アンダー・ザ・シルバーレイク
映画『アンダー・ザ・シルバーレイク』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Under the Silver Lake 
製作国:アメリカ(2018年)
日本公開日:2018年10月13日
監督:デヴィッド・ロバート・ミッチェル

あらすじ

ロサンゼルスのシルバーレイク。夢を抱いていたはずだが、今では職もなく家賃を滞納する男サムは、隣に住む美女サラに恋をするが、彼女は突然失踪してしまう。乏しい情報の中、サラの行方を捜して街をさまようが…。

ネタバレなし感想

カルト映画界隈を揺るがす“それ”がやってきた

何気なく空を見上げたとしましょう。そこに普段は見慣れない不思議な雲があったとします。そんなとき、あなたはどう思うでしょうか? 「変わったカタチの雲が見れて、ラッキー♪」とかでしょうか、それとも創作のインスピレーションが湧いたりするでしょうか、もしくは何事も考えることなくスルーでしょうか。でも、中にはこういう人もいます。「あれは“地震雲”だ」と。

毎年、何かしらの災害に見舞われる日本。それに呼応するように、夢中になる人が増えていくのが災害予知です。とくに地震雲にハマる人は後を絶ちません。地震雲の明確な定義はなく、人によって“私の考える地震雲理論”があり、三者三様。

ハッキリ言って科学的根拠は全くありません。でも、ハッシュタグ「#地震雲 」でちょっと覗いてみるとわかりますが、ほぼ“毎日”誰かしらが地震雲を見たと報告しています。毎日見られるなら、地震雲と大地震の関連性はないことを証明しているじゃないかと思わなくもないですが、地震雲信者の耳には届きません。

こういう迷信や陰謀論に憑りつかれる人は昔から大勢います。それ自体、別に悪いことだとは思いません(他人に迷惑をかけない限り)。そういう心理もまた、“人間らしさ”なんじゃないでしょうか。

そんな迷信や陰謀論に満ち溢れている場所の筆頭といえば「ハリウッド」です。もう少し範囲を広げるならロサンゼルスですね。映画や音楽などポップカルチャーの生まれでる地。なぜこの場所がそこまで迷信や陰謀論を刺激するのか。それは華やかさを表の顔だと認識するからなのでしょう。表があればきっと裏もあるはずだ…ついついそう考えてしまうのもわかります。

そんなこの地のダークな裏側世界に踏み入れる映画はこれまでもいくつかありましたが、本作『アンダー・ザ・シルバーレイク』はその“暗黒ハリウッド”モノの最先端にして、異様な個性を放つ一作です。

監督は数年前に突如出現した新鋭“デヴィッド・ロバート・ミッチェル”。とくにこの監督の名を一躍有名にしたのが『イット・フォローズ』です。ある行為をきっかけに謎の“それ”に追いかけられるさまを描いた、ジャンルとしてはホラーなのですが、でも明らかに既存のホラーのようなエンタメ性とは離れた道を進んでいく不穏感。とにかくなんとも形容しがたい映画でした。また、この前作で監督長編デビュー作の『アメリカン・スリープオーバー』も青春映画というジャンルでくくれるのですけど、でも不思議な味わいがある作品。つまり、“デヴィッド・ロバート・ミッチェル”監督は、安易なジャンル映画ではない、常に独自の色を持った映画ばかりを作る人なんですね。

その“デヴィッド・ロバート・ミッチェル”監督の最新作である『アンダー・ザ・シルバーレイク』。私も鑑賞前から相当にヘンテコな作品なんじゃないかと身構えていたわけですが、いざ実際に観れば、私の想定をはるかに上回る強烈さでした。「な、なんだこれは…」というのが正直な感想。明らかに前2作とは比べ物にならないハチャメチャっぷりです。

