汚れた町の秘密を洗い流す時間逆行ミステリー…Netflix映画『美しい湖の底』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。
製作国:アメリカ・カナダ(2017年)
日本では劇場未公開:2017年にNetflixで配信
監督:オーレン・ウジエル
うつくしいみずうみのそこ
『美しい湖の底』あらすじ
『美しい湖の底』感想(ネタバレなし)
時間逆行のお楽しみ
クエンティン・タランティーノ監督の名作『パルプ・フィクション』は、劇中で繰り広げられる出来事がシーンごとに時間軸がバラバラで展開されていくのが特徴でした。映画を普通に始めから観ていても全体像はさっぱり掴めず、全てを観終わって初めて「そういうことか」と納得する構成です。
『パルプ・フィクション』は相当時間軸がメチャクチャになっている“変わり種”作品ですが、時間軸を駆使した映画は他にも種類があります。それは“時間逆行型”の作品です。映画開始時点が最も時制が新しく、映画が進むにつれてどんどん過去の話が語られていく…そういうやつですね。例えば、クリストファー・ノーラン監督の『メメント』なんかがあります。
そして、本作『美しい湖の底』もまたその“時間逆行型”映画の典型例です。
監督は“オーレン・ウジエル”。聞いたことがない人だなと思って調べると、脚本家として活躍していた人でした。“オーレン・ウジエル”の脚本作品は2つ。ひとつは、フィル・ロード&クリストファー・ミラー監督が手がけたダメダメ新人警官コンビが高校に潜入して大騒ぎする『21ジャンプストリート』の続編『22ジャンプストリート』。もうひとつは、人間とゾンビとバンパイアが共存する街を舞台に襲来したエイリアンから街を守ろうとする高校生を描いた『フリークス・シティ』。いずれも一目で異色とわかる個性の強いコメディです。
じゃあ、本作『美しい湖の底』もコメディかというと、全く様相は違う、かなりシリアスなミステリーサスペンスとなっています。でもところどころでユーモアを見せるあたりが“オーレン・ウジエル”らしさも感じさせる、そんな映画です。起こっていることは殺人なのに、どこか登場人物たちが真剣ではないのではと思わせる気の抜けた感じは作家性なのかもしれないです。
気になる人はぜひ観賞してみてはどうでしょうか。ちなみに以下の予告動画には展開が読めてしまうシーンのネタバレが結構あるので、純粋に楽しみたい人は予告動画を見ないほうがいいと思います。
『美しい湖の底』を観る前のQ&A
A:Netflixでオリジナル映画として2017年6月9日から配信中です。
『美しい湖の底』予告動画
『美しい湖の底』感想(ネタバレあり)
あらすじ(前半):真相は?
金曜日。みすぼらしい地下室。アンディはそこでいそいそと何やらしています。その部屋にふらっと入ってきたのは幼い娘のサリー。明らかに隠し事があるように「パパに会ったことは内緒だよ」と約束させ、上に戻らせます。
1階では保安官のジークが居間に招かれており、マーサと話し込んでいました。どうやらアンディの行方を追っているようで、疲れ気味。サリーはシリアルを地下に持っていきます。不審に思ったジークは地下に降り、慎重に警戒。
その間にアンディは外で出て車で逃走しました。
まんまと逃げられたジークは隣人の車で出ていき、相棒のリードを後部座席に乗せ、捜査を続行。
そしてFBIの2人と合流します。FBIのひとりは昨夜は若い裸の男が道路を走っていたのを見たと言っています。その後、火曜日に襲われた銀行のオーナーであるドーキンス判事の邸宅を訪れる一同。ジークとリード、FBIの2人は家に入っていきます。銃を構え、気を抜かずに家の中を歩くと、血を流して床に倒れる判事を発見。手遅れでした。
その頃、エドワード・ノートン・ジュニアの墓に訪れるステファニーという女性。
さらに逃げたアンディはバックを引きずり、湖の林へと隠れます。
警察とFBIは事態が深刻化していることを痛感していました。アンディ・サイクスとエド・バートンは指名手配となっており、FBI側はこれできっと捕まえられると楽観的に考えています。検問もあるし、もう町からは出られないだろう、と。
しかし、ジークは自分を撃ってきた相手なので捕まえようと必死。そのアンディはジークの兄です。気の抜けたFBIのやりかたに納得いかないジーク。苛立ちを隠せません。
夜。森に隠れて潜んでいたアンディの前に車が来ます。「遅かったじゃないか」とアンディはほっとします。しかし、銃を向けて車内から発砲してくる誰か。その腕には「State Champs」(州のチャンピオン)というタトゥーがあり…。
その前の日、木曜日。ステファニーのもとにアンディがやってきます。「お金はドーキンスが持っている」とステファニーは言い、あっけなく銃を渡してきます。やるべきことは決まっていました。
