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『メッセージ Arrival』感想(ネタバレ)…ドゥニ・ヴィルヌーヴは異星人

メッセージ

ドゥニ・ヴィルヌーヴは異星人…映画『メッセージ』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Arrival
製作国:アメリカ(2016年)
日本公開日:2017年5月19日
監督:ドゥニ・ヴィルヌーヴ

メッセージ

めっせーじ
メッセージ

『メッセージ』あらすじ

ある日、突如として地球上の各地に降り立った巨大な球体型宇宙船は、世界を大混乱に陥れた。言語学者のルイーズ・バンクスは、数学者のイアン・ドネリーとともに謎の知的生命体との意思疎通を試みる役目を担うこととなり、“彼ら”が人類に何を伝えようとしているのかを探っていく。

『メッセージ』感想(ネタバレなし)

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傑作製造マシーン“ドゥニ・ヴィルヌーヴ”

日本のSF映画ファンにとって垂涎の的となっている2017年の大作はおそらく『メッセージ』『ブレードランナー2049』の2作なのではないでしょうか(あとは『エイリアン コヴェナント』が入るかな?)。

恐ろしいことにこの2作はともに監督は“ドゥニ・ヴィルヌーヴ”。前に手がけた『ボーダーライン』もそうでしたが、あまりに評価の高い映画を連発するものですから、最近は“ドゥニ・ヴィルヌーヴ”と聞いただけで畏れおおくなってきた気がする…。“ドゥニ・ヴィルヌーヴ”という名前を知ったばかりの頃は覚えにくい名前だぁと軽い気持ちでいましたが、もうすっかり脳裏に刻み込まれましたよ。もはやちょっとくらい駄作を作ってくれるほうが安心するんじゃないだろうか(我儘な人の意見)。

本作『メッセージ』も米アカデミー賞では音響編集賞を受賞するにとどまりましたが、作品賞監督賞、脚色賞、撮影賞、編集賞、美術賞、録音賞にノミネートされており、あらゆる分野で高評価。政治的主張の強かったあの年のアカデミー賞でこのSF映画がここまで食い込めたのですから、あらためて相当な凄さを実感します。

一方、SF、SFと連呼してきましたが、本作はいわゆるよくイメージされがちなSFとは全然違う作品です。科学のロマン溢れる「科学サイコー!」な映画じゃないのです。

何が違うのか、ネタバレせずに説明するのは極めて難しいのですが、簡単に言ってしまえば『インターステラー』を「理系SF」と表現するなら、本作は「文系SF」なのです。なんといっても主人公が“言語学者”ですから。そのため、ストーリーも非常に文学的な色が濃くなってきます。これまでのドゥニ・ヴィルヌーヴ監督作品の作風自体も“文学的”や“宗教的”とさえいえるものが多く、解釈に難解さを生みやすかったのですけど、本作もその延長線上にあるといえるでしょう。

とまあ、いろいろ書きましたが、あまり難しく考えなくてよいです。ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督作品のなかではトップクラスに観やすい映画ですし、普通に謎の宇宙船の目的は何かというストーリーだけでもハラハラさせてくれます。なので老若男女にオススメです。まさかドゥニ・ヴィルヌーヴ監督作品でデートでも観られる映画が生まれるとは思わなかったなぁ…。個人的にはぜひ子どもにも観て欲しいところ。観終わった後に大人と語り合う、これ以上ない意義のある作品だと思います。

2017年屈指の見逃せない一作であることは間違いありません。音楽や音響が素晴らしく没入感が別格なのでぜひ劇場へ。

↓ここからネタバレが含まれます↓

『メッセージ』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(前半):戻ってきて

「あなたの物語はこの日、始まったと思っていた。記憶は不思議。色々な見え方をする。人は時の流れに縛られて生きているけど…。でも時に流れが無かったら…」

人々は騒然としていました。誰もがスマホやテレビ画面に釘付けです。

言語学者のルイーズ・バンクスはいつものように講義を始めようとしますが、出席者はまばら。ルイーズはさすがに奇妙だと思い、その場でニュースをつけると、異様な事態を報道していました。