観た人はデヴィッド・リンチ監督の『マルホランド・ドライブ』を連想した人も多いと思いますが、そのとおりで完全に“デヴィッド・ロバート・ミッチェル”監督はデヴィッド・リンチ路線を走る、最も新しい才能になっていますね。カルト映画界隈のカリスマとして着席を果たしたと言っていいでしょう。これは今後も熱烈なファンが付き纏いますよ。

ということなので(いや、全然作品の説明をしてないよと思うかもしれませんが、簡単に紹介できないです)、どう考えたって万人ウケはしないのですが、それも当然の映画。一応、2018年のカンヌ国際映画祭のコンペティション部門に正式出品されて、無冠に終わったのですが、出品されるだけでも狭き門を突破した凄いことですし、その特異性は評価されているんですけどね。ちなみに、最初に一般公開されたのはフランスで2018年8月です。でも、肝心のアメリカでは2018年6月に公開を予定していましたが、2018年12月に延期し、さらに2019年4月に再度延期しました。なので、現時点で本国の反応があんまり揃っていないのが残念です。

とりあえず地震雲を見るよりも、この映画を観るほうが変わったモノが見られるのは確かです。

予告動画






↓ここからネタバレが含まれます↓





ネタバレあり感想

スパイダーマンになりそこねた男

最近はハリウッドを舞台にした印象的な映画として『ラ・ラ・ランド』がありました。あれもハリウッドという地の闇を薄っすら示してはいましたが、基本は『スター誕生』のような昔から続く王道路線。なので、“暗黒ハリウッド”モノ好きからすれば小綺麗に美化された作品と受け取られるのも無理はない映画です。ただ、その“美化”がある一点において究極的にオシャレかつアーティスティックに完成されているのが『ラ・ラ・ランド』の素晴しさだったので、あれはあれで良いのですけどね。

対する『アンダー・ザ・シルバーレイク』は、そういう常識的な美感覚とはかけ離れた、ハリウッドの魔界を見せてくれます。それこそどんな美女でも内臓をかっさばけばグログロなように、そしてそのこぼれ出る内臓を「綺麗だね~」と見惚れられる悪魔的美感覚を要求される、そんな映画に感じます。

まず主人公のサム。この男の存在感がもう「あ、コイツはハリウッドの表舞台には出てきそうにないな…」と一発で思わせるリアルさがあって良いです。年齢的にはまだ若く、じゅうぶんここから一念発起でやれそうな気がします。でも、漂わす空気感がダメさを物語っているような…。

このサムに“アンドリュー・ガーフィールド”をキャスティングしたセンスが素晴らしく、まさにスパイダーマンになりそこねた俳優…みたいな感じです。“アンドリュー・ガーフィールド”といえば、『アメイジング・スパイダーマン』のような正統派ヒーローから、最近の主演作『ハクソー・リッジ』や『沈黙 サイレンス』のような誠実な主人公まで、世間一般に認知されているイメージはこんな感じです。でも彼の初期作(例えば『BOY A』)では社会で闇を抱えて孤独に生きる人物を演じていたりして、そっち方面でも元々上手いんですね。『アンダー・ザ・シルバーレイク』の“アンドリュー・ガーフィールド”は久々に暗さ満載でした。

音楽なのか俳優なのかはたまた監督なのか、それはわからないですが、夢があってこの地に来たのであろうサム。今は完全に凋落していて、ポップカルチャーを自分の気休めにして夢を諦めた感じに思えますが、決して捨てきれていないことを示すのが、冒頭の二人の女性を覗くシーン。ひとりは上半身半裸の、まあ、失礼な言い方にはなりますが、汚い風の女。もうひとりは眩しいばかりに輝く健康的なボディを持つ金髪美女。金髪美女ことサラは、ステレオタイプなくらいのシンボル的な女性像ですが、これはつまりハリウッドが往年理想として描いてきた女性そのものです。

