激しいです…映画『マーティ・シュプリーム 世界をつかめ』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2025年)
日本公開日:2026年3月13日
監督:ジョシュ・サフディ
DV-家庭内暴力-描写 性描写 恋愛描写
まーてぃしゅぷりーむ せかいをつかめ

『マーティ・シュプリーム 世界をつかめ』物語 簡単紹介
『マーティ・シュプリーム 世界をつかめ』感想(ネタバレなし)
卓球映画の大出世
最も映画の主題になりづらいスポーツと言えば…いろいろ頭に浮かぶところですが、その筆頭となる候補は「卓球」かもしれません。
ただ、これは米英中心的な見かたであり、そもそも卓球が米英ではマイナーなだけで、東アジアだと大衆に人気のスポーツです。
これは卓球映画にも投影されている感じがします。東アジアの卓球映画は、日本だと『ピンポン』や『ミックス。』、韓国だと『ハナ 〜奇跡の46日間〜』など、真っ当なヒット作があります。
一方のアメリカは、『燃えよ!ピンポン』(2007年)など、ほぼギャグ同然の扱いな傾向が強め。『フォレスト・ガンプ 一期一会』ですら、コメディのいち要素です。
でも2025年は違いました。この年はハリウッドで卓球映画が大出世した記念すべき1年になりました。卓球映画がアカデミー賞で作品賞含めてノミネートしまくり!? そんなことが起きるなんて…。
その奇跡を巻き起こした映画が本作『マーティ・シュプリーム 世界をつかめ』。
ただ、この映画…確かに卓球映画なのですけど、卓球を純粋に愛し、卓球に情熱を捧げる人が観たら…気に入るかどうかは保証できません。正直、卓球好きの人に怒られるんじゃないだろうか…。
しかも、日本も舞台になるのですけど、日本もコケにされるために使われている感じも否めない…。いや、どう受け取るかは人それぞれですけども。
とは言え、これがこの監督の作風なのでもうしょうがない。『マーティ・シュプリーム 世界をつかめ』を監督したのが、“ジョシュ・サフディ”。「サフディ兄弟」で知られるひとりです。2019年の『アンカット・ダイヤモンド』までは兄弟で監督していたのですが、今回の『マーティ・シュプリーム 世界をつかめ』では“ジョシュ・サフディ”単独の監督作となりました。
『マーティ・シュプリーム 世界をつかめ』は、1950年代に卓球の頂点を狙うアメリカ人の男性を主人公にしています。まるで伝記映画のような雰囲気ですけども、実在の卓球選手“マーティ・リーズマン”を着想元にしているものの、ほとんどフィクションです(彼の回顧録『The Money Player』に刺激を受けて企画が始まったのだとか)。
観ればわかりますが「こんなこと、実際に起きるわけない!」というハチャメチャなことが連発します。“ジョシュ・サフディ”節が炸裂です。これっぽっちも王道のスポーツ映画をなぞろうとしません。この傍若無人にどこまで付き合えるかで本作のあなたの評価は決まるかもしれません。
『マーティ・シュプリーム 世界をつかめ』で主演したのは“ティモシー・シャラメ”であり、30歳を迎えた彼のベストアクト級の一作となりました。前回が『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN』でクールなハンサムを静かに演じていたのに、今回は残念男に一転してギャップが凄いです。
本作を観て実感しましたけど、“ティモシー・シャラメ”はもうこの若さで現行の“レオナルド・ディカプリオ”路線(愚行をみせつけまくるスタイル)を進み始めたな…。
なお、今作では“ティモシー・シャラメ”は卓球の腕を見事に披露していますが、役作りのために2018年から卓球のトレーニングをしていたそうです。『DUNE/デューン』を撮りながら卓球練習してたとは…。
共演は、MCUでもおなじみの“グウィネス・パルトロー”、『アンティル・ドーン』の“オデッサ・アザイオン”など。
とりあえずものすっごく変な映画ですが、“ティモシー・シャラメ”がほどほどに卓球しながら、それ以外で暴れ散らかすのを眺めたい人にオススメです。
『マーティ・シュプリーム 世界をつかめ』を観る前のQ&A
鑑賞の案内チェック
| 基本 | — |
| キッズ | 性行為や犯罪の描写があります。 |
『マーティ・シュプリーム 世界をつかめ』感想/考察(ネタバレあり)
あらすじ(序盤)
