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「最近の映画は続編やリメイクばかり」は本当なのか、調べてみた

映画を題材にその年を振り返る「調べてみた」シリーズ企画を1年に1回実施することにしている、私。

2018年は「日本映画業界に男女格差はあるのか」をテーマに監督と脚本に参加する女性の割合を自分なりの粗雑な調査ではありますが、ざっくりと調べました

2019年は2010年代の締めくくりですし、もう少し大きなスケールのテーマにしようと思い、こんな部分にスポットをあてることにしました。それは映画ファンから最近もよく聞かれるこんな話。

「最近の映画は続編やリメイクばかりだよね…」

これは本当なのでしょうか。確かにそういうボヤキは頻繁に目にしたり耳にしたりするのですが、具体的な数字で説明している人は見たことがありません。事実なのか、それとも思い込みなのか。仮にそうだとしたらなぜそんなことになっているのか。

最近はSNSで安易なコメントが拡大解釈され、集団内で増長し、思わぬ炎上が起きることも普通です。デマで企業や人物を批判・中傷してしまうこともあります。こんな時代だからこそ冷静に分析する価値はあると思います。
ということで簡易的ですが調べてみました。

調査方法

さっそく調査したいところですが、やっぱり全部の映画を分析するのはいくらなんでも膨大すぎてちょっと私には無理です(1か月くらい休暇をください)。

そこでアメリカの一部の大手企業の配給作品を対象にすることにします。

具体的には「Paramount Pictures」「Walt Disney Pictures」「Warner Bros.」「20th Century Fox」「Universal Pictures」「Columbia Pictures」の6つです。他にも大手映画会社は存在しますが、申し訳ないのですが今回は除外とさせてください。

まず2019年のそれら企業の作品をリストアップします。作品リストはWikipediaと各映画会社公式ウェブサイトを参考に作成しました。たぶん大幅な漏れはないと思いますが、ミスがあったらすみません。なお、滅多にないのですが、ひとつの作品を大手企業の複数社で配給していることがあります(『ターミネーター ニュー・フェイト』など)。そういう場合はそれぞれの企業作品リストに入れることにしました。

そしてそのリストから「続編」「リメイク」「リブート」に該当する作品を特定しました。オマージュやリスペクトされているものもありますが、そういうフワッとした作品はカウントせず、あくまで明確な「続編」「リメイク」「リブート」だけです。過去編(プリクエル)やスピンオフ作品も含みます。小説の映画化などではなく、あくまで映像作品(映画やドラマ)とのつながりで判断しています。

このリストに基づき、「続編」「リメイク」「リブート」作品の割合(「続編・リメイク率」と暫定的に呼称)を算出しました。

さらに2019年だけを調査していても時代経過で増えたのかどうかがわからないので、2009年1999年の10年単位でも同様に調査をしました。

なお「Walt Disney Pictures」には、1999年の時点で配給協力関係を結んでいる「Pixar」、2019年には吸収されている「Marvel Studios」と「Lucasfilm」をそれぞれの年で含んでいます。「20th Century Fox」も買収となりましたが、今回の2019年では別で分けて整理しています。「20th Century Fox」には「Fox Searchlight Pictures」も含みます。

結果

2019年の結果、「続編・リメイク率」は各社で「Paramount Pictures」は36.4%、「Walt Disney Pictures」は81.8%、「Warner Bros.」は40.9%、「20th Century Fox」は17.6%、「Universal Pictures」は50.0%、「Columbia Pictures」は63.6%となりました。

2019年の続編・リメイク率

ご覧のとおり非常に各社でばらつきが激しいことがわかります。最大は「Walt Disney Pictures」で、最少は「20th Century Fox」。その差は歴然です。

これだけだとその2019年の現状しかわかりませんが、2009年と1999年とを見比べてみましょう。

結果は以下のグラフのとおり。

続編・リメイク率の比較

あくまで10年ごとの数値ですが、全社で「続編・リメイク率」は増加傾向にあることがわかります。1999年と2009年はそれほど明確な差は出ていませんが、2019年は突出した伸びの差が表れている企業が複数いるのがわかります。例外的なのは「20th Century Fox」だけです。

