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『ナイスガイズ!』感想(ネタバレ)…トイレのドアはちゃんと閉めましょう

ナイスガイズ

トイレのドアはちゃんと閉めましょう…映画『ナイスガイズ!』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:The Nice Guys
製作国:アメリカ(2016年)
日本公開日:2017年2月18日
監督:シェーン・ブラック
ナイスガイズ!

ないすがいず
ナイスガイズ

『ナイスガイズ!』物語 簡単紹介

シングルファーザーで酒浸りの私立探偵マーチは、腕っ節の強い粗雑な示談屋ヒーリーとコンビを組み、失踪した少女の捜索をすることになる。その少女が消えた理由は単なる家出のようなものでもなく、何か事件性がある匂いがしていた。マーチの13歳の娘ホリーも加わりながら、捜索は少しづつ進んでいくように思えたが、やがて国家を揺るがす闇深い巨大な陰謀へとつながっていく。
この記事は「シネマンドレイク」執筆による『ナイスガイズ!』の感想です。

『ナイスガイズ!』感想(ネタバレなし)

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残念だけどナイスな奴ら

アメリカ大統領に就任したドナルド・トランプは、強いアメリカ経済を取り戻そうと躍起になっています。アメリカ経済の黄金期といえば、自動車産業が急成長していた1940年代~1960年代。そして、そのアメリカ自動車産業に陰りが見え始めたのが1970年代です。この時期に起きた、自動車増加による深刻な大気汚染や交通事故、そしてオイルショックによって、質の高い自動車が求められるようになり…結果、アメ車はヨーロッパと日本に惨敗。つまり、1970年代はアメリカがハメは外していた最後の時期であり、以降、どんどん“残念”になっていた転換点といえます。

その1970年代が舞台になっているということを踏まえて観ると、本作『ナイスガイズ!』の時代感に一層入り込めるのではないでしょうか。

そう、『ナイスガイズ!』という映画はアメリカの1970年代の要素がたっぷり凝縮された作品です。

バディ映画であり、私立探偵と示談屋の男二人が手を組み、カッコよく巨悪を倒す…と思いきやそうは問屋が卸さない。私立探偵は酒まみれのヘタレ、示談屋は何でも暴力で解決、なんとも残念な奴らです。そんな奴らですから、普通に事が進むはずもなく…。

イマドキのアクションとは一味違う、1970年代クラシカルな痛快ドタバタ&ハチャメチャ路線コメディとなっています。ギャグとアクションの混ぜこぜ感がちょっと「ルパン三世」っぽい気もします。邦画だと『探偵はBARにいる』シリーズがまさにそれ。これらの作品が好きな人は楽しいと思います。基本、気が抜けた作品なのでハマる人はハマるという好みをくすぐる映画じゃないでしょうか。

監督は『リーサル・ウェポン』(1987年)の脚本家で有名な“シェーン・ブラック”。最近だと『アイアンマン3』の監督と脚本をつとめました。『ナイスガイズ!』は子どもが物語の鍵になるのですが、『アイアンマン3』も同じでしたね。

本作は、主演の“ラッセル・クロウ”と“ライアン・ゴズリング”がとにかくいい味を出してます。明らかに旧時代的な「力こそ全て」みたいな生き方をしてきたであろう男を完璧に体現できる“ラッセル・クロウ”と、明らかにイマドキな「力とかより、ほら、他にあるじゃん?」みたいなナヨナヨな、いわゆる草食系な感じの男そのものな“ライアン・ゴズリング”。これ以上の凸凹コンビがあるのかというベストバディがとにかく見ていて楽しい。

どうせ今月は『ラ・ラ・ランド』で“綺麗”なライアン・ゴズリングが見れるのですから、今回くらい“残念”なライアン・ゴズリングを堪能しておくのもいいのではないでしょうか

↓ここからネタバレが含まれます↓

『ナイスガイズ!』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(前半):死んだはずのポルノ女優の謎

1977年、カリフォルニア州のロサンゼルス。喧騒溢れる街から少し離れた静かな邸宅。夜の暗闇に室内の光が浮かぶ中、その邸宅ではひとりの少年が父の部屋のベッドの下からポルノ雑誌を盗み出し、満足そうに眺めます。そこで見開きで掲載されているのはたポルノ女優のミスティ・マウンテンズの艶めかしい全裸。キッチンを離れた瞬間、家に1台の車が突っ込んできました。

すぐに外を見に行くと車内から投げ出された女性。見覚えのある胸をさらけだしています。一言喋って息絶える女性にあの雑誌に載っていたポルノ女優でした。

ところかわって、ジャクソン・ヒーリーという近寄りがたい空気を放っているグラサン男が13歳の少女を昼間から監視していました。この少女は大人の男と付き合っているようで、ヒーリーはその男の顔面をパンチ。「未成年に手を出すな」と言葉を吐き捨てて。ヒーリーは示談屋です。破綻した結婚関係に終わりをつけるのが仕事です。

一方、部屋でのんびりくつろぐホランド・マーチという男。テレビではデトロイトの自動車製造業協会のバーゲン・ポールセンがインタビューを受けており、排ガス規制について三大自動車メーカーに対して訴訟が進行中という話題が…。でもマーチは聞いてません。というかなぜかスーツ姿のままバスタブで水に浸かっています。マーチは私立探偵です。

妻を亡くして以来、酒に溺れ、今では娘にも呆れられています。協議離婚の制度が整ったので仕事は減りました。今はろくな依頼もありません。

その頃、ヒーリーはアメリアという女性から嗅ぎまわってくる男を倒してほしいと新しい仕事を頼まれます。ターゲットの名前は「ホランド・マーチ」。

マーチはアメリアを探していました。利用したと思われるバーでクレジットカードの情報を教えてほしいと頼むも断られたので、やむを得ず夜にドアを破って侵入。しかし、ガラスを破ったときに予想以上に腕から出血し、緊急搬送。