サムはこのサラに惹かれ、行方不明になった彼女を探し、ハリウッドの魔界を目にしていきます。そして、結果、ラストでサムが選ぶ女性があの人ということは…本作は落ちぶれたサムが一瞬また夢をみかけてまた現実に戻る…そういう映画だとも解釈できます。 

アンダー・ザ・シルバーレイク

多層的なオマージュの妙

物語の始まりと終わりだけを説明すると、割となんてことはない映画なのですが、その道中の描写がとにかくクセが強い本作。

主人公は目的のモノを追いかけるうちに自分でも知らない未知の世界に足を踏み入れて…。こういうストーリー展開の作品は「ラビット・ホール」と呼ばれたりします。「不思議の国のアリス」のあれですね。

ただ、本作のワンダーランドが凄いのは、映画自体が“宝探しゲーム”になっており、主人公のサムだけでなく、観客さえも巻き込んでの一斉宝探しが行われるということ。

本作には映画や音楽などポップカルチャーの小ネタやオマージュが盛沢山で詰まっています。それも、これ見よがしなものもあれば、それはわからないだろうくらいのカモフラージュ率の高いものまで、多種多様。“デヴィッド・ロバート・ミッチェル”監督もインタビューで言っていましたが、一度観ただけでは把握しきれないので、何度でも鑑賞して発見を楽しむ前提で作られています。それを楽しめるかどうかは本作の評価の分かれ目ですよね。

しかも、単なる“シーンをマネました”みたいなオマージュのねじ込みではないのがミソ。例えば、冒頭のサムが二人の女性を双眼鏡で覗き見るシーンは、アルフレッド・ヒッチコックの『裏窓』そのまんま。一方で、ビジュアル的に似ているだけでなく、『裏窓』の覗き込む主人公は足を骨折して車椅子生活を余儀なくされて他に楽しみのない人間であり、その状態が『アンダー・ザ・シルバーレイク』のサムも、足は骨折はしていないですけど、一致していますよという意味でもあります。

また、マリリン・モンロー主演だった『女房は生きていた(Something's Got to Give)』に登場する非常に有名なプール・シーンをこれまたそっくり再現したような、サラのシーンがあります。あれも『女房は生きていた』がマリリン・モンローの遺作であり、彼女の死によって制作不可能になったいわくつきの過去を思えば、サラが失踪することを暗示させ、さらには死んでいるんじゃないかと観客に不安を与える効果を与えています。

日本を代表する世界的に有名なゲームも登場しますが、そのひとつ「スーパーマリオ」をプレイしているシーンでは、遊んでいるステージが水中か地下。これも終盤の展開を意味させるために狙っているとしか思えません。

ポップカルチャーではないですが、スカンクやコヨーテなど、動物の使い方も印象的です。

こんな感じで書いていくとキリがないほど、全編にわたってオマージュが「死」や「アンダー」といった裏側を想起させるものばかりなのが共通しています。

多層的なオマージュの妙を満喫できる映画でした。

そして、また沈む

「BEWARE THE DOG KILLER」の警告を無視して、ハリウッドの魔界を「ゼルダの伝説」よろしく解き明かし、最後は目指すお宝の元にたどり着けたかに見えたものの、すごすごと帰ってきたサム。結局、彼は自分の部屋から出たわけですが、それは別のどん詰まりかもしれません。そもそも彼はこの地からは出ていないのですから、まだまだパラノイアの中にいるし、いつでもまた裏世界に引きずり込まれるかもわかりません。

そんな主人公を私はバカにできないわけで…。今年もたくさん映画を観てしまった自分。「映画を観ることは人生のためになる!」と虚勢を張っても、虚しさを感じないといえば嘘になる。地震雲を毎日報告する人と、映画を毎日観る人はたいして違いはないのかもしれないとか、考えたら余計に…。

ああ、暗黒ハリウッドは、今日もまた愚鈍な凡人を沈めるばかり…。

ROTTEN TOMATOES
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IMDb
6.5 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 8/10 ★★★★★★★★

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