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『湯を沸かすほどの熱い愛』感想(ネタバレ)…みているだけで幸せになれる

みているだけで幸せになれる…映画『湯を沸かすほどの熱い愛』の感想&考察です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:湯を沸かすほどの熱い愛
製作国:日本(2016年)
日本公開日:2016年10月29日
監督:中野量太
湯を沸かすほどの熱い愛

ゆをわかすほどのあついあい

『湯を沸かすほどの熱い愛』物語 簡単紹介

持ち前の明るさと強さで娘を育てている幸野双葉は、突然の余命宣告を受けてしまう。自分ではもうこの未来を受け止めるしかない。しかし、気がかりなことはいくらでもある。双葉は残酷な現実を受け入れ、1年前に突然家出した夫を連れ帰り休業中の銭湯を再開させることや、学校でいじめられている娘を独り立ちさせることなど「絶対にやっておくべきこと」をいつもの活力のままに実行していく。
この記事は「シネマンドレイク」執筆による『湯を沸かすほどの熱い愛』の感想です。

『湯を沸かすほどの熱い愛』感想(ネタバレなし)

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沸騰中の2016年邦画界の新鋭はこの人

映画のジャンルとしていわゆる「難病モノ」は邦画では定番です。泣ける映画こそ良い映画と考える人にしてみれば、ハズレにくい作品ともいえます。また、支持を集めるのは、①死は誰でも経験するものである、②死を迎える人と残される遺族というこれ以上ないわかりやすい感動の展開があることが容易に予想がつく…という理由もあるでしょう。

その一方で、「難病モノ」を嫌う人も、とく映画好きのなかには一定数います。“嫌う”というのは語弊があるかもしれない…“警戒する”といったほうが正しいでしょうか。その原因は、いかにも泣かせようという鼻につく演出、俗に言う「感動ポルノ」としての主張が強すぎるというのがよく言われます。冷めちゃうんですね。

結局のところ「難病モノ」は諸刃の剣です。

しかし、裏を返せば「難病モノ」を上手く描ける人は映画監督として優れているともいえるのではないでしょうか。

そんななか今年の邦画は冷めているどころか、良作多しの沸騰中で盛り上がっています。そのうちでも「難病モノ」という一種の登龍門を見事にクリアし、映画批評家からも称賛された新参者が中野量太監督です。

2013年の『チチを撮りに』で長編映画デビュー、本作『湯を沸かすほどの熱い愛』で商業映画デビューしたばかり。本作はとても評価が高いですから、もはや名だたる現役の日本映画監督の仲間入りといってもいいと思います。凄い躍進です。

中野量太監督の作家性は非常に明快で一貫しています。作品の主人公は「家族」。家族を題材にする日本映画監督といえば、最近は『海よりもまだ深く』を公開した是枝裕和監督がいます。二人の違いを私なりに説明するなら、中野監督の描く家族は、物理的に何かが欠けている一方で精神的には“満たされている”のが特徴だと思います。中野監督の作品の場合、物理的な欠けているモノはたいてい片親なんですが、これは中野監督自身が母子家庭だったという経歴も大きく影響しているのは言うまでもないでしょう。でも変にネガティブには描かず、むしろ幸せそうに描くのは、監督の人柄もあるのかもしれません。

あとは日本独特の庶民的な生死と性への捉え方も特徴です。こちらも嫌な感じではなく、ユーモアさえ感じるように描くので面白い。こういうコミカルなセンス(これは大袈裟で下品な笑いの取り方ではありません)を持っている監督というのはやはり貴重ですよね。

この2つの特徴ゆえに「難病モノ」でも「感動ポルノ」にならないバランスに保っているのだと思います。かなり奇跡的な絶妙な綱渡りだと思うのですが…。

有名な監督ではないですが、だからこそ観ていない人はぜひ。きっとこれからは邦画を引っ張る存在になっていくのかもしれません。そういう意味でもとりあえず観ておくのもいいでしょうし、合う合わないはあれど大事な作品ですよ。

