ウォー・マシーン
Netflix映画『ウォー・マシーン: 戦争は話術だ!』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:War Machine 
製作国:アメリカ 
製作年:2017年 
日本では劇場未公開:2017年にNetflixで配信 
監督:デヴィッド・ミショッド 

【個人的評価】
 星 6/10 ★★★★★★

あらすじ

輝かしい功績を誇る陸軍大将が誰も望まない戦争のアフガニスタン駐在軍司令官に任命された。それでもこの威勢の良い大将は、絶対に勝ってみせると心に誓い、周りの混乱や意見はお構いなしに突き進む。戦争に人生を捧げてきた彼が、行きつく先はどこなのか。

リーダーになるのはいつも…

最近のリーダーシップに関する研究によれば、「俺についてこい!」なんて言うようなタイプの人間はリーダーに向かないのだそうです。しかし、世の中は不条理。たいていリーダーになりたがるもしくはリーダーを任せられるのは「俺についてこい!」なんて言うようなタイプの人間なのです。“リーダーに向かない奴がリーダーになってしまう現象”ですね。一体どれだけの人がこの現象に悩まされているのだろうか…。

ここから先は私の推論ですが、たぶんそういう間違ったリーダー像を確立したのは「戦争」なんじゃないでしょうか。戦争では、常に好戦的で先頭に立って声を荒げる奴が出世する仕組みになっています。たとえその裏でどんな問題が起きていようとも、勝てばいいのです。

そんな戦争における“リーダーらしい”リーダーを描いた喜劇が、Netflixで配信された『ウォー・マシーン: 戦争は話術だ!』

制作は今やムーンライトなど高評価作品を連発する「プランBエンターテインメント」。主演は「プランBエンターテインメント」の創立者にして、俳優業よりもプロデューサー業の方が成功している気もしなくない“ブラッド・ピット”マリアンヌでは感動的ロマンスを売りにした彼でしたが、今度は笑いを売りにします。忙しいなぁ…。

本作は「The Operators」というルポルタージュが原作で、アメリカ陸軍大将のスタンリー・マクリスタルの実話を基にしたフィクションです。日本の一部メディアでは「戦争アクション・エンターテイメント映画」と紹介されてますが、アクション要素は皆無に等しく、戦争映画らしいドンパチはほぼありません。どちらかといわなくても、本作ははっきりとしたブラック・コメディマネー・ショート 華麗なる大逆転が気に入っている人は好きなのではないでしょうか。

「戦争は話術だ!」という邦題もいいですね。毎度思いますがNetflix独占配信の邦題は劇場公開作品のそれとは違ったノリがありますよね。Netflix日本法人が考えているのだろうか。個人的には好きです。

とにかく“ブラッド・ピット”のクセが強すぎるキャラを楽しみながら、“リーダーに向かない奴がリーダーになってしまう現象”をヤレヤレと哀憐の情で眺めようじゃありませんか。






↓ここからネタバレが含まれます↓





ブラッド・ピットの独壇場

本作は観ればわかるとおり、最初から最後まで“ブラッド・ピット”がぎっしり詰まった映画です。固定機銃から撃ちだされる弾丸の如く、“ブラッド・ピット”演じるグレン・マクマホン大将の芸が炸裂。常に非対称な顔がうざいし、二足歩行ゴリラっぽい走り方がきもい。本当にクセが強すぎます。ちなみに元になったスタンリー・マクリスタルはこんな顔じゃないですからね。

“ブラッド・ピット”のここまでのコメディ感の濃いキャラは『イングロリアス・バスターズ』以来じゃないだろうか。クエンティン・タランティーノの世界観にいそうです。

このグレンだけじゃなく、グレンのチームメンバーもアホ描写が多く、割としょうもないギャグを裏でしてたりします。漫才集団なのか…。

つい最近あった戦争をこんな笑いにするなんて不謹慎という意見もあるかもですが、私は逆にアメリカ自身による自己批判精神として評価したいところです(監督はオーストラリア出身ですけど)。

ウォー・マシーン

巻き込んでくれて感謝するよ

グレンは本当に典型的な“リーダー”です。

口では威勢のいいことを言いまくり、「誰が敵か味方かわからないんですけど」と困惑する兵士には「混乱しないようにしろ」と、抽象的な指示と激励を投げつける。無論、口だけではありません。兵隊たちに元気がないとみれば、危険な戦場へ付いていき、報告書がメディアにリークすれば、自らがテレビに出る。まさに前に出るのがリーダーの仕事だと言わんばかりに。実際、彼はリーダー論の本を執筆するくらい、リーダーとしての自覚が人一倍強く、43か国の連合国をまとめる立場に燃えています。野心がある…リーダーにぴったりじゃないですか。

ところが世間の彼の評価はイマイチ。ジャーナリストも、政治家も、地元住民も、「妄想に基づく野心だ」とか「帰ってくれ」とか冷たい言葉ばかり。頑張ってるのに…。

本作はそんな野獣であるビッグ・グレン個人を笑い飛ばす映画なのかと言えば、そんな単純なものではないでしょう。

「ウォー・マシーン」というタイトルが表すように、彼もまた機械のように自動化された戦争の歯車のひとつにすぎなく、クビにして後任を送るだけ。後任のボブがグレンらしい歩き方で進軍するさまは、まさにベルトコンベアーで運ばれてくる量産製品のよう。

もっと言えば、これは戦争の枠に超えて私たち社会全体の問題といえるでしょう。グレンは、キングコング 髑髏島の巨神に登場した“サミュエル・L・ジャクソン”演じるアイツのような戦闘狂では決してないのです。

ストイックな性格で健康を大事にする、仲間には愛されている、部下のことだって大切に思っている、穏便に話をまとめようとする、礼儀をわきまえる、差別的ではない、人道的なことに気を遣う、ビジョンもある…。

こういう人は会社や学校にもいると思います。そして、リーダーにふさわしいと考えるはずです。それがマシーンを支えている…この歪んだシステムに無自覚に翻弄されている感覚はマネー・ショート 華麗なる大逆転を観終わったときにも思ったことですね。

巻き込みたくないし、巻き込まれたくもない。本当に必要なリーダーは誰なんでしょうか…。