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ドラマ『シュミガドーン!』感想(ネタバレ)…アロマンティックは歌えない

シュミガドーン!

ミュージカルのパロディが盛りだくさんの痛快作…「Apple TV+」ドラマシリーズ『シュミガドーン!』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:Schmigadoon!
製作国:アメリカ(2021年)
シーズン1:2021年にApple TV+で配信
原案:シンコ・ポール、ケン・ダウリオ
恋愛描写

シュミガドーン!

しゅみがどーん
シュミガドーン!

『シュミガドーン!』あらすじ

メリッサとジョシュは職場の病院で偶然に出会い、そのまま恋に落ちた。しかし、その愛は年月とともに冷めていく。この関係性の危機を打開するため、バックパック旅行に出かけて心機一転しようと試みるも、そう上手くはいかない。そんなとき、シュミガドゥーンと呼ばれる町を発見する。そこは黄金時代のミュージカルの中の世界で、2人は真実の愛を見つけるまでその町を去ることができないと気づき…。

『シュミガドーン!』感想(ネタバレなし)

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ミュージカルのパロディが盛りだくさん

異性同士にせよ同性同士にせよカップルが喧嘩する理由はいくらでもあります。もしかしたら趣味が合わなくなってギクシャクすることもあったり…。例えば「ミュージカル映画は最高だ!」「いいや、ミュージカル映画なんておかしいだろう!」とか…。

そういう趣味の不一致は厄介ですよね。自分は自分、相手は相手…というポリシーで互いを尊重して、なるべく火種を作らないようにするか、いっそのこと話題にしないように避けるか…。でも趣味というのはその人のアイデンティティにとって欠かせないもので、なかなかその折り合いをつけるのが難しいケースもあります。ましてやまるで趣味が正反対だとキツイものです。

今回紹介するドラマシリーズはまさにそういう状況で八方塞がりに陥った一組のカップルをユーモラスに描く作品です。

それが本作『シュミガドーン!』

本作は、ミュージカル映画がわりと好きな女性と、ミュージカル映画が大嫌いな男性、この一組のカップルが主人公で、二人は案の定ですが関係が悪化し始めています。そこでリュックを背負って山中を一緒に歩いてカップル仲を深めるトレッキングに参加するのですが、道中で喧嘩しているうちに不思議な町に迷い込みます。実はそこはただの田舎町ではなく、なんと1940年代から1950年代にかけてのミュージカルの世界観で構築された空間なのでした。みんな歌って踊っています。『不思議の国のアリス』状態でこの奇想天外で異様な空間にキョトンとしていると、さらに問題が…。この町から簡単に出られない…さあ一体どうやって脱出すればいいのか…。そういう物語です。

そんなこんなでこの『シュミガドーン!』は1940年代・1950年代のミュージカル作品のパロディがたくさんあります。そもそもこの本作のヘンテコなタイトルは『Brigadoon(ブリガドゥーン)』という1947年にブロードウェイで上演され、後の1954年に映画にもなっている作品に由来します。『Brigadoon』は、100年にたった1度だけスコットランドの高原に現れる不思議な村に迷い込んだ男がその村の女性に恋をする…というストーリーで、本作『シュミガドーン!』はその物語面でもなぞっている部分が大きいです。

他にも、あの『サウンド・オブ・ミュージック』『ザ・ミュージック・マン』『回転木馬』『オクラホマ!』『フィニアンの虹』といった名作と評されるクラシックなミュージカル作品のオマージュやパロディが満載で、ミュージカル好きなら楽しめること間違いなしです。

じゃあ、ミュージカル嫌いな人は楽しめないのかというと、そうでもないかもしれません。というのも本作『シュミガドーン!』はそういうミュージカル嫌いな人の視点もありますし、唐突に展開されるミュージカル演出にツッコミをいれたり、そういうミュージカル的なお約束に文句を言ったり、はたまた現代的視点で見れば明らかにおかしい昔のミュージカルの常識を指摘したり、そんな風刺もたくさんあるからです。

全体的なノリとしては『サタデー・ナイト・ライブ』に近いですね。題材への愛もありつつ、きっちり言いたいことは言って風刺する…というバランス感覚があります。

原案はミニオンでおなじみの『怪盗グルー』シリーズで脚本を手がけてきた“シンコ・ポール”“ケン・ダウリオ”のコンビ。そう言えばミニオンもよく歌うし、実質ミュージカルだったな…。

そして監督は『アダムス・ファミリー』『メン・イン・ブラック』の“バリー・ソネンフェルド”です。

俳優陣は、主人公のカップルを演じるのが、『サタデー・ナイト・ライブ』のレギュラーで鍛えられている“セシリー・ストロング”と、ジョーダン・ピールと共に冠番組『キー・アンド・ピール』で注目を浴びた“キーガン=マイケル・キー”