考察

ここから私なりの考察です。あくまで個人的な考えですので、生暖かく見守って読んでください。

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続編&リメイクの利点と欠点

ほ~ら、続編やリメイクばかりじゃないか! そんな声も聞こえてきそうですが、よく見ると企業で違いがかなり大きいことがわかります。この企業の違いが非常に重要じゃないでしょうか。

そもそも続編やリメイクを各映画会社が作る理由は何なのか。一般的によく言われるのは儲かりやすいからというメリットです。すでに人気の作品なら客も呼びやすい。確かにそれもひとつの事実です。でも一方で続編やリメイクが常に観客に喜ばれ、大ヒットしているわけではありません。2019年もあんな作品やこんな作品が大コケしたりしました(可哀想なのでタイトルはあげません)。

それに決して続編やリメイクを作るのはラクではありません。むしろオリジナル作品以上に制約も多く、製作者は頭を悩ませるでしょう。加えて大作となれば予算は大規模になるので、失敗した時の損失も巨額になります。

つまり、続編やリメイクはリスキーな大勝負でもあるわけです。成功すれば莫大な利益を、失敗すれば莫大な赤字を生む。

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続編&リメイクの多さは映画企業の勢いを示す?

そのビジネス上の立ち位置を考えると、続編やリメイクを連発するにはある程度の企業としての資金力と“クリエイティブ”力が必要になります

今回の調査の話に戻りますが、1999年や2009年の頃は続編やリメイク作品が少なかったです。それはまだ企業がそれだけの力を持っていなかったことの表れとも言えるかもしれません。

逆に2019年になると「続編・リメイク率」が突出する企業がいくつか出現したのは、自社コンテンツを地道に育て、利益をあげて資金力の余裕を作り、人気も獲得できた証拠とも分析できます。

「Walt Disney Pictures」は言うまでもないですし、「Warner Bros.」はDC映画、『ハリーポッター(ファンタスティック・ビースト)』シリーズ、ホラー映画、怪獣映画と実に充実しています。「Universal Pictures」も『ワイルドスピード』シリーズやイルミネーション・アニメなど主要作品を軸にしつつ、小中規模の作品を現在進行形で育てている感じです。「Columbia Pictures」は『スパイダーマン』ユニバースを拡充させる動きを見せつつ、『ジュマンジ』など新しいルーキーも現れており、勢いに乗っています。

一方で、「20th Century Fox」は自社コンテンツを育てられませんでした。『X-MEN』シリーズは失速し、興収歴代トップを叩き出した『アバター』も続編をなかなか作れず…。結果、案の定、ディズニーに買収されてしまったわけです。いくらアカデミー賞を受賞できる作品を作れても経営的に傾けばおしまいですからね…。

そうなると「Paramount Pictures」は不安です。「続編・リメイク率」は順調に増えているように見えますが、実際は自社コンテンツがあまり育っていません(2019年の大作は『ターミネーター ニュー・フェイト』でしたがパラマウントだけの作品ではありません)。2000年代は『トランスフォーマー』シリーズや『スタートレック』シリーズで勢いはあったのですが、今はかなり陰りが見えます。

続編&リメイクの多さは映画企業の経営観点での勢いを示していると考えると面白いです。続編&リメイクが減ると逆にその企業は地盤が危うい可能性もあるのですから。

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時代とともに消えたあのジャンル

企業の勢いの他にも「続編・リメイク率」の上昇につながる要素を発見することができました。まず以下のグラフを見てください。

映画

実は各社のその年の映画作品数は多くの企業で減少しています。一方で上のグラフではわからないですけど、「続編・リメイク率」が目立って上昇している企業は「続編・リメイク」も上昇しています。

つまり全体の作品数が減れば余計に「続編・リメイク率」の著しい増加につながるのも当然です。

ではどんな作品が消え失せてしまったのか。それは小中規模の作品なのですが、作品リストを作っている段階でその共通の特徴に気づきました。それは「コメディドラマ(ラブコメ)」だということ。ホーム感のあるやつですね。

