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ドラマ『アンブレラ・アカデミー』感想(ネタバレ)…幼稚だけど団結できれば世界は救える

アンブレラ・アカデミー

幼稚だけど団結できれば世界は救える…ドラマシリーズ『アンブレラ・アカデミー』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:The Umbrella Academy
製作国:イギリス(2019年)
シーズン1:2019年にNetflixで配信
シーズン2:2020年にNetflixで配信
製作総指揮:ジェラルド・ウェイ、ガブリエル・バー ほか

アンブレラ・アカデミー

あんぶれらあかでみー
アンブレラ・アカデミー

『アンブレラ・アカデミー』あらすじ

奇抜な大富豪のもとで育てられた7人の少年少女。それぞれに特殊な能力があった子どもたちはいつしか「アンブレラ・アカデミー」と呼ばれ、世界に知れ渡っていく。それから年月が経過し、各々の人生を歩み、育ての親から多くが離れていったが、衝撃的な事件が起こったことで事態は一変する。一体、何が起こっているのか。世界を救うべく、時空を超えた団結が試される。

『アンブレラ・アカデミー』感想(ネタバレなし)

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幼稚に見えるけど楽しい奴らです

「傘」というものは基本的にはひとりで使うものですが、その気になれば2人でも3人でも、入れるかぎり同時に共用することができます。その傘がカバーする範囲の中で、一種の共有空間ができあがるわけです。

そのためか英語で傘を意味する「umbrella」という単語には、「包括的」という意味合いもあり、組織や団体に対して使うことができます。「核の傘」みたいな言い回しもありますし…。また、細分化できすぎてあまりにも多様なセクシュアリティを一定の範囲でまとめて呼称する場合も、「umbrella」という単語を付随して使用することがあります。

言語としてはラテン語でという意味の「umbra」に由来しているようですね。

とにかく同じ傘に入っている以上は一心同体。傘から出れば身を守れないし、隣り合う相手をどう思っていても傘に入るしかない。それはもしかしたら家族や恋人よりも強制力のある深い関係になってしまうのかもしれません

そんなことを考えながら今回の紹介するドラマシリーズを鑑賞するのもよいのではないでしょうか。それが本作『アンブレラ・アカデミー』です。

本作は原作はアメコミです。マーベル・DCに次ぐ第3のアメコミ会社にして、最近も『ヘルボーイ』など映像作品を世に送り出している「ダークホースコミックス」のお仲間。原作は最初は2007年に刊行されました。もしかしたらこの『アンブレラ・アカデミー』は「ダークホースコミックス」映像作品群の中では今、一番絶好調と言えるかも。

ドラマシリーズとしてシーズン1が2019年にNetflixで配信されて以降、新規ファンを獲得。2020年に配信されたシーズン2でますます人気がアップしている感じです。

『アンブレラ・アカデミー』はいわゆるスーパーヒーローもので、特殊能力を持った子どもたちがひとつの施設で共同体で暮らすという、明らかにマーベルの『X-MEN』そっくりな世界観&ストーリーになっています。原作者の“ジェラルド・ウェイ”はDCの「Doom Patrol」に影響を受けたと言っているようですが…。じゃあ、それらのパクリなのかと言えば、そうではなく…。『アンブレラ・アカデミー』は明確な個性がハッキリ光る作品です。

その作品の個性というのは、私なりの言葉で表現すると「幼稚」。別にバカにしているつもりはないのですけど、本作は全体的に良い意味で子どもっぽく軽いんです。キッズ向けというよりは、大人ぶっている子ども感といいますか。

例えば、本作はなんだったら世界の終わりレベルの深刻な事態も起きますし、背景には重たい社会問題も横たわっているのですが、それにクソ真面目に向き合う…というほどでもなく、妙に飄々と乗りこなすだけなんですね。

演出も軽妙で、各シーズンで主人公組が音楽に合わせてダンスをするというシーンが恒例みたいになっているのですが、選曲センスといい、かなりミーハーなベタさもありつつ、そこをあえて清々しくやってしまうのも『アンブレラ・アカデミー』らしさ。

