レッド・スパロー
映画『レッドスパロー』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Red Sparrow  
製作国:アメリカ  
製作年:2017年 
日本公開日:2018年3月30日 
監督:フランシス・ローレンス 

【個人的評価】
 星 4/10 ★★★★

あらすじ

怪我でバレリーナになる道を絶たれたドミニカは、ロシア政府が極秘裏に組織した諜報機関の一員となり、自らの肉体を使った誘惑や心理操作などを駆使して情報を盗み出す女スパイ「スパロー」になる。やがてドミニカは、ロシアの機密情報を探っていたCIA捜査官ナッシュに近づくというミッションを与えられ、騙し合いを繰り広げていく。

ネタバレなし感想

ハニートラップはいつの時代でも有効

世界中にはさまざまな職業が無数に存在していますが、実態がさっぱりわからない職業も珍しくありません。その代表格が「スパイ」でしょう。とくに国家に所属するスパイは未知です。まあ、実態がわかってたらスパイとして機能しないので、当然なのですが。

そのせいか映画などのフィクションの世界ではスパイは散々好き勝手にアレンジされまくっている印象です。本名をあっさり名乗って女遊びしているだけな気がする“ジェームズ・ボンドさん”とか、どう考えてもお前はスパイじゃなくてスタントマンだろうというアクション・バカの“イーサン・ハントさん”とか、優秀なのか狂っているのか判断に困る人たちばかりじゃないですか。しかも、やたらと暴走したり、爆発したり、目立っているし…。実際はスパイの面汚しですよ。まあ、そんなアイツらを観るのが私は好きなのですけどね。

しかし、そんなスパイもどきは置いといて、実際のスパイは地味なことばかりをしているともいいます。では具体的に何をしているのか。諜報活動の代表例として挙げられるのが「ハニートラップ」つまり色仕掛けです。そんなの効果があるのか、ましてやスパイを熟知している相手なら難しいのでは?と思うかもしれませんが、人間の欲というのはそう簡単に都合よく理性でコントロールできるものではないのでしょう。ハニートラップは昔から、そしておそらく今でも利用されているスパイの常套手段です。

そんな諜報におけるハニートラップだけに焦点を当てたスパイ映画が本作『レッド・スパロー』です。

主演はまさに美貌を武器にする女優である“ジェニファー・ローレンス”。監督はそんな彼女と『ハンガー・ゲーム』シリーズでタッグを組んだ“フランシス・ローレンス”監督(監督したのは2作目以降)。これはもう安定のペアです。

繰り返しますが、本作はハニートラップだけに焦点を当てています。女スパイ映画だと最近はシャーリーズ・セロン主演の『アトミック・ブロンド』がありましたが、あれとは中身は真逆です。
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『ハンガー・ゲーム』の監督だからといって、アクションを期待するとガッカリするので気を付けてください。

その分、ハニートラップの部分はガッツリ描かれ、“ジェニファー・ローレンス”初(?)の全裸シーンを披露。しかも、脚をガバッと広げて誘うという、『ウルフ・オブ・ウォールストリート』のアイツでなくとも直視不可避な状況が映し出されます(肝心の“部分”は見えないですよ、もちろん)。

完全に“ジェニファー・ローレンス”ありきの映画ですから、彼女のファンは必見でしょう。上映時間140分と長めで、映像的には地味なので、そこは俳優愛でカバーしてください。






↓ここからネタバレが含まれます↓





ネタバレあり感想

いつも酷い目に遭うのがお約束

“ジェニファー・ローレンス”はなんでいつも作品中では酷い目に遭う女性役ばかりなのでしょうか。日本では劇場未公開だった『マザー!』はとくに壮絶でしたが、今作もそれには及ばないものの、なかなかのハードなスタートでした。
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“ジェニファー・ローレンス”演じるのは、ボリショイ・バレエ団でプリンシパルを務めるロシア人女性のドミニカ。真っ赤な衣装を身にまとい、晴れの舞台で優美なパフォーマンスを披露していると、まさかのアクシデントで脚を骨折、脚が変な方向に曲がって痛々しく苦しみます(あんな風に簡単にポッキリいくものなのですかね?)。

ちなみに同じくバレエを描く映画でナタリー・ポートマン主演の『ブラック・スワン』。「色+鳥」というタイトルも一致していますが、この手の作品では必ず付き物の話題が「ボディダブル問題」。いわゆる演者の替え玉ですね。一応、本作は“ジェニファー・ローレンス”がかなりのシーンを演じているそうで、本人もみっちりトレーニングを重ねたとか。まあ、バレエのシーンがほんとに序盤の頭だけだったので、本作はバレエ映画と呼ぶほどではないですけど。

