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韓国ドラマ『それでも僕らは走り続ける Run On』感想(ネタバレ)…アセクシュアルな上司もいいよね

それでも僕らは走り続ける

アセクシュアルな上司に応援されたい…ドラマシリーズ『それでも僕らは走り続ける』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

英題:Run On
製作国:韓国(2020年~2021年)
シーズン1:2020年にNetflixで配信
脚本:パク・シヒョン

それでも僕らは走り続ける

それでも僕らは走り続ける

『それでも僕らは走り続ける』あらすじ

決められたコースを走り続けてきた陸上界の有望選手。ひとりの翻訳家との出会いをきっかけに、初めて自分のペースで、心のままに人生を走り始める。そこにあるのは、そう簡単に飛び越えることはできない障害物。自分の力だけではとても体力が持たないチャレンジも、頼もしい仲間がいればなんとかなる。愛が芽生えれば、その走りはさらに加速する。

『それでも僕らは走り続ける』感想(ネタバレなし)

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韓国ドラマは新しいコースに

定期的に巻き起こる「韓流ブーム」

その第1波は2003年のドラマ『冬のソナタ』だと言われています。中高年の女性が原動力となり、「ヨン様ブーム」は確かに話題沸騰でしたね。

そして今、2020年から「第四次韓流ブーム」が到来しているようです。波として下がっては浮上してを繰り返すのは、主に政治的な日韓関係の問題もあるのですが、今回の第4波はこれまでの流行とはちょっと違うような気がします。というのもその起点になっているのがNetflixで配信されたドラマ『愛の不時着』のような動画配信サービスにあるからです。これまで以上に誰でも韓国コンテンツに触れやすい土壌ができ、以前のように中高年の女性だけが局所的に熱狂を起こしているわけでもありません。動画配信サービスの特性上、政治などお構いなしにどんどん絶え間なく新作を提供するため、作品が途絶えることもないです。映像作品だけでなく、K-POPなど音楽業界の牽引もあります。そして何より今は韓国エンターテインメントが世界的に大ヒットしてジャンルとして受け入れられています。

これほどのかつてないグローバルでビッグウェーブな韓流ブームはなかったことであり、なので一時的なブームではなく、ひとつのメインストリームとして確立したのではないでしょうか。

Netflixでもとくに韓国ドラマシリーズには力が入っています。『キングダム』や『愛の不時着』の成功で、これはイケると確信したのでしょうね。事実、常に日本の視聴人気トップ10のどこかには韓国ドラマがランクインしていますし。

今や韓国のテレビ局と提携し、新作を本国放送とほぼ同時に配信していますからね。なんだか凄い時代になりました。もう韓国ドラマが見づらいということもないです。むしろ見てないの?って言われそうなくらい。

でも「まだ私は韓国ドラマシリーズには手を出していないんだよな~」と躊躇している人もいるのではないでしょうか。「韓国ってベッタベタな恋愛なんでしょ?」とやや小馬鹿にしてませんか?

実際のところ、そんな韓国ドラマのイメージはもう捨ててもいいと思います。なにせ2020年代ですよ。韓国も進化しました。あらゆる意味で自国のコンテンツを確実にバージョンアップさせてきています。

ということで、昨今の韓国ドラマの新時代を感じさせる作品を今回は紹介します。それが本作『それでも僕らは走り続ける』です。

本作は韓国のテレビ放送局で、『梨泰院クラス』などを生み出してきた「JTBC」制作のドラマシリーズです。2020年12月から2021年2月にかけて放送され、日本ではNetflixで同時期に配信されました。

お話としては、仕事にひたむきに頑張る若い女性がひとりの裕福な家庭で育った陸上短距離の韓国代表選手の男性と出会い、それが恋に発展にしていくという、王道ど真ん中の異性愛ロマンスです。

