search サーチ
映画『search サーチ』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。 

原題:Searching 
製作国:アメリカ(2018年)
日本公開日:2018年10月26日 
監督:アニーシュ・チャガンティ

あらすじ

16歳のマーゴットが突然姿を消し、行方不明事件として捜査が開始されるが、家出なのか誘拐なのかが判明しないまま時間だけが経過する。娘の無事を信じたい父親のデビッドは、マーゴットのPCにログインするなどして、情報を集めるが…。

ネタバレなし感想

なんでも検索できる時代に生まれた映画

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それもこれもインターネットが「検索」という行為で成り立っているがゆえ。情報があらゆるかたちでつながり、それらを検索できる。便利でもあり、危うくもある。それを受け入れるかどうかを選ぶ時代ではもはやなく、どう付き合うかを考えることが強制されている。そういう世の中です。

そんなインターネットと私たちの関わりを巧みな視覚的アイディアを用いて映画で表現し、批評家らも称賛された作品が本作『search サーチ』です。

宣伝でも散々使われているように「全編PC画面」ということがこの作品の最大にして唯一の特徴。画面に映っているのはパソコンの画面だけで、そこからカメラが動くことなく100分以上の物語が進んでいきます。

ただ、ひとつ言っておきたいのは、その部分の要素だけで本作は革新的だと言われているわけではありません。実は「全編PC画面(ほぼPC画面)」の作品は本作が初めてではありません。2014年には『ブラック・ハッカー』『アンフレンデッド』という2つの同じアプローチの作品が存在し、『search サーチ』は先駆者ではないのです。

この「PC画面(スマホやタブレットでもいいですが)」という映画の演出は、いわゆる「ファウンド・フッテージ」の系譜に連なる新ジャンルといえます。POVと呼ばれる1人称視点系やカメラで撮った記録映像だけで物語を展開するタイプの映画は、最近になって急速に広まった流行りでした。でも、これには欠点もありました。ぐらぐら映像が動くので見づらく酔いやすいこと、そしてなぜこんな状況で撮影し続けているのかという余計な疑問が浮かんでしまうこと。この難点をクリアしているのが、「全編PC画面」です。現代人なら多くの人が身近に見ている画面(まさにこのブログを読んでいる、この画面です)。一見するとそんなのずっと見せられたら退屈じゃないかと思うのですが、さまざまな便利なウェブサービスの登場によってPC画面だけでもできることが格段に増え、この新ジャンルの後押しになっているのは言うまでもありません。

では、この『search サーチ』の高評価の理由は何か? それはスマートだからなのだと思います。詳しい話は「ネタバレあり感想」で書きますが、本作はとにかく語り口が上手いです。日本の宣伝側では、SNSの闇を描くような作品のように思わせる雰囲気を出していますが、そういうのがメインではありません。ましてやジャンルの先輩である『ブラック・ハッカー』や『アンフレンデッド』のように、ホラー的な演出でトリッキーに驚かすものでもないのです。『search サーチ』の話自体は古典的なミステリーサスペンスです。行方不明になった娘を“捜す”と“検索する”の2つをかけているからこのタイトルなのですが、そうやって見せるのか!という驚きの連続

監督は“アニーシュ・チャガンティ”というインド系アメリカ人で、なんと1991年生まれの27歳ですよ。Google Glass(メガネ型のデバイス)で撮影した短編『SEEDS』で注目を集めた人物(その動画は公式で普通にネットで見られるので興味のある人は“検索”してください)。本作が長編映画デビュー作。IT世代の若い才能がITを駆使して映画界に新風を巻き起こす…凄い時代になったものです。

万人が楽しめる作品なのでぜひどうぞ(ただし、デジタルとは完全に縁のない生活をしている人には意味不明な作品に見えると思いますけど…)。あと注意として、画面の情報量がとにかく多いので、ワンシーンワンシーンを見過ごさないように鑑賞するのがオススメです。

予告動画

※予告動画に致命的なネタバレはありません。





↓ここからネタバレが含まれます↓





ネタバレあり感想

IT時代のヒッチコック

“アニーシュ・チャガンティ”監督、天才かよ…。それが本作を最初に見終えた時の感想。本当にただその一言。繰り返しになりますけど、とにかく語り口がスマートすぎます。隙が無さすぎてひくぐらいです。

まず冒頭。懐かしい古いWindows画面の起動画面からスタート。何だろう?と思って見ていると、どうやらある家族が初めてパソコンを買って、初期設定しているようだということがわかります。父・デビット、母・パメラ、娘・マーゴットの3人。そこからこの家族の辿った歴史が、写真や動画を通して映し出される姿はさながら思い出のホームビデオのよう。ところが、「悪性リンパ腫と戦う方法」を検索するなど少し不穏な空気。そして最後は…。

正直、この冒頭6分くらいの導入部分だけで感情を揺さぶられました。『インサイド・ヘッド』を思い出しましたね。ここでこの家族に観客を感情移入させることで、その後の物語に入り込みやすくさせる効果もあって見事に術中にハマりました。加えて、カレンダーで「Mam comes home」の予定の日付をドラッグしてずらし、最後は「Delete」…という一連の流れといい、音声や動画ではない非説明的な演出を組み入れる上手さ。家族のドラマに感動し、監督の天才っぷりに感動し、もうこの時点で大変でした。