また、共演は、『チョコレートドーナツ』の“アラン・カミング”、『きみはいい人 チャーリー・ブラウン』の“クリスティン・チェノウェス”、『ディセンダント』の“ダヴ・キャメロン”、『ウエスト・サイド・ストーリー』で見事にアカデミー助演女優賞に輝いた“アリアナ・デボーズ”、ドラマ『ディキンスン 〜若き女性詩人の憂鬱〜』の“ジェーン・クラコウスキー”、『レ・ミゼラブル』の“アーロン・トヴェイト”など。みんな歌います。

『シュミガドーン!』は「Apple TV+」で独占配信されているドラマシリーズですが、全6話、しかも1話あたり約25~34分程度なので、とてもお手軽に観られます。その気になれば1日で一気に全話鑑賞するのも難しくはないでしょう。

関係にヒビが入ってきたカップルがこの『シュミガドーン!』を観ると仲直りできる…かはわかりませんけど、ストレス発散にはなるかもですね。

オススメ度のチェック

ひとり 4.0:ミュージカル好きは注目
友人 3.5:気軽なエンタメとして
恋人 4.0:関係修復できる?
キッズ 3.5:歌や音楽が好きな子に
↓ここからネタバレが含まれます↓

『シュミガドーン!』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(序盤):私を愛してないの?

メリッサは医師で多くの妊婦の出産に立ち会ってきました。一方のジョシュは淡々と手術し、事務的に仕事をこなします。過労で疲れたメリッサは院内の自販機を押すもスナックがでてこず、イラつきます。するとたまたまそこにいたジョシュが「蹴るといい」とアドバイス。「1回の蹴りで魔法が起きるの?」と半信半疑だったメリッサでしたが、やってみると1個だけでなくスナックが大量にわんさか出てきたのでした。2人の愛をこうして始まります。

その1年後。付き合って1年の記念日は定番のスナックで多少の関係も持ち直せます。しかし、3年も経てばそうはいきません。2人の関係は冷めていました。そこでバックパック旅行に出かけます。これでカップルの絆が復活すると期待して…。このトレッキングではパートナーの名前が書かれたハートの石を持って森の中を歩くことになります。

けれども悪天候。さっそく文句たらたらで関係修復どころではありません。ジョシュはハートを失くしてしまっており、「ただの石だ」という言い草にメリッサもカチンときます。

そんな険悪な最中、どこからか教会の鐘のような音が…。2人が進むと霧に包まれた石橋を発見。土砂降りだし休めるところがあればいいと2人は霧の石橋を渡ります。

そこを抜けるとずいぶんとのどかな「シュミガドーン」という町に到着。なんか音楽が聞こえてくる気がする…。その町の入り口に立つと、なぜか盛大に歌い出す住人達。「観光客向けのショーかな」とメリッサはちょっとノリノリですが、ミュージカル嫌いのジョシュは「ミュージカルは非現実的で嫌いだ」と怪訝な顔です。

歌は終わり、町長のアロイシウス・メンラブは2人に宿を紹介してくれます。メリッサは泊まる気満々でした。宿へ行くと厳格そうなミルドレット・レイトン夫人がこちらを睨み、2人は未婚なので2部屋にしろと要求。しょうがないので従います。1ドルと破格の安さなので文句も言えません。こんな設定に付き合うのはうんざりなジョシュは、ベッドで爆睡。

メリッサはひとり夜の街をうろつきます。すると「愛のトンネル」という遊園地の呼び込みをしているダニー・ベイリーというハンサムな男がメリッサを誘い、またも歌い出します。それが終わり、「いい曲だった」とメリッサは感想を述べますが、本人は歌ったつもりはないらしいです。

朝。コーン・プティングを知らないと言ったばかりにまた歌を聞かされつつ、そろそろ帰ろうということに。

あの石橋に戻ってきますが、そこを渡ると向こうにも同じ町が…。おかしい…。

そのとき、突如現れた小さな存在、レプラコーンのような奴が歌を奏でつつ「真実の愛」を見つけるまでミュージカルの世界であるシュミガドーンを出られないと告げてきました。

今、なんて言った…?

