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『ファイアー・アイランド』感想(ネタバレ)…高慢と偏見とゲイ、そしてアジア系

ファイアー・アイランド

高慢と偏見とゲイ、そしてアジア系…映画『ファイアー・アイランド』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:Fire Island
製作国:アメリカ(2022年)
日本では劇場未公開:2022年にDisney+で配信
監督:アンドリュー・アン
人種差別描写 性描写 恋愛描写

ファイアー・アイランド

ふぁいあーあいらんど
ファイアー・アイランド

『ファイアー・アイランド』あらすじ

ノアは家族のように親しい仲間たちと共に毎年恒例のファイアー・アイランドでの1週間のバカンスにやってくる。ゲイ仲間と大いに遊んで騒ぎまくり、日頃の異性愛者たちとのウザい日常を忘れる息抜きだった。友人のハウイーは30年も恋人がいなくて寂しそうだったので、ノアは今回の滞在の間に理想の男性を見つけてあげようとする。そんな中、ノア自身もひとりの不愛想な男のことが妙に気になってしまう。

『ファイアー・アイランド』感想(ネタバレなし)

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アジア系ゲイ版「高慢と偏見」

アメリカ合衆国本土で最長最大の島は?と聞かれたら、その答えは「ロングアイランド」です。名前からして「長いです!」って主張してます。このロングアイランドは、ニューヨーク州南東部の海にニョキっと飛び出ている島で、かなりの大きさ。人口は約783万人だそうです。その人口の多さは当然そこにクイーンズ郡とキングス郡(ブルックリン)などが含まれているからであり、島の最西端に位置するこの地域はとくにベッドタウンと化しており、富裕層が多く暮らしています。

そのロングアイランドのすぐ南には「アウターバリア」と呼ばれる細長く伸びた島々があり、ラグーンを形成していて、ちょっとしたリゾートみたいになっています。

そのアウターバリアのひとつが「ファイアー・アイランド」という島です。約300人くらいしか定住していないのですが、夏になると一気に観光客がやってきて人口が倍加します。そしてここは「ゲイ・ビレッジ」としても有名です。要するにこのあたりのゲイやレズビアンの人たちがここぞと集まって仲間と休暇を騒いで過ごす、そんな場所になっているわけです。

今回紹介する映画はそのファイアー・アイランドを舞台に、ゲイの主人公がゲイ仲間と一緒にふざけあっているうちにひと夏の出会いを体験する、そんなゲイ・バカンス・ムービー。

それがずばりなタイトルである本作『ファイアー・アイランド』です。

この『ファイアー・アイランド』、物語の大筋は先ほど説明したとおりなのですが、ロマンス・ストーリーとしてもうひとつ特徴があって、あのイギリスの小説家にして英文学の古典を生み出した“ジェイン・オースティン”の名作のひとつ「高慢と偏見」が土台になっているという点。

「高慢と偏見」は私なんかが説明するまでもないのですが、ざっくり言えば、18世紀末から19世紀初頭のイギリスの片田舎を舞台に、主人公の女性が独身の青年資産家の友人の男性と出会い、そのプライド高く高慢で面倒な態度にイラつきながらも、しだいに惹かれ合っていくという恋愛小説。「この人、ほんと感じが悪いよね!…でも、あれ、なんか好き…」みたいな、ギスギスした男女の仲に見えてその人の内心にある魅力に気づいていく、定番の男女ロマンスの型となった一作です。

「高慢と偏見」自体は名作ですし、何度も映画化もされました。2005年の“キーラ・ナイトレイ”主演の映画が一番新しいのかな。

で、この『ファイアー・アイランド』はその「高慢と偏見」をベースにしているのです。どこがどう「高慢と偏見」になるんだ?と最初は思ってしまうくらいに場違いな設定の気もしますが、ちゃんと「高慢と偏見」になってます。

ゲイ版の「高慢と偏見」というだけでもフレッシュなのですが、本作はさらにアジア系を主役に据えているという観点でもレプリゼンテーションとして目立っていて…。ましてやこういうゲイ・コミュニティ内におけるアジア系の存在はなかなか可視化されなかったので、本作は相当に突き抜けた一作だと思います。

この新鮮な表象を贈り届けてくれる『ファイアー・アイランド』を監督したのが、“アンドリュー・アン”という韓国系アメリカ人。彼自身もゲイであり、2016年に『Spa Night』というゲイの韓国系アメリカ人のティーンエイジャーを描いた作品で長編映画監督デビュー。続く監督2作目の長編映画『Driveways』(2019年)では、汚い家に住むことになったシングルマザーとその8歳の息子のアジア系の親子を描き、こちらは明確にクィアネスな作品ではありませんが、その登場する子がうっすらとゲイであることを匂わせる感じで描かれ、自然体な存在感がとても良い味をだしていました。

