正統なT3が今度こそ戻ってきた…映画『ターミネーター ニュー・フェイト』(ターミネーター ニューフェイト / ダーク・フェイト)の感想&考察です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。
製作国:アメリカ(2019年)
日本公開日:2019年11月8日
監督:ティム・ミラー
ターミネーター ニュー・フェイト
たーみねーたー にゅーふぇいと
『ターミネーター ニュー・フェイト』あらすじ
メキシコシティで父と弟とごく普通の生活を送っていたダニーのもとに、未来から最新型ターミネーターが現れ、彼女の命を狙う。一方、同じく未来からやってきたという戦士グレースが、ダニーを守るためにREV-9と壮絶な戦いを繰り広げる。そこへ、かつて人類を滅亡の未来から救ったサラ・コナーが現れ、戦闘はさらに激しくなり…。
『ターミネーター ニュー・フェイト』感想(ネタバレなし)
シリーズ製作史もドラマチック
1984年に公開された“ジェームズ・キャメロン”監督の『ターミネーター』。当時は640万ドルというそこまで高くない製作費からもわかるように、たいして期待されていませんでした。“ジェームズ・キャメロン”監督もまだまだ新米で、よりによって前作が『殺人魚フライングキラー』という無残な酷評に終わったB級映画でしたので、最初から冷淡な反応になるのも無理ありません。ところがどっこい、この『ターミネーター』が映画の映像進化の方向性を決定づけ、後に映画界の頂点に立つ“ジェームズ・キャメロン”というクリエイターの出発点になるとは…。まさに運命ですよ。
以降、シリーズ化がなされ、続編も連発されたのはご存知の方も多いと思いますが、実はこの「ターミネーター」シリーズ、製作面でかなり紆余曲折なシリーズ展開を辿ってきました。普通はシリーズなら同じ会社が取り仕切るものですが、この「ターミネーター」シリーズは各作品で製作に携わっている会社がバラバラなんですね。面白いのは権利がそのたびにあっちこっちにいき、そして関わった映画会社が破産していること。タイトルどおり「terminate(終わらせる)」しているわけです。
1作目は配給がオライオン・ピクチャーズ。『ターミネーター』公開時は絶好調だったのですが、1992年に破産しました。この時の権利は制作会社のヘムデールと“ジェームズ・キャメロン”が折半していました。
大ヒットしたのですからすぐに2作目を作ればいいのに、“ジェームズ・キャメロン”が権利を当時の妻ゲイル・アン・ハードに渡すも離婚してしまったり、もともとシリーズ化できるほどの体制のない会社だったりで、2作目の公開は1991年になります。このときは制作はカロルコという会社で権利もヘムデールから買って、ゲイル・アン・ハードがプロデューサーになりました。
2作目も好調で当然3作目の話も出ますが、“ジェームズ・キャメロン”にその意思なしで、離脱。主演の“アーノルド・シュワルツェネッガー”も出る出ないで右往左往。そうこうしているうちに1997年にカロルコが倒産。カロルコの創業者がC2ピクチャーズという会社を設立して、ゲイル・アン・ハードの分も含めて権利を入手。2003年にやっと3作目が公開されます。
しかし4作目には上手く続きません。C2ピクチャーズは不調により、2008年に雲散霧消。権利はハルシオンという会社に移行。しかも、シュワルツェネッガーが2003年から知事になるという政治家転身もあって、相変わらず“ジェームズ・キャメロン”なしのまま、かなり大きな穴アリの状態で映画は作られ、2009年に公開。ここから新3部作を始めるつもりで再スタート!…のつもりでしたが、興行的に振るわず、加えてハルシオンが破産。当然、3部作構想も放棄。
それでも5作目を諦めたくないのが知事もやめて俳優に復帰したシュワルツェネッガー。権利はヘッジファンドのパシフィコアが買い取っており、なんとか製作を急ぎます。そして、制作はスカイダンス・プロダクションズ、配給はパラマウントに決定。しかも、リブートとすることになり、『ターミネーター: 新起動 ジェニシス』として今度こそ新3部作をここから始めるぞと意気込み、2015年に公開。しかし、これもあまり良い結果を出せず…。ここまでくると「terminate(終わらせる)」しすぎで逆に凄い…。
と、ここで真打登場。そう、生みの親“ジェームズ・キャメロン”。なんと著作権法の決まりで2019年に権利が彼に戻ってくるのです。まさかのリアル「I’ll be back」。1991年の2作目から実に28年ぶりに“ジェームズ・キャメロン”体制で新作が作られることになりました。