マーサとサリーの前にジークが現れ、状況に疲労がたまっていることを感じさせます。サリーをパトカーの助手席に乗せてあげ、この汚れた町を奇麗にしないといけないと独り言のように語るジーク。相棒のリードは後部座席です。
銀行を襲ったアンディ・サイクスとエド・バートンについて報道するメディア。もう逃げる場所はありません。すでに事件は世間に知れ渡っています。
しかし、そこにはもっと複雑な事情がありました。アンディはエドとクリスの検事で、麻薬の製造をしていた2人に関して、そのエドがアンディに金を渡して上手いこと処理したという噂です。しかも、その製造所の爆発でエドの息子が死んだため、これは汚職というにはあまりにも大問題です。
ステファニーはエドに会ったとジークに相談してきます。「知っていることを話すんだ」と言いますが、「メキシコに行くみたい」「やり残したことがあると言っていた」と語ります。しかし、そのステファニーにも隠していたことがありました。
アンディからジークに電話がかかってきて、「俺は今メキシコにいる」「エドから金は受け取っていない」としらばっくれますが、問い詰められると「エドに買収された」と白状。「自首してくれ」と頼んでも聞いてくれません。
一方、ドーキンス判事も焦っていました。そこへ現れたのは…。
暗躍があちこちで折り重なるこの町。欲望を叶えるのは誰なのか…。
Why!!!
『美しい湖の底』は以下の構成で時間が巻き戻って真相が見せられていきます。
金曜日「アンディが湖に向かう」
↓
木曜日「ドーキンスが旧友に電話する」
↓
水曜日「クリスがピンチに」
↓
火曜日「エドが決心する」
一番の謎は「誰が黒幕なのか?」です。
銀行強盗事件を起こしたアンディ・サイクス、エドワート・バートン、クリス・モロウの3人。そして、それを追う地元警察のジークとリード。捜査しようとするFBIのカートとカイル。強盗に入られた銀行と関わりのあるドーキンス判事。アンディの妻マーサ、エドワートの妻ステファニー。
多くの登場人物がひしめき合うこの物語の過去を覗くと判明した黒幕はジークとステファニーでした。昔に湖で起きた爆発事故で亡くなったステファニーの子どもは実はジークとの子で、その復讐のために銀行強盗の時点から仕組まれていたのです。ドーキンスを殺したのはアンディ、クリスを殺したのはドーキンス、エドとアンディを殺したのはジークとステファニー…次々と手を汚した人間がわかっていく展開は素直に楽しいです。
ただ、ジークが犯人なのは結構バレバレな気も…。最初から含みのあるキャラすぎましたね。警官仲間のリードがFBIに「ジークはこの中で一番賢い」と言っているとおりです。そもそもサリーをパトカーに乗せたジークは「誰だって失敗する。俺だってそうだ」「みんな欲望のために好き勝手しようとする」「汚れた町をお風呂に入れるのが俺の仕事だ」と明らかに俺が黒幕ですオーラが全開でしたし。
それでも映像に重厚感があって見入るだけのパワーを持っているので、最後までじゅうぶん観れる作品です。最後まで観ないと話にならない“時間逆行型”ジャンルとしては合格でしょう。
その完全犯罪の遂行というシリアス部分のことをお構いなしに、真逆な勢いを見せる本作のユーモア部分。
後部座席に乗せられるリードはなんであんな嫌そうなのかとか、FBIが目撃した裸の男の正体とか、真相は非常にしょうもないオチです。まあ、個々のシーンとしてはすごく楽しいですよ。判事とアンディの対峙場面における緑頭の奴の便所シーンなど、全体的に間(ま)のギャグが上手かったと思います。完全にギャグキャラになっているリードとFBIの会話もアホでいいです。「ジークはこの中で一番賢い」というか、お前らが馬鹿すぎるんだよ…。
一方で、それらギャグが本筋のミステリーサスペンスと全然上手く絡み合っていないのが残念。リードに代わって「ホワイィィィィ!!!」と言いたい。でもこれはこれでいいのかもしれない。なんというか真面目に観るサスペンスではなく、ツッコミを入れながら見るシットコムみたいな雰囲気がありますね。そんなテンションで向き合うのか正解な映画なのではないでしょうか。
それにしたって気が抜けすぎですけどね。あらためてサスペンスとギャグを巧みに融合していた『ナイスガイズ!』は良く出来た脚本だったんだなと実感してしまいました。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 60% Audience 59%
IMDb
6.2 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 5/10 ★★★★★
作品ポスター・画像 (C)Netflix
以上、『美しい湖の底』の感想でした。
Shimmer Lake (2017) [Japanese Review] 『美しい湖の底』考察・評価レビュー