感想は2000作品以上! 検索はメニューからどうぞ。

『明日への地図を探して』感想(ネタバレ)…隠れた名作になりそうなタイムループ青春映画

明日への地図を探して

隠れた名作になりそうなタイムループ青春ムービー…映画『明日への地図を探して』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:The Map of Tiny Perfect Things
製作国:アメリカ(2021年)
日本では劇場未公開:2021年にAmazonビデオで配信
監督:イアン・サミュエルズ
恋愛描写

明日への地図を探して

あすへのちずをさがして
明日への地図を探して

『明日への地図を探して』あらすじ

今日がやってきた。しかし、少年・マークは「今日」を知っている。何度も繰り返される他愛もない日常。そこにどんな意味があるのかもわからないが、ずっと経験していれば嫌でも頭に刻まれる。飽き飽きしてきているが、自分ではこの状況を解決する道を見つけられない。そんなとき、ある同年代くらいのひとりの少女に出会う。それは「明日」への鍵となるのか…。

『明日への地図を探して』感想(ネタバレなし)

スポンサーリンク

終わらない自粛生活の暇つぶしに

コロナ禍によっていつまで続くわからない自粛生活。その決まりを守らないといけないのは当然なのですが、それでも退屈なのが正直な不満でしょう。なんだか変わり映えしない毎日がずっと続いているだけのような気がする。これはまるでタイムループに陥ったような、そんな気分…。

そんな私たちの置かれている状況ゆえの鬱屈と少し重ねる映画かもしれません、今回の紹介する作品は。それが本作『明日への地図を探して』です。

本作は映画ファンの間でもそんなにマークしていない作品だと思います。なぜなら日本では劇場未公開で、「Amazon Prime Video」でオリジナル映画として2021年2月にひっそり配信されただけだからです。全然宣伝もないので気づいていない人も多いでしょう。

しかし、この『明日への地図を探して』、なかなかに見逃すには惜しい、隠れた名作だと思います。小粒な映画ですけど、だからこその意外な見つけものという新鮮なラッキー感覚があります。

ジャンルはシンプルに言えます。青春映画であり、そして「タイムループSF」です。同じ時間をひたすらに繰り返して抜け出せなくなる、あれですね。

最近であれば、何度も殺されて時をかけるビッチを描いた『ハッピー・デス・デイ』シリーズが話題になりましたし、ダメダメ女が一念発起するドラマ『ロシアン・ドール 謎のタイムループ』も高評価を集めましたし、『ビフォア・アイ・フォール』、『シー・ユー・イエスタデイ』など山ほどあります。

タイムループの初期の作品と言えば、世界的にはビル・マーレイ主演の『恋はデジャ・ブ』(1993年)が取り上げられますけど、やはり元祖と言えば日本の『時をかける少女』であり、大林宣彦監督&原田知世主演の1983年の映画版はジャンルの原点ですね。この「時かけ」があるから今の日本のタイムループSFもその土台の上に立っているようなものだし…。

「青春 × タイムループ」という組み合わせは、もはや定番中の定番のペアであり、しょっちゅう見かけるカップリング。なのでもう見飽きたと思われるかもしれませんし、私も鑑賞前は薄っすらそう思っていました。

けれどもこの『明日への地図を探して』は構成自体はベタなのですが、その演出やストーリーテリングが鮮やかで、ちょっとしたオシャレ感もあり、上手くオリジナリティとして輝いています。たぶん特定の人にはとことんハマる、大好きな一作として刻まれるのではないでしょうか。なんとなく新海誠監督の作品っぽいです。

監督は“イアン・サミュエルズ”という人で、2018年に『シエラ・バージェスはルーザー』という青春ロマンティック・コメディ映画を監督しています。それ以外は短編作品ばかりです。