両作とも非常に高い評価を受け、インディペンデント映画界の注目の監督として一気に名をあげた“アンドリュー・アン”監督なのですが、今作『ファイアー・アイランド』は「Searchlight Pictures」の配給でさらにスポットライトを浴び、こちらも批評家から大絶賛です。

俳優陣は、主人公を演じるのはコメディアンとしても活躍する“ジョエル・キム・ブースター”。本人もゲイです。そして『The Light of the Moon』の“コンラッド・リカモラ”。彼もゲイです。『サタデー・ナイト・ライブ』でおなじみの“ボウエン・ヤン”。彼もゲイです。さらに『フェイス/オフ』などの“マーガレット・チョー”。彼女はバイセクシュアルです。つまり、こんだけくどく書けばわかると思いますが、クィアな役にはクィアな俳優を起用する、当事者主体の強いエンパワーメントのあるキャスティングにもなっており、ここも見どころのひとつ。

「高慢と偏見」を知らなくても楽しめるので安心してください。気楽にラブコメを満喫したい人にオススメです。

『ファイアー・アイランド』は日本では劇場公開されず「Disney+(ディズニープラス)」で独占配信されています。

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『ファイアー・アイランド』を観る前のQ&A

Q:『ファイアー・アイランド』はいつどこで配信されていますか?
A:Disney+でオリジナル映画として2022年6月24日から配信中です。

オススメ度のチェック

ひとり4.0:ラブコメ好きな注目
友人3.5:クィアな仲間と
恋人4.0:同性愛ロマンス満載
キッズ3.0:性描写あり
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『ファイアー・アイランド』予告動画

↓ここからネタバレが含まれます↓

『ファイアー・アイランド』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(前半):異性愛者たちは忘れよう!

「資産家の独身女性ならば妻を欲しがるはずだと世間の人は思っている。ジェイン・オースティンはそう書いた。でもそんなの異性愛者の戯言だと思う。妻を求めてない独身の男もいる」

アラームに起こされてベッドから飛び起きるひとりの男。急いで着替えますが、隣には別の男がいて、そっちも起きてきます。「悪いけど帰ってくれ、昨夜は楽しかったけど」とノアはその一夜の相手に告げて、家を出ます。

今日は遅れるわけにはいきません。大事な日です。今週はゲイのディズニー・ワールド「ファイヤー・アイランド」にみんなで行くのです。誰とかって? それは家族と。と言っても家族同然な友人たち。ルーク、キーガン、マックス、ハウイー。出会いは10年前。みんな同じレストランで働いていました。そしてみんなゲイ仲間です。

その5人で船に乗り込み、島に到着。歓声をあげて気分は絶好調。異性愛者たちの社会とはおさらばです。

5人は定番の家に向かいます。出迎えてくれたのはエリン。年齢不詳のレズビアンで、5年前にイタリア料理店でガラスを食べて多額の和解金を勝ち取り、この島に家を買ったらしく、毎年招待してくれます。ノアたちにとっては母親みたいな存在です。

さっそくのんびり日中を過ごします。ハウイーはサンフランシスコの暮らしが退屈だとノアにぼやきます。自信の無かったノアはここに来て変われたので、ハウイーにも良い経験をしてほしいと考えていました。ここなら出会いはいくらでもあり、男の体は漁り放題です。でもハウイーはラブコメみたいな恋愛がしたいらしく、ロマンチスト。ノアは現実は違うと口にしますが…。

そんなノアはプールにスマホを落としてしまい、幸先からして不幸を痛感。しかも、エリンは破産したと告白し、家を売るそうで、これが最後の夏になると知り、さらに落ち込みます。

この1週間を楽しむしかないか…。

夜はパーティーに参加。チャーリーという良さそうな男に目を付け、ハウイーにチャンスを与えようとノアは画策します。一緒に夕日を見に行く一同。でもチャーリーのそばにいるクーパーウィルという友人が邪魔です。

次にチャーリーたちのアフターパーティーに行ってみます。それは豪華な家でした。馬鹿にされている視線を感じつつ、ノアたちはくつろぎます。

ハウイーはチャーリーと全然性的な話に進む気がないようで、ノアは苛立ちます。「攻めか受けかを聞いたか? HIV予防薬は?」とお節介をかけますが、「そんなのどうでもいいんだ」とハウイーはマイペース。

そんな中、ノアはウィルのことが妙に気になります。愛想が無くて、プライドだけが高そうな金持ちの嫌な奴。でも…ムカつくけど…ムラムラもする…。

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ちゃんと「高慢と偏見」してる!