1999年や2009年はこの「コメディドラマ(ラブコメ)」映画の数がとても多いです。1年に5~6本あるのも珍しくありません(各社で!)。それが2019年には大きく減少して見られなくなりました(数字を示せず申し訳ないです)。だから映画作品数が減少したのでした。もちろん他のジャンルもありましたが…ホラー&スリラーは割と通常どおりですね。

なぜ「コメディドラマ(ラブコメ)」映画は減ったのか。そもそも昔はこのジャンルは映画会社の稼ぎにつながる重要な柱でした。低予算で作れ、あたれば大ヒット。なので連発して作りまくっていました。ここからは私の推測ですが、それが2010年代に入ると消えたのはおそらくコメディドラマ(ラブコメ)の居場所が映画館からテレビのドラマシリーズやネットの動画配信サービスに移ったからではないでしょうか。実際、Netflixでは今、小粒のコメディドラマをオリジナル作品としてたくさん配信しています。

続編やリメイクが多くなった気がするのは、一時は時代の主役だった「コメディドラマ(ラブコメ)」映画の栄枯盛衰が関係している…のかも。

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実は映画界の落ちこぼれだったディズニー

6つの企業を調査対象としましたが、そのうちひとつだけ特殊な事情を抱え、他とは違う傾向を示す会社があります。それは「Walt Disney Pictures」、ディズニーです。

続編やリメイクが多いという文句の中で、何かとやり玉に挙げられがちなディズニー。今やハリウッドどころか世界の映画界を支配していると言っても過言ではない超大企業。そこに批判の矛先が向くのも当然です。

しかし、そうやってなんとなく流れに乗っかってディズニー批判をしている人でも、そのディズニーが実は10年ちょっと前までは映画界の劣等生だったことを知っている人は少ないのではないでしょうか。

今回の調査でもその劣等生っぷりが表れていました。どういうことか。

2019年・2009年・1999年の映画会社の作品数」のグラフを見てほしいのですが、ディズニーは作品数は少ないです。そしてこれはグラフではわからないですけど、2009年と1999年はその作品ラインナップは…なんというか、しょぼい。全然ヒット作はなく、リメイク作の数も「3」とか「2」。好調なのはピクサーだけ。

ご存知の方もいると思いますが、ディズニーは1990年代後半から2000年代にかけて絶不調でした。それが2000年代終わりの組織改革&ピクサー経営陣がクリエイティブ面のトップに就いたことで一変。2010年代の急成長で、一気に今のディズニーにのし上がったわけです。まるでクラスで成績ビリだった生徒が学年トップで難関大学に合格したみたいな話です。

ディズニーが最近になって続編やリメイク(とくに実写化)を連発しているのは、映像技術の進化もあるのでしょうけど、その不調だった黒歴史の事情を鑑みれば1999年や2009年のときはとてもじゃないけどそんな続編やリメイクなんて挑戦をできる状況ではなかったんですね。ちょうど今はその積年の無念は全部晴らしているフィーバータイムです。た

ぶんディズニーはずっと続編やリメイクで食っていけると思っていません(ネタ切れになりますから)。同時に自社コンテンツを新規に生み出し、育てることもやっぱりしないといけません。もっと手数を増やしたいはずです。ディズニーが「20th Century Fox」を買収したのもオリジナル作を生み出すクリエイティブ体制を強化する狙いがあるのかもしれません。

おそらく完全に「20th Century Fox」作品が仲間に加わったとみなして2020年のディズニーの「続編・リメイク率」を算出すれば、その割合は減るとみて間違いないでしょう。ちなみに2020年の現時点で発表済みのディズニー作品のラインナップ(「20th Century Fox」を含めず)を見るとすでに「続編・リメイク率」はたったの20%しかありません。ここからさらに減るとなると…大手企業で最低の割合になるのは確実か…。こうやって考えるとたまたま2019年だけ以上に続編やリメイクを連発していただけかもしれません。

