性愛と加虐の長い長い半生…ドラマシリーズ『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2022年~)
シーズン1:2024年にU-NEXTで配信(日本)
シーズン2:2024年にU-NEXTで配信(日本)
原案:ロリン・ジョーンズ
性暴力描写 動物虐待描写(ペット) 自死・自傷描写 DV-家庭内暴力-描写 人種差別描写 ゴア描写 性描写 恋愛描写
いんたびゅーうぃずばんぱいあ
『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』物語 簡単紹介
『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』感想(ネタバレなし)
あの人気作がドラマ化でクィアの血をおすそ分け
「アン・ライス」という女性作家がいました。この人物は出自が独特で、ニューオーリンズ出身で敬虔なカトリックの家庭に生まれたアイルランド系の女性なのですが、本名は「ハワード・アレン・フランシス・オブライエン」なのです。「ハワード」なんてあからさまに男性的な名前を親がつけた理由は親のみぞ知る謎ですけれども、子どもの頃から「アン」を愛称として使い始めます。
そして“アン・ライス”は15歳で母を亡くし、かと思えば幼い自分の娘にまた先立たれ、辛い経験を幾度も渡り歩きます。
そんな“アン・ライス”は1976年に初の長編小説『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』を執筆・出版し、作家としてデビュー。この小説は当初はそんなに絶賛されたわけでもなかったらしいですが、『ヴァンパイア・クロニクルズ』という名でシリーズ化していくうちに人気を博し、いつしか大きなファンダムになるほどに愛されます。
その吸血鬼小説は1994年に『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』として映画化され、“トム・クルーズ”と“ブラッド・ピット”の当時の美男俳優を揃えたこともあって、カルト的に親しまれました。
“アン・ライス”の他の作品もその後にポツポツと映画化されるのですけど、それほど成功せず、萎んでいたところ、“アン・ライス”に『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』の権利が戻ってきて、ドラマ化企画を自身の主導で始めます。
残念ながら“アン・ライス”は2021年12月11日に亡くなってしまったのですが、息子の“クリストファー・ライス”が引き継ぎ、ドラマシリーズは完成。2022年にシーズン1が配信されました。
それが本作『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』です。
基本は原作をなぞって濃密に映像化されていますが、過去の映画なんかと比べても決定的に違うのは、同性愛のメインストーリーを明白に前面に打ち出している点です。
もともとの原作も社会から疎外されて生きる吸血鬼の描写が、クィア当事者の境遇と重なるところが多く、LGBTQコミュニティに支持されていました。主人公の吸血鬼2人の関係性もじゅうぶんにクィア・リーディング可能なものでした。
今回のドラマ版はハッキリとクィアで、“アン・ライス”は官能小説も手がけたことがあるのですが、その作家性も混ぜ込むようにエロティックに表現されています。同時にゴシック・ホラーとしてしっかりおどろおどろしく、残酷な描写も豊富です。
最近の吸血鬼モノは、コメディに振り切った『シェアハウス・ウィズ・ヴァンパイア』、レズビアン表象で新しく道を整えた『ファースト・キル』と、レプリゼンテーションがアップデートされ続けていますが、ドラマ『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』はこれぞ王道の吸血鬼物語という佇まいですね。


「AMC」の配給で、『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』と合わせて他の“アン・ライス”作品の映像作品も展開し、「Immortal Universe」というシリーズで拡張するようですが、とりあえず気にせずに今作から楽しんでください。
ドラマ『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』は、日本では「U-NEXT」で独占配信され、シーズン1は全7話、シーズン2は全8話。それぞれ1話あたり約45~60分ほどです。
『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』を観る前のQ&A
