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『ハピエスト・ホリデー Happiest Season』感想(ネタバレ)…私たちのカミングアウト

ハピエスト・ホリデー

レズビアンでも一緒に祝いたい!…映画『ハピエスト・ホリデー 私たちのカミングアウト』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:Happiest Season
製作国:アメリカ(2020年)
日本では劇場未公開:2021年に配信スルー
監督:クレア・デュヴァル
恋愛描写

ハピエスト・ホリデー

はぴえすとほりでー
ハピエスト・ホリデー

『ハピエスト・ホリデー』あらすじ

恋人の家族に初めて会う時は特別なもの。クリスマスにそのタイミングは訪れた。恋人の実家に向かうアビーはワクワクドキドキしていた。しかし、恋人のハーパーが同性愛を家族に隠していることを知る。もちろん自分がガールフレンドだとは言えない。想定外の事態で家族との初めての対面は、ますます大変なものになり、不安を抱えながらのホリデーとなってしまうが…。

『ハピエスト・ホリデー』感想(ネタバレなし)

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レズビアンでも祝いたい

ロマンスが強調されがちな特別なイベント・デーというのが1年に何度かあります。クリスマスとか、バレンタイン・デーとか。

そもそもこういうスペシャルな日こそ大切な人と過ごしたいと思うのは当然であり、ゆえに自然と恋愛のフィールドになるものです。

でも、そこで意気揚々と目立っているのはたいていは異性愛。それ以外の恋愛は爪弾きにされているケースが多いです。例えば、同性愛のクリスマスは? 同性愛のバレンタイン・デーは? なぜ無いもの扱いする?

もちろんセクシュアル・マイノリティは普段から不平等で冷たい対応を受けているのですが、こういう特別な記念日にあらためて排除されている状況を突きつけられると、ひときわショックを受けます。

映画も同じでした。クリスマス映画はたくさん量産されているのに、そこに映るのは異性愛、ストレート、ヘテロセクシュアル…。

しかし、日本はどうかは知らないけど(それはそれで問題だが)、もはや世界的にはそんな差別は通用しません。特別なイベント・デーはみんなのもの。仲間外れは許されません。

ということで同性愛を描いたクリスマス映画も最近はどんどん増えています。これで素敵な聖夜を異性愛者と同じように映画を鑑賞しながら過ごせる…。

でも、まだ問題が…。実はその同性愛を描いたクリスマス映画のほとんどは男性の同性愛者を主題にしたものばかりという「Lesbian erasure」の巨大な雪壁が通行障害を引き起こしていたのです。これではレズビアンにプレゼントは無し。こんなの不公平じゃないですか、サンタさん…。

しかし、今度こそ大丈夫。レズビアンにも記念日の祝福が届きます。今回紹介する映画は、女性の同性愛者カップルを中心に描いた最初のメジャースタジオの劇場用映画のひとつです。それが本作『ハピエスト・ホリデー 私たちのカミングアウト』

なお、レズビアンのクリスマス映画は本作が初というわけではありません。Netflixで配信された『クリスマスに降る雪は』などがありました。でも『ハピエスト・ホリデー 私たちのカミングアウト』は群像劇ですらもなく、明確にレズビアンが主人公を正面で背負っています。やっと自分たちのホリデーがやってきました。

内容自体はクリスマスのロマコメとして超シンプルなのですが、こんな普遍的なファミリー映画にレズビアンが当たり前に加われている幸せを噛みしめるだけでも、最高の多幸感ですね。

しかも、カップルを主演するのは“クリステン・スチュワート”“マッケンジー・デイヴィス”。“クリステン・スチュワート”は最近も『ふたりのJ・T・リロイ ベストセラー作家の裏の裏』『チャーリーズ・エンジェル』『アンダーウォーター』と幅広いジャンルで活躍する俳優ですが、バイセクシュアルであることからLGBTQ界隈の憧れのリーダーにもなっています。一方の“マッケンジー・デイヴィス”は最近は『ターミネーター ニュー・フェイト』で強烈な印象を刻み込みましたが、とくにセクシュアルマイノリティではないのですけど、レズビアン・コミュニティから人気が高い女優です。

