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『アウトロー・キング スコットランドの英雄』感想(ネタバレ)…Netflixが贈る歴史大作

アウトロー・キング スコットランドの英雄

スコットランドの歴史を知る…Netflix映画『アウトロー・キング スコットランドの英雄』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Outlaw King
製作国:イギリス・アメリカ(2018年)
日本では劇場未公開:2018年にNetflixで配信
監督:デヴィッド・マッケンジー

アウトロー・キング スコットランドの英雄

あうとろーきんぐ すこっとらんどのえいゆう
アウトロー・キング スコットランドの英雄

『アウトロー・キング スコットランドの英雄』あらすじ

イングランド王のエドワード1世の圧政下にある中世スコットランド。民から慕われるロバート・ザ・ブルースは、服従か抵抗かの選択を迫られる。それは自分たちよりもはるかに力を持つ相手との壮絶な戦いの幕開けを意味していた。

『アウトロー・キング スコットランドの英雄』感想(ネタバレなし)

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スコットランドの歴史を知ろう

イギリスに観光に行く際に気をつけなければいけないことは何でしょうか? 食事がマズい? 公共交通機関が遅れる? 治安が悪い?

それも注意するに越したことはないですが、コミュニケーションの際は安易に「イギリス人」という言葉を使わないほうがいいかもしれません。ましてやテキトーに「イギリス=イングランド人」という認識で、地元の人に接すると大変な気まずい思いをすることも。

イギリスの正式名は「グレートブリテン及び北アイルランド連合王国」であることからもわかるように、イングランド、ウェールズ、スコットランド、北アイルランドの4つの国で構成されています。これは地域ではなく「国」です。日本の「北海道、本州、四国、九州」みたいな地域分けとは次元が違います。

当然、それぞれイングランド人、ウェールズ人、スコットランド人、北アイルランド人がいて、独自の文化を持っています。それだけならいいのですが、残念というか複雑なことに、この4つの地域は戦争によって争いあってきた歴史を抱えています。まあ、簡単に言ってしまえば「仲は決して良くない」ということです。

だから、スコットランド人に対して「イングランド人」と呼んでしまえば、怒ったり不快な態度を示す人も普通に存在します。

「そんなの昔の話でしょ?」と思うかもしれませんが、独立運動というのは今なお話題にあがり、最近でも2014年に行われたスコットランド独立住民投票では独立に賛成が44.7%、反対が55.3%でした。これに加えて例のブレグジットです。イギリスは少なくとも今の“カタチ”は長くは続かないかもしれませんね。

前置きが長くなりましたが、そのイギリスに属するスコットランドの歴史を知るうえでぴったりな映画が、本作『アウトロー・キング スコットランドの英雄』です。

Netflixオリジナル作品として配信された本作ですが、とてもスケールが大きく、1300年代のスコットランド独立戦争で活躍したロバート・ザ・ブルース“クリス・パイン”主演で映画化しています。

この時代の映画といえば、1995年のメル・ギブソン主演・監督作『ブレイブハート』が有名ですが、こちらはウィリアム・ウォレスという同じくスコットランド独立のために戦った男の話。『アウトロー・キング スコットランドの英雄』よりはそれと重なりながら、その少し後の時代を描きます。なので2作品を並べて鑑賞するのも良いでしょう(ただし、歴史のアレンジが加わっているので微妙に2作の辻褄が合わない部分もあります)。

監督は、2016年の『最後の追跡』が非常に高い評価を得た“デヴィッド・マッケンジー”

“デヴィッド・マッケンジー”監督はスコットランド人なのですけど、前作の大成功もあって母国の歴史大作を手がけられる切符を手に入れた感じでしょうか。

映像の迫力があるので、なるべく大画面で観るのがオススメです。

↓ここからネタバレが含まれます↓

『アウトロー・キング スコットランドの英雄』感想(ネタバレあり)

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映画開始以前の出来事

『アウトロー・キング スコットランドの英雄』は1304年からスタートします。

それ以前に何が起こっていたのか。歴史に関してさほど知識のない私ですが、調べた範囲で簡単に説明したいと思います。

まずこの以前のスコットランド王国はスコットランドで最も偉大な王の一人と称される「アレグザンダー3世」によって統治され、比較的平穏でした。イングランドとの関係性も良好で、スコットランドはノルウェーと戦っていたのでした。しかし、後継者となるはずの男子を次々失い、そのまま1286年に死亡してしまったことで、王位継承者は不在に。苦肉の策でアレグザンダー3世の長女マーガレットがノルウェー王に嫁いでもうけた孫娘マルグレーテを王位につけます。こうして誕生したのがスコットランド初の女王マーガレットなのですが、年齢はわずか3歳。何もできません。

それをチャンスと見たのがイングランドの王「エドワード1世」です。自分の息子であるイングランド王太子エドワード(プリンス・オブ・ウェールズ)とマーガレット女王を婚約させ、事実上の同君連合を実現しようと狙います。ところが、1289年にマーガレット女王が7歳の若さで死亡。スコットランドは王位が空席になってしまいます。

このスコットランドの王位継承者をめぐって13人もの人間が名乗りをあげたことで状況は混乱。最も有力な候補は「ジョン・ベイリャル」「ロバート・ザ・ブルース」でした。内戦になりかねないなか、やはりこれを好機ととらえたイングランドのエドワード1世は上手くこの地を支配しようと画策。

しかし、それに異を唱え、民衆の支持を集めたのが「ウィリアム・ウォレス」です。1297年、ウォレスの先導で反乱が勃発。第一次スコットランド独立戦争が起こります。しかし、翌年のフォールカークの戦いで敗北。ウォレスはなおも抵抗を続けましたが、勢いはおさまります。