世界各地に謎の巨大な物体が突如として現れたのです。政府の機密実験なのか、はたまた地球外生命体の飛行船か何かなのか…。情報は錯綜しています。そのとき、大学でもサイレンが鳴り、上空を戦闘機が飛びます。前代未聞の状況に社会は不安と混乱に包まれていました。

ルイーズはひとまず帰宅。家でひとり状況を見守るしかできません。報道によれば、正体不明の物体の高さは450m。世界で12隻確認済み。場所の理由や生命体の有無は不明。

翌日、大学に向かうも誰もおらず。非常事態宣言が発令しているので当然です。

職場の自室で報道を聞いていると、アメリカ軍のウェバー大佐という男がふいに訪ねてきます。どうやら2年前に軍でペルシャ語を訳した経験から自分にコンタクトしてきたようです。でもなぜ私が…?

そして大佐はおもむろに「これを聞いてほしい」とICレコーダーから音声を流します。

「なぜここに?」「英語はわかるか?」という男の声。その後に聞きなれないノイズのような音。「何者だ?」とまた男の声。するとまたも謎の音。

大佐は「どう思う?」と質問。察したルイーズは声の主の数を聞きます。「2体だ」…質問は他にもありましたが大佐はそれを遮り、「君ならどう解読する?」と問います。「単語やフレーズはあったか?」と…。

「これだけではわからない。直接彼らと話さないと…」「これは未知の言語だから」

こうしてルイーズは言語学者の第一人者として軍のヘリで現地へ向かうことに。

ヘリ内では物理学者のイアン・ドネリーも乗っていました。大佐は“彼ら”の要求と正体を知りたいようですが、イアンは科学的好奇心が隠せないようです。言語学者のルイーズとは話が合いません。

しばらく飛行していると軍の野営地が見えてきました。そしてそこには巨大な物体も…。静寂の中、ただ存在しています。

テントで医療検査を受け、予防接種もします。その後は作戦本部へ。世界中の対応部隊と連絡を取り合い、盛んに情報交換がなされています。

その“殻”にいられるのは112分までで、どうやら酸素の問題だということ。18時間経過しないと再び入れないこと。中にいる“彼ら”は「ヘプタポッド」と呼ばれていました。

そしていよいよ対面をすることに…。

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『コンタクト』と対極にある映画

ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督は異星人なんじゃないだろうか。私と同じ地球人とは思えない。「ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督は宇宙外生命体から特別な能力を授かっている」と言われても、全然驚かないです。
それくらい感銘を受ける素晴らしい映画でした。

ある日、突然、地球外生命体からの信号を発見して世界が大騒ぎになるなか一人の女性がそれを解読していく映画といえば、ロバート・ゼメキス監督の『コンタクト』(1997年)がありました。

確かに『コンタクト』と本作は似ているよなと観る前は思ってました。でも観終われば全然違う作品、どころか対極にあると言ってもいいくらいの作品だったなというのが印象です。『コンタクト』と本作との違いは大きくわけて3つあるかなと思います。

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理系も馬鹿にはできない文系

違いの1つ目は先述したとおり、本作『メッセージ』は「文系SF」だということ。一般的にSFの主人公は理系です。『コンタクト』の主人公だって天文学者でした。事実、SFといえば理系の人が好きなものというイメージでしょう。SFの「Science」は”理系の”サイエンスです。しかし、本作はこの土台からして違うわけです。

言語学者が主人公であり、言語学だからこその物語が展開する。非常に新鮮でした。”言語学”といキーワードでここまでスリリングな脚本が書けるとは…。恐るべし。本作の脚本を手がけた“エリック・ハイセラー”は、『遊星からの物体X ファーストコンタクト』や『ライト/オフ』などホラー映画畑の人で、ホラーテイストなストーリーテリングと”言語学”といキーワードが見事に噛み合ってました。本作がわかりやすいのはこのホラーテイストも貢献していると思います。

