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『リップヴァンウィンクルの花嫁』感想(ネタバレ)…あちゃー、くそー

リップヴァンウィンクルの花嫁

あちゃー、くそー…映画『リップヴァンウィンクルの花嫁』の感想&考察です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:リップヴァンウィンクルの花嫁
製作国:日本(2016年)
日本公開日:2016年3月26日
監督:岩井俊二

リップヴァンウィンクルの花嫁

りっぷばんうぃんくるのはなよめ
リップヴァンウィンクルの花嫁

『リップヴァンウィンクルの花嫁』物語 簡単紹介

SNSで知り合った鉄也と結婚することになった派遣教員の皆川七海。けれども祝福の声は期待できない。なぜなら知り合いが少ないためで、それを補うべく、これまたSNSをとおして紹介された「なんでも屋」の安室に結婚式の代理出席を依頼する。しかし、夫に浮気の疑いをもったことで、新婚生活は脆くも崩れていき、自分はどういう人生を生きるべきなのか、出だしから彷徨うことになる。
この記事は「シネマンドレイク」執筆による『リップヴァンウィンクルの花嫁』の感想です。

『リップヴァンウィンクルの花嫁』感想(ネタバレなし)

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現代版「不思議の国のアリス」

最近のハリウッドは新たな巨大市場を狙って中国進出に余念がありません。

ハリウッドさえ必死に苦労している中国映画界に、早々とひとりで進み出て受け入れられている凄い人、それが岩井俊二監督です。

岩井俊二監督はその独特な作風と、映画製作に新しい技術を次々取り入れる挑戦心から日本では以前から注目を集めていましたが、中国や韓国でも人気の高い日本人監督でもあります。

直近の作品は、ロトスコープという手法を用いたアニメ映画『花とアリス殺人事件』(2015年)。本作『リップヴァンウィンクルの花嫁』は久しぶりの岩井俊二らしい実写作品となっています。

岩井俊二監督作品を見慣れていない人は確実に戸惑うだろう作風だと思います。

ですが、本作は現代的な「不思議の国のアリス」だと思えばよいでしょう。

本作はSNSに代表されるようなインターネット上のコミュニケーションを題材としています。今や私たちが行うコミュニケーションの大半がネットを介して行われているといっても過言ではない時代。皆が“猫をかぶっている”…そんな時代における本物の人間関係とは何なのか? そんなことを考えさせられます。一方で、決して露骨なネット批判にはなっていないのがいいところです。

ときに親密、ときに軽薄、ときに空虚、ときに暴力的なネットのコミュニケーションを現実に体現したような濃いキャラクターを演じる役者陣も見逃せません。

映画は180分もありますが、展開が早いのと登場人物の掛け合いが魅力的なので飽きません。現実と虚構の境があまりにも曖昧すぎる現代で、岩井俊二監督が描く「不思議の国」に迷い込みましょう。

↓ここからネタバレが含まれます↓

『リップヴァンウィンクルの花嫁』感想(ネタバレあり)

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ようこそ“岩井俊二”ワールドへ

「不思議の国のアリス」は現実から虚構へ迷い込むのですが、本作『リップヴァンウィンクルの花嫁』は最初から現実世界のはずなのに虚構っぽい感じが漂っています。

皆川七海の結婚とその結婚生活は、どこか地に足ついていません。ネットで知り合った男、架空の結婚パーティ出席者、作られた浮気相手…。夫婦が簡単に崩壊するのも当然です。

離婚したのち、一瞬の現実を味わった七海は次なる虚構に誘われます。

結婚パーティの代理出席で一緒に仕事した里中真白とともに、謎の屋敷でメイドとして住み込みで働くことになった七海。ここから完全に映画は非現実的な世界観をフルモードで送り出してきます。

この世界にノれるかノれないかがまさに観客を選ぶ主因です。私も、とくに真白がAV女優で、屋敷の主であることが判明して以降は、ファンタジー色が浮きすぎているような気もしました。というのも、ファンタジー世界のベースとなるリアル部分に若干「ちょっと…」となる要素が。一例は、里中真白のAV女優という設定。「高収入だけど汚れ仕事」という職業ステレオタイプを感じてしまいます。実際、里中真白があんな豪勢な金使いができるほど高収入なら、相当有名な人気AV女優なはず。であれば、顔バレするような結婚パーティの代理出席の仕事はできないし、忙しすぎて七海にかまう時間はないでしょう。あと、真白と七海の同性愛的描写をファンタジックに表現するのは古いかなとも思います(まあ、でもこれは岩井俊二監督の趣味といってしまえばそれまでなんですけど)。

七海は疑似的に死ぬことで、この里中真白が支配する虚構世界から脱し、現実に戻ります。でも、この現実に見える世界だって虚構ではないでしょうか。虚構A(鉄也との結婚)⇒虚構B(真白の屋敷)⇒虚構C(安室が用意した家具に囲まれた部屋)と移動しただけなのかもしれません。そんな解釈でもいい気がします。

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持てる者と持たざる者の幸せ

いつの時代、どこの国でも、持てる者と持たざる者が存在します。それを決めるのはかつては貧富や人種、階級などだったわけですが、情報化社会の現代では情報力が全てです。

その点、本作で登場する「何でも屋」こと安室は完璧な「持てる者」。劇中登場から最後まで素を見せることなく、全てを手のひらの上で転がしてます。虚を突かれても(例えば、真白と共に七海も死んだと思ったら生きていたとき、真白の母が裸になり始めたとき)、巧みに場に乗っかって掌握してしまいます。

七海を別れさせた仕掛け人であると同時に、優しく振る舞って七海を次の虚構世界に誘い利用し続ける…いわゆる「トリックスター」です。他映画だと似たようなキャラに『ナイトクローラー』の主人公を連想します。私はこういうキャラが好きなので実に見ていて楽しかった。

安室を演じた綾野剛は、憎めないキャラづくりが最高。あの「くそー」「ちくしょう」「ばかやろー」「このやろー」のシーンの掛け合いが個人的に好きです(アドリブかな?)。

安室は終盤に七海に家具を提供してますが、あれは親切ではなく、利用するための伏線としか思えないです。あれを親切だと思ったら、七海と同じで利用されるだけですよ。

その七海は一目瞭然ですが「持たざる者」。

他人に「流されやすい」性格であると同時に、他人を「流しやすい」性格でもありますが、それは安室も同じ。安室との違いは、「流す」という行為をテクニックとして上手く活用できていないことではないでしょうか。

生徒によるいじめを真に受けるだけ。夫が浮気していると聞かされたときは「あちゃー」の一言。「持てる者」なら、慰謝料とか情報確保とかにすぐ動くのに。

七海を演じる黒木華は完璧にその人そのもの、というか監督は主演の黒木華から連想して七海というキャラを作ったそうなので、当たり前なのだけど。黒木華・本人は気まずくないのだろうか…。ただ、こういう側面は誰にでもあるように思います。

七海は終始自覚できていないキャラです。七海が指導するあの不登校の子さえも七海の「持たざる者」感に気付いてるのがまた痛々しい…。

一番の問題はどう考えたって胡散臭い安室を「ランバラルの友達ですから」の言葉で信用しきっていることです。私なら部屋にカメラを仕掛けるような男から家具をあげるといわれても受け取らない(七海は知らないのだけど)。きっと、七海はこれからも利用され続けるのでしょうね。

では本作はバッドエンドなのか…私は違うと思いました。

本作は「持たざる者」が幸せを見つける方法を描いた映画なのでしょう。

七海のような人間は虚構の世界で幸せを見つけるしかない。それが、見えない結婚指輪のような虚構でも、幸せなものは幸せなのです。

幸せの見つけ方はその人しだいです。

『リップヴァンウィンクルの花嫁』
ROTTEN TOMATOES
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IMDb
?.? / 10
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関連作品紹介

岩井俊二監督作品の感想記事です。

・『ラストレター』

作品ポスター・画像 (C)RVWフィルムパートナーズ リップバンウィンクルの花嫁

以上、『リップヴァンウィンクルの花嫁』の感想でした。

『リップヴァンウィンクルの花嫁』考察・評価レビュー