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『あなた、その川を渡らないで』感想(ネタバレ)…純愛は存在すると教えてくれる映画

あなた、その川を渡らないで

純愛は老いることはない…ドキュメンタリー『あなた、その川を渡らないで』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

英題:My Love, Don’t Cross That River
製作国:韓国(2014年)
日本公開日:2016年7月30日
監督:チン・モヨン
あなた、その川を渡らないで

あなたそのかわをわたらないで
あなた、その川を渡らないで

『あなた、その川を渡らないで』物語 簡単紹介

98歳のチョ・ビョンマンと89歳のカン・ゲヨルの結婚76年目を迎えた老夫婦。高齢であることからもわかるとおり、2人はそれは長い人生を過ごしてきた。川のほとりで仲むつまじく暮らすこの老夫婦は、毎日おそろいの服に身を包みながら、ときに他愛もないやりとりに笑い合い、ときに互いの健康を親身に心配し合う。それはまるで付き合い始めたばかりの恋人同士のようだった。
この記事は「シネマンドレイク」執筆による『あなた、その川を渡らないで』の感想です。

『あなた、その川を渡らないで』感想(ネタバレなし)

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全ての人の理想がそこにある

もう過ぎてしまいましたが、バレンタインデーにぴったりの映画ってあるのでしょうか。

だって恋愛が成就する映画ならいいという短絡的な発想でもOKだと思いますけど、恋愛観は人それぞれ違うので、変に「私はこれの恋愛にはちょっと馴染めないな~」という価値観の相違が発覚したら問題じゃないですか。いや、それはそれで良い機会になったとポジティブに考えられるならいいですけど、そういうのを例えばティーンのカップルに求めるのも無理難題です。考えれば考えるほど、実はカップルは恋愛映画を観ないほうがいいんじゃないかと思えてくる…。

でもこのドキュメンタリーならオススメできるかもしれません。それが本作あなた、その川を渡らないで

現在、公開中の恋愛映画『マリアンヌ』に主演するブラッド・ピットだって本作を観たら「ブラ泣き」するに違いない。個人的には、2016年公開の恋愛映画では『ビューティー・インサイド』と並ぶ名作だと思ってます。

実在の老夫婦を撮ったドキュメンタリー映画なんですが、実質は恋愛映画と思ってもらって構いません。恋愛映画というのはたいてい「これは若い人向けだな」とか「大人にしか理解できない恋愛観だな」とか、結構対象となる人を選ぶものです。

そういう意味では、本作は以下のような方におすすめします。

・最近、恋人ができて付き合い始めたカップル。
・最近、めでたく結婚して幸せいっぱいの新婚夫婦。
・最近、関係が上手くいっていない倦怠期の夫婦やカップル。
・最近、全く恋やら愛やらから離れている独り身の人。

ようは「全員観て」ということです。

それでもとくに若い人は、あらすじを読んで「老夫婦の物語って…自分には関係なさそう」と遠ざかるのではないでしょうか。しかも、韓国の作品で、馴染みにくいのではと警戒するのもわかります。でも、大丈夫。なんたって、製作元の本国である韓国公開時は異例の大ヒットを記録したのですが、観客のうち40%は20代だったというくらいですから。むしろ、若者の心に刺さるのです。そして、愛の在り方がありのままに映し出されます。別に恋愛を奨励している感じもないのがいいですね。

その後、世界中の映画祭で受賞し、高評価を獲得。人種や宗教関係なく、あらゆる人の心に届いています。まさに証明していますね。これは、本作がドキュメンタリー映画だということも考えると、異例です。

なによりもドキュメンタリーということで、そこに描かれているのはリアルなのです。フィクションのような作られたストーリーではない。そこに“信じられる何か”を受け取れるのじゃないか、そう思います。あまり詳細を言うとネタバレになるのですけど、不思議と希望をもらえるのです。

観れば必ず恋愛に対してポジティブになれるはず。「ああ、こんな純愛が本当にあるのか」…そんな気持ちにさせてくれる映画です。

↓ここからネタバレが含まれます↓

『あなた、その川を渡らないで』感想(ネタバレあり)

