アラスカのジェニファー・ロペスが狩る…Netflix映画『ザ・マザー 母という名の暗殺者』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2023年)
日本では劇場未公開:2023年にNetflixで配信
監督:ニキ・カーロ
児童虐待描写
ザ・マザー 母という名の暗殺者
ざまざー ははというなのあんさつしゃ
『ザ・マザー 母という名の暗殺者』あらすじ
『ザ・マザー 母という名の暗殺者』感想(ネタバレなし)
ジェニファー・ロペス、仕事しすぎです
「J. Lo」の愛称で親しまれる、“ジェニファー・ロペス”姐さんのターンです。
それにしても“ジェニファー・ロペス”、仕事しすぎじゃないですか?
最近の“ジェニファー・ロペス”の多忙っぷりは目まぐるしいほどです。曲はだすわ、アルバムは作ってるわ、イベントにでるわ、児童書を出版するわ…。
映像業界でも大忙し。自身の設立した「Nuyorican Productions」というスタジオがフル稼働しています。『セカンド・アクト』(2018年)、『ハスラーズ』(2019年)、『マリー・ミー』(2022年)、『ショットガン・ウェディング』(2022年)と立て続けに連発。俳優だけでなく製作まで兼任しているのが過去とは違うところです。もう“使わされる”女優ではないということ。さらに映画だけにとどまらず、現在進行形でドラマシリーズ、それも1作どころか数作が制作中らしいですからね。
“ジェニファー・ロペス”ってこの世界にひとりじゃないのかな…。もしかしてマルチバースから無数の変異体が集結しているの?
そんな我が道を突き進む“ジェニファー・ロペス”の2023年の最新映画はこちらです。
それが本作『ザ・マザー 母という名の暗殺者』。
近年は毎回違う顔を見せてくれますが、直近の『ショットガン・ウェディング』ではめちゃくちゃアホに振り切っていたのが印象的でしたけど(観ていない人はチェックしてね)、今作の『ザ・マザー 母という名の暗殺者』は以前のは何だったんだというくらいにガラっと変わります。アホ要素は1ミリもありません(若干のユーモアはなくはない)。
『ザ・マザー 母という名の暗殺者』は邦題のとおり(この邦題もくどいけどね)、“ジェニファー・ロペス”演じる主人公は殺し屋です。でも足を洗っており、そんな主人公がわけあって産んでからすぐに関係を断ち切った娘の危機に駆け付ける…という、シチュエーションとしてはわりと普通のサスペンス・アクション。
たいていは殺し屋の子どもって巻き込まれる運命にあるよね…。
しかし、なにせ母は“ジェニファー・ロペス”ですから。只者じゃないです。しかも今回の“ジェニファー・ロペス”はアラスカで狩りをしてサバイバル生活をしているせいで野性味が凄いです。この“ジェニファー・ロペス”ならオオアナコンダでも余裕で殺せるでしょうね(映画『アナコンダ』の話)。
ほんと、ジャンルを選ばないというか、何でもこなすなぁ…。
『ザ・マザー 母という名の暗殺者』の監督は、2002年の『クジラの島の少女』で高く評価され、2017年に『ユダヤ人を救った動物園 〜アントニーナが愛した命〜』、2020年に実写映画『ムーラン』を手がけてきた、ニュージーランドの“ニキ・カーロ”。
“ジェニファー・ロペス”と共演するのは、『最後のランナー』の“ジョセフ・ファインズ”、『アーミー・オブ・ザ・デッド』の“オマリ・ハードウィック”、『ウェアウルフ・バイ・ナイト』の“ガエル・ガルシア・ベルナル”、『サウンド・オブ・メタル 〜聞こえるということ〜』の“ポール・レイシー”など。
といってもやっぱり“ジェニファー・ロペス”が全面的に目立つ作品であって、他の出演陣はやや霞がちですけど…。
とりあえずアラスカで鍛え上げられた「J. Lo」の勇ましいファイトを観たいという人であれば、気軽に眺めにいっていいのではないでしょうか。
『ザ・マザー 母という名の暗殺者』はNetflixで独占配信中です。
『ザ・マザー 母という名の暗殺者』を観る前のQ&A
A:Netflixでオリジナル映画として2023年5月12日から配信中です。
オススメ度のチェック
ひとり | :俳優好きなら |
友人 | :気軽に観れる |
恋人 | :恋愛要素ほぼ無し |
キッズ | :やや暴力描写あり |
『ザ・マザー 母という名の暗殺者』感想(ネタバレあり)
あらすじ(前半):あの子の親は私だけ
インディアナ州リントン。明るくなり始めたばかりの閑静な住宅街。普段であれば住人たちがゆっくりと起き始め、日常を開始する時間帯。しかし、とある家では明らかに非日常的なことが淡々と行われていました。