要するにこの2人をペアリングしてキャスティングする時点でもう「これは私のご褒美だ!」と狂喜乱舞するファンがいっぱいいるわけで…。いや、まんまと狙い撃ちでハートを射抜かれてしまっているなぁ…。

他にも出演しているのは、『ホース・ガール』の“アリソン・ブリー”、『チャイルド・プレイ』に出演し、自身もバイセクシュアルである“オーブリー・プラザ”、大人気ドラマ『シッツ・クリーク』でおなじみで、自身もゲイである“ダニエル・レヴィ”、『ミルク』(2008年)に出演し、こちらもゲイである“ヴィクター・ガーバー”、『メルビンとハワード』の“メアリー・スティーンバージェン”など。

そんな待望の『ハピエスト・ホリデー 私たちのカミングアウト』だったのですが、トライスター・ピクチャーズ(ソニー)が劇場公開予定を進めていたものの、コロナ禍で断念し、動画配信サービス「Hulu」(ディズニー)に売却。アメリカではHuluオリジナル作品として配信されました。ただ、これによってHuluに新規登録するユーザーが激増したとのことで、やっぱり需要はあるんですよ。しっかりレズビアンと銘打つことで観客は喜ぶんです。聞こえてますか、日本の会社さん。

で、肝心の日本はというと、ソニー・ピクチャーズのもとで配信スルー。公式の作品ページには「レズビアン」どころか「同性愛」の単語すらないのも虚しいし、なんだか…(後で修正されたようです)。

本作はクリスマス映画なのですから、その時期に劇場公開してくれればさぞかし話題になったのに…。日本の映画企業はLGBTQを扱う作品の潜在的価値を軽視しすぎだと思います、ほんと…。

そんな不満もこぼれはしますが、映画自体は素晴らしくあったかいので、愛を分かち合って鑑賞しましょう。

オススメ度のチェック

ひとり ◎(独りにも優しい物語です)
友人 ◎(互いの愛を応援し合える仲と)
恋人 ◎(一緒に寄り添いあって)
キッズ ◯(偏見を吹き飛ばすために)
↓ここからネタバレが含まれます↓

『ハピエスト・ホリデー』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(前半):2人でラブラブのはずが…

街はクリスマスの雰囲気。そのイルミネーションがキラキラと煌めく中、ラブラブで歩くカップルが一組。アビーハーパーです。

イチャイチャと会話しつつ、ハーパーは明かりのついていない家の屋上にアビーを登らせ、そこで一緒に上から夜景を眺めます。素敵な景色でした。その綺麗な世界を背景に、キスしようとすると案の定、見つかります。不法侵入扱いで怒られ、それに驚いた拍子に屋根から落ちそうになるアビー。何とかぶら下がるも家の住人に窓から見られ、落下。

急いで逃げる2人。手をつなぎ、無我夢中で夜道をダッシュ。そんな一瞬が愛おしく幸せでした。

「私の実家に来て」とハーパー。「クリスマスの朝はあなたの隣で目覚めたい」…そう切望されて断れるわけもありません。わかったとアビーは承諾し、2人はキスします。

アビーはペットの世話を友人のジョンに頼み、クリスマスは楽しむつもりだと宣言。そして、アビーは指輪を取りに来ます。もちろん渡す相手はハーパーです。アビーはプロポーズをするつもりでした。

そんな意思を固めるアビーに対して、自身もゲイであるジョンは「そんなの古臭い」「異性愛のしきたり」と苦言たらたら。しかし、アビーの「結婚したい」欲は本気であり、そのアビーの本気に納得するジョン。でも彼女の父から許可をとると答えるアビーにやっぱり家父長制は理解できないと呆れ顔でした。

さっそくアビーとハーパーは車でハーパーの実家に向かいます。その向かう車の中、話しておきたいことがあると切り出すハーパー。「家族にカミングアウトしてあるって言ったでしょ、言ってないの」