なのですがこの『それでも僕らは走り続ける』、中身で多様なジェンダーやセクシュアリティに踏み込んだ展開になっており、英語圏の韓国ドラマのファンなんかの意見を見ていると「韓国ドラマのゲームチェンジャー」と好評を得ています。確かに異性愛ロマンス一辺倒だった韓国ドラマの常識を揺さぶり、新しいスタートを切ろうとするような、そんな一作です。

同性愛も登場しますし、私がこの『それでも僕らは走り続ける』を観ようと思った素直な動機は、本作にアセクシュアルのキャラクターが出てくるからです。アセクシュアルの表象はとても乏しいという話は各所でしたので割愛しますが、本作のような韓国作品でお目にかかれるとは…。メインキャラではないのですけど、しっかり物語をアシストしてくれて、私もおおむね満足な描写でした。

また、『それでも僕らは走り続ける』は映画ファンにもオススメできます。なぜなら主人公の女性が映画の字幕翻訳の仕事をしており、作中で映画業界裏が覗けますし、関係者ならではの“あるある”な苦労も垣間見えて面白いからです。主人公も趣味として映画オタクですし、パロディネタも何度か出てきます。

俳優陣は、『リターン・トゥ・ベース』の“シン・セギョン”、ボーイバンド「ZE:A」のメンバーである“イム・シワン”、アイドルグループ「少女時代」のメンバーである“チェ・スヨン”、「5urprise」のメンバーである“カン・テオ”。この4人がメインです。

他にも『82年生まれ、キム・ジヨン』の“イ・ボンリョン”、『私は王である!』の“パク・ヨンギュ”、ドラマ『たった一人の私の味方』の“チャ・ファヨン”など。

『それでも僕らは走り続ける』は韓国の恋愛ドラマの新しい走りを見られる、応援したくなる一作です。全16話と長いですが、一緒に並走してみてはどうですか?

オススメ度のチェック

ひとり◯(ベタな恋愛だけど平凡ではない)
友人◎(オススメし合うのも良し)
恋人◎(関係性を見つめ直すのも)
キッズ◯(ティーンには見せやすい)
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『それでも僕らは走り続ける』予告動画

それでも僕らは走り続ける | オフィシャル予告編 | Netflix
↓ここからネタバレが含まれます↓

『それでも僕らは走り続ける』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(前半):4人の走りの行方

街は映画祭の開催で賑わっていました。レッドカーペットには大物監督や俳優が次々と登場し、マスメディアやファンが詰めかけ、カメラやスマホを向けます。その中に、「カンヌの女王」と称されるほど世界的な有名となった大女優ユク・ジウがおり、ひときわ大きな熱狂が起きます。そのユク・ジウの隣に無表情で立っているのが、息子であるキ・ソンギョムです。

ユク・ジウはそのままラジオに出演。「次回作は恋愛映画です」と和やかに答えます。その収録生会場を見物しに来たひとりの若い女性。オ・ミジュはファン丸出しで憧れの大女優にエールを送り、反応があったので大興奮。

ミジュは映画祭に出品した作品の韓英翻訳を務めており、インデペンデント映画を扱う小さな配給会社のトップで大先輩あるパク・メイと一緒に来ていました。といってもミジュは下っ端なので、上映を鑑賞することすらできません。

その夜の翻訳関係者の飲み会でミジュは教授を怒らせてしまい、たまたま出会ったソンギョムがミジュの落としたライター銃を突き付けてミジュを追ってきた男を威嚇してくれました。

ソンギョムは陸上短距離の韓国代表選手であり、母は大女優、そして父は大物国会議員のキ・ジョンドという家柄のため、アイドルのように有名です。

陸上仲間といつものようにトレーニングをしていると、ソンギョムを慕う後輩のキム・ウシクの体が痣だらけなのに気づきます。それはスポーツで生じる傷ではなく、明らかに他の仲間に暴行されていました。

