メリー・ポピンズ リターンズ
映画『メリー・ポピンズ リターンズ』(メリーポピンズ2)の感想&考察です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Mary Poppins Returns
製作国:アメリカ(2018年)
日本公開日:2019年1月25日
監督:ロブ・マーシャル

あらすじ

大恐慌時代のロンドン。バンクス家の長男マイケルは今では家庭を持つ父親となっていたが、バンクス家に金銭的な余裕はなく、さらにマイケルは妻を亡くしたばかり。そこへ追い打ちをかけるように、融資の返済期限切れで家まで失いそうになる大ピンチに陥ってしまう。そんな彼らの前に、あのメリー・ポピンズが風に乗って舞い降りてくる。

ネタバレなし感想

覚えていますか? あの魔法の言葉

「コミュニケーション能力が大事だ」とそれしか言えないかのごとく、そんなフレーズを繰り返すのが世間のお決まりですが(その状況こそがコミュニケーション能力がない気がする)、人間というのは完璧じゃないので言葉に詰まることもよくあります。

私も他人に「あの映画、どうだった?」と感想を聞かれたとき、そしてその映画が自分の中では全く面白くないものだったとき、いつも何と言えばいいか反応に困ります(映画好きなら割とある現象)。

そんなとき、これさえ言っておけばとりあえずその場しのぎになる“魔法の言葉”は役に立つもの。「誠に遺憾」とか「行けたら行くね」とか…便利な返答は世の中にいっぱいあって多用しがち。まあ、TPOによっては同じ言葉を連発して対処していると、相手の怒りを煽るだけになって炎上することもあるので注意が必要ですけど…。

いざとなったときに頼りになる“魔法の言葉”は、映画の世界からも生まれています。代表的なものが、1964年のディズニー製作のミュージカル映画『メリー・ポピンズ』に登場するこの言葉。

スーパーカリフラジリスティックエクスピアリドーシャス(Supercalifragilisticexpialidocious)」

この舌を噛みそうな長い単語は、その映画の主要キャラクターであるメリー・ポピンズがノリで競馬に参入して勝った後にレポーター達の取材を受ける場面で、自分の気持ちをうまく説明できないときに歌いだす曲にて登場(その曲の名前でもあります)。深い意味はなく、要するに自分や他者を誤魔化す言葉なのですが、リズミカルにこの言葉を歌いあげるこの曲はこの映画を象徴するミュージックとして大衆の人気を集めました。今で言うところの「電波ソング」ですよね。この映画では他にも「ちむちむにー、ちむちむにー…♪」でおなじみの「Chim Chim Cher-ee」といった耳になじむ名曲揃い。

作曲・作詞を担当したのは“シャーマン兄弟”で、『メリー・ポピンズ』で一躍有名になり、その後はディズニーパークにあるアトラクション「イッツ・ア・スモールワールド」のテーマソングである「It’s a small world」を作曲したりと、ディズニー関連で私たちの記憶に残る創作をしています。

その『メリー・ポピンズ』は当時のアカデミー賞では最多13部門にノミネートされて、作曲賞・歌曲賞を含む5部門を受賞した名作ですが、50年以上の時を超えてまたもや映画化されることになりました。それが本作『メリー・ポピンズ リターンズ』です。

「リターンズ」とタイトルにありますが、一応は続編という扱いになっています。ちゃんと1964年版の登場人物が引き続いて描かれており、1964年版に登場したバンクス家の子どもたちが大人になった時代の話です。昔を忘れかけた大人になったキャラクターの前にまたメリー・ポピンズが空からやってくる…。このかつて子どもだった者が大人になってまたもや幼少期を象徴する存在と邂逅するというプロットは、最近だと『プーと大人になった僕』でも見ました。
『プーと大人になった僕』感想(ネタバレ)…何もしない映画
ディズニーはこの手のパターンで往年の名作の続編を作りまくる気なのか…それもどうなんだ…。

ともあれ、本作でも1964年版からさらにパワーアップしたミュージカル・シーンがいっぱいですし、何も考えずにアトラクション・ショーのように楽しめる面白さがあります(でも「スーパーカリフラジリスティックエクスピアリドーシャス」は出てきません)。

