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ドラマ『ザ・ボーイズ The Boys』感想(ネタバレ)…腐りきったヒーロー世界に絶望する

ザ・ボーイズ

腐りきったヒーロー世界に絶望する…ドラマシリーズ『ザ・ボーイズ』の感想&考察です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:The Boys
製作国:アメリカ(2019年)
シーズン1:2019年にAmazonで配信
シーズン2:2020年にAmazonで配信
シーズン3:2022年にAmazonで配信
製作総指揮:セス・ローゲン、エヴァン・ゴールドバーグ、ダン・トラクテンバーグ ほか
性暴力描写 自死・自傷描写 人種差別描写 ゴア描写 性描写 恋愛描写

ザ・ボーイズ

ざぼーいず
ザ・ボーイズ

『ザ・ボーイズ』あらすじ

超人的な能力を持ったヒーローたちが当たり前に活動している世界。このヒーローたちを一挙にまとめてマネジメントすることで一大企業に成長したヴォート社は、多角的なビジネス戦略のもと、各ヒーローを駆使して、大衆に希望を届けている。しかし、そんなヒーローを信じる世界には裏の顔があった。その闇を知ってしまったごく普通の青年に一体何ができるのか。

『ザ・ボーイズ』感想(ネタバレなし)

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ヒーロー嫌いな人のための作品

先日、映画史に残る記録達成が報告されました。これまで全世界の映画興行収入ランキングで1位の座に君臨していたのは『アバター』(2009年)であり、ずっとその王座を奪うものは現れなかったのですが、ついに『アベンジャーズ エンドゲーム』がそのトップに輝きました。27億9000万ドル(約3000億円)を超える興収だそうで、この快挙には感慨深いものがあります。

というのも、マーベルを始めとするアメコミ作品はひと昔前はとにかくマニアだけの趣味であり、一般受けなんて全然考えられない世界の隅っこにいたからです。それが少しずつ人気作を積み重ね、ついにこれほどの存在感を獲得するに至るとは。すでにアメコミなくして映画業界は成り立たないレベル。莫大な資金や労働力が動いており、その影響力は絶大です。イチ映画ファンとしては、とにかく「おめでとう、そしてありがとう」と祝杯と感謝をあげたいところ。

でも、そんなアメコミ・フィーバーを苦々しく思っている人もいるでしょう。正直、今のアメコミのムーブメントに全然乗れない…。キャラクターも子どもっぽいコスチュームで馬鹿々々しい…。作品テーマが綺麗事ばかりで気にくわない…。結局は大企業がお金を儲けているだけだし…。

そんな冷淡な目線で見ている人、もしくはヒーロー嫌悪をこじらせている人にこそ、この作品をオススメしたいです。きっとあなたの「ヒーロー