とくに青春ジャンルだけが専売特許というわけではなく、2013年の短編作『Caterwaul』では、漁師の老人が自分で獲ったロブスターの1匹になぜか愛着がわき、それを孤独生活の自宅に連れ帰り、交流が生まれていくという異色の「老人 × ロブスター」のカップリング・ストーリーになっています。まさかロブスターでここまで斬新に見せてくるとは思わないです。私もなんか好きになってしまった短編でした。Vimeoに監督本人があげた本編動画があるので、13分程度ですし、ちょっと視聴してみてください。

 

脚本は原作も手がける“レヴ・グロスマン”。『マジシャンズ』というドラマシリーズの原作の人ですね。

俳優陣は、“カイル・アレン”という若手を主役に、『名探偵ピカチュウ』『ザ・スイッチ』など最近になって活躍の幅を広げる“キャスリン・ニュートン”が並びます。今回はコダックは連れていません…。

『明日への地図を探して』はとても爽やかな青春ロマンスSFになっていますので、ひとりでもみんなでも何か映画を観ようと思ったら鑑賞する候補選びの際にチョイスしてみてください。

家で友人や恋人が集まって観るのは感染症拡大のリスクがありますから、オンラインでチャットしながら鑑賞できるツールを使うといいです。Amazonなら「ウォッチパーティ」という機能を搭載していますし、ラクラクでしょう。

オススメ度のチェック

ひとり ◯(意外な良作に出会える)
友人 ◎(友達との話のタネに)
恋人 ◎(ロマンスたっぷりで満喫)
キッズ ◯(ティーンなら楽しい)
↓ここからネタバレが含まれます↓

『明日への地図を探して』感想(ネタバレあり)

スポンサーリンク

あらすじ(前半):今日は何度目?

マークはベッドから目覚めます。すぐに窓の外を確認。1台の車が出ていくのが見えます。あれは仕事が早い母の車です。

そして起き上がり、1階へ。居間ではと妹・エマが朝食中。真夜中は嵐だというニュースが流れています。軽快に朝食を準備。「父さんは8時間後、大容量のアイスをひとりで平らげるはずだよ」と言い放ち、クロスワードパズルに夢中な父に、答えを的確に教えていきます。妹の「負け犬」などの悪口も、言うと同時にマークも言ってみせます。一切の迷いもなく行動し、そのまま出かけます。

父の「エマの試合を見に来るだろう」という問いかけにも「僕は行かない」と断って。

自転車で外へ。あらかじめ誰が道を通るのか、何が起きるのか、把握しているかのようにスムーズに通行。自転車を乗り捨て車の荷台に飛び乗ったかと思えば、女性に道を教えたり、スカートがかばんに挟まる女性をさりげなく助けたり、はたまた重機に乗り込んだり。まるで行動に躊躇いがありません。

店に立ち寄り、テレビを確認。宝くじの当選発表。マークは「あたっちゃったよ」とわざとらしく大喜び。でもどこか軽々しいです。

プールでのんびり椅子に座っていると、ビーチボールがぶつかってきそうになった水着の女性を助けます。一緒に並んで歩き、彼女の家まで行くも「今夜一緒に出掛けない?」というマークの誘いは「予定があるから」との返事で断られました。若干残念そうに帰るマーク。

続いてゲームをしている友人・ヘンリーのもとへ。シューティングアクションのゲームはゲームオーバー。やり直し。「こんな人生だったらどうする?」と聞くマーク。映画だったら恋とかしないと抜け出せないもの。「何度もやり直せるなら試せばいい」と気楽にヘンリーは言います。
そして夜。真夜中の0時。雷が鳴り、天候が悪化しそうな瞬間。

マークはベッドで目覚めます。また「今日」です。マークは同じ日を延々と繰り返していたのでした。

やれることには限りがあります。今はプールの女の子と恋が発展すれば事態の変化が起こると思っていました。また例によって例のごとく、あの女の子をプールで助けようとすると、他の女子がビーチボールをはじきとばしました。まるでわかっていたかのように。予想外です。