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あなただけを愛している

「恋愛」ならまだロマンチックに描くものも多いですが、「夫婦」ともなるとどこかシニカルに描かれるもの。このシニカルさこそが大人な描写みたいに考えがちです。

しかし、『あなた、その川を渡らないで』にはそういうのが全く、綺麗さっぱり、一切ない。

これぞ「純愛」。そんな作品でした。しかも、フィクションじゃなく、現実にいるわけですから。説得力も半端じゃない。老夫婦の姿を見ていると「こういうのが純愛なのか」と思い知らされます。正直もう、そこらへんの純愛を描いたフィクション映画を観ても、『あなた、その川を渡らないで』を超えるのは絶対無理だ…そう思わざるを得ないくらい。

いや、恋愛や夫婦関係にシニカルを気取っていた自分が恥ずかしい。まるで「サンタなんているわけないじゃん」と偉そうに語ってたら、本物のサンタを目撃しちゃった子どもみたいな。そんな気分。衝撃です。

これぞドキュメンタリーの真骨頂ですが、本物の映像はどんな精巧に作られたフィクションよりも勝るんですね。

別に衝撃的な展開とかないわけで。それでもこの衝撃性の源は何かといえば、本作を特別にしているのは間違いなくこの「老夫婦」の存在です。「老夫婦」の素材力ひとつで全てを持っていったパワフルな作品といえるでしょう。

韓国ではテレビ番組ですでに注目を集めていた老夫婦らしく、それも頷ける魅力です。老夫婦だったら誰でもこんな感じというわけでもないと思いますし、やっぱりチョ・ビョンマンとカン・ゲヨル夫妻独自のパワーです。

普通だったら恥ずかしいようなベタな行動とか発言が一杯でてきます。落ち葉や水をかけ合ってじゃれ合うとか、いろいろ。これ、「純愛」気取りの人たちがやったら「くさい」だけです。でも、本作の老夫婦は確実に純愛が存在するのがわかるから、全く違和感ない。全ての言動に心打たれます。

それでいて真面目一辺倒ではなく、ユーモアも交えるのが堪らなく良いです。個人的には無料犬「ゴンスン」はネーミングセンス含めて楽しくて(犬小屋引きずってるのが微笑ましい)、しかも終盤にこの犬は性と生を象徴するような役割を果たすのが効いてきます。あと、個人的な笑いシーンは、老人会のカオスなバス車内ですね。韓国って何か知らないですけど、ああやってバス内で宴会状態になっている光景をたびたび映画で見るのですけど、普通なのでしょうかね(昔の日本もそうだったといえばそうかもだけど)。

あと、韓服を着ている姿が印象的ですけど、私の韓国知識が浅いのであまりわかっていないのですが、韓服ってしょっちゅう着る機会があるのかな。それともあの老夫婦独自の着る習慣になっているのかな。

一方で、ほんわかするだけじゃない、老夫婦だからこそのバックボーンが明かされる場面はドキッとします。子どもの死とか、もうね…。あらためて、楽しいことも辛いことも全て積み重ねた上での「76年添い遂げる」って、重いなぁ…と。そして、こんなに純愛なのに「一緒に死ねたらいいよね。手をつなぎながら」という願いは叶わない、この世の無情さ。絶対に避けられない人生のエンディングにどう向き合うのか。

また、『あなた、その川を渡らないで』はただの老夫婦に寄り添った作品でありながら、当たり前の事実に気づかせてくれます。それは愛だけではなく、歴史というものもです。私たちは普段生きていると全然気にもしないですけど、人生が長く続けばもうそれは歴史です。さまざまな歴史的なイベントを経て、今に至ります。だからどんなに一見すると平凡そうに見える老人でも、びっくりするような歴史を抱えていることもある。今作もそんな驚きを見せてくれると同時に、それを抱え込みながら生きていく重みを、まだあの老夫婦よりも人生経験が浅いであろう観客に教えてくれます。

愛と歴史を切っても切り離せないものなんだという事実は忘れたくはないものですね。

そんなこの老夫婦が示してくれた愛の形をみて、次の純愛がたくさん生まれるといいなと願うばかりです。

『あなた、その川を渡らないで』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 77% Audience 64%
IMDb
7.9 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 7/10 ★★★★★★★

作品ポスター・画像 (C)2014 ARGUS FILM ALL RIGHTS RESERVED.

以上、『あなた、その川を渡らないで』の感想でした。

My Love, Don’t Cross That River (2014) [Japanese Review] 『あなた、その川を渡らないで』考察・評価レビュー