それが本作『ターミネーター ニュー・フェイト』です。長かった…。
本作も製作体制は超特殊です。制作にはパラマウント映画、20世紀フォックス、スカイダンス・プロダクションズ、テンセント・ピクチャーズなど複数社が連合で関与。アメリカの配給はパラマウント、日本の配給は20世紀フォックス(実質ディズニー)が担当。
肝心のストーリーはどうなるんだと思いきや、2作目の続きとなり、『3』『4』『新起動 ジェニシス』は無かったことにするという潔さ。つまり、『ターミネーター ニュー・フェイト』が正統な3作目ということになります。まあ、キャメロンがそれでいいならいいか…。
“アーノルド・シュワルツェネッガー”がしっかり登場する他、何と言ってもサラ・コナーを演じた“リンダ・ハミルトン”がカムバック…これがまたシリーズファンはテンション上がるじゃないですか。“リンダ・ハミルトン”はキャメロンと結婚して離婚しているのですけど、映画には戻ってきてくれて良かった…。ほんと、リアル「I’ll be back」。
監督は『デッドプール』で名をあげた“ティム・ミラー”。なんかなんだかんだで普通にビックバジェットの映画監督になりましたね。
ということで、事前に鑑賞を推奨するのは『1』と『2』だけです。間違っても『新起動 ジェニシス』をバッチリ予習しました!なんてヘマをしないでくださいね。
オススメ度のチェック
ひとり | ◯(ファンもそうでなくでも) |
友人 | ◎(シリーズ初心者も) |
恋人 | ◯(女性の強さが光る) |
キッズ | ◯(新しいファンになって) |
『ターミネーター ニュー・フェイト』感想(ネタバレあり)
相変わらずしつこいアイツ
まずは『1』と『2』のおさらい。
1984年。サラ・コナーのもとに二人の存在が未来からやってきます。ひとりは「T-800」というターミネーターで、ジョン・コナーという息子を将来生むことになるサラの抹殺が目的。そしてもうひとりは「カイル・リース」という男で、そのT-800の阻止が目的。なんでも2029年、核戦争後の世界で反乱を起こした人工知能「スカイネット」が先導する機械軍(マシーン)により、人類は絶滅の危機を迎えており、それに対抗するべくジョン・コナーが指揮する抵抗軍が健闘しているのだとか。そこでスカイネットは過去にT-800を送り込み、ジョン・コナーの母を殺して存在が生まれないように狙ったのでした。その目論見はサラとカイルの協力で阻止され、カイルは命を失いましたが、T-800を撃破できました。サラのお腹にはカイルとの子、未来のジョンを宿して…。
1995年。精神病患者として警察病院へ収監されたサラは、未来に迫る危険を訴えるも聞き入れてもらず、息子のジョンに会いたい気持ちを募らせるばかり。そこへまたもや二人の存在が未来からやってきます。ひとりはT-800という以前と同じターミネーター。しかし、今回は未来のジョンが今のジョンを脅威から守るべく送られてきたのでした。その脅威とはもうひとりのT-1000という最新ターミネーター。圧倒的な敵を前に苦戦するも、サラとジョン、T-800の連携でT-1000を撃破。将来に元凶のスカイネットを開発するサイバーダイン社を爆破。サムズアップしながら自ら溶鉱炉へ沈んでいくT-800を見つめながら、未来に思いを馳せて…。
そして『ターミネーター ニュー・フェイト』です。
スカイネットの支配が始まる「審判の日」は回避されました。しかし…。1998年、平穏に過ごしていたサラとジョンの前に今回もターミネーターが出現。この展開は『ターミネーター3』と同じですが、結末は違いました。なんとT-800がジョンを殺害。抹殺完了。バッドエンドです。
それから22年後の2020年。メキシコシティで弟のミゲルと働くダニー(ダニエラ)・ラモスは、職場の工場で父の姿に化けた謎の男に襲われます。変幻自在に姿を変えるその強敵になすすべもなく危機一髪のとき、助けてくれたのはこれまた謎の女でした。その女はグレースと名乗り、自分は未来からやってきた強化兵士だと説明、ダニーを守る使命があるのだとか。敵はターミネーターというらしく、ダニーを殺そうとしていることは明白。
なお、やっぱり案の定、全裸でタイムトラベルしてきていました。この全裸縛り、改善できないのかな…。