停車。必死に言い訳をまくしたてるハーパー。「なぜ私を誘ったの」とアビー。「あなたを愛しているから」とハーパーは切実に訴えますが、完全に行く気が失せたアビーはテンションダウン。「あなたのことが両親が好きになればカミングアウトしやすくなる」とのハーパーの懇願、そして「ホリデーが終わったらちゃんと話すから」という約束に「わかった」としぶしぶ納得。

たった5日。乗り切れるはず。

ということでアビーは「親を失い、孤独を抱えた女性」という設定でハーパーの家に招かれます。

ハーパーの母親ティッパーは親切そうで「困った人は助ける信条だから」と迎え入れてくれます。ハーパーの姉妹であるジェーンもやってきて、「ご両親のこと聞いた、無理しないでね」と深刻そうに抱きしめてくれます。父親のテッドは市長選に出るらしく忙しそうですが、やはり心配してくれます。

家を案内され、そこにはハーパーの高校時代のカレシだというコナーの写真が。「アビーは恋人は?」と聞かれ、「いいえ。でも昔はたくさんいました」と嘘。テキトーに話をでっちあげます。

同じ部屋でいいとハーパーは言いましたが、それも変だろうとアビーはジェーンの部屋に泊まることに。離れ離れです。

家族一同に加わり、店で食事。そこになんと元カレのコナーがやってきます。なんだかアビーにとっては最高に居心地が悪いです。ハーパーと2人でトイレに駆け込み、コナーが来るなんて知らなかったと謝るハーパー。トイレから出てきたところでライリーというハーパーの知り合いに見られます。

夜、アビーの部屋に来るハーパー。母は「ああ、ガール・トークね」と察して出ていきます。

全然2人の時間がとれないホリデー・シーズン。こんなのでいいのか…。

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普通ができないモヤモヤ

『ハピエスト・ホリデー 私たちのカミングアウト』の監督は“クレア・デュヴァル”。もともと女優で、『Go!Go!チアーズ』や『17歳のカルテ』などに出演していましたが、2016年に『インターベンション』という作品で長編映画監督デビュー。

“クレア・デュヴァル”監督自身、レズビアンで、デビュー作『インターベンション』も4組のカップルを描くものですが、その中に“クレア・デュヴァル”自身が演じるレズビアン・カップルもいて、ごくごく自然にレズビアンが物語に溶け込んで描かれていました。とくに同性愛だからと騒がれることもない、フラットな世界です。それは“クレア・デュヴァル”監督自身のそうありたいという理想を反映したものなのでしょう。

そしてこの『ハピエスト・ホリデー 私たちのカミングアウト』もその方向性を受け継いでいます。

主人公のアビーは異性愛カップルと同じようにベタなプロポーズで、ベタな親の紹介とかして、ベタに結婚式をあげたい…結構ロマンチックというか、スタンダードに憧れちゃうタイプです。

純真無垢な性格なキャラクターを割とクールなイメージがある“クリステン・スチュワート”が演じているのがまたキュートですよね。ちょっとドジな言動もあって、冒頭では屋根から落ちそうになるし(というか落ちた)、スケートの場面ではトナカイの補助具で滑っているのが妙にシュールだし、イチイチ面白いです。店で万引きを疑われるなど、踏んだり蹴ったりになるのですが、それでもパワフルな“クリステン・スチュワート”があえて無力な牙を抜かれたライオンのようにうずくまっているだけという姿が滑稽。

そのアビーにとってはハーパーの家での一連の経験は疎外感を強めます。「普通のこと」ができない世界です。キスもハグも手も繋げない。普通に恋愛したかったアビーにはひたすら苦痛の環境でしょう。

しかも、よりによってハーパーの家は結構ベタなクリスマスを過ごす伝統があるらしく、なぜその本来なら歓迎したい空間に混ざれないのか、と。

加えて、パーティとかに参加すると、フリーの女性だと思われてしまうので男たちが話しかけてもくる。アビーはおそらく男との恋愛関係なんて心底嫌なタイプなのでしょう。でもハーパーはヘテロ男性と親しく会話するのもそんなに嫌がらない性格で、それもまた不愉快だったり…。

