ヴァレリアン 千の惑星の救世主
映画『ヴァレリアン 千の惑星の救世主』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Valerian and the City of a Thousand Planets 
製作国:フランス  
製作年:2017年 
日本公開日:2018年3月30日 
監督:リュック・ベッソン 

【個人的評価】
 星 5/10 ★★★★★

あらすじ

西暦2740年。銀河をパトロールする連邦捜査官のヴァレリアンとローレリーヌは、あらゆる種族が共存する「千の惑星の都市」として銀河にその名を知られるアルファ宇宙ステーションを訪れる。しかし、その深部には宇宙を揺るがす邪悪な陰謀や、歴史から抹殺されようとしていたある秘密が隠されていた。

ネタバレなし感想

リュック・ベッソンの悲願

フランス語圏の漫画は「バンド・デシネ」と呼ばれ、独自の文化と歴史を持っています。日本の漫画さえあまり読まない私なんかは、フランス漫画なんてチンプンカンプンですが、たぶん多くの日本人も同じでしょう。

その「バンド・デシネ」の中でも後の『スター・ウォーズ』に影響を与えたと言われているSF漫画が、1960年代にフランスで出版された人気コミックス「Valerian and Laureline(ヴァレリアン&ロールリンヌ」です。内容は、未来の宇宙を舞台にした古典的なヒーローものスペーズオペラで、様々な異星人たちが混ざり合って暮らす世界観はまさに今のSFの源流。

実は2007年にフランスと日本の共同制作でアニメが放映されていたらしいですね。知らなかった…。

そのあらゆる後のスペーズオペラ系エンタメ作品の土台となった「ヴァレリアン」が、ついにこの現代で実写映画化されました。それが本作『ヴァレリアン 千の惑星の救世主』です。

「バンド・デシネ」の映画化はこれまでもあって、「タンタンの冒険」や「スマーフ」などがありましたが、今作は「バンド・デシネ」の映画化としてはかつてない史上最大規模になっています。

それを手がけるのが、フランスのエンタメ映画界で最も成功している人物である“リュック・ベッソン”。まあ、彼しかいないでしょうね。

なんでも原作の子どもの頃からの大ファンで、『フィフス・エレメント』(1997年)を制作していたころから「ヴァレリアン」を映画化してみたい欲にかられ、原作者のジャン=クロード・メジエールと仕事しているくらいだったそうですが、技術的な問題などで断念。そうこうしているうちにアメリカ映画界が「バンド・デシネ」のアイディアから影響を受けた作品を次々と誕生させていき、きっとフランス人としても苦渋を飲まされていたのだと思います。なんとなくその気持ち、日本人もわかる気はしますよね。

そして、今回、満を持しての映画化。“リュック・ベッソン”監督は給料はいらないといって取り組むなど、並々ならぬ情熱と覚悟を持って挑みました。結果、興行的には失敗し、多額の損失を出し、制作した“リュック・ベッソン”の会社ヨーロッパ・コープ(EuropaCorp)の一部の経営陣は交代したとか。でも、きっと後悔はないと思いますよ、“リュック・ベッソン”監督は。ヨーロッパ・コープ自体も、今は株の多くを中国企業が保有しているし、Netflixが株式取得かという噂もあるので、潰れないでしょう。

そんなこんなで本作は『スター・ウォーズ』のパクりじゃありませんよ、『スター・ウォーズ』がパクリなんです。今まで散々マネしやがって、これが原点だぞ!というアメリカ映画界への怒りのフランス革命みたいなものです。

堂々とそう言わせてあげようじゃないですか。






↓ここからネタバレが含まれます↓





ネタバレあり感想

アメリカ映画には負けないぞ精神

アツいフランス魂はさておき、映画の評価は冷静にしていきたいと思います。日本人だしね(酷い)。

本作は正直に言って前半は凄く楽しかったです。

まずオープニング・シークエンス。デヴィッド・ボウイの「Space Oddity」が流れる中、1975年のアポロ号とソユーズのドッキング映像から始まり、そこから宇宙ステーションの増設が進みつつ、いろいろな国の人が訪れ、ついには異星人との交流も始まり、握手を交わしていきます。この一連の宇宙発展の歴史を音楽とともに鮮やかに見せる語り口…ここだけでも一気に世界観に引き込むパワーがありました。楽曲と組み合わせた軽快さは非常にイマドキな映画のトレンドですし、“リュック・ベッソン”監督、わかってるな~と。俺でもできるぜってことを示したかったのでしょうね。