キャラクターも大人のはずなのに中身が子どもかよ!と思えるくらいの存在感(そこにひとり見た目は子どもで中身が大人の奴が混ざるチグハグ感もあって面白い)。

言ってしまえばヤングアダルト小説っぽいです。なのでちょっと幼稚すぎると難色を示す人もいるかもですが、そこはこれが作風なので合う合わないの問題ですかね。逆に「このお気楽さがちょうどいい!」となればもうドハマりですよ。サクサク見られます。

ドラマ『ザ・ボーイズ』『ウォッチメン』のようにヒーローとは何かを露悪的にもしくは深淵に問う作品も良いけれど、時には軽いスナックで咀嚼したいときもある。そんな気分にぴったり。

俳優陣は、主役のひとりに『JUNO ジュノ』『ハンズ・オブ・ラヴ 手のひらの勇気』『CURED キュアード』でおなじみの“エリオット・ペイジ”。彼女は『X-MEN』シリーズにも出ていたので、また能力者モノにカムバックしてきましたね。新たな代表作としてキャリアに刻まれることになりました。

“エリオット・ペイジ”は2020年12月1日にトランスジェンダーであると公表しました。この感想記事の内容はそれ以前に書かれたものです。

他には、『ターミネーター ニュー・フェイト』にちょこっとだけ出ていた“トム・ホッパー”、『ボーダーライン ソルジャーズ・デイ』にこれまたちょこっとだけ出ていたメキシコ系アメリカ人の“デイビッド・カスタニェーダ”、ブロードウェイ「ハミルトン」にも出演した“エミー・レイヴァー・ランプマン”、『移動都市 モータル・エンジン』の“ロバート・シーハン”、Nickelodeonのコメディドラマ『Nicky, Ricky, Dicky & Dawn』で注目を集めた子役の“エイダン・ギャラガー”、本作で大作主演を果たした韓国系アメリカ人の“ジャスティン・H・ミン”などなど。

賑やかで騒々しくせわしない作品ですが、どうか一緒に傘に入ってください。

オススメ度のチェック

ひとり ◯(アメコミファンも楽しい)
友人 ◯(気軽にエンタメを)
恋人 ◯(気軽にエンタメを)
キッズ ◯(子どもでも観られる)
↓ここからネタバレが含まれます↓

『アンブレラ・アカデミー』感想(ネタバレあり)

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世界の終わりまで、あと…

1989年10月1日。全ての物語はここから産声をあげました。

ロシアにある普通のプール。プールに飛び込んだ黄色い水着の女性が突然苦しみだし、その場で出産することになりました。

この日の午後12時、世界中で43人の女性が出産しました。これだけなら普通に思えます。常に誰かが生まれているのは当然です。しかし、この43人の女性は誰一人妊娠していませんでした。いきなり子どもを産んだのです。

奇傑な資産家のレジナルド・ハーグリーブス卿はこの不思議な現象に誰よりも興味を示しました。そして、この特異な境遇の子どもたちをできるだけ多く養子にしようと決心しました。そのかいあって、彼は7人の子どもを自分の屋敷に迎え入れることができました。

その7人の子はすくすくと成長し、それぞれに1号から7号までナンバーが割り振られます。さらに固有の能力を発揮するようになりました。ナンバー1「ルーサー」は怪力を、ナンバー2「ディエゴ」はナイフなどを操作でき、ナンバー3「アリソン」は声で相手を意のままに操れ、ナンバー4「クラウス」は死者と交信ができ、ナンバー5「ファイブ」は空間を瞬間移動でき、ナンバー6「ベン」は触手を表出させて攻撃できます。ただひとりナンバー7「ヴァーニャ」だけは何も能力がなく…。

ヴァーニャを除いた6人はレジナルド・ハーグリーブス卿を父として、その指示に従い、銀行強盗などの現場に派遣され、事件を解決していきます。やがてこの少年少女は「アンブレラ・アカデミー」と呼ばれるようになり、マスコミの注目を集め、ファンもでき、コミックにもなりました。

そして現在。大人になったあの7人は同じ屋根の下での共同生活を過ぎ去り、それぞれが別の人生を送っていました。

ルーサーは唯一父の指示にまだ従い、今は月面基地でデータをとる日々。ディエゴは警察と協力し、独自の自警団のように悪人を倒しています。アリソンはスターとなってレッドカーペットの上でフラッシュを浴びている真っ最中。対するクラウスはドラッグ依存のリハビリ施設を出たばかり。