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ドレミの歌で性教育

ドラマ『シュミガドーン!』は先にも書いたとおり、名作ミュージカルのパロディ満載です。ミュージカルそのものの構造をパロディにする作品は珍しくなく、日本でも『ダンスウィズミー』が最近はありました。

『シュミガドーン!』の場合はもっとシュールです。ミュージカルの世界にごく普通の人が紛れ込むことで浮いてしまう感じがネタとしてよく描かれています。掛け合いで歌うっぽい空気になり、「私の番?」と察してしまうシーンとかも愉快ですし、そもそもみんなが疑問なく歌い踊る中で気まずそうにオドオドしているメリッサやジョシュの絵面だけで面白いです。

ただ、『シュミガドーン!』はそのミュージカル特有の「急に歌って踊る」以外の部分もパロディにしており、そこもまた本作の丁寧な風刺批評的面白さになっています。

なにせこの「シュミガドーン」という町は1940年代から1950年代のミュージカルを土台にしているので時代錯誤な要素がいっぱい目につきます。とくに本作はジェンダーの視点が強く、それは主人公2人が医者であるという設定にも関係してきます。

例えば、メリッサに別れを告げられたジョシュは若いやけに色っぽい女性であるベッツィーからの猛アタックを受けるのですが、そのベッツィーがアホな女として描かれているのも当時の若い女性のステレオタイプ。そしてさすがに若すぎるんじゃないかと未成年かどうか確かめようとするもベッツィーははぐらかすばかりで一向に確認とれず。これも昔の映画あるあるです。

一方でメリッサはダニーとロマンスに浸っていきますがしきりに我に返って性的同意を気にしたり、はたまた町の医者であるドク・ホルヘ・ロペスがコテコテの女性差別的な態度でそれに怒ったり…。

『オクラホマ!』のパロディである、若い女性を事実上競り落としているようなあのバスケット・オークションは気持ちが悪いですよね(もちろん当時だって批判していた人はいたと思うけど)。

そんな中でメリッサは避妊も出産の仕組みも知らない若い男女に『サウンド・オブ・ミュージック』の有名な「ドレミのうた」のメロディで「ヴァギナはどこか」などの性教育をするという…。この曲も性教育に使われる日が来たのか…。

ちなみに『シュミガドーン!』で教師役ででている“アリアナ・デボーズ”は『サタデー・ナイト・ライブ』で『サウンド・オブ・ミュージック』のパロディを披露し、「ドレミのうた」の爆笑替え歌を歌ってくれているのでぜひ聴いてみてください。

ジェンダー以外だと、後半の女伯爵の車の上での自由奔放っぷりと、その後の「どうせ明示していないけどナチなんでしょ」のツッコミとか、作品のお約束を知っていればいるほど笑えて楽しかったです。

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別に恋愛しなくても…

そんな笑いの絶えないドラマ『シュミガドーン!』。ラストはメリッサとジョシュが互いに反省し合って仲直りするという定番のオチで、最後は晴れやかな表情で石橋を渡ろうとして閉幕です。ここで現代的な音楽が流れることで、この町の古さもアップデートできたことがわかります。

ただ、私は本作でちょっと唯一どうしても気になることがあって、それは「真実の愛」を見つけられないと町をでられないという設定。作中ではメリッサとジョシュはもう一度ロマンスを取り戻したように思えます。

それはそれでハッピーエンドでいいのですが、でもどうなんでしょうか…例えば、アロマンティック(他者に恋愛的に惹かれない恋愛的指向)の人はどうやってでるんだろう?と私は当時者としてつい考えてしまって気になる…。これは『パーム・スプリングス』の感想でも書きましたけど、こういう特殊な空間に閉じ込められてしまい、そこから脱出するのに性愛や恋愛がトリガーになられるとアセクシュアルやアロマンティックのスペクトラムの人はどうするのかという話になります。少なくとも私はそう思うわけです。

『シュミガドーン!』はしっかり同性愛に関するインクルージョンはあるのです。町長が自分はゲイであるとカミングアウトし、陽気なゲイとしてみんなに混ざって歌えないことの寂しさを吐露します。それは本作が1940年代・1950年代のミュージカル世界だからであり、本作はそうした抑圧を吹き飛ばすという、とてもゲイ・フレンドリーなエンパワーメント溢れるエンディングとして、町長とハワードの男性同士のキスが描かれます。

それは最高です。でもそこまでしっかり包括性を持たせるなら、アロマンティックの人も包括してほしかったな…と思います。例えば『サウンド・オブ・ミュージック』だって作中でいずれ人は恋をするものであると歌っているシーンがあり、アロマンティックを排除している古い描かれ方です。『シュミガドーン!』はそういう古さも風刺すべきだったのではないか…。

ということで私にとってはこの『シュミガドーン!』のラストは完全な包括的アップデートとは言い切れず、ややモヤっとする居心地の悪さも残りましたね…。『サウンド・オブ・ミュージック』から『シュミガドーン!』まで70年以上経っても恋愛伴侶規範は変わらずというのは悲しいじゃないですか…。

私みたいな人間でも幸せになるミュージカルの世界はあるのかな…。

『シュミガドーン!』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 88% Audience 83%
IMDb
7.3 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
7.0

作品ポスター・画像 (C)Apple シュミガドゥーン

以上、『シュミガドーン!』の感想でした。

Schmigadoon! (2021) [Japanese Review] 『シュミガドーン!』考察・評価レビュー