1952年、ニューヨーク・シティのロウアー・イースト・サイド。大きすぎるワイシャツをよれよれにしながら、眼鏡のマーティ・マウザーは、叔父の靴屋で地味に働いていました。今は高齢の女性に接客中で、サイズの合ってなさそうな靴を押し売りしています。
そのとき、レイチェル・ミズラーという女性が店に入ってきて、店の奥にこっそり通します。そして靴の保管室で熱烈にキスし、体を交えます。レイチェルは幼馴染ですが、既婚者でもありました。こうやって隠れながら2人の関係をバレずに済んでいます。
マーティにはもうひとつの顔がありました。卓球選手なのです。汗水流して卓球をするのは趣味で終わらせるためではありません。このアメリカでは卓球はマイナーなスポーツです。それでもいつの日か、自分が世界の頂点に立ち、有名になってみせるとがむしゃらに目指していました。
そのためには卓球の腕を磨くだけでもダメです。世界選手権に参加するためには資金が必須なのです。まずは全英オープンの開かれるロンドンに行かなくては…。
そこで友人のディオンと一緒に、ディオンの実業家の父親に、自分の名前が入ったオレンジ色のピンポン玉の販売を持ちかけます。セールストークで押し切るのがマーティの得意技。
営業時間後、マーティは部屋でひとり金庫前にいた同僚のロイドを説得するべく、引き出しの中にあった銃まで取り出し、カネが要ると力説。ロイドも押し切られてしまいます。
こうしてロンドンに飛行機で降り立つことができたマーティは圧勝する気満々でした。優勝候補の相手しか眼中にはありません。
ところが日本のエンドウという選手が目に入ります。その卓越したスタイルに魅入り、強敵の存在を知るのでした。ここは世界。小さなアメリカの中だけで試合するのとは違います。
マーティは3戦目も勝ち抜き、順調に進みます。
一方で、用意された選手たちの宿舎の質に不満たらたらなマーティは、勝手に5つ星高級ホテル「リッツ・ロンドン」に泊まります。そこで元女優のケイ・ストーンを見つけ、持ち前のビジネスの押し切りのノリで、アプローチを仕掛けます。彼女はペンの販売で莫大な富を持つミルトン・ロックウェルが夫なのです。
まるでビジネスのように卓球の場を利用していくマーティでしたが…。

ここから『マーティ・シュプリーム 世界をつかめ』のネタバレありの感想本文です。
シャラメ・スパンキング
『マーティ・シュプリーム 世界をつかめ』の主人公であるマーティは共感するのがなかなか難しいキャラクターです。正直、卓球に愚直に人生を捧げたいのか、それとも卓球を利用してビジネスで成り上がりたいだけなのか…どっちつかずでわかりません。いや、どちらも手にしたいのかもしれません。
とにかくマーティは、お調子者、自意識過剰、強欲、無責任…そうした感情の集合体に手と足とペニスをつけて卓球ラケットを持たせたような男です。
そのマーティの愚かしさをわざとらしく強調するかのように、作中では「模範的なスポーツマン」を登場させてもいます。
そのひとりは、ロンドンの大会で戦うベラ・クレツキ。彼は、ホロコースト生存者という背景を持つハンガリー代表の卓球チャンピオンで、実在のポーランドの卓球選手「アロイジー・エールリッヒ」がモデルのようです。
そして主人公の最大のライバルに勝手にさせられるのが、東京大空襲で聴覚を失うも地道に努力を重ねてここまできたエンドウという堅実な日本の選手(日本の映像ニュースの作り込みがやけにリアル)。このエンドウは、実在の「佐藤博治」をモデルにしているのだとか。
ちなみにエンドウを演じた“川口功人”は2025年の東京デフリンピックで銅メダルを獲得した当事者で、俳優経験が全くないにもかかわらず起用となったのですけども(本人もびっくりしたとか)。結果、“川口功人”はアカデミー賞作品賞ノミネート作でかなり目立つ活躍をしており、下手したら『国宝』なんかよりもよっぽどこの年のハリウッドで最も注目を集めた日本人になったのではないだろうか…。
ここに本物のプロを抜擢するあたりがまた意地悪ですよね。いくら“ティモシー・シャラメ”が猛練習をしたとは言え、プロと並べられると対比になりますから。
その模範からはほど遠いマーティ。冒頭でその彼の卓球の位置づけが、あからさまに皮肉たっぷりに映像化されます。まさか精子が卵子に受精する様子を映して受精卵が卓球ボールと重なる、アホすぎるオープニングクレジットがくるとは…。『スペルマゲドン 精なる大冒険』で観たばかりだよ…。