何と言っても監督は『シカゴ』や『イントゥ・ザ・ウッズ 』などミュージカル映画を十八番とする“ロブ・マーシャル”ですから、そのクオリティは折り紙付き。ここにディズニーの贅沢な資金力が加われば…そりゃあ、もう、スーパーカリフラジリスティックエクスピアリドーシャスですよ。

前作を見ていなくても楽しめるので気楽に鑑賞してください。

予告動画






↓ここからネタバレが含まれます↓





ネタバレあり感想

物語の後に待つ悲劇の時代

私は本作を観る前に1964年の『メリー・ポピンズ』をかなり久しぶりに見直したのですが、それと並べてみると『メリー・ポピンズ リターンズ』はほぼオリジナルをなぞったストーリーラインでした。メリー・ポピンズがバンクス家にやってきて、子どもたちを楽しげに歌って踊って、また帰る…基本は同じ。なので、新展開を期待すると肩透かしかもしれません。

しかし、確実に変化を遂げている要素もあります。そのひとつが「時代性」です。

『メリー・ポピンズ』は、1910年のロンドンが舞台。当時のロンドンは繁栄を極めており、人口も急激に上昇。人で溢れかえっていました。そして、もうひとつの当時を象徴するものといえば、女性の権利をめぐる運動の活発化です。こちらの方の映画でも、冒頭、最初の歌でバンクス夫人が女性の参政権を歌い上げるという、ストレートな描写があります。考えてみると、その後に「ナニー(母親に代わって子育てをする女性のことで、主にイギリスで使われる)」としてメリー・ポピンズが颯爽と登場してくるわけですが、まさに常識にとらわれないスーパーウーマンであり、一種の理想的な新しい女性像として描かれているとも読み取れます。

一方の『メリー・ポピンズ リターンズ』。こちらはそれから25年が経過した1935年のロンドン。この時期は世界恐慌真っ只中であり、ロンドンも不況に苦しむ人が少なくありません。つまり、前作とガラリと世界の環境が変わっているんですね。

当然、この2作の間にもロンドンは重い歴史を経てきています。とくに第一次世界大戦。そうした“悲しい歴史”を暗に示すかのように、本作ではマイケル・バンクスの妻が亡くなっているというかたちで、この主人公家族に影が落とされているのも印象的。

そして、ご存知のとおり、本作の時代の数年後に第二次世界大戦が待ち受けるわけで。これから空襲でロンドンでも大勢の人が亡くなることを知っている観客にしてみれば、バンクス家はあのまま引っ越した方がいいのではと思ってしまいます。

その人類史最悪の惨劇が迫っていることを象徴するように、本作はガス灯夫のジャックが街の点々とあるガス灯の明かりを消していくシーンから始まります。また、作中で霧が立ち込める夜の街を子どもたちが怖がるシーンがあったり、終盤に時計台の大時鐘の明かりを消すシーンがあったり(第二次世界大戦中は爆撃機の標的にならないために明かりが消されました)、とにかくリアルのロンドンは暗い世界になっていって“暗い歴史”の到来を感じさせます

悲劇は回避できないけど…

そこでメリー・ポピンズです。

今回、メリー・ポピンズがまたやってくる理由は、表向きはバンクス家の危機だからという、前作を踏襲した流れです。でも、深読みするなら、世界全体に“良くない空気”が充満し始めたから…とも考えられます。前作では、変革する時代の先進的な象徴だったメリー・ポピンズが、今度は闇に堕ちていく時代の希望として降ってくるのです。これが今作で“リターン”してくる裏の意味じゃないでしょうか。

でも、魔法で摩訶不思議なことができるメリー・ポピンズでさえも「戦争を止める」ことはできない。それを示すかのように感じるのが、終盤の“家を差し押さえようとするウィルキンズ”に時間に間に合うように証券を見せに行く場面。ここでメリー・ポピンズは時間を巻き戻せないのですが、時計の針を少しだけ戻して時間稼ぎだけはしてくれるんですね。

つまり、そういうことなのでしょう。これからやってくる暗い時代をなかったことにはできないけど、それまでの間に“楽しい時間”を過ごさせて希望を与えることはできる…と。これは魔法で実現できる、せめてもの抵抗なのかもしれません。