すぐさま例の謎の女子についていきます。その子は車を派手に後退させてぶつけながら立ち去って行きまいした。迷い犬の張り紙を落としており、それを手掛かりに街を探索。

やっと見つけて声をかけます。

「生活の中で時空の亀裂を感じてる?」とマークは思い切って聞くと、「同じ1日を繰り返しているってこと?」とその女子。いました、自分と同じ境遇の人間が…。

マークは仲間を見つけて気分も高揚。これまでの繰り返しで発見した面白光景を見せてあげます。その後も電話番号を教えてもらい、次の「今日」もさっそく連絡。いろいろな髪形にしてメッセージを送ったりとひとりで大盛り上がり。

実際にまた会ってみます。「なんでずっと続くんだと思う?」と考えるも2人ともわかりませんでした。その女子、マーガレットは迷い犬を捜そうと今はしているようです。

しかし、マーガレットはこの状況を打開しようとは本気で考えていないらしく、「私はやりすごそうとしているだけ」と淡々と答えます。

そしてなぜかマーガレットはいつも午後6時にスマホにかかってくる連絡には必ず答え、そのジャレッドとかいう人の呼び出しに応じてどこかへ行ってしまうのでした。

マークはこのマーガレットこそ運命の人で、お近づきになろうとしますが、そこには考えてもみなかった裏があり…。

スポンサーリンク

「これはマーガレットの物語だ」

『明日への地図を探して』は演出がイチイチ気が利いています。

冒頭から完璧に寸分の狂いもなく行動して見せる主人公のマーク。まるで何度も練習してトライしたうえでの流れるような日常の連続。それはすぐにタイムループのせいだと観客には提示されるのですが、初見時は一種のミュージカル映画っぽいわざとらしさに見えますよね。

映画特有の嘘くささというか、完全にコントロールされた空間演出を逆手にとったお遊びになっており、とても上手い見せ方でした。実際、どれだけ練習したらできるようになるんだろう…と思うのですが、まあ、映画はカットを挟んでいたりするしね…。

ここの冒頭の一連のシーンを目にすれば、「お、なんだか楽しいことが始まる予感!」とワクワクしてきます。

ただこの冒頭の1日だけでもマークがどれほど膨大な時間を過ごしてきたかわかりますし、クロスワードの答えを調べるくらいに暇だったんだろうなと思うと、なんだか可哀想になってきます。

そしてマーガレットとの対面。実はこの時点でオチが暗示されています。例えば、彼女は車の運転が下手です。マークは何度も繰り返す時間を活用してなんでも完璧にマスターしているのに対して、このマーガレットの不慣れっぷり。当然それは彼女がこのタイムループの間も他のことに気を取られていたからです。

それはつまり「母の死」。マーガレットの母親は末期の癌で、その日は余命はほぼわずかと宣告され、絶望の中で母と夜に対面するのでした。そして明日なんてこなければいいと願ってしまう。それによって始まったタイムループ。

思えばマーガレットが「死んだ人も生き返る。毎日15万人が死んでいる。誕生日の人もたくさんいる」と出会った序盤に生死について言及するのも、自分なりに調べたからなんでしょう。母の死を回避することはできないのか、なぜ死なないといけないのか。もうこのセリフが終盤の真相の説明になっていますね。

むやみに時間があっても母を救えるわけではない。どんなに時間があってもその結末に足を踏み出す勇気が湧かない。現実逃避の毎日。

語り合いながら町を練り歩く2人という、これこそミュージカル映画風なシーンも挟みつつ、午前10時の東京行きの飛行機に乗って日付変更線を超えてみるマークの提案にも、マーガレットは乗り気になれず、土壇場で逃走。
物語は全てが「マーガレットが母の死を受け止められるか」…そこに懸かってきます。

「これはマーガレットの物語だ」というマークのセリフとともに、目覚めるマーガレットのシーンで視点が切り替わる演出がまた良いですね。その目覚めのマーガレットの苦痛の顔がギャップにもなっていて…。

