Mute ミュート
Netflix映画『Mute ミュート』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Mute  
製作国:アメリカ 
製作年:2018年 
日本では劇場未公開:2018年にNetflixで配信 
監督:ダンカン・ジョーンズ 

【個人的評価】
 星 3/10 ★★★

あらすじ

近未来のベルリン。クラブでバーテンダーとして働くレオは子どものときの怪我で声を発することができない。しかし、レオにとって唯一の救いとなる恋人さえいれば何も問題はなかった。ところが、最愛の恋人が突然の失踪。その行方をつかむ鍵は、混沌を極める裏社会に隠されていた。声を失った男の静かなる戦いが幕を開ける。

ネタバレなし感想

今度はSFノワール

“ダンカン・ジョーンズ”監督、あなたもNetflixに参戦ですか。

長編映画デビュー作『月に囚われた男』で批評家から高く評価され、一躍有名となったこの監督。そんな彼が、『月に囚われた男』を企画する以前から温めていて、本当はこちらの方が先に製作したかったといっていた映画。その夢を遅れながらも叶えさせてくれたのがNetflixでした。

それが本作『Mute ミュート』です。

一応『月に囚われた男』の「精神的続編」だと監督は語っていますが、つながりは小ネタ程度などで、あまり気にしなくていいと思います。

“ダンカン・ジョーンズ”監督といえば、初期作の『月に囚われた男』や『ミッション: 8ミニッツ』がシチュエーション・スリラー風のサスペンスだったので、そういうのが得意の人なのかなと思っていたのですが、別にそうではないようで。

続く3作目として手がけた『ウォークラフト』は世界的に人気な(日本を除く)ファンタジーゲームの映画化で、巨額の予算をかけてCG満載の映像で作り上げ、アメリカではイマイチだったものの、中国市場で大ウケしたため、「ゲーム実写映画で最も売れた作品」になりました。“ダンカン・ジョーンズ”監督、なんでも大のゲーム好きらしく、その愛が炸裂したかたち。
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つまり、“ダンカン・ジョーンズ”監督は結構、引き出しの多い人のようです。そんな彼にとって『Mute ミュート』はおそらく想いの詰まった映画なのでしょう。

ジャンルとしては、『ブレードランナー』的なSFノワールということになるのかな。

主演はあの知名度の高いターザンをリブートした実写アドベンチャー『ターザン:REBORN』で、筋肉ムキムキのボディを披露したスウェーデン人俳優“アレクサンダー・スカルスガルド”。今作では残念ながら筋肉を駆使するキャラクターではないのですが(でも戦うし、裸体は見れるけど)、声を出せなくなった男を演じているため、表情がやたらとアップになります。イケメン顔を拝めますね。最近、『バトルシップ』にも出演していたことを知りました。気付かなかった…。

共演で、主人公と対になる存在を演じるのが“ポール・ラッド”です。今やすっかり「アントマン」ですが、以前はコメディ俳優で、今回、久しぶりにコミカルなキャラに戻ってきた感じ。実に楽しそうにヒゲ面の奇妙な男を演じています。

あとは“ジャスティン・セロー”が印象的なキモい医者役で登場。本当に気色悪いです。“ジャスティン・セロー”は『スター・ウォーズ 最後のジェダイ』にもマスター・コードブレイカーという役で出演したのですが、全然出番がなかったですからね…。今作ではたくさん見られます。

ヒロインを演じる“Seyneb Saleh”はドイツの女優で、日本だとほとんど聞いたことがありませんが、すでに映画に何作も出演している人らしいです。

2時間を超える、ちょっと長めの作品なので、時間があるときにどうぞ。






↓ここからネタバレが含まれます↓





ネタバレあり感想

さすがデヴィッド・ボウイの息子

本作でまず特筆すべきは世界観。

近未来のベルリンが舞台で、華やかなネオン街などの世界観はもろに『ブレードランナー』『フィフス・エレメント』に近いものがあります。ただ、舞台はそれだけでなく、普通の住宅街も出てきたりして、かなり格差を感じさせます。また、未来的なガジェットも登場しながら、残存し続ける俗的な文化や産業も並行して描いている感じは、いかにもディストピア風。

とくに「性」に関する描写のこだわりが非常に強いです。主人公のレオがバーテンダーとして働くクラブではポールダンスするロボットがいたり、芸者の格好した珍妙な男がベッドでロボット同士をガシャンガシャンさせていたり、インパクト大でした。個人的には全く需要を感じませんが…『ブレードランナー 2049』の恋愛コンパニオン・ホログラムの方がよっぽど良いのだけど…。