続く、惑星ミュール。スラっとした青い種族のパール人たちが、真っ青な空と海が目に眩しい綺麗な海辺で、真珠みたいな玉を集めているところ、平穏な世界が外からの異物によって突如地獄と化すシーン。もう完全に『アバター』ですよ。これは『アバター』だって「ヴァレリアン」の影響を受けてるんだぞっていうアピールと見ていいのかな。

これだけを何も考えず観ていると、フランスもハリウッドに負けないほど映像技術が凄いな~と思うかもしれませんが、VFXを制作しているのは、『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズや『アバター』、多数のアメコミ映画のVFXを手がけているニュージーランドの「Weta Digital」です。要するに“いつもの”ですね。

宇宙バージョン「007」

ここからいよいよ主人公二人の登場。先ほどの惑星ミュールによく似た海辺でイチャついているカップルが今作の主人公であることに、これまでの重厚な世界が吹き飛んだ感じでクラクラしましたが、まあ、話を進めましょう。

この二人のうち「ヴァレリアン」を演じるのは“デイン・デハーン”。『キュア 禁断の隔離病棟』でウナギ拷問に遭っていた彼です。
もう一人の「ローレリーヌ」を演じるのは人気モデルの“カーラ・デルビーニュ”。『スーサイド・スクワッド』でエンチャントレスという、すっかり忘却の彼方にある悪役を演じていました。あの時はよくわからなかったけど、実際はこんな顔の人だったのか…“リュック・ベッソン”が好きそうな女優ですよね。
このペアは美男美女ですが、笑ってしまうのが、序盤の砂漠パートでなぜか知らないけれど、ローレリーヌは水着に薄い半透明な服を羽織っているだけというやたらセクシースタイルな点。砂漠でこんな格好はしないし、着替えないことにびっくりでしたが、サービスシーンなのかな。それ以上にヴァレリアンがアロハシャツみたいな服なのが面白くて、完全にただの観光に来たチャラい若者にしか見えないです。

それで実際にこの映画のストーリーは、タイトルに「千の惑星の救世主」とあるようにいろいろと危機を救う話ではあるのですが、結局はこのアロハ男と水着女がイチャ付き合うだけしまくって、最後は最初のプロポーズにやんわりOKでキスLOVEエンドなわけです。わりと宇宙の危機はその間に起こる愛を盛り上げるためのイベントに過ぎません。

一昔前の「007」みたいだ…。

ヴァレリアン 千の惑星の救世主

映像は凄い(他は…)

それで忘れてはいけない「バンド・デシネ」の原点を最新の映像技術で見せてくれたことに関しては、とりあえずお腹いっぱいになったので良いかなと。

正直この一作では世界観が入り切っていないので、なんか理解した気分には全くなってはいません。見たこともない乗り物、武器、技術、種族、生物、現象のオンパレードで、とりあえず映像を目に流し込んでいるだけで終わった感じです。リアリティラインも最後までわからないまま。「ダ」という種族なんて完全に漫画キャラみたいでしたね。でも、この荒っぽい世界観、いかにもクラシックSFというノリで嫌いではないですけど。

ただ、作品の映像的ピークは、序盤の広大な砂漠のビッグマーケットという場所での「コンバーター」回収作戦ですね。独自のヘルメットをしての現実とARとVRが入り混じったような空間での追いつ追いかけつの駆け引きは頭が混乱してきそうです。この斜め上方向でインフレしている感じが凄い“リュック・ベッソン”監督っぽくて楽しい。あんな映像、見たことがなかったですし。

これ以降はあまり新鮮さはなかったかな…。すでに他の映画で観たことがある以前に、普通というか。

大仰なわりにはやっていることの目的は平凡ですから。わざわざ気味悪いクラゲを頭にかぶってわかったことは結構単純なことだったし、ショーパブで出会ったバブルは使い捨てのように役目が終わったらあっさり死ぬし…。“イーサン・ホーク”はとりあえず楽しそうだったけど。

あとコンバーターが真珠をポロポロと複製・増産するビジュアルはどうなんですか、あれ…完全にアレを想像するじゃないですか…。

一番残念なのは最後の司令官の陰謀が明らかになってからの以降の展開が超早いことです。予算を使い切ったのだろうか、映像的スケールも盛り上がりも序盤と比べてはるかに乏しかったのはもったいないかなと。

さすがに続編2作目は厳しいかもしれませんが、“リュック・ベッソン”監督にはまだまだ「バンド・デシネ」の魅力を伝えていってほしいですね。

↑リュック・ベッソン監督の『フィフス・エレメント』。こちらはブルース・ウィリスとミラ・ジョヴォヴィッチがイチャイチャするSF。

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