アビーに共感できる当事者も多いのじゃないかなと思います。まあ、日本の場合、国全体がハーパー家みたいなものですけどね…。

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みんなのストーリーに幸せを

一方のハーパーは家庭がそもそも大家族かつ伝統を重んじるタイプです。雰囲気としては中流白人層のスタンダードか、もうちょっと富裕層に片足突っ込んでいるのかもしれません。

とにかくハーパーは家に帰れば、しっかり市長選を目指している父親に尽くそうとしますし、その妻のティッパーもスマホで写真パシャパシャ撮ってSNSにあげるし、一家総出で頑張っています。言ってしまえば表面的にはアットホームだけど家父長的に見えなくもない

確実にプレッシャーがあるのは間違いなく、子どもたちには完璧でいることを教育してきたのは、終盤のティッパーの吐露でも明らかです。

しかし、最終的には家族はより良きものへと変わります。終盤の父テッドがキャリアよりも娘ハーパーの尊厳を選択するシーンがいいですね。テッドを演じている“ヴィクター・ガーバー”はゲイですから、余計に説得力があります。

また、本作はレズビアンが主題でありながらも、それ以外のカバーもしっかりしているあたりは丁寧です。

例えば、長女・スローンは最後は離婚を決意し、婚姻は不変であるべきという価値観から脱却してみせます。アメリカのクリスマス・ホームコメディでは恒例の乱闘を繰り広げながら、ハーパーに対するアウティングもしてしまいつつ、和解するまでの姿は決して悪役というものではありませんでした。

ジェーンは親から期待されていませんでしたし、ロマンスもありませんが、やがてはファンタジー小説家としてデビューし、自己実現を手に入れます。クリスマス映画だからといってロマンスに偏らない点もサポートしているのが本作の良さです。

この3姉妹の寄り添いも良いシーンだし…。

結局はジョンがアビーに言うセリフが全てを代弁しているでしょう。「みんなのストーリーはそれぞれ違うんだよ」「バージョンがある」「新たな章が始まる。覚悟ができていないと」「君への愛とは関係ない」

誰しもが自分らしさを求めるストーリーがあって、同じセクシュアリティだったとしてもそれは違ってくる。だから互いに尊重し合って、応援する。この助け合い。まさにクリスマス精神。

もちろん本作のロマンスに乗れない人もいるでしょう。でも愛は人それぞれ。バージョンの違いを理解し合うことは忘れてはいけない。

そういえば、万引き疑いでディナーから排除されたアビーがライリーと飲むゲイバーのシーンがあります。あそこは2017年に閉店したロサンゼルスのレズビアンバー「オックスウッドイン(Oxwood Inn)」をオマージュしたものだそうで、あの場面でも当事者たちのさりげない支え合いの伝統と歴史を見せてくれるのも良かったですね。

ラストは1年後。みんなでクリスマス映画を観る中、劇場で見つめ合う2人でフィニッシュ。これ、映画館でカップルで見ていたら最高のシーンなんですけどね。

エンドクレジットではプライドパレードに参加している写真も映り(監督本人の参加時の写真らしい)、社会との地続きも見せて、プライベートなストーリーで終わらせない。

『ハピエスト・ホリデー 私たちのカミングアウト』はクリスマス映画の定番として堂々と加われる素敵な一作でした。

『ハピエスト・ホリデー 私たちのカミングアウト』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 84% Audience 76%
IMDb
6.7 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 8/10 ★★★★★★★★

作品ポスター・画像 (C)2020 TriStar Productions, Inc. and eOne Features LLC. All Rights Reserved. ハピエスト・シーズン

以上、『ハピエスト・ホリデー 私たちのカミングアウト』の感想でした。

Happiest Season (2020) [Japanese Review] 『ハピエスト・ホリデー 私たちのカミングアウト』考察・評価レビュー