そして、映画の冒頭につながります。1304年、ウォレスを除く全スコットランドの指導者が降伏し、エドワード1世に服従を誓うのでした。

まあ、要するにスコットランド内部が王位継承問題のせいでグダグダな人間関係になっており、それが原因で本作でも描かれているように、ロバート・ザ・ブルースを中心になかなかまとまらない状況に結びつくのです。

この歴史的背景を知っておくと、本作の理解がグッと深まるはずです。

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贅沢な映像の仕上がり

こういう中世歴史モノは、『ブレイブハート』の時代と比べて最近はハードルが上がっていると思います。というのも、『ゲーム・オブ・スローンズ』のように同じような世界観でプラス“ファンタジー”である作品が、非常にハイ・クオリティな形で映像化されて、大衆から支持されているわけです。一般観客の目は相当肥えています。生半可な映像では満足しません。

そのためなのか、本作もかなり作りこまれた映像が魅力となっています。

まず冒頭のスコットランド貴族たちがエドワード1世のもとに集められて忠誠を誓わされているシーン。ここはそのままエドワード2世とのじゃれ合いのような決闘、巨大な投石器による見せしめ攻撃と、ワンカットなシームレス映像で世界観を一気に観客に見せます。ちゃんとこの部分で必要最低限の歴史上の人物の人間関係も描かれているので、そこらへんもスマートな部分ではないでしょうか。

また群衆の戦闘シーンも迫力があり、夜間に野営を火の矢で奇襲される場面や、湖岸での強襲を受ける場面、そして終盤のぬかるんだ湿地帯での待ち伏せ決戦と、VFXをほどよくまぜた緊迫感とボリューム感のある映像はじゅうぶんな見ごたえです。「ウォー・ウルフ」と呼ばれるカタパルトが顔見せ程度で終わったのは残念ですが、映画の掴みとしてはバッチリ。

ちゃんと暴力表現にも抜かりなく、絞首刑からの腹かっさばきで内臓ボロボロとか、トラップで馬もろともガンガン串刺しになるなど、目を背けたくなる凄惨なシーンもたっぷり。イングランド軍に捕まった女性たちが恥辱を受ける場面もしっかり描いていました。ちょっとイングランド勢が悪者すぎる気もしますが、味付けとしてはこれくらいは普通なのかなと。戦争ですし。

ロバート・ザ・ブルースを演じた“クリス・パイン”と、その妻エリザベスを演じた“フローレンス・ピュー”のベッドシーンも用意されており、裸体サービスショット的なあたりのちゃっかりしているところも、『ゲーム・オブ・スローンズ』を意識しているのかな?と邪推したくなりますね。

製作費は1億2000万ドルほどらしいですが、Netflixもずいぶん金のつぎ込みに勢いが出てきたなと痛感させられた映画でした。まあ、全部Netflixが金を出したわけじゃないでしょうけど。それでもここまで大規模な作品構築ができてしまうほどの影響力を、既存の巨大な映画会社ではないイチ企業が行使するというのは、さながら作中のようにイングランドに反撃するスコットランドみたいなものです。今後のアメリカ映画界はこういう新旧の企業の2極化が激しくなるのでしょうか。

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英雄譚としては普通?

映画の方に話題を戻すと、ただ、お話としてはわりと可もなく不可もなくなストレートな歴史モノであり、歴史を学ぶという意味では機能するものの、映画としての深みは乏しいかなと思わないでもなかったり。

ファンタジーだったらまだしも史実ですから、この題材をどう掘り下げて、現代社会にどんな提示を与えるのか、そこを気にするのはある程度、当然。

本作の場合はそこに関する深い掘り下げや新機軸の視点も見受けられなかったので、結果的に「スコットランド万歳!」みたいな映画で終わってしまった感じもあります。その点が気になって、少し魅力が薄いと思う人も出てくるのはしょうがないかなと。

先にも書いたように映像は素晴らしいのです。キャストもあの世界観にマッチした名演を披露していました。特に個人的には「我はダグラスだー!」のジェームズ・ダグラスを演じた“アーロン・テイラー=ジョンソン”と、小物臭が漂いながらも父への複雑な想いを垣間見せたエドワード2世を演じた“ビリー・ハウル”が良かったです。あの人間臭い姿がいいですね。

ちなみにラストのラウンド・ヒルの戦いの敗北の後、英国史上最低の王と言われたエドワード2世はなかなかに悲惨な人生をおくります。同性愛者だったとも記録があり、その波乱万丈の人生は、1991年のデレク・ジャーマン監督の『エドワードII』という映画でも描かれているので興味ある方はどうぞ。私としてこのエドワード2世の方が人間的な面白味のあるキャラで興味がひかれます。

少し脱線しましたが要は、本作の主人公ロバート・ザ・ブルースがあまりにも普通の“良い人”すぎて、キャラに深みがないのが気になってしまったかなと。だから脇役の方が面白そうに見えてしまいます。

とはいっても綺麗な映画化でしたので、スコットランド史を知る入門編としてはじゅうぶん興味深い一作でした。他のスコットランド史を描いた映画と合わせて鑑賞するのが良いでしょう。

Netflixもいつか日本の時代劇を作ったりするのかな…。

『アウトロー・キング スコットランドの英雄』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 56% Audience 78%
IMDb
7.2 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 6/10 ★★★★★★

作品ポスター・画像 (C)Netflix アウトローキング

以上、『アウトロー・キング スコットランドの英雄』の感想でした。

Outlaw King (2018) [Japanese Review] 『アウトロー・キング スコットランドの英雄』考察・評価レビュー