全体を通して“イアン・サミュエルズ”監督の過剰すぎず、でも適度なセンスが冴えわたっています。こういう内容は思いつくことはできても、なかなかオシャレに実現できないですよ。下手な人がやるととことんダサくなってしまいますから。これぞ才能ある人が生み出す映画の面白さという感じをたっぷり味わえるものでした。

スポンサーリンク

セカイ系の実写ならこの監督で

一方で全部がマーガレットしだいなのかと言うとそうでもなく。ちゃんとマークにも役割があります。

そもそもこのマークはタイムループ状態を解き明かすべく、かなりフィクション作品を参考にしたことが窺えます。冒頭でひたすらに見ず知らずの他人に善行をして、プールの女の子と交際しようと奮闘するのも、全部が『恋はデジャ・ブ』をなぞろうとしているからです。

『バンデットQ』みたいに世界そのものに欠陥があってタイムホールでもあいているのかと調べたり、『オール・ユー・ニード・イズ・キル』みたいに死んで繰り返すことで達成できる目的があるのかと考えたり。

けれどもそれらは空振りに終わります。

マークの役割はマーガレットの隣に寄り添ってあげることであり、恋人をゲットすることではありませんでした。あくまで彼は支える側の脇役。このあたりは新海誠監督の『天気の子』的な感じですね。運命を握る少女を支える男子という…。

そしてマーク自身も家族の大切さに気付きます。妹のエマのサッカーを応援してあげる。失業中で人生に彷徨っている父の背中をさすってあげる。必死に家族を養うために働く母を抱きしめる。

描いていることはオーソドックスながらも優しい物語として最後は着地します。

『明日への地図を探して』はあくまでハートフルな家族ストーリーに落ち着くので、SFとしてのロジカルなことは後半にいくにつれ、どんどん減退します。地図から導き出された4次元立方体も表面的なそれっぽい説明要素にすぎませんし、タイムパラドックス的なことは一切考えません。そこは期待していると骨折り損のくたびれ儲けです。

個人的には家族の喪失を埋めるものとしてロマンス以外なものを提示してみせるのもいいんじゃないかなとぼんやり思わなくもないのですけど…。どうしてもこの手の青春SFはなんだかんだでロマンスがトリガーになっちゃいますね。これは邦画にせよ海外映画にせよ、よくありがちなワンパターンであり、SF的な異常事態になればなるほど無難な保守的な家庭観におさまりがちという傾向です。もうちょっとチャレンジしてもいいと思うのだけど、どうなのかな。

ただ、この『明日への地図を探して』はセカイ系のフォーマットに従いつつも、結構パーソナルなオチになっており、むしろ世界は置き去りにしていますから、本当に新海誠監督の『天気の子』と同系統な感じがします。この監督2人は気が合うんじゃないだろうか。『天気の子』の実写映画化の際は“イアン・サミュエルズ”監督を起用するべきかもしれない…。

とりあえず『明日への地図を探して』は日本作品との親和性もある作風で、共通点を見い出すのも面白い体験でした。

タイムループ・ラブコメディとしては日本では2021年は『パーム・スプリグス』という映画もありますし、充実したループ・映画ライフを送れますよ、きっと。

『明日への地図を探して』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 83% Audience 81%
IMDb
6.7 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 7/10 ★★★★★★★
スポンサーリンク

関連作品紹介

タイムループSF作品の感想記事です。

・『ハッピー・デス・デイ』

・『ロシアン・ドール 謎のタイムループ』

・『ビフォア・アイ・フォール』

作品ポスター・画像 (C)Amazon Studios ザ・マップ・オブ・タイニー・パーフェクト・シングス

以上、『明日への地図を探して』の感想でした。

The Map of Tiny Perfect Things (2021) [Japanese Review] 『明日への地図を探して』考察・評価レビュー