そんなマーティは始まりからずっとやっていることは滅茶苦茶で、スポーツマンシップの欠片もないです。対人関係も酷いもので、マーティはほぼ常に他人を「いかに利用するか」という眼差しでみています。そのせいか、マーティのまわりに集う人間も、姑息な奴ばかりなんですが…。
最終的には恥も外聞もなくなり、あのミルトン・ロックウェル(実際の実業家の“ケビン・オリアリー”が演じているのがなんとも)に屈辱的な嫌がらせをされます。スパンキングです。ラケットで、ケツがピンポンにされる…あまりにも低俗なギャグ扱い。
このシーン、ボディダブルを用意していたにもかかわらず、“ティモシー・シャラメ”が「自分でやる」と言って、体を張ったらしいのですけど…。“ティモシー・シャラメ”ってヌードがNGで、お尻もアウトという契約だと聞いていたけど、今作で解禁なのか…。『君の名前で僕を呼んで』を観ていた頃に、「この若手俳優は8年後にケツをラケットでスパンキングされているよ」って未来人に言われたら「まさかそれはないでしょ」と信じなかったろうな…。
卓球をとおしてのアメリカ自虐
前述したとおり、『マーティ・シュプリーム 世界をつかめ』は真面目な卓球好きの人に怒られるんじゃないかとややハラハラしながら観ていましたが、一応、擁護ではないですけど、この映画は「アメリカ観を前提とした卓球自虐」を土台としているのだろうとだけは述べておこうとは思います。
本作の場合は、アメリカにおける卓球のマイナーさを単にギャグとして小馬鹿にするのに終わらず、そこに「1950年代当時のアメリカの傲慢さ」を風刺して乗っけている感じです。
本作の舞台は第二次世界大戦後のまだアメリカが戦勝国として図に乗っている時期。アメリカはナショナリズムの勢いが増し、保守化していました。勝つことが全てであり、アメリカに勝てないものはないと…。だってそれがアメリカなのだから…。
マーティがエンドウに対抗意識を執念深く燃やすのも、戦後における戦時中の米日対決を引きずっているような構図です。日本は戦後の社会復興に真面目に取り組んでいるのに、アメリカはまだ戦争の熱狂のノリでなんとかなると思っている…。
ちなみに、マーティの着想元になった“マーティ・リーズマン”が得意のスマッシュ技はメディアによって「アトミック・ブラスト」と名づけられたこともあるらしく(原爆に由来すると思われる)、当時は全体的にそういう感覚が蔓延していたと言えるでしょう。
その象徴として凝縮されたマーティがただただ日本のあの選手に勝つだけにこだわって、あの日本のささやかな余興の場に図々しく上がり込むわけです。ラストなんて「何しに日本に来たの? 自己満足じゃないか」と言われてもしょうがない。空気を読むことに定評のある日本人ですら白けますよ。
そういう「ほんと、情けないね、アメリカのこういうところ」というシニカルな味わいだとも思うので、決して日本をコケにしているだけの映画ではないとは私は承知はできましたが…。
それにしたって、本作のマーティの「なんでコイツ、こんな醜態を晒しているんだっけ?」というくらいのドタバタ劇はマヌケでした。バスタブ落下、ガソリンスタンド爆発、滑稽な銃撃戦まで起きます。もう『ワン・バトル・アフター・アナザー』の“レオナルド・ディカプリオ”とそう変わりませんよ。インターネット・ミームになりうるシーンがてんこ盛りです。
「動物を傷つけていません」でおなじみの「American Humane」が本作の解説で「アシカが主演俳優と卓球をするシーンでは、ピンポン玉はCGIで作成されました。アシカがピンポン玉に当たることはありませんでした」って書いてあるのですけど、こんな説明文だけで面白いのズルいでしょうよ。
『マーティ・シュプリーム 世界をつかめ』のラストはわりとウェットなシーンに着地しますが、赤ん坊のうるさい泣き声を被せながらのエンドクレジット突入で、しっかりここも不真面目さを忘れていなかったので、これはこれで良しです。
シネマンドレイクの個人的評価
LGBTQレプリゼンテーション評価
–(未評価)
以上、『マーティ・シュプリーム 世界をつかめ』の感想でした。
作品ポスター・画像 (C)2025 ITTF Rights LLC. All Rights Reserved. マーティシュプリーム世界を掴め
Marty Supreme (2025) [Japanese Review] 『マーティ・シュプリーム 世界をつかめ』考察・評価レビュー
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