ヒーリーはマーチがいると思われる家に到着。何も知らないマーチが現れて、玄関でいつもどおり顔面パンチ。「アメリアを捜すのをやめろ」…マーチはあっさりと仕事を依頼してきた主について喋ります。リリー・グレンというおばあさんで姪を探しているのだとか。なおも抵抗するマーチの左腕をサクっと折り、痛めつけます。

ヒーリーが家を出ると少女がやってきます。マーチの娘のホリーです。

しかし、ヒーリーは何者かに襲われます。

マーチは依頼主であるリリーに「あなたの姪のミスティはこの前の事故で死亡しており、アメリアという別の女性をミスティと誤認しただけではないか」と説明します。それでも「窓越しにハッキリ見た。青いピンストライプの上着を着てた。事故の2日後よ」となおも諦めない依頼主。

この事件には裏があることをまだこの男たちは知りません。

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オチは観客だけが知っている

まず、オープニングから観客の心をグワッと掴んでくるインパクトがNiceです。

深夜の家で親のエロ本こっそり持っていき、ポルノ女優のおっぱいにうっとりしていた少年の前に、突然、車がドーン!で、エロ本のポルノ女優まさにその人が投げ出され、おっぱいがポローン! そっと服をかけてあげるのがまたいいですね。

しかも、このオープニングは結構秀逸で、本作のアクションとコメディのノリがよく表れているほか、車とポルノ女優という物語のキーワードが全て詰まっている…2度観たとき「ああ、なるほど」と気付ける気の利いた仕掛けだったのでした。

『ナイスガイズ!』はコメディですが、ちゃんと脚本や伏線が丁寧に構成されており、見た目はふざけまくってるわりに意外にやります。

ただ、そんな手の込んだ話だとは気づかせないくらい、本作のネタが尽きないギャグの連続がとにかく面白い。とくにホランド・マーチを演じる“ライアン・ゴズリング”。こんなコメディセンス溢れる役者だったのかと思うほど、笑わせていただきました。ドアのガラスを割ろうとして予想外の大量出血や、股間を隠しながらのトイレのドアをバタンバタンとかの、ドタバタギャグ。あとは、腕をあっさり折られての「アーーーーッ」や、ポルノ大富豪の豪邸での乱痴気パーティで死体発見時の「ヒ、ヒィーリィィーー」などの、声ギャグ。ギャグのセンスとしては子どもでもわかるレベルのスラップスティックなんですけど、間の演出と役者の演技力でとても愉快に仕上がっていました。

これに“ラッセル・クロウ”演じるヒーリーが加わることでの化学反応も素晴らしく、本作の場合はさらにマーチの娘もいい感じでバカなので、楽しさが何重にも倍化して最高でした。

一応、ストーリー上は後半になるにつれどんどん巨悪の存在が明らかになっていきシリアスになるのですが、あくまで主人公たちは巻き込まれているだけ。なので、愉快さが最後まで継続しているのも良し。

一方で単なる愉快爆笑おバカ映画ではないのも忘れてはいけません。

1977年のロサンゼルスという設定も前述したとおり大事な部分。光と影が入り乱れるアダルト業界に身を投じるポルノスターと、同じく表裏のある巨大な経済を回している自動車業界。『ナイスガイズ!』はそんな2者の業界を上手く絡めつつ、決してその業界事情の堅苦しい解説は一切せず、それでいて業界に変にすり寄ることもなく、軽妙にからかってみせる。このバランス感覚が私は何よりも大好きですね。

例えばアダルト業界をひたすらエロエロに過激に描くなんてことは誰でも思いつきそうですが、本作はそうはしません。でも単にレーティングを気にして日和っているわけでもなく、ちゃんとおっぱいポロンってやってくれます。しかし、上手く言葉にできませんが、この映画自体がアダルトな世界を題材にするからと言って、変にダメな大人風にハシャギまくることはしていないというか、そこは一歩引いている感じ。業界の空気感に惑わされることなく、ちゃんと風刺しますよ…というスタンスは貫いています。だから嫌みがない。

その立ち位置を象徴するのがやっぱり主役の二人。どちらも人間としても男としても良い部分よりもダメな部分が目立つ、そんな奴らです。けれども、絶対に超えない一線は守っているという、そここそが“ナイスガイズ”なのであって…。変な言い方ですけど、ハードボイルド的な旧時代の男イメージを良い意味で更新して現代に通じる“男”像を描くという観点でも、何気に新しいことをしている映画なのではないでしょうか。バカだけど、案外、中身はクレバーなんです。

『ナイスガイズ!』は騒動の解決としてはあんまり悪は滅びずというオチで、カタルシスは乏しいです。アクション大作のようなド派手な大番狂わせスペクタルシーンも用意はされていません。でも、劇中で「どうせみんな日本の自動車を買うようになるさ」と言っているとおり、現実のオチを私たち観客は知っているのでこれでいいのでしょう。なによりあの二人らしいスタンスだと思います。

笑えて、でも真面目な風刺をちょっぴり混ぜている。ナイスガイズたちをもっと見ていたい…。

今のアメリカを舞台にあの二人の男(&一人の少女)にはもうひと暴れしてほしいものです。

『ナイスガイズ!』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 93% Audience 79%
IMDb
7.4 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 8/10 ★★★★★★★★

作品ポスター・画像 (C)2016 NICE GUYS, LLC

以上、『ナイスガイズ!』の感想でした。

The Nice Guys (2016) [Japanese Review] 『ナイスガイズ!』考察・評価レビュー