この描写のカオス感、さすがデヴィッド・ボウイの息子“ダンカン・ジョーンズ”監督なだけはあるなと思ってしまいました。好きなものを全てぶち込んだ感じですね。

あとちょっとゲームっぽい世界観だとも思ったし、これは“ダンカン・ジョーンズ”監督のゲーム好きが関係してるのかなとも思ったり。

アーミッシュの意味

ディストピア性でいえば、ひとつ謎なのがアメリカとの関わり。舞台はドイツ・ベルリンのはずですが、妙に英語の文字ばかりだし、それに「アメリカ兵史上最大の脱走者数」という新聞記事があるように、アメリカ兵への取り締まりが強化されているあたり。ドイツはアメリカに占領でもされているのでしょうか。それとも強い影響下にあるだけなのかな。

それと関係するのが、レオです。彼は「アーミッシュ」だと呼ばれています。一般的にはアーミッシュとはアメリカやカナダに暮らすドイツ系移民のことで、農耕や牧畜など自給自足の自然な生活にこだわる民族です。確かにレオもアナログな暮らしにこだわっているようでしたし、序盤のナディーラからのプレゼントでスマホっぽい端末に初めて触れたり、テレビを見ようとしない姿を指摘されたり、相当にデジタルを避けていました。彼が世間に疎い感じが漂うのも、声を発せない障がいが理由というだけでなく、アーミッシュだからなのかもしれません。

仮にレオもこの私たちの知っているアーミッシュの意味でいいのだとしたら、やっぱりドイツはアメリカの土地になっているのか…?

Mute ミュート

Netflixの功罪

とまあ、こんな感じの雑多な感想を述べたものの、正直、本作にはのれるかというと…う~ん。

一言で本作を表現するなら「mishmash」。“ごちゃごちゃ”なのです。

世界観が非常にカオスなのは一目瞭然ですが、そこで展開される物語も結構複雑。観客の誰もがてっきりレオを視点に物語が進むと思っていたでしょうが、わりとビル・カクタスとダックの視点も入ってくるため、事実上、3人の群像劇スタイルにも見えます。

ここまでは別に良いのです。問題は3人の物語の収束地点がわかりづらいことです。この3人は独自行動が多く、最終的に彼らの行動が交差するのは本当に終盤になってからです。ナディーラをついに発見したレオはビル・カクタスを怒りのままに殺す。レオはダックの施術によって新たな声を授かる。レオはタッグを絞めあげて溺死させる。この3つのオチにいたるまでが長すぎるというのも欠点ですが、3つのオチを無理くり関連させたような性急さを感じました。

新たな声を授かるパートとかは、とくにとってつけた展開に思えます。そもそもそんな都合の良い技術があるなら、レオはその治療でもっと早くから声を取り戻せたのではと思ってしまうし…ちょっと反則ですよね。

もちろん声が重要なキーワードなのはわかります。タイトルにある「mute」は「無言」を意味します。これは当然、子どものときの怪我で声を出せなくなったレオのことです。一方で、レオの愛しの女性ナディーラもまた重要な秘密を黙っていました。そして、レオと最終的に大きなつながりを持つ“あの子”も言葉を使いません。また、ビル・カクタスもまたその最期はナイフを首に突き立てられて声を失うというものでした。

でも、あまりうまく活かせているとは思えなかったかな…。まあ、世界観の全容がわからないので、納得いく設定があるのか、プロットの穴なのか、よくわからないのですけど。

とにかくこの“ごちゃごちゃ”したシナリオをシュッと縮めることはできたのではないでしょうか。

本作を観て、思ったことがひとつ。Netflix製作も一長一短だなということ。

Netflixの製作体制はクリエーターに自由にやらせてくれるというのはよく聞きます。当然、その方がクリエーター側は好きに創作に打ち込めるので良いのでしょう。製作や配給企業の“注文”を気にしすぎて、ダメになっていった映画もたくさんありますから。

でもクリエーター外からの意見だって、決して全否定するものでもないでしょう。製作や配給企業、テスト試写で生じた作品への“注文”が、適格なアドバイスであれば、それは作品のクオリティアップには欠かせないものです。

やっぱり大事なのは言いたいことを言い合えるチームですよね。“ダンカン・ジョーンズ”監督の映画づくりには「無言」ではなく「言葉」がいるかもしれません。

©Netflix