一方、ミジュは仕事を失いかけてやむを得ず教授に頭を下げます。そして貰った仕事がある運動選手の通訳でした。

ミジュは大好きなモデルガンを奪われて男を追いかけるハメになり、そこでまたも現場に居合わせたソンギョムが、これまた偶然そこに立っていたヨンファのバックを槍投げのように逃走男に投げつけ、事態を収拾します。しかし、ミジュとソンギョムは警察に説明を求められ、一緒に並びます。ミジュはあまりにマイページでつかみどころのないソンギョムに困惑。

そして通訳の仕事としてエージェンシー代表でソミョングループの常務であるソ・ダナのもとへ行くと、そこで通訳する相手として紹介されたのがソンギョムでびっくり。

あらためてソンギョムに挨拶をと手を差し出すミジュ。けれどもソンギョムは「バン」と銃を撃つマネで対応。「頭、大丈夫ですか?」

そんな中、ダナはとある喫茶店に飾られていた絵を気に入り、交渉して持って帰ります。それは美大生のヨンファが描いたものであり、立場の全然異なる2人は急速に接近することになり…。

思わぬかたちで交差した4人の人生のコース。ぶつかるのか、共に走るのか、追い抜くのか、その行き先は本人にもわからない…。
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ホモ・ソーシャルという巨大な障害

『それでも僕らは走り続ける』のロマンス部分の感想は省略しますね。4人とも愛嬌があって、ずっと見ていられますよ。

ここでは別の視点で作品を深堀りします。

本作は、かなり明白に「中高年男性のホモ・ソーシャル」が対抗すべき壁として設定されていたように思います。

第1話からそれはハッキリ提示されます。ミジュは酔っぱらったカツラ教授から「この女流翻訳家が調子に乗るな」と見下され、「女だからって侮辱されて黙っているとでも?」と毅然と反論。

ミジュの職業は常にそうした蔑視が付き物です。そもそも翻訳という仕事自体が過小評価されています。誰もエンドクレジットを見ないし、撮影現場の通訳ではなりふり構わず喋りまくる外国人にげんなり。全然評価されない職業です。そこに加えての女性差別によって、ミジュの立場は輪をかけて辛いものになっています。

また、ソンギョムも同じです。陸上というスポーツの世界における暴力事件、そしてそれを隠蔽するコーチやエージェンシー。まさしく男社会の構造(力の誇示、かばい合い)の醜悪さそのもの。

そのホモ・ソーシャルのボスとして君臨する象徴的存在がソンギョムの父であるキ議員。家父長の権化であり、権力を行使することに躊躇いもなく、妻も、子どもも、部下も、赤の他人も、全員を支配できると思っている。あの高慢な態度。いや~、ジョン・ウィックに撃ち抜いてもらいたい…。

韓国社会の出来事ではあるのですが、日本も全く他人事ではない既視感たっぷりな世界でしたね。ちょうど配信時期に「東京オリンピック・パラリンピック大会組織委員会の森喜朗会長による女性蔑視発言にともなう辞任騒動」がありましたし…。

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新しい関係性を描き出す

その中で『それでも僕らは走り続ける』は各話を通して旧態依然な世界を塗り替えるべく、新しい関係性を提示していく物語だったと思います。

例えば、ミジュの上司であるパク・メイとの関係性。パク・メイはミジュと同居生活をしており、非常に面倒見がいいです。児童福祉施設育ちのミジュにとっては母親代わり。年功序列もなく、年齢差を気にせずに対等に接してくれます。

そんな彼女は、一時的に居候することになったソンギョムに対して「三角関係の心配はいりません。私は無性愛者です」なんて告げます。アセクシュアルであることをとくに違和感もなく描き、しっかりキャリアを積んでいる。そんなキャラクターの自然な登場は新鮮です。キャリアも恋愛も応援してくれるアセクシュアルなキャラクター、待ってました。