鑑賞の案内チェック
基本 | 虐待的な支配関係が主軸に描かれ、DVや人種差別を彷彿とさせる場合もあります。また、小動物を殺す描写が多いです。さらに自死の直接的描写があるほか、性暴力を暗示させる展開もあります。 |
キッズ | 生々しく暴力的な描写が多いので、低年齢の子どもには不向きです。 |
『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』感想/考察(ネタバレあり)
あらすじ(序盤)
多方面で実績を残してメディアでも話題のジャーナリストのダニエル・モロイ。今はドバイにいる彼のもとに手紙とカセットテープが届きます。顔色を変えてすぐさまそのテープを再生すると、「私は33歳で吸血鬼になった」と語る声。懐かしい声でした。
そしてルイ・ド・ポワントデュラックからの手紙を読んでいきます。それはもう1度、対談をやり直したいというお願いです。以前はいろいろあって打ち切っていました。
ダニエルはルイと再会することにします。ルイは出会った頃と同じ若々しさ。それでも日光で皮膚は塵になり、素早く移動できたりと、吸血鬼の力は衰えていません。年齢はすっかりダニエルが見た目は上になりましたが、ルイはまだダニエルを子ども扱いする癖が抜けていません。
今はラシッドという召使いを連れており、大人しく生きているらしいです。
そのルイは過去を語りだします。まだ自分が吸血鬼でなかった時代の話を…。
1910年、アメリカのニューオーリンズ。ジム・クロウ法によって黒人は迫害されていましたが、ルイは父の売春宿を受け継ぎ所有することで、恵まれた暮らしができていました。ビシっとスーツで車をくりだし、悠々自適です。
ある日、道のど真ん中で兄弟のポールと口論となり、一触即発。それをレスタトという白人の男が見つめていました。
夜、テラスで親密な関係のミス・リリーに会おうとすると、そこに一足先に同席していたのがレスタトでした。妙にこちらを下調べしています。やけにリリーに馴れ馴れしく接触するレスタトを見つめるも、彼の瞳に見つめられると動けません。
翌晩、ルイとレスタトはカードゲームの場でまた対面します。そこでレスタトは奇妙な現象をみせてくれます。周囲の時間を止め、自分にだけ聞こえるテレパシーで会話してくるのです。
興味を惹かれて家の夕食に誘い、その夜中にルイはリリーも交えながらレスタトと体を重ねます。しかし、ルイもレスタトも目の前の男だけに夢中でした。互いが互いの欲望を叶えてくれます。体を重ね、激しく感情が高まり、情熱的なキスをします。
そしてレスタトはルイの首を噛み、2人は宙に浮き…。
シーズン1:吸血鬼のDV支配

ここからドラマ『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』のネタバレありの感想本文です。
ドラマ『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』は何よりも第1話が非常にエモーショナルでした。
“ジェイコブ・アンダーソン”演じるルイと、“サム・リード”演じるレスタト。この2人の出会いはまさに恋愛漫画のカップルのごとく、情熱的で運命を感じさせます。英語圏ではちょっとしたミームになった浮遊ゲイセックスのあの異様な官能的高まりを象徴するシーンも用意され、大盛り上がりです。
本来、吸血鬼の吸血衝動はタブー視される性衝動のメタファーと解釈されてきた歴史があり、ゆえに吸血鬼作品は同性愛の暗示とも読み解かれてきました。本作はその歴史的蓄積を明確に同性愛表象として組み立て直しています。
偏見を助長しないように細やかな気配りもあって、例えば、ルイは吸血鬼に変えられる前からゲイを自覚しており、クローゼットな生活を送っていました。その抑圧された心理の中、レスタトと2人にしかわからない繋がりを隠れながら紡いでいく過程は、まさに現実のクローゼット同士のゲイ当事者の営みに近似します。
今作ではルイは黒人であり、異人種間の緊張も上手く組み込んでいたと思います。
しかし、このドラマはそんな甘いロマンチックな物語ではありません。それは第1話の後半ですでに正体が現れます。本作は逃れられない加虐的な支配関係にハマってしまう怖さを容赦なく映し出すホラーなのでした。
第1話の終盤でルイは兄弟の自殺を目の当たりにして弱り切ってしまいますが、そんな心が脆弱となった人物にすかさず入り込んだのがレスタトです。この行動は典型的なマインドコントロールの手練れの技。
以降、レスタトによるルイへの加虐的な支配が絶え間なく持続します。良心の呵責に苦しむルイに残虐行為に慣れさせることで共犯関係を結ぼうとする…。少しでも自分の意に反する言動がルイにみられれば、徹底して恐怖と暴力で脅して体と心に刻み込ませる…。