車で逃走するも、しつこく追いかけてくる敵のターミネーター。その過程でミゲルは死亡し、逃げ場を失ったダニーとグレースも立ち往生。そこへさらなる乱入者が登場します。その老齢の女は、過酷な悲劇を経験したサラ。颯爽と現れ、銃を乱射、バズーカをドン、手りゅう弾をポイ、「I’ll be back」…。そう言い放って敵を圧倒。
わけもわからずその場を車で立ち去るダニーとグレース。途中、グレースの体調が急激に悪化し、水と薬を求め始めたので薬局に寄っていると、追いついたサラと合流。モーテルで3人は情報を交換。あのターミネーターは「REV-9」と言うらしく、2042年、世界は再び危機に陥り、抵抗軍の指揮官がダニーで、グレースはレギオンの技術によって強化されたスーパーソルジャー(半分サイボーグ)である、と。
サラが得た謎の情報の手がかりを基に、テキサス州へ向かうことにした一同。なおもしつこく迫ってくるREV-9の追撃を交わし、国境を越えた先。その場所で待っていたのはかつてジョンを殺したあのT-800でした。
T-800はジョン殺害後、自らの役割を終えたことで目的を失い、結果、人間社会を学んで「カール」という存在として生きることに決め、今では妻と息子もいました。複雑な気持ちを隠し切れないサラですが、今は目先の危険にどう対処するかが先決。
ダニー、グレース、サラ、そしてカール。新旧の運命を担う者が集結し、未知の激闘が幕を開けます。
現代的なメジャーアップデート
『ターミネーター ニュー・フェイト』を製作するにあたって、“ジェームズ・キャメロン”は現代的なアップデートを要望したそうです。それは本作を観れば非常に重視されていることがすぐにわかります。
まず諸悪の根源となる「審判の日(Judgement day)」。『1』や『2』の頃は、冷戦を意識したものでした。コンピュータの誤作動や人間の過ちで核ミサイルがひとたび使われたら…。その恐怖はあの時代の最も喫緊のリアルだったのでしょうけど、今は2019年。いまだに核兵器は無数にあって軍縮は進んでいませんが、時代は変わりました。
そこで本作では核戦争は同じでも明らかにその背後にAIの暴走と排外主義というまさに今の時代が一番直面している恐怖を匂わせています。
今作の敵であるREV-9は戦闘能力は『2』のT-1000とそれほど変わらないですが、ハッキング能力を駆使するシーンが頻繁に登場します。インターネットからRQ-4グローバルホークのような偵察型大型無人航空機まで易々とアクセス。ターミネーターに有利な世界になりました。
また、中盤の舞台となるメキシコとアメリカの国境地帯にある移民収容施設。米ニュースに敏感な方ならおわかりのように今この場所は劣悪で非人道的な移民への拘留が指摘され、大問題になっている場所です。その渦中の場所をREV-9がいとも簡単に掌握し、ダニーたちをカルテルのメンバーだと嘘を吹き込み、あっさり軍隊を操る。今のアメリカの国境の脆弱性(不法移民がやってくるという意味ではなくそのナショナリズムが悪用されるというリスク)をまざまざと見せつけます。
他にも序盤のメキシコシティの自動車工場だとか(アメリカの経済を裏で支えている海外労働者の存在)、後半の水力発電所施設だとか(自然を隔てる巨大なテクノロジーの壁という視点でみれば古くからある国境とも言えるかもしれない)、ロケーションで社会的な背景を暗示させるあたり、かなり考えられています。
物語の鍵を握る、そして世界の運命を担う人間にダニーという非白人を設定したのも象徴的なものがあるのは言うまでもないでしょう。ちなみにダニーを演じて大抜擢された“ナタリア・レイエス”はコロンビア出身だそうです。さらにちなみにちなみにの情報だと、REV-9を演じている“ガブリエル・ルナ”はテキサス州出身のメキシコ系アメリカ人なので、キャストの人種的背景を見てみるのも面白いです。
話は変わりますが、映画の映像技術における現代的アップデートは、本作ではそこまであからさまに目立つものはない感じでしたが、冒頭の懐かしい少年ジョン・コナーの再現をCGでやってみせるなど、補助的に良い効果をもたらしていました。
未来に進む女たちと贖罪を求める男
『ターミネーター ニュー・フェイト』は位置づけとしては『1』『2』から続く大団円としての3作目…ではなく、『1』『2』の旧運命と、本作以降の新の運命を結び付けるミッシングリンクのような映画になっていました。明確に『1』『2』の流れはもうやりませんよと宣言しています。
