいつらで大丈夫かな」感が漂っていた弁護士のコンビも、そこはかとなく愉快で気に入ってます。

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密かなサスペンスと車の意味

『ラビング 愛という名前のふたり』の監督は“ジェフ・ニコルズ”。2016年には『ミッドナイト・スペシャル』を監督しており、同じ年に2本も作品を公開。忙しいですね。

しかし、本作は“ジェフ・ニコルズ”監督のフィルモグラフィの中では史実ということもあり、異例です。“ジェフ・ニコルズ”監督作品といえば、基本はリアルなんですけど少し特殊な世界観設定が混じるのが特徴です。でも、本作にはそれもない。

また、物語上常に持続する「サスペンス」も“ジェフ・ニコルズ”監督作品の魅力なのですが、本作では一番サスペンスを生みやすいであろう「裁判」の要素をあえてサスペンスには使っていないのが意外でした。地元の裁判で負けた→州裁判でも負けた→後がない!最高裁では…勝った!拍手喝采のなかBGMもガンガン盛り上げて大団円! そういうことはしません。裁判劇にしようと思えばできたはずなのに。

でも、これは“ジェフ・ニコルズ”監督らしくもあり、そういうコテコテのサスペンスはあえて外してくる傾向がある人です。

一方で、本作にはサスペンスが全くないかというとそうでもなく。

例えば、本作は映画が始まっても異人種間結婚が禁止されているという情報は提示されません。一見すると仲睦まじい男女の生活を映すのですけど、でもどこか不穏。ワシントンDCでのあまりにもこじんまりした結婚式や、結婚許可証を額に入れてわざわざ飾る場面で、なんか変だぞという感じが高まっていきます。そこから夜の保安官の強襲、そしてダメ押しの「(人種の異なる結婚は)神の掟だ。自然の理だ。認めない」という強烈な言葉。観客は一気にショックを受けます。

また、車を使ったサスペンスも印象的でした。本作はやたらと車が出てくるんですね。冒頭のカーレースで白人グループに勝つことから始まり、車を使って地元にこそこそと侵入したり。露骨に車が怖さを見せる場面では、地元に出産で戻ってきたところに保安官の車がやってくるシーンや、子どもが轢かれるシーン、ラビング夫妻の隠れ家にものすごい勢いで車がやってくるシーン(友人でしたが)、そして追いかけてくる不審な車。とくに追走してくる車は謎のまま。夜に銃を持って待ち構えても何も起こらず。でも、本作の最後に「リチャードは飲酒運転の車に轢かれて亡くなった」と示されることで、なるほどと思いました。このしつこいくらいの車描写は、リチャードの死を暗示させる演出なんだと。

こういう説明的でないサスペンスが“ジェフ・ニコルズ”監督の持ち味であり、本作でも輝いていました。

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夫婦や人種への対等な愛

説明的でないサスペンス以外でも“ジェフ・ニコルズ”監督らしいなと思ったのが、「愛」の描き方です。

こういうラブストーリーというのは、たいていの映画はドラマチックに描くものです。ところが、『ラビング 愛という名前のふたり』はそういうことを一切していません。いかにも感動を煽る演出とかもなければ、感情的なシーンさえもなし。夫妻もセックスどころか、キスも劇中ではしてません。

普段からドラマチックなラブストーリーを見慣れている人は「地味だなぁ…」と思うぐらいでしょう。でも、これもしっかりした狙いがあるように感じました。

それは本作で提示する「愛」は、世俗的なイメージ、つまり外見だけの「愛し合ってますよ~」という行為ではない、もっと中身を見てほしいからではないでしょうか。それこそ表面的な肌の色では愛の有無を測れないことを示す本作のテーマとも一致します

ラビング夫妻は割と寡黙で交わす言葉も少ないのですけど、本作を観れば、「あぁ、確かに愛があるな」と実感させられます。愛の本質を見せられた気分です。この感覚、ドキュメンタリー『あなた、その川を渡らないで』と同じでしたね。ラビング夫妻も、うわべだけの行為で愛を示すことはありません。

それでいてリチャードは絶対にミルドレッドの意見や意向を尊重するのも印象的でした。地元に帰りたいとこぼす妻に、一言「OK」で返せる夫。こんな対等な夫婦もなかなかないでしょう。娘や弁護士いわく「喧嘩したところを見たことがない」そうで、まさにこの夫婦や人種への対等さこそラビング夫妻の魅力の全てです。

こういう家族の本質的な絆を見せるのもまた“ジェフ・ニコルズ”監督の持ち味。素晴らしい純愛の映画でした。

本作を気に入った人は、『ミッドナイト・スペシャル』など他の“ジェフ・ニコルズ”監督作品も見てみることオススメします。

『ラビング 愛という名前のふたり』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 89% Audience 76%
IMDb
7.0 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 8/10 ★★★★★★★★

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以上、『ラビング 愛という名前のふたり』の感想でした。

Loving (2016) [Japanese Review] 『ラビング 愛という名前のふたり』考察・評価レビュー