ちなみに「Walt Disney Pictures」の2010年から2020年の「続編・リメイク率」の推移をグラフ化すると以下のような感じに。

ディズニー続編リメイク数

ちなみにディズニーは、2011年は『少年マイロの火星冒険記3D』、2012年は『ジョン・カーター』という“続編・リメイクではない”映画が、映画史に残る大コケの惨敗をしています。大変だったんです…。

ディズニー以外の企業も調べると興味深いでしょう。「続編・リメイク率」を分析することでその企業の経営戦略もほんのり見えてくるのでした。

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動画配信サービスも続編やリメイクが増える…はず

2019年は『アイリッシュマン』や『マリッジ・ストーリー』などオリジナル作品で映画業界を沸かせたNetflix。今では続編・リメイクの自社コンテンツで安定路線を図る大手映画業界の対極として注目されています。マーティン・スコセッシ巨匠もご満悦なくらい。

でもそれはずっと続かないかもしれません。

動画配信サービス業界も競争が激しくなってきました。そうなれば人気の自社コンテンツで勝負しないと経営が危うくなります。他のライバルがマネできないような。Netflixも『ストレンジャー・シングス』シリーズなど明らかに自社IPを着々と育てています。さらに数を増やしたいと思っているでしょう。

『アイリッシュマン』のような作品をいつまで作れるのか、それはわからないです。

今後はNetflixなど動画配信サービスの「続編・リメイク率」の動向こそ注目すべきかもしれませんね。それがしだいに増えていけば、まさに競争に生き残るための強力な兵士を獲得できたことになるのですから。

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オリジナル作品は減らない…たぶん

続編やリメイクばかりが増えたらオリジナル作品が減るじゃないか。そういう危惧もあります。

でも実際のところオリジナル作品が目に見えて減少したことはあるのか? これは続編やリメイクが増えたことを検証するよりも難しいです。

今回の調査ではあくまで大手企業だけを対象にしているのであり、その中では続編やリメイクは増えていました。つまりオリジナル作品が減りました。でも減ったのは前述したとおりラブコメが主です。

オリジナル作品を輝かせる役割は大手企業ではなく、新鋭の企業にバトンタッチされています。その筆頭が2010年代に突如現れて今や大注目の「A24」という会社。2019年は21作品も手がけ、オリジナル率は100%。凄まじいです。他にもさまざまな小さい会社が頑張っており、ユニークな映画を生み出しています。

つまり、大手企業が続編・リメイクに注視するぶん、その新しいニッチを埋める存在も現れるチャンスができたんですね。これぞビジネスのエコシステム。なんだかんだでWin-Winです。

オリジナル作品は今も山のようにあちらこちらに存在しています。見きれないほどに。大手企業に限らず映画全体で分析すれば「続編・リメイク率」はかなり低いと思います。私たちはどうしても大手企業だけで映画業界を判断しがちですね。

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オリジナル作品が生まれるかはあなたしだい

いや、私はオリジナル作品の大作が観たい! そういう要望の人もいると思います。もちろん作ってはいるのです。あんな作品とか、こんな作品とか。でもそういう作品に限って観客の評価は低い、SNSでこきおろされたりします。

結局、大手映画企業だってオリジナル作品の大作を内心では作りたい、でもヒットしてくれない。これが現実なんですね。

総論としては、言えることはひとつ。

「最近の映画は続編やリメイクばかりだよね…」とボヤく暇があったら、あなたのその足元に転がっているオリジナル映画を拾って鑑賞して評価してあげることです。

その頑張りのおかげでそのオリジナル映画に人気が出ればどうなると思いますか?

今度はその続編やリメイクが生まれるのです。

そうやって映画業界は成り立っている。これまでも、これからも。

続編やリメイクがたくさん生まれるのは映画が愛されている証です。愛の蓄積です。映画を愛する人がこの世から一斉に消えたらきっと続編やリメイクも生まれなくなります。

そんな世界は嫌じゃないですか。