『ファイアー・アイランド』は観る前にはどこがどう「高慢と偏見」になっていくのか疑問だったのですが、観てみたらどっからどう見ても「高慢と偏見」でした。

原作では女ばかり5人姉妹のベネット家が物語の主軸になるのですが、これを本作ではノアたちゲイ仲間の集まりという疑似家族で表現しており、ここからしてもうユニークです。

ノアはもちろんエリザベス・ベネットのポジション。観察力があって気配りもできるこの家族の常識人的存在。“ジョエル・キム・ブースター”の振舞い方といい、しっかりハマってました。

他の家族も同様。ハウイーはジェーン ・ベネット。マックスはメアリー・ベネット。キーガンはキティ・ベネット。ルークはリディア・ベネット。エリンは性別で考えるとミセス・ベネットなのでしょうけど、ミスター・ベネット的なおおらかさがありましたね。

そしてそのノアの相手となるウィルは当然あのフィッツウィリアム・ダーシーです。最初に登場したときから「あ、こいつがダーシーか!」と瞬時にわかる佇まい。“コンラッド・リカモラ”の演技が最高でした(彼はフィリピン系)。あのダーシー然とした存在で、鼻持ちならない態度を表面では見せつつ、内心では誠実。やっぱりゲイであってもダーシーのキャラクターは魅力的に映るもんなんだな!と実感。

コミカルなシーンも抜群ですね。ソフトクリームを躊躇なく脇の草っぱらに投げる場面とか、ホントいい…。俳優名前あてクイズの際の真面目顔も笑えるし…。

同意なしに映像をネットにあげたデックスに文句を言いに行く際のコンビネーションもバッチリで、このペアを見ているだけで楽しいと思ってしまったら、この映画の虜になっているということですね。私なんか、あのウィルが普段どんな生活しているのか、その日常映像をスピンオフにしてほしいと思いますよ。

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多彩なゲイのレプリゼンテーション

2020年にリメイクもされた『ボーイズ・イン・ザ・バンド』は、多彩なゲイのキャラクターを登場させてその存在のバラエティーを見せるという点で画期的でしたが、『ファイアー・アイランド』はそこからさらに進んでゲイの多様性を盛沢山に映し出しています。

やはり主役がアジア系というところは最重要です。作中では同性愛者の楽園のようなファイヤー・アイランドでもアジア系のゲイがちょっと疎んじられていることがわかるシーンがいくつも挟まれ、実際もこうなんだろうなというリアルな疎外感を醸し出しています。

ましてやノアたちは明らかに「イケてない」組の奴らと思われており、エリートでリッチなゲイ組からしてみれば、「なんだあいつら」という嘲笑のまと。だからこそ家族として助け合って生きている。ノアも以前は自信がなかったようですし、ノアがここまで前向きになるまでの間にもドラマがあったんでしょうね。

一方でそのノアたちの中にも差異があります。軽いノリで遊びまくりたいルークとキーガンみたいな奴もいれば、マックスのように静かに過ごしたい人間もいる。

ハウイーの存在も印象的です。彼はチャーリーと良い関係に当初からなっていくも、性的な関係には全然踏み込もうとしません。「Gays in Space」の話ばかりしてしまう始末です。ちなみに「Gays in Space」とは『サタデー・ナイト・ライブ』の有名なコントのひとつで、ハウイーを演じている“ボウエン・ヤン”もその番組出身なので自虐ネタになっています。

このハウイーは見ようによってはデミセクシュアルな性的指向の持ち主にも解釈できると思います。チャーリーにもいきなり性的な魅力を感じているわけではなさそうですし、一緒にのんびりする時間に魅力を感じていて、ちょっとずつ関係を深めていってますから。ゲイだからって即セックスというわけではないという、当たり前のことをこうやって描く。大切な表象です。

そう考えるとマックスはアセクシュアルなのかと考えることもできなくはないけど、彼の物語が全然描かれていないので情報不足すぎるかな…。

とにかく“アンドリュー・アン”監督はこういう性的指向を一面的に描くのではなく、内面の個々人の揺らぎをきっちり捉えて肯定的に包み込むように描いてくれるので、なんだかとても安心します。『HEARTSTOPPER ハートストッパー』的な居心地の良さがある…。

ラストはひとり帰ることに決めたハウイーをみんなで追いかけてのハッピーエンド。そこで船の上で新しめのレインボーフラッグを振りまくっているのですが、それも単に派手で目立つからという理由で旗を振っているのがまたアホらしいです。でもアホでいいんです。

アジアン・ゲイの記念すべきお祭り映画としてクィア史に刻まれる作品になったのではないでしょうか。アジア系ゲイでも高慢(プライド)を振りかざしていこう!

『ファイアー・アイランド』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 94% Audience 77%
IMDb
6.7 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
8.0
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作品ポスター・画像 (C)Searchlight Pictures ファイアーアイランド

以上、『ファイアー・アイランド』の感想でした。

Fire Island (2022) [Japanese Review] 『ファイアー・アイランド』考察・評価レビュー