飛べなくなった鳥も同然に、完全にバレエの世界から身を引いた彼女は、それでも病気の母親の治療費を工面するという事情もあって、手に職を付けなければいけない状況に。そこに手を差し伸べたのは、ロシア情報庁の幹部である叔父のワーニャでした。このワーニャを演じた“マティアス・スーナールツ”、凄く某国のトップの人に顔が似ている気はしましたけど、ベルギー人なんですね。

はい、話を戻して、ワーニャに半ば誘導されるように仕事を受けたドミニカ。それはある要人を“誘惑”すること。そして、ほぼレイプされかけたその瞬間、突如現れた人物によって、彼女の人生は闇の世界へと引きずり込まれるのでした。

ここからドミニカのハニートラップ専門のスパイ人生の始まりです。

レッド・スパロー

ジェニファー・ローレンスの凄さ

ハニートラップをメインにした映画なだけあって、エロティック方面で攻めた過激な描写が多い本作。

通称「スパロー」と呼ばれるスパイ養成学校での講義も、主な目玉は“保健”の授業(実技)。ドミニカは最初は戸惑っていたものの、しだいにその実力を発揮し、やがては講義の最中に男の前で全裸になって股を開くまでに成長。「ヤれるものならヤってみなさいよ」と言わんばかりの自信たっぷりなスズメになったのでした。

本作のこの主人公を“ジェニファー・ローレンス”が演じていることについて、私たち観客は彼女の過激な姿が見られると喜んでいればいい気楽な立場ですが、当人はかなりのリスクがあります

もともと「セックスシンボル」と昔はもてはやされて人気を獲得する女優もいましたが、今の時代はどちらかといえばそれは“良くないこと”とみなす方向に傾き始めており、しかも、昨年のワインスタイン問題によってハリウッドにおける性への視線はより一層厳しいものになっています。

ましてや“ジェニファー・ローレンス”といえば、若いときから大胆な役柄に挑戦しており、イベントで身についている衣装が過激すぎるとリアルでも批判されることもしばしば。本作でも、性的に搾取される古い女性のイメージを引きずっているという厳しい意見を一部で受けているようです。

しかし、性的に搾取されることの苦しさを“ジェニファー・ローレンス”が理解していないはずはありません。『ワンダー・ウーマンとマーストン教授の秘密』の言葉を引用するなら、「美人というのは身体上のハンデ」ですよ。
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しかも、彼女は少し前にニュースになったITサービスのセキュリティ不備によるヌード写真流出事件の被害者のひとりであり、実際に酷い目に遭っているわけですから。

本作のキャスティングでは監督とじゅうぶんに演じる内容について協議したうえで、仕事を引き受けたそうですが、きっと私たちなんかが想像する以上の葛藤があったに決まっています。単純にこの仕事を「女としてカッコいい」とかそんなチャラチャラした動機ではやっていないでしょう。しかし、それこそハニートラップを行っていた実在のスパイ女性たちと重なるものがあり、フィクションなのですが妙な説得力を生んでいます。

要するに、“ジェニファー・ローレンス”は凄いってことです。

セクシーよりも大事なこと

一方で、本作はその“ジェニファー・ローレンス”の身を犠牲にした努力に100%答えているかというとそうでもないのが問題で…。

映画的には単調です。もちろんシナリオ上のサスペンスやどんでん返しはありますけど、それは表面的なことであって、個人的にはイマイチ。

一番気になるのは本作におけるハニートラップの扱われ方。結局、股を広げるとか、過激な水着を着るとか、そういう「性的に目立つことをするのがハニートラップ」みたいになっていましたけど、そういうものでいいのだろうか。相手が欲情にすぐ身をゆだねる人ならヤッホーイ!ってなるでしょうけど、性的経験のない童貞とか、セックスより映画の方が好きですみたいなアホとかだったら、効果ないよと思ったり。私だったら「新作映画の試写が当たりました」と言われるほうが、ホイホイついていきそうです(ダメです)。

ハニートラップというとあれですが、水商売と考えればわかりやすいとおり、やっぱりこの手の仕事に必要なのは性的な魅力よりもコミュニケーションですよね。そう考えると、スパロー養成学校のシーンも、その後の現場のシーンも面白味は薄いなと。もっといろいろなハニートラップの在り方を見せてほしかったですよね。相手によって手段を巧みに使い分けていくとか。

あとは単純に性や暴力面での過激さが弱いなと。本作は映倫区分「R15+」ですけど、まだ『シェイプ・オブ・ウォーター』の方が過激なことをしてましたね。バリカン皮膚めくりの刑とか、映像にしっかり映せばいいのに…。

全体的にダークな雰囲気ありきで中身の薄い、まるでスーパーマン系DC映画のような失敗コースを辿った一作だった感じでしょうか。

せめて『悪女 AKUJO』くらい、映画の押しとする特徴を全面に出して振り切ってくれればなぁ…。
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