新感染 ファイナル・エクスプレス
映画『新感染 ファイナル・エクスプレス』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Train to Busan 
製作国:韓国 
製作年:2016年 
日本公開日:2017年9月1日 
監督:ヨン・サンホ 

【個人的評価】
 星 7/10 ★★★★★★★

あらすじ

ソウルを出発してプサンに向かう高速鉄道KTX。この車両には、さまざまな立場の人が乗り合わせていたが、その中にはソウルでファンドマネージャーとして働き、妻と別居中であるソグと、その幼いひとり娘のスアンの姿もあった。いつものように出発したかに見えた列車だったが、ソウル駅周辺では不審な騒ぎが起こっていた。

ネタバレなし感想

ゾンビ列車は止まりません

2017年7月にゾンビ映画の巨匠“ジョージ・A・ロメロ”が他界してしまいました。ひとつのジャンル映画の礎を築いた人であり、その功績は計り知れません。どれだけ数多くのゾンビ映画が生まれたことか…。いまだに「ゾンビ」と聞いたらそれだけで映画を馬鹿にして見なくなる人がいるのかもしれないですが、そんな人はそもそもゾンビ映画を楽しめるタマじゃないので気にしなくていいのです。創始者が亡くなっても、ゾンビ映画は永遠に不滅です。

そんなゾンビ映画の魂を引き継ぐ、また新しいゾンビ・パンデミック映画の名作が誕生しました。それが本作『新感染 ファイナル・エクスプレス』です。

本作は韓国映画で、世界中で高評価を獲得。韓国映画というとお嬢さん哭声 コクソンなど今年も尖った傑作が目立ちますが、本作はそうした人を選ぶ強すぎる個性は抑え目で、どちらかといえば万人受けするほうです。普段、韓国映画なんて全然見ないという人にも非常にオススメしやすい作品となっています。

舞台が列車であり、シチュエーション・スリラーになっている本作。ちなみに邦題の「新感染」は「新幹線」とひっかけた、ウマいのかスベッているのかわからないセンスですが、列車と言っても新幹線ではありませんので。とにかく高速列車が舞台で、そう聞くとポン・ジュノ監督の『スノーピアサー』を思い浮かべますが、それと同じように列車という特殊な環境を利用したサスペンスやアクションの連続で、実に楽しいです。『スノーピアサー』よりはリアル寄りなので、『スノーピアサー』はファンタジーすぎてちょっと…という人は本作の方が合うかもしれません。

また、ホラーが苦手という人も本作は見やすいのではないでしょうか。その理由は、まず、本作は群像劇であり、ビジネスマン、子ども、妊婦、老人、学生、ホームレスとさまざまな列車の乗客の視点で描かれており、感情移入がしやすい点がひとつ。次に、韓国映画お得意のドラマチックな展開も用意されており、映画で“感動したい”人の需要にもこたえるものになっている点。さらに、ゾンビといってもそんなにグロい映像がないのも見やすさにつながっています。アイアムアヒーローのようなグッチャグチャにはなりませんから(それを期待していた人は残念ですが…)。

適度な恐怖と飽きさせないスピード感のある見やすい作品がお望みなら、本作は真っ先に最有力候補にすべき映画です。皆で観れば「お前ならどうする?」と盛り上がれること間違いなしでしょう。






↓ここからネタバレが含まれます↓





ネタバレあり感想

満腹になれる列車フルコース

本作はホラー映画でよくありがちな動物を車で轢くシーンから始まります。しかし、轢き殺されたはずのシカが不気味にムクムクと立ち上がって…このオープニングが個人的には最高です。欲を言えば、後半にゾンビシカが再登場して、大勢で列車に激突してきたらもっと最高だったのですが…それは私の妄想の中にとどめておきます…。

序盤の不穏感を煽る描写も非常に秀逸ですが、そこからの列車でのパンデミックがあれよあれよという間に拡大していき、逃げ惑い、次に救助のために攻めていく。この一進一退のサスペンスアクションが本作は非常に素晴らしいです。同じ列車内アクションの『スノーピアサー』は攻める一方でしたが、本作は逃げて攻めて逃げて攻めての繰り返しで、そこはオリジナリティがあって良かったと思います。逃げ方も列車の荷物棚を使ったりと、列車という環境を最大限に活かしていましたし、実際にできそうだなと思わせてくれますよね。

本作の感染者は、『ワールド・ウォーZ』と同様に集団ダッシュ系ゾンビですが、狭い列車環境では怖さが倍増。車両を画面いっぱいに濁流のように押し寄せる姿や、終盤の列車の後ろに集団でしがみついて引きずられる姿など、映像的な恐怖は文句なしです。『ワールド・ウォーZ』の完全CG丸出しなゾンビと違って、それぞれに人間っぽさを感じるのがまたいいです。

とりあえず列車関連でできるアクションは全部やった感じで、おなか一杯になりました。

老人に見せ場を作れる凄さ

人間ドラマが見せ場でもある本作は、俳優陣の名演も光っていました。

『トガニ 幼き瞳の告発』の名演もいまだに印象に残っている“コン・ユ”は相変わらず子どもを守る姿に迫真さがありましたし、ゾンビを拳で跳ね飛ばしていく“マ・ドンソク”は相変わらずの肉体でしたし、バット片手に戦っていく野球部員の“チェ・ウシク”も若々しい葛藤に胸をうちますし…。このそれぞれに守るべき女性がいる3人の男が攻め入っていくシーンはアがりますね。

もちろん女性陣も素晴らしく、とくにあの老姉妹。老人ってどうしてもこのタイプの映画だと足手まといになりがちですが、最後にあんな見せ場を用意してくれるとは…

配役と同じ名前の“キム・スアン”は、韓国映画界の子役のパワーをまた見せつけてくれました。というか、もう20本以上の映画・TVドラマに出演している子なんですね。どうりであの貫禄ですよ。

でも、個人的に一番は、本作を観た誰しもが殴りたいと思うであろうCOOの男を演じた“キム・ウィソン”かな。韓国映画はこういうキャラクターを作るのがほんとに上手いですよね。

新感染 ファイナル・エクスプレス

見え隠れする民族分断のテーマ

ゾンビ映画というのは、その製作国の事情や文化が色濃く反映されるものです。例えば、イギリスの『ロンドンゾンビ紀行』という映画は、労働者階級に焦点をあてています。

本作は日本人が普通に観ても楽しいですが、やはり韓国映画なだけあって韓国人の心に響く内容となっています。具体的に言えば、朝鮮半島が長年抱える「民族分断」の問題への暗喩となっているのが本作の特徴。後半の扉をめぐって、開けさせようとするソグたち側と、開けさせまいとするヨンサク側の対立はまさにそれですし、ラストのトンネルを歩くソンギョンとスアンを射殺するかしないかの葛藤もそう。どうして同じ立場のもの同士が対立してしまうのか、どうしたら信頼できるかわからない他者を理解し合えるのか…本作の投げかけるメッセージは韓国人には突き刺さるものでしょう。

このテーマとその描き方は私も素晴らしいと思った分、終盤の父子の別れパートはウェットすぎる感じもして個人的には若干残念でしたが、そこは好みしだいかな。

とにかく韓国映画の出来の良さをまた刻み込むと同時に、ゾンビ映画の可能性がまだまだあることを示してくれる良作でした。

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