母を失って月日がたち、父・デビットが娘・マーゴットを捜す、メインのサスペンスが始まります。これ以降も幾度なく非説明的な演出が巧妙に冴えわたります。

例えば、割と最初の場面。何か謎めいた光の揺らめきが映し出されて「なんだ!?」と思ったら、スクリーンセーバーのアニメーション。その画面上にマーゴットから電話2回、FaceTime1回の通知。事件の始まりを告げるわけです。このスクリーンセーバーのアニメーションで観客の不安感を煽るという演出は斬新ですね。あのアニメーションがあるのとないのとでは、全然違いますから。

これは頻繁に利用されていた演出ですが、チャットなど文字をうつ画面で、実際に送信する文章と、入力したけど送信せずにした文章で、デビッドの本音が見えるのも、この映画設定ならでの心理描写テクニック。

他にも、古いパソコンにログインしたときに、アンチウィルスソフトの「最終使用から●日目が経ちました」という通知で時間経過を表したり。はたまたどんどん汚く散らかっていくデスクトップ画面のファイルでデビッドの精神状態を表したり。

その手があったか!という演出に舌を巻きます。その手法も古典的なサスペンスをITを用いて純粋にバージョンアップしたもの。下手すれば某IT企業のオシャレなセンスのCM動画みたいになりかねないところを、しっかり映画の文法に従っているので、古参の映画批評家も満足すわけです。“アニーシュ・チャガンティ”監督は「IT時代のヒッチコック」と呼んでも言いくらいに思う、素晴らしい手腕でした。

映画の最後は「シャットダウン」で締める。気が利いているなぁ…。

search サーチ

そのヒントに気づけたか?

サスペンスと言えば、本作の真相…ローズマリー・ヴィック刑事の息子ロバートのいざこざが原因で結果的にマーゴットが崖底に転落してしまい、ローズマリーが隠蔽工作をした…は、物語の序盤から種明かしがされていました。ローズマリー&ロバート、ランディ・カートフの関係性については、作中でも写真でハッキリ明示されていたとおり。実はそれ以外にも、転落して遭難したマーゴットが助かるという映画のオチも序盤に提示されていたのは気づいたでしょうか。本当に序盤も序盤、デビッドがピーターに連絡する前、見ていたニュースサイトに「シエラネバダ山脈で9日生き残ったハイカー」のニュース記事が一瞬映るのです。“被害者は生存してますよ~”という露骨な暗示ですね。

こんな風に本作はとにかく画面の情報量が多く、どんどんいろんな文字やら画像やら動画やらツールやらが現れては消えを繰り返すので、観ている側としては一度では把握不能なのですが、細部までしっかり作り込んでおり、無駄はありません。それどころかヒントさえ潜ませる、製作者の遊び心があります。

これは私も気づかず、インターネット・ムービー・データベースを見て初めて「なるほど!」と思ったのですが、デビッドがYouCastにアクセスして娘の過去のキャスト動画を見るシーン。「fish_n_chips」というユーザーと会話しているマーゴットが映ります。この女性のアイコンの「fish_n_chips」こそが事件の黒幕であり、“なりすまし”なわけですが、マーゴットの興味をひくためにポケモンの話題をするんですね。そこで「fish_n_chips」は「カクレオン(Kecleon)」がお気に入りのポケモンだと答えています。この「カクレオン」というポケモンは、カメレオンの姿をした生き物で、姿を変えて背景と同化する偽装ができる能力を持っているんですね。つまり、正体を暗示させるヒントとして製作者が仕込んだのでしょう。

もっといっぱい小ネタがありそうなので、ぜひ一時停止しながら観たいものです。

より良い検索ができるように

個人的には、この手のインターネットを題材にした映画にありがちな「ネットの闇」とか「SNSの危険性」に焦点をあてすぎていないのが良いなとも思ったり。

もちろんインターネットのネガティブな側面も表現はしています。マーゴットのfacebookになんだかんだで迂回しながらもログインできてしまったり、SNSの「友達」が実はたいして関係性が薄っぺらい存在だったり、事件が世間に公になってからネット上にあることないこといろいろ書かれたり、本作の事件の核心でもある「なりすまし」の問題だったり…。

でも、そのマイナス面をことさら露悪的には描きません。そこはさすが今のIT時代を生きる若者です。上から目線な説教はしないのですね。

本作は家族の物語であり、最終的にはITというツールは家族の仲を深めることにもなるよということを示すようにチャットで締めくくられます。よくインターネットは本当のコミュニケーションじゃないだとか語る人もいますが、本作はそんな偏見にとても実直に答えています。コミュニケーションの良い悪いはツールで決まるのではなく、相手とどう向きあうかだと。なりすましばかりじゃない、照れくさい本音の言葉を大切な人に贈ることもできると。

そして、タイトルの「search(サーチ)」に戻りますが、私たちが毎日検索している情報。たいていは視界にはおさめるものの、何気ないスクロールなどの動作でスルーするものが大半。でも、その情報の裏には想像もつかないエピソードや想いが込められているということを本作は教えてくれます。安易にクリックしたり、リツイートしたり、まとめたりするのもいいですけど、たまにはその出来事の中身に想いをはせるのもいいですよね。きっと今よりももっと深い“サーチ”ができます。

エンドクレジットのラストには原題の「Searching」の文字。今もあなたのことを誰かが“サーチ”していることを思わせる演出でドキッとします。

最後にこのブログに“サーチ”してたどり着いて読んでくれた皆さん、ありがとうございました。また来てください。

ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 93% Audience 89%
IMDb
7.8 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 8/10 ★★★★★★★★

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