↓ここからネタバレが含まれます↓

『湯を沸かすほどの熱い愛』感想(ネタバレあり)

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多幸感で満たしてくれる家族の姿

中野量太監督の描く家族はリアルというよりはファンタジーに近いところがあるように思います。例えば、“満たされている”感じが特徴の家族の姿も、現実的に考えれば理想的すぎるという見方もできます。普通だったらもっとギクシャクしてまとまらないものですが、『湯を沸かすほどの熱い愛』では困難にぶちあたっても比較的トントン解決します。また、結構オーバーなセリフや演出もみられます。でも、それらをこの物語のなかでは自然にみせるのが非常に上手いのが、中野監督の才能だとあらためて実感しました。そのため、フィクショナルな場面ほど愛おしく思えてくる、なんともいえない多幸感でお腹いっぱいです

そして、本作の多幸感を決定的に支えているのは、誰しもが認めるでしょう「家族」を演じた役者たちです。

強き母である幸野双葉を演じた“宮沢りえ”とダメダメな夫である幸野一浩を演じた“オダギリジョー”のベテラン勢の演技が素晴らしいのは言わずもがな。もはや幸野家の不幸の根源といえなくもない夫・一浩の本当にどうしようもないダメさはもちろん、不登校になりかける娘を半ば強引に学校に行かせる双葉も、一見するとウザいキャラになってしまいがちですが、両者の演技力で見事に中和しているので、多幸感を邪魔していません。というか、多幸感を増やしてくれてます。

ただ、やっぱり特筆したいのは子役です。安澄を演じた“杉咲花”、鮎子を演じた“伊東蒼”は抜群でしょう。杉咲花は、あて書きだそうですがピッタリでしたし、伊東蒼も、普通に家族の子に見える。なんでも、宮沢・杉咲・伊東の女性3人で毎日メール交換もしてもらったなど製作上での工夫もあるようで、大人と子どもが見事にマッチしてちゃんと「家族」になってました。

こんな完成度の高い「家族」ですから、どこのシーンをとっても名場面です。安澄が勇気を振り絞っていじめに立ち向かう場面や、撮影スタッフも泣きながら撮ったという、鮎子の「この家にいてもいいですか」の場面など、挙げだしらきりがないのであれですが。個人的にはあからさまな名シーンよりも、突然に戻ってきた父プラス鮎子としゃぶしゃぶを食べる場面や、鮎子が父に「ご飯」と伝えるはずなのに嬉しくて「旅行に行く」と真っ先に伝えちゃう場面など、なんともいえない間(ま)の演技が好きです。

探偵の滝本の娘役の子も良かったですね。

あえて不満を挙げるなら、これは完全に好みの問題ですが、伏線の説明が丁寧すぎるかなと気になりました。セリフで念押ししなくても、わかるのに…と。あと、学校の場面は若干ステレオタイプ感はあるかな…。安澄が制服を隠されて体操服で教室に現れる場面も、クラス全員が同じような反応でいじめに加わるみたいになるのはない気がする。たぶん、興味なさそうな子もいれば、バツ悪そうにする子もいるでしょうし。そういう子をちょっと映すだけでも、自然な教室になるように思いました。それと、スマホ上のSNSの表現(文字が投影されるように映る演出)がちょっと見えづらいというか、唐突なのも…まあ、これはいろんな映画で試行錯誤されていて、難しいですよね。

一番大事なのは家族、いや、愛する相手がいさえすればそこに家族があるということを再確認できた映画でした。

『湯を沸かすほどの熱い愛』
ROTTEN TOMATOES
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IMDb
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作品ポスター・画像 (C)2016「湯を沸かすほどの熱い愛」製作委員会 湯をわかすほどの熱い愛

以上、『湯を沸かすほどの熱い愛』の感想でした。

『湯を沸かすほどの熱い愛』考察・評価レビュー