「情報提供者の聴取を再開」と記録をとりながら、FBI捜査官の男は「2人の名を」と目の前に座っているひとりのフードを被った女性に尋問します。その女性は「エクトル・アルヴァレス」「エイドリアン・ラヴェル」と写真を見ながら淡々と答えます。
「武器取引の仲介を?」「はい」「2人と恋愛関係に?」「はい」
「アルヴァレスはラヴェルにどんな武器を供給した?」と聞かれ、少し神経質な口調で女性は「ここは危険よ。私を守れない。居場所はバレている。監視されているのこちらよ」と話を遮ります。
すると急に銃声。傍にいた捜査官が撃たれ、もうひとりの捜査官も窓際に近づいた瞬間に撃たれます。敵はかなり用意周到です。女性はすぐさま家にあるものを使って手当てを開始。そして手製の爆弾で敵を待ちます。
女性は妊娠していました。入って来たのはエイドリアン。男は女性の腹を容赦なく刺したところ、爆発が起き、その襲撃者は火だるまになって消えます。
目覚めると治療室でした。ウィリアムズ特別捜査官が部屋に現れ、女性は「娘はどこ? 会いたい」とお願いします。しかし、「あなたにもう決定権はない」と言われます。エイドリアンが死んだことを確認できていないらしく、産んだ子どもは証人保護プログラムで守られ、「あなたは姿を消すしかない」とのこと。
親権放棄の書類を残して去っていくだけで、女性はベッドで現実に失望するしかありませんでした。
せめてできる限りのことをしようと、あの生き残った捜査官クルーズに「良い里親を見つけて定期的に連絡してほしい」と頼みます。
そして自分は遠く離れたアラスカの地にある、人里離れた森の中の小屋でひっそり隠れ住むことにしました。案内してくれたジョーンズにも「他人のふりをしてほしい」と切望して、孤独を噛みしめます。
12年後。すっかり狩りの生活にも適応した女性の姿。野生のオオカミに吠えられるも動じず、銃を向けますが、そのオオカミには子どもがいるのを確認してそっと立ち去ります。
ヘラジカを引きずっていると、またジョーンズが現れ、手紙を持ってきました。ワールド・エアカーゴの船積依頼書が同封されており、これはつまり外に出ろということです。
オハイオ州シンシナティ。カーゴに隠れてやってきた女性は車に乗り込みます。迎えに来たのはあの捜査官クルーズで、アルヴァレスの手下を逮捕したところ、どうやら女性の娘を見張っている証拠を掴んだようです。「名前を教えて」と言うと「ゾーイだ」と答えてくれます。
学校で遠目から見つめ、家では平穏に暮らしているようでひと安心。もう10代です。
公園で遊んでいる姿を駐車場ビルから監視していると、不審な車両を発見。すぐに狙撃ライフルで警戒。ベンチで首にタトゥーがある男が指示しており、車から男たちが降りてきます。女性は冷静に狙撃。それでも娘を拉致するつもりのようで、バンに連れ込まれてしまいます。
敵は一歩先をいっていました。そこで女性もキューバに向かいます。娘をなんとしてでも取り返すために…。
私のお母さんはこんな人です
ここから『ザ・マザー 母という名の暗殺者』のネタバレありの感想本文です。
今日は私のお母さんについての相談です。最近、私の実のお母さんはアラスカで10年以上も籠って生活していたことをついさっき知りました。なのでSNSの流行も何も知りません。
それに動物を容赦なく殺します。私が「あ、あのシカ、可愛い」って呟いている傍で、いきなりそのシカを銃殺するのです。ちょっとヤバくないですか。
怪我したオオカミも自然の摂理を理由に見捨てようとするので、私はオオカミの子どもたちの面倒を見ようと思ったのですけど、噛まれてしまいました。お母さんがそのオオカミの子を殺さなくてよかったです。
銃の腕前は相当なもので、私にも銃の使い方を率先して教えてくれます。車の運転もです。さらに爆弾の作り方まで心得ていて、普通の親であれば子どもには危ないと考えてさせてあげないようなことも平気です。なんだかズレています。
そんなお母さんですが、これでも私のお母さんに変わりはないので、これからも悩みは増えそうです。
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そんな感じのことを絶対に思われていそうな『ザ・マザー 母という名の暗殺者』の主人公。作中で名前は明らかになりませんので「マザー」とクレジットされています。
この母と物心ついてから始めて対面した娘のゾーイ。キューバで救い出してから、クルーズが死亡してしまって、強制的に2人で逃げ隠れないといけなくなって以降、母娘の交流が本格始動します。一緒に最初からアラスカで隠れ住んでいた方がよかったのでは?…と終始思ったけども…。