ラストで、まるでそれまでのロンドンの暗さが嘘のように桜の舞う華やかな公園に集う住人たち。バンクス家だけでなく、他の住民までもが魔法にかかっていく。それは1935年のロンドンに希望を抱かせてこれから来る時代に絶望しないための活力にしてほしいという願いもあるでしょうし、今、現在を生きる観客(その中でも社会の暗さを実感している人たち)にも向けたメッセージでもあるはずです。

そう思うと、最後に去っていくメリー・ポピンズの姿は切ないですね…。

メリー・ポピンズ リターンズ

ディズニーの底力

しんみりした話になってしまいました。明るい話題をしましょう。

本作はミュージカル映画でなおかつファンタジー映画ですから、当然、演出や映像が見どころ。その点、さすがはディズニー。豪華です。

ディズニー実写作品では毎度のことですが、安易にグリーンバックのフルCG撮影に頼らず、実際にセットを作ってしまうのが凄いところ。序盤にメリー・ポピンズがバンクス家の子どもたちを風呂に入れるシーンで、各自が泡のバスタブに滑り降りるように飛び込んでいくあれは、メイキング動画でもありましたが、バスタブの下が滑り台になっています。ディズニーらしい愉快さで楽しいです。

また、メリー・ポピンズの“またいとこ”で修理屋を営むトプシーの「逆さま部屋」は本当に上下逆転した部屋の実物セットを制作。ロンドンの街並みもセット撮影を使っている部分も多いようです。序盤の凧が飛ばされていくシーンは、凧を糸で吊るして撮っているみたいですね。

しかし、やはり本作の華は、陶磁器に描かれたアニメーション世界に入り込むシーンでしょう。前作にもあった実写とアニメの融合シーンであり、『メリー・ポピンズ』といえばこれというほど象徴するものですが、今作では“ロブ・マーシャル”監督の強い要望で実現したとか(ディズニー上層部は乗り気じゃなかったらしい…)。まあ、簡単じゃありませんからね。わざわざこのために引退していた人を含む2Dのアニメーターを大量に用意して、あそこまでの映像が完成。この2018年・2019年にこんな映像が見られるなんてそうそうないです。ディズニーじゃないと無理な、夢のワールドでした。

なお、ディズニースタジオが手描きのアニメーションを使用したのは2011年のアニメ映画『くまのプーさん』以来だとか。次はいつ見れるのでしょうかね。

あなたも踊るんですか

役者陣も素晴らしく、主役となる、新しいメリー・ポピンズに変身してみせた“エミリー・ブラント”のハマりっぷりも見事です。

それ以外の注目点としては、往年の名俳優の出演が印象的。

例えば、前作でメリーの親友で大道芸人(煙突掃除人)のバートを演じた“ディック=ヴァン・ダイク”が、ミスター・ドース・ジュニアとして銀行の元頭取役で終盤にサプライズ登場。93歳ですよ。しかも、年を感じさせない軽やかなタップダンスまで披露しちゃって元気。魔法にでもかかっているのか。

あと、“ディック=ヴァン・ダイク”と偶然同年齢なのですが、“アンジェラ・ランズベリー”も最後にバルーン・レディ(風船売りのおばさん)としてサプライズ登場。彼女は『メリー・ポピンズ』に全然関係ないのですが、ミュージカル界のレジェンドなんですね。

ちなみに前作でメリー・ポピンズを演じた“ジュリー・アンドリュース”は、ゲスト出演をオファーされたものの「今回はエミリーが主役だから」と早々に辞退したとのこと。見たかった気もします。

“ロブ・マーシャル”監督いわく、まだまだ作品は広げられると続編に前向きなコメントを残していますが、どうなるやら。パメラ・L・トラヴァースの原作は8作品もあるので、ネタはあるんですよね。

定期的に魔法にリターンして嫌なことを忘れるのも悪くはないです。

ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 78% Audience 69%
IMDb
7.2 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 6/10 ★★★★★★

関連作品紹介

おすすめ PiCKUP!
↑『メリー・ポピンズ』…1964年に製作されたオリジナル。今も色あせない魅力があります。
(C)2018 Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved