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『ブルージェイ』感想(ネタバレ)…甘さと苦さが際立つ純粋すぎるロマンス

ブルージェイ

甘さと苦さが際立つ純粋すぎるロマンス…映画『ブルージェイ』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Blue Jay
製作国:アメリカ(2016年)
日本では劇場未公開:2016年にNetflixで配信
監督:アレックス・レーマン
恋愛描写
ブルージェイ

ぶるーじぇい
ブルージェイ

『ブルージェイ』物語 簡単紹介

母が亡くなったことをきっかけにカリフォルニアの実家に戻ってきたジム・ヘンダーソン。懐かしい故郷ではあるが、ジムは穏やかにその空気をまた味わうだけだった。何気なくスーパーマーケットで買い物をしていると、高校時代に交際していた元恋人アマンダと偶然ばったり出会う。お互いに最初は驚く。昔の話題で会話も弾み、まるで付き合っていたときの輝きを取り戻していくかのように見えた二人だったが…。
この記事は「シネマンドレイク」執筆による『ブルージェイ』の感想です。

『ブルージェイ』感想(ネタバレなし)

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こんな綺麗な不倫がありますか

最近も著名人の「不倫」に関するスキャンダルが毎度のことながら世間を賑わせているようですけれども、大衆は「不倫」が好きです。いや、不倫を“する”のが好きなのかはわかりませんが、少なくとも“見る”のは好きなのでしょう。詮索心をくすぐるスキャンダルの見物は他人にとってはエンターテイメント同然。現に今月も不倫映画『昼顔』が公開されて、ヒットしています。

そして、今回紹介する本作『ブルージェイ』も見方によっては不倫を描いた作品です。しかし、不倫と聞いて真っ先に連想する“ドロドロ”で“ギスギス”な要素は全くありません。それどころか、初恋のような甘酸っぱさとわずかなほろ苦さで心が満たされるような気持ちになります

本作はNetflixが制作に関わっている作品で、日本では現時点ではNetflixでしか観れないのですが、Netflixオリジナルコンテンツではないです。なので、イマイチ目立たない扱いになってます。ところが、これが観ないのはもったいない、素晴らしい傑作なのです。

私が本作を観たのは2017年になってからなんですが、もし2016年中に見ていたら「2016年の個人的映画ベスト10」に入っていたと思う、それくらい素晴らしい作品です。

雰囲気としては、リチャード・リンクレイター監督の「ビフォア」シリーズ3部作に近い恋愛映画。すごくナチュラルなカップルの会話が延々と続いていくスタイル。この作品が好きな人は気に入るでしょう。

“マーク・デュプラス”と“サラ・ポールソン”の共演が見どころ。というかほぼこの2人しか出てきません。“マーク・デュプラス”は『ゼロ・ダーク・サーティ』とかに出演していましたけど、あまり意識するほど目立ちはしていません。“サラ・ポールソン”はアンソロジーシリーズ『アメリカン・ホラー・ストーリー』や『キャロル』などで活躍していましたね。

スキャンダルを楽しむイヤラシさで本作を観たら後悔します。

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『ブルージェイ』予告動画

↓ここからネタバレが含まれます↓

『ブルージェイ』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(前半):2人はまた出会った

ジム・ヘンダーソンは部屋を片付けています。そしてショッピングセンターで買い物中。

するとひとりの女性が近くによってきます。最初はジムがチラッと目を向け、気づいたかに見えますが、何事もなかったかのように無視。しかし、女性のほうから話しかけられ、そこで初めて気づいたかのように反応します。

「ジム?」「やあ、アマンダ」

久しぶりの再会。どことなくぎこちない会話。

「調子はどう」「元気」

言葉を探す2人。

「今もこのあたりに住んでいるの?」とジム。「妹に会いに来たの」

呼び止めるのも悪いからこのへんで…と別れのハグをする2人。その場はそれで終わり。

しかし、駐車場でまた会います。目が合うだけで通りすぎますが、車が近くだったので会話しないと逆に変な空気に。ジムは「よかったらコーヒーでもどうかな」とアプローチしてきます。

「いいわよ、もちろん」と答えるアマンダ。

場所は喫茶店「ブルージェイ」。互いの近況をたどたどしく喋ります。

「お母さまのことは聞いた」とお悔やみ申し上げるアマンダ。「今、お袋の家を整理していて」と状況を語るジム。建築関係の仕事をしていて、ツーソンにいると説明します。結婚はしてない、仕事と結婚している、ひとりのほうが自分らしくいられる…そう一気に言葉に出します。

アマンダのほうは両親がフロリダへいるらしく、孫の顔を見たいのだとか。つまり、結婚をしているようです。アマンダの夫の話を聞くジム。クリスという名で、出会ったときにはすでに2人の息子がおり、「私は出会った瞬間に母親になった」と語りました。

するとなぜか涙を流すジム。平気だと陽気に振舞います。この喫茶店の味は落ちたねと冗談を飛ばしながら…。

店を出て、酒屋の前を通ると、店内に高校時代に知っていた人を見かけます。ウェイニーという名で「彼は覚えていると思う?」と2人は試すことに。「旅行したいんだけど」と話しかけると箱を渡してくれ、各国のお酒を入れていく2人。このやりとりをその高齢の人は記憶していたみたいです。

「おたくら有名な仲良しカップルだ。まだ付き合っているのか」と語ってきて「ああ、結婚したいんだ、僕たち」とカップルのふりをするジム。ジェリービーンズもついでに買うと、その人は優しくおごってくれました。

水辺の昔のお気に入りの岩に腰掛ける2人。この場所も覚えていました。また会話を続けると、仕事は微妙でと言葉を濁すジムは「ここで暮らしてもいいかなと思い始めて」と語ります。

「やりたいことはないの?」とアマンダは何気なく聞きますが、すると「失業した、おじと喧嘩して追い出された」と白状してきます。

昔の君の頭皮マッサージのせいだとおどけてみせるジム。ジェリービーンズを食べる彼は、アマンダの好きな色だけを残して…。

そのまま2人はジムの母親の家を訪れ、懐かしい気分に浸っていきます。あの頃の自分たちはまだまだ未熟で、それでも未来なんてどうにでもなると思っているほどに楽観的で…。

そんな記憶が到来すると、まるで昔に戻ったような気持ちになり…。

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若さ、最高! でも…

『ブルージェイ』の最大にして最高の魅力はなんといってもジムとアマンダのカップル。一人だと普通のちょっと元気のなさそうな日々の生活に疲れた男性と女性なんですが、この二人が合わさるとあら不思議。キラッキラに輝いていくじゃないですか。本作は終始モノクロの映像ですけど、普通に色が付いているようにしか見えない。この二人が発する幸せオーラに観客のこちらまで多幸感でいっぱいになります。

ジムを演じる“マーク・デュプラス”(脚本も担当)とアマンダを演じる“サラ・ポールソン”の名演が本当に素晴らしい。

まず、序盤のばったり出会ってからの「あっ、ああ、元気してた?」みたいな“なんとも言えない感じ”が堪らないです。このジムがまた純朴そうでキュートですよね。鏡の前でひとり表情の練習なんかしちゃったりして。「ブルージェイ」でのコーヒータイムの会話も微笑ましく、互いの身の上話をしての「変わったな」「変わったよね」というだけの何のとりとめもない時間。でも、そのなかでもこの二人の間に確かな絆があることがこれでもかと伝わります。同時に同じことを言ったり、個人的に好きなのはジェリービーンズのくだり。アマンダが好きだったピンクと紫をさりげなく残してくれる…このわかっている感じ。ここは私もアマンダ視点で見てしまい、ああ、もう!と。これが「胸キュン」というやつか…。

舞台をジムの実家に移してからも二人の輝きは増すばかり。ここからは二人のカップルだった若き高校時代の思い出の品によってどんどんかつてのカップルのときに戻っていくパートとなります。恋愛小説のコレクションや、黒歴史な日記を引っ張り出し、過去の自分たちに赤面。テープを聞くシーンでは、自分たちのオリジナルラップや会話が流れる中、「キモい」「バカだな」「ダサイ」とただただ恥ずかしさに身もだえするひと時。ここは観客である私でさえ恥ずかしくなってきます。これぞ青春、アオい、アオクサイ。

この後に続く食事シーンでの夫婦ごっこからのダンスも悶絶もの。二人の役者の演技してる演技が最高です。完全にあの時のカップルだった二人に戻ったジムとアマンダ。誰にも止められません。「若さ、最高!」です。
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若さの限界

ジムは失業していること、アマンダは抗うつ剤を服用していること…それぞれの問題を吐露し合い、互いにあなたがいればこんなことにはならなかった気がすると「if」に思いはせる瞬間。

じゃあ、なぜその「if」を選択しなかったのか。なんで別れたのだろうと観客は思うわけです。これ以上ないベストカップルなのに…。

そこで翌日の別れ間際に明かされる二人の決別の理由。それを観客が知ったとき、「若さ、最高!」っていうだけじゃなかったんだなと身に染みて実感する。この構成、非常に巧みです。本作はただのノスタルジーなリア充映画ではない側面をちゃんと見せるのですね。よくありがちな不倫映画の肉体関係がどうのという俗物的なテーマではなく、若さの功罪としっかり向き合わせる本作は想像以上に大人です。私はこれが大人の映画だと思いますよ。

リチャード・リンクレイター監督の「ビフォア」シリーズと違って、本作の二人には絶対に戻れない過去がある。それは例え今から二人が付き合いだしても修復できないもの。その運命の分岐点をを示す手紙がまた切ない。それでも、息を吐いてじっと見つめ合う二人で終わる本作は、向き合うことの大切さに気付かせてくれました。

楽しいことも、辛いことも、表裏一体。向き合わないとね。

『ブルージェイ』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 90% Audience 76%
IMDb
7.3 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 9/10 ★★★★★★★★★

作品ポスター・画像 ©Blue Jay

以上、『ブルージェイ』の感想でした。

Blue Jay (2016) [Japanese Review] 『ブルージェイ』考察・評価レビュー