往々にして理系の人は文系の人を小馬鹿しがちな気もしますが、いやぁ、全然馬鹿にできないですね。むしろ、本作を観て、地球外生命体と対話する夢を持った子どもたちが言語学者を目指すようになると嬉しいなぁ…。

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コミュニケーションの真価

違いの2つ目はテーマです。

『コンタクト』は『コンタクト』で「科学と宗教の違いとは?」というこれまた哲学的なテーマに挑戦している意欲作です。だから「科学vs宗教」というわかりやすい対立構造がありました。

一方の本作は「コミュニケーションとは?」という別のベクトルで難しいテーマ。コミュニケーションというのは科学にも宗教にもあって、それらをつなぐもの。『コンタクト』が「点」の物語なら、本作は「線」の物語です。

しかも、人間と地球外生命体とのコミュニケーションという本筋をとおして、人間同士のコミュニケーションの問題さえにも示唆を与えるものになっていて、このへんはさすがドゥニ・ヴィルヌーヴ監督。

そして、コミュニケーションにはわかりやすい対立構造がないんですね。国と国、上司と部下、夫と妻…誰とでも意思疎通が上手くいかなることはありますし、結果、網目のように対立が生まれます。

あのシェルの周辺に設置された軍隊の基地は、いわばミニスケールの地球。いろいろな言語が飛び交うなかで、コミュニケーションの齟齬で一触即発の事態になる…これはもちろん今の社会情勢にもぴったり当てはまるわけで、このタイムリーさも本作の評価の高さの決め手なのは言うまでもないでしょう。

個人的にはそういうスケールの大きい話も大切だと思いますが、それ以上に最近は「コミュ力」なんて言葉があるようにコミュニケーションという言葉が安易に扱われ過ぎな気もしていたので、本作であらためてコミュニケーションを科学で問うことでその価値が確認できたのも大きい意義ではないでしょうか。本作を観て「コミュニケーションについて考えさせられた」という人がいるのは良いことじゃないでしょうか。命令したり、詰問したりするためじゃない…“世界を広げること”。今一度、コミュニケーションの意義を心に刻み直したいところです。

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大衆向けにはしない

3つ目の違いが、大衆向けにはしていないこと。『コンタクト』は良くも悪くも若干大衆向けにしているところはあります。これは好みの問題ですが、私なんかは大衆向けに受けそうな要素をてんこ盛りにした映画は、媚びすぎな感じがしてちょっと嫌です。

しかし、本作『メッセージ』はびっくりするくらいクール。例えば、よくありがちな男女のロマンス。本作ではなんと物語の終盤で初めてロマンス要素があることを観客に知らせる大胆なつくりです。これはさぞかし宣伝は辛かったろうに…。「宇宙船が運んだロマンス」とかキャッチーなフレーズが使えれば、一般観客も呼び込みやすいのに、ネタバレ厳禁となるとそれができない。なにしてくれてるんだ、ドゥニ・ヴィルヌーヴ!という感じですが、それを平気でやっちゃうあたりが、さすがドゥニ・ヴィルヌーヴ!

本作の原作は、テッド・チャンの短編小説「あなたの人生の物語」ですが、原作タイトルさえネタバレになるのは困りますよね。

ともあれ「ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督、凄いな」という言語力ゼロな感想で締めたいと思います。

『ミッドナイト・スペシャル』に続いて、2017年個人的ベスト10に食い込むであろう傑作SFでした。

『メッセージ』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 94% Audience 82%
IMDb
7.9 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 10/10 ★★★★★★★★★★

作品ポスター・画像 ©Sony Pictures Japan

以上、『メッセージ』の感想でした。

Arrival (2016) [Japanese Review] 『メッセージ』考察・評価レビュー