一方、ファイブは子どもの頃に父に反抗して能力を使い、そのまま行方不明になっていました。さらにベンは任務中に帰らぬ人になってしまい、その霊体は今はクラウスと一緒におり、彼だけに見えています。

そんな中、ヴァーニャはバイオリンを弾いており、演奏者として名を挙げるべく努力していました。彼女はただひとりの能力ゼロの人間として孤立を感じ、アンブレラ・アカデミーの自叙伝を書いて家族の秘密をネタにしてしまったことで距離ができてしまっていました。

ある日、このアンブレラ・アカデミーの5人(+霊体1人)に衝撃のニュースが飛び込んできます。なんとあの父・レジナルド・ハーグリーブス卿が死亡したというのです。

久々に育った屋敷に集まった5人(+霊体1人)。今、屋敷にいるのはポゴという人の言葉を話せるチンパンジーと、グレースという機械仕掛けの母親だけ。懐かしさと同時に、なぜ父が死んだのか、その謎が疑心暗鬼を生じさせます。

すると突然、屋敷の外で異変が発生。謎空間が出現し、誰か落ちてきます。それはひとりの少年。その姿は紛れもなく行方不明になっていたファイブです。

一同が混乱する中、ファイブはこう答えます。45年間ほど未来に行っていた、と。

そして、ファイブは「信じられるのはお前だけだと思ったんだ」とヴァーニャにだけある事実を告げます。未来は何もない世界で人類は滅亡していたという衝撃の結末を。その破滅の日、それが起こった日付はわかると言い、こう宣告します。

「8日後、世界は終わる。でも止める方法がわからない」

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シーズン1:早く団結してよ!

『アンブレラ・アカデミー』のシーズン1、もともと情報量が過多な世界観でしたが、それが1話だけで怒涛のように流れ込み、世界の終わりのタイムリミットという衝撃的な展開を告げるクリフハンガー。そしてアンブレラ・アカデミーのメンバーはその終末で全滅している。この1話~2話の掴みは抜群すぎて、「お、これは何だか面白そう!」と無性に引き込まれます。どのドラマシリーズもこれくらいの瞬発的な誘引パワーを見せてくれると最高ですよね。

ただ、『アンブレラ・アカデミー』のシーズン1は正直、私は中盤はダレてくるなと内心では思ってもいました。

確かに壮大な世界観を持つ大作ドラマシリーズのシーズン1は往々にしてプロローグ的になるので、やや冗長で物足りない感じになるものです。キャラクター説明からしないといけませんから。

しかし、この『アンブレラ・アカデミー』に関しては結構寄り道が多いですよね。基本的に「これをしたらいいのでは?」「無駄だった!」の繰り返しなんです。

そして観客にはオチがすでに中盤あたりで見えているわけです。どう考えてもヴァーニャが能力を示し始めた段階で「あ、彼女の力が暴走してあんな結末になるんだな…」とわかりきってしまうので、こっちとしては早くそこに気づいてよとイライラしないこともなくはない。

だいたいあのメンバーが一致団結すれば済む話なのですが、それができない。そここそこの作品の根幹でもあるのですが。つまり、運命に導かれた集団は血の繋がりがなかろうと「家族」になってしまえば抜け出せない。呪いみたいなもの。これは「団結できるのか?」ゲームなんですね。

なので中盤でグダグダと団結できずにいる姿が描かれるのも必要なのはわかるのですが…。けれどもキャラクターの死(ディエゴの愛する人だったパッチ刑事とか、ポゴとか)を描くならもう少し観客が感情移入できるくらいに描写してくれないと、なんか悲しいシーンなのに置いてけぼりをくらった気分ですよね。

それでもこの作品を嫌いになれないのはキャラクターの愛着だと思います。基本的にダメダメなのに妙に捨て置けない魅力がありますよね。ルーサーなんていうのは典型的な80年代マッチョ映画の系譜を感じる巨漢なのにどうも精神力が弱すぎるし、ディエゴもカッコつけているけどダサいし、クラウスにいたっては依存症をこじらせているので人格が崩壊しかけているし…。ファイブだけが中身は人生経験最長の大人ということで、含蓄のある言葉でリーダーぶろうとすけど、ドローレス(マネキン)を肌身離さず持ち歩き、どこか変な奴だし…。

こいつらの七転八倒のアホ騒ぎをずっと見ていたい!…そう思わせられたらもうアンブレラ・アカデミーの魔力にハマってしまっているのでしょう。

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シーズン2:もう団結とかいいや!