その宣言の証明となるのが冒頭のまさかのジョン・コナー殺害完遂。今まで『3』も『4』もそれを食い止めるべく頑張ってきたのに、ここにきてあまりにもあっさりと死んじゃって…。
まあ、その理由はよくわかります。さすがにジョン・コナーとカイル・リースの物語は観飽きています。ジョンが生きている限り、ずっと同じ路線の話に縛られるのは自明。『新起動 ジェニシス』のような設定をちょこちょこ変えた派生版しか作れないでしょう。
元も子もないことを言えばずっとジョン・コナーが救世主だというのも変ですし、なんか選民思想的ですらありますしね。『2』でジョン・コナーを演じた“エドワード・ファーロング”も、今や散々な堕落を見せているし…(小声)。
そこで新しい運命の白羽の矢が立ったのがダニー。そして未来からやってくるダニーの意思を継いだグレース。さらにその彼女たちを導く、かつての運命に抗った人物、サラ・コナー。この顔ぶれを見るとわかるように、非常にウーマン・パワーの濃いチームアップです。「ターミネーター」シリーズはとくに女性がステレオタイプなヒロインではなく、最前線で闘うという常にパワフルな女性像を提示してきたわけですが、『1』『2』とその傾向が加速度的に強まり、ついに『ターミネーター ニュー・フェイト』はここまできたか、と。
以前に展開していた『サラ・コナー・クロニクルズ』というドラマシリーズもサラ主体で、少女型アンドロイドが登場するなど女性成分強めでしたし、最近の“ジェームズ・キャメロン”製作『アリータ バトル・エンジェル』でもその傾向は全開でしたが…。
だからといってこれを「ポリコレのせいだ」と吐き捨てるような人は『ターミネーター』好きにはいないと願っていますが、これは“ジェームズ・キャメロン”がずっと推し進めていたことですからね(むしろ時代がやっとキャメロンに追いついた)。
しかし、『ターミネーター ニュー・フェイト』はそんなフェミニズム時代の映画たちと比べても頭ひとつ飛びぬける女性バトルプレイヤーの存在感がありました。まずグレースのあの無骨な強さ。『1』のT-800を彷彿とさせるストレートさでありながら、マッチョイズムに合わせているわけでもない絶妙なバランス…凄く良いです。演じた“マッケンジー・デイヴィス”もキャリアを更新する名演でした。高身長ゆえの体技が光りますよね。
そして我らがサラ、それを演じる“リンダ・ハミルトン”。この人、この20数年、何をしてこんな肉体になったのだろう…。たぶんギャングの2~3は壊滅させている…。老齢女性のアクションってどうしてもこれまではギャグ扱いになりがちだったのですが、そんなことは微塵もない完璧なスタイリッシュ・アクション。『ハロウィン』といい、やっぱり老齢女性の戦う姿はいいなぁ。
一方で女性だけが活躍しているのかと言えばもちろんそうではなく、忘れてはならないT-800ことカールです。今作では彼のキャラクター性もグッと深掘りされ、人間としての自我と贖罪の物語になっています。シリーズを追いかけてきた人からすれば、家族とハグする姿、犬と一緒に佇む姿、その一挙手一投足に感動します。完全に一歩を引いた立場でのチーム参加となっており、マッチョイズムを卒業しているのが良かったです(あのサングラスをかけず、BGMだけが鳴るところとかね)。“アーノルド・シュワルツェネッガー”も『アフターマス』以上に抑えた演技をしており、良い老成のお手本みたいでした。
正統な続編であり、3作目でありながら、真のリブートも達成している本作。ここから本当の意味で新しい物語が開幕するのだと思うとワクワクします。興行的には苦戦しているみたいですが、まあ、今度は“ジェームズ・キャメロン”が権利をちゃんと持っていれば、制作が路頭に迷うこともないでしょう。たぶんだけど…。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 70% Audience 84%
IMDb
6.5 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 6/10 ★★★★★★
作品ポスター・画像 (C)2019 Skydance Productions, LLC, Paramount Pictures Corporation and Twentieth Century Fox Film
以上、『ターミネーター ニュー・フェイト』の感想でした。
Terminator: Dark Fate (2019) [Japanese Review] 『ターミネーター ニュー・フェイト』考察・評価レビュー