アラスカでの暮らしは若干のユーモアもあります。この母は模範的な親とはまた違いますからね。ツッコミ不在で娘にとんでもないことをさせたり、目の前で自分がとんでもないことをしたりするし…。
なお、アラスカでは銃所持は当然のように認められており、子どもでも16歳以上であれば普通に所持が可能で、16歳未満でも保護者の許可があれば銃所持が可能です。特定の公共施設を除いて、基本はどこでも銃を所持して持ち歩けます。だからあの母は別に子どもにそんな常軌を逸した物騒なことをさせてあげているわけではなく、一応は法律の範囲内なんですね。ゾーイがもともといたオハイオ州も銃の規制はわりと緩いほうですが…。
そうやって考えるともうアラスカに隠れるのって別に安全でも何でもないのでは?という根本的な疑問が浮かんでくるな…。
最小限の“母”の佇まい
『ザ・マザー 母という名の暗殺者』は主人公の豪快な子育てと、遠慮のないアクションを楽しむ映画です。アクション面は相変わらずこのジャンルにありがちな「潜まないといけない工作員のくせにやたらと街中で目立つことしますよね!?」という立ち回り。
キューバではお構いなしに全力疾走してバイク盗んで車両ダイレクトアタックも決めるし、アラスカではトラップ爆弾ですよ。あの…アラスカは銃所持は確かに自由だけど、爆弾はどうだろうか…。そもそもあんなに無造作に自然の中に爆弾を設置していたら、野生動物たちが引っかかりまくるよ…。オオカミもシカも迷惑千万だろうな…。
“ジェニファー・ロペス”はどれくらい自分でアクションをしたのかはわかりませんが、メイキングを見ると自分で体力トレーニングしている姿が観察できますし、気合入ってます。撮影はちゃんと雪深い野外で撮っているのがわかりますし(バンクーバーでの撮影だそうです)、あのオオカミもCGではなくて本物です。可愛かったですね。
それはさておき『ザ・マザー 母という名の暗殺者』が今の“ジェニファー・ロペス”らしい映画だなと思うのは、恋愛や性的な描写の大幅なカットです。
主人公は工作員で、元SAS海兵隊員エイドリアン・ラヴェルと武器商人エクトル・アルヴァレスと付き合いがあり、父親が誰なのか明らかにされません。ひと昔前の映画であれば、こうした男性たちと主人公女性の甘いセクシーな恋愛模様が描写されていてもおかしくないはずです。演じるのが“ジェニファー・ロペス”のようなアイコンになる女性なら、なおさらそういう型に当てはめようとする力も働くでしょう。
しかし、今作はそういうことは一切なく、主人公はゾーイからクルーズとの関係を聞かれて、極めて大人な返事で曖昧にぼかす程度で、サバサバしています。
“ジェニファー・ロペス”は最近の出演映画でもコテコテのラブコメとかをする一方で、別のフィルモグラフィーでは恋愛圧力をバサっと跳ね除ける役でも見事に機能していて、この両刀での仕事っぷりが持ち味になっているのかなと思います。
最終的に主人公がゾーイとの生活を再開するわけでもないというのも印象的なエンディングであり、育ての母へのリスペクトを残したまま、主人公は“見守り”という後方のポジションで落ち着く。こういう着地にしているからか、本作は「The Mother」という、パっとタイトルを見ただけでは母親像を色濃くさせているだけな作品ですが、肝心の中身はそんなに“母親らしさ”の既存観念に凝り固まることもない、サラっとした後味でした。
「母は強し」みたいな美化がありがちな世の中で、最小限の“母”の佇まいを体現する“ジェニファー・ロペス”…この余裕に惚れ惚れする…。
結論、“ジェニファー・ロペス”はみんなの母であり、遠くで見守ってくれているのです。そういうことにしておこう。
最後に、次の“ジェニファー・ロペス”の新作映画の話。今度は『Atlas』という映画で、近未来SFで、“ジェニファー・ロペス”はまたも戦士の役回りらしいです。勇ましい“ジェニファー・ロペス”のアクションはなおも継続して私たちを楽しませてくれるようで何よりです。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 45% Audience 78%
IMDb
5.4 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
関連作品紹介
ジェニファー・ロペス出演の映画の感想記事です。
・『マリー・ミー』
・『ハスラーズ』
作品ポスター・画像 (C)Netflix
以上、『ザ・マザー 母という名の暗殺者』の感想でした。
The Mother (2023) [Japanese Review] 『ザ・マザー 母という名の暗殺者』考察・評価レビュー