この振る舞いは完全に家庭内暴力(DV)と変わりません。
数年後にまたレスタトは戻ってきて、随分と相手のトラウマを無理解なままに安直に復縁を迫りますが、その仕草もいかにもDV加害者ですし…。
作中ではクローディアという火事から瀕死の重体で助け出した少女を吸血鬼に変え、実質的にルイとレスタトのゲイ・カップルの養子のように迎え入れます。このクローディアには彼女なりの苦難を待ち構えており、そこではジェンダーの格差が浮き彫りになります。つまり、男性が吸血鬼になることと、女性が吸血鬼になることは、似ているようで社会の過ごしやすさは違っていて、少女であれば必ずしも吸血鬼だからといって優位に立てるわけでもないという…。
レスタトはもともと白人特権があり、そこにさらに吸血鬼としてのパワーが追加されて、非常に危うい存在になっているという自覚があまりにありません。実際は相当な脅威なんですけどね。
シーズン1では最終的にルイとクローディアが共謀するかたちで、レスタトを毒で葬ることに決めます。舞踏会の最中、中世の暗殺みたいなスタイルなのがレスタトに合っているのがなんとも…。
しかし、ここでルイはレスタトを燃やさずにゴミ捨て場に捨てるだけに留めるのが(この世界観における吸血鬼を殺す有効な方法は、日光・頭部切断・焼死・餓死となっている)、依存関係が抜けきっていなくてまた痛々しいです。
吸血鬼でハラスメント関係を風刺するのは『レンフィールド』なんかもありましたが、このドラマ『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』はコメディ抜きで生々しく壮絶でした。
シーズン2:その劇は茶番か操作か
ドラマ『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』のシーズン2は、舞台がガラリと変わって、第2次世界大戦後のフランスのパリに移ります。旅に出たルイとクローディアはここでバンパイア劇団に出会い、新しい吸血鬼の生き方を知ります。吸血鬼も文化芸術活動しているのがパリっぽくっていいですね(まあ、裏でやってることは残酷だけど)。
そしてレスタトに代わってルイの前に現れるセクシーハンサムがアルマンです。
でもこの2人が今度こそ理想的なロマンチックな関係を築ける…わけもなく…。これはホラー。シーズン2もえげつない恐怖をお届けします。
同時に現代のインタビュー・パートも緊張感が増します。ルイだけでなく、アルマンも混ざって、インタビューの信頼性が揺らぎ始め…。要するにこの「語り」という行為自体が操作的であり、それこそマインドコントロールのいち手段なのですよね。いつの間にかコントロールされているのか、だとしたら誰が誰をコントロールしているんだ?…という疑心暗鬼。語ることも語らせることも操作的です。
ダニエルもまたアルマンに酷く心身を痛めつけられ、トラウマを封じ込めていたことが発覚。もうこのインタビュー、前提からして終わってるな…。
そして物語はラストの法廷劇(文字どおりの劇)に突入。ここは現実社会で家庭内暴力で崩壊した家族当事者が裁判で経験する出来事が戯画的に表現されている皮肉な演出になっていました。復活したレスタトが自信満々に「自分こそが被害者だ」と語るあの口ぶり。被虐待者をバッシングすることをエンターテインメントとして楽しむ世間(聴衆)。リアルでもよく観察できる風景です。
クローディアとマドレーヌ(せっかく良い関係を築けそうだったのに)が舞台上で日光で死刑される悲惨な結末の中(女性は処罰感情で真っ先に敵視される)、ラストの第8話で怒涛の展開。
ルイを操作しているのは、レスタトか、アルマンか、はたまたダニエルか、いや、みんなグルでもおかしくない。何も信用できなくなるドラマですよ。
フランチャイズとしてはこのシーズン2で、「Immortal Universe」の拡張としてドラマ『メイフェア家の魔女たち』や『The Talamasca』に接続する要素も飛び出していましたが、このルイをめぐるストーリーだけでじゅうぶん面白いので、正直、蛇足な感じはあるかな。
シネマンドレイクの個人的評価
LGBTQレプリゼンテーション評価
○(良い)
作品ポスター・画像 (C)AMC インタビューウィズヴァンパイア インタビューウィズバンパイア
以上、『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』の感想でした。
Interview with the Vampire (2022) [Japanese Review] 『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』考察・評価レビュー
#ジェイコブアンダーソン #吸血鬼 #ゲイ同性愛 #バイプラス