ところが『アンブレラ・アカデミー』、シーズン2になるとなんだか面白さがアップした…ような気がしてくる。これは考えたのですけど、おそらく作り手も観客もこの作品のお約束を熟知するようになり、定番ネタに安心感を抱き始めるようになっているからだと思うのです。

ほとんどやっていることはシーズン1のアレンジ版なんですよね。もはや天丼ギャグです。繰り返せば繰り返すほど面白さとして確立する。これはもう無敵の勝ちコースに突入しましたよ。

シーズン2は舞台は1960年代のダラス。シーズン1の最終話でヴァーニャの月破壊事件で世界の壊滅から逃れるために一同をファイブが時間移動させましたが、結果、みんな少しズレた時期に個別に移動してしまいました。

クラウス(&ベン)は1960年に到着し、なぜかカルト宗教の教祖になってしまい、耐えきれなくなり逃げてきます。アリソンは1961年に到着し、そこでレイモンドと結婚し、公民権運動に身を投じています。ルーサーは1962年に到着し、クラブで働く傍ら、ギャンブル格闘技戦に出場しています。ディエゴは1963年9月1日に到着し、変な奴として精神病棟に入れられてライラと仲良くなりました。ヴァーニャは1963年10月12日に到着し、記憶を失っているところをカールシシーという夫妻(ハーランという息子がいる)に身を寄せてもらえ、家族ぐるみで親しくなります。

そして最後にやってくたファイブは1963年11月25日、そこは戦闘状態で、ソ連がアメリカを攻撃中。そこでなぜかアンブレラ・アカデミーのメンバーがソ連兵と激戦しており、核兵器が降って周囲は滅亡。またこのエンドかよ!というツッコミ待ち(なぜソ連軍進行中に核攻撃をするんだとか本当にツッコミどころは多いのだけど)。

そんなこんなでまたファイブを中心に団結し直す作業が開始。でも、各メンバーのアホさもパワーアップしているせいか、今回はさらに大苦戦。男たちは前シーズン以上にバカだし、女性陣さえもアホになっている気さえする。ヴァーニャは前作はただただワンパターンなキャラだったので、今回のシーズン2のような愛嬌がホッコリしますよね。でもやっぱりヴァーニャかよ!というオチになるのですが…。

また、シーズン2は1960年代が舞台なので黒人差別同性愛差別が活写されて、社会問題への言及も増しています。ただ、それに何か建設的な問いかけができるかと言えばそうではなく(どうせまた別の時代に移動しますからね)、あくまでこの差別が醜悪な時代を体験させる映像&物語を提供しているだけにとどまっている。このへんも良い意味で軽いです。ケネディ大統領の暗殺を防ぐのもすでにネタ化していますからね(もうただの歴史上の昔の話になったんだなぁ)。

だいたいこれだけポンポンとタイムスリップしていたらタイムパラドックスだらけだろうに、あのコミッションも何をしているのか。そう言えばあの金魚頭、個人的には好きなキャラです、ええ。

ということでシーズン2でも団結できたのかあやふやな感じではありますが、またも展開は繰り返されることに。次こそは…今度こそは団結達成できるのか。二度あることは三度ある。荒天のアンブレラ・アカデミーに平穏はありません。

『アンブレラ・アカデミー』
ROTTEN TOMATOES
S1: Tomatometer 75% Audience 85%
S2: Tomatometer 90% Audience 89%
IMDb
8.0 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 6/10 ★★★★★★

作品ポスター・画像 (C)Dark Horse Entertainment, Netflix アンブレラアカデミー

以上、『アンブレラ・アカデミー』の感想でした。

The Umbrella Academy (2019) [Japanese Review] 『アンブレラ・アカデミー』考察・評価レビュー