そのパク・メイも終盤にまさかのダナの部下であるチョン・ジヒョン秘書室長と熱愛関係にあることが発覚。ここで「アセクシュアルだけど、アロマンティックではないから」とその違いが語られるのも嬉しいところ(字幕翻訳が変だったですけどね。字幕担当者さん、そこはアセクシュアル・アロマンティックとそれぞれ翻訳した方がいいですよ)。

またそのチョン・ジヒョン秘書室長とダナの関係もいいですね。若い女性が上司で、部下が中年男性なのですが、それでもジェンダーのステレオタイプな逆転をサラっとやってのけて、すごくフラットな信頼を築いています。執事みたいなポジションですけど、あの2人もまた新しいビジネスにおける人間関係の姿を示してくれるものです。

一見、感情少なめに思えるチョン・ジヒョンの人柄も心地よいです。パク・メイに恋愛として声をかける際に、「交際相手はいますか、いやまずこれを聞くべきでした、恋愛対象は男性ですか?」と尋ねる律儀なシーンとか。

「私は小道具じゃない、主役よ」と、夫の支配から脱却し、さらに羽ばたいていくユク・ジウの姿も印象的でした。

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異性愛ドラマが果たすべきこと

『それでも僕らは走り続ける』は恋愛の成就や結婚の成立がゴールではありません。

ミジュはキャリアのために必死に努力を続けています。恋人さえいればいいかとキャリアを投げ出すことはしません。彼女が字幕というもののやりがいを語るシーンは心をうたれます。

ソンギョムはそんなミジュを支えます。彼は最初は後輩のウシクを殴った相手に暴行して反撃してしまいます。それは言ってしまえばホモ・ソーシャル的なやり方です。でもソンギョムはその自分の暴力を素直に反省し、謝罪します。ここでちゃんと「これは正しくない」と示した本作は素晴らしいと思います。

その後のソンギョムは料理に家事にと順調に専業主夫っぷりを発揮し、さらにはウシクと共にリハビリというかたちで男性同士のケアに努めます。これこそホモ・ソーシャルを抜け出す男たちに必要なこと。

一方、ダナとヨンファの関係性は、ある種の異性愛ロマンスへの釘刺しとも言えるかなとも思います。

ダナは嫁にいけという親からの圧力にうんざりしつつ、自分はレズビアンであるというふりをして、そのプレッシャーから逃げます。わざわざアウティングになるぞと知ったかのようにチラつかせながら。

けれども最後は同性愛を口実に使っていたことを当事者に謝罪します。ここのダナのマジョリティとしての加害者意識の芽生えも素直に描いていて良かったですね。

そしてヨンファはベストフレンドであったイェジュンが実はゲイで、自分を初恋の相手として慕っていたことを知り、自分のわかってなさを痛感します。ダナへの愛を夢中で語れていた自分は恵まれていたんだ、と。ダナのことを高嶺の花(ラプンツェル)として追う自分に酔っていたけど、本当はもっと辛い立場の人がいる。こういうシチュエーションはリアルでいっぱいありますよ(大半のマジョリティは気付いていないけど)。

異性愛者が他のマイノリティに対して無自覚にばらまく残酷さを本作はしっかり自覚しており、そういう作品はやっぱりまだまだ珍しいです。『それでも僕らは走り続ける』は異性愛ドラマが果たすべき役割を見事にクリアしているんじゃないでしょうか。

それぞれのハッピーエンドなゴールに向けて完走を目指す4人。それは自分本位ではない、多様な愛の肯定を内包していることは言わずもがな。

『それでも僕らは走り続ける』を観ていれば、韓国ドラマの到達する未来は明るいと希望が持てるような気がしました。

『それでも僕らは走り続ける』
ROTTEN TOMATOES
S1: Tomatometer –% Audience –%
IMDb
7.9 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 8/10 ★★★★★★★★
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関連作品紹介

アセクシュアルを描いた作品の感想記事です。

・『17.3 about a sex』

・『セックス・エデュケーション』

作品ポスター・画像 (C)JTBC

以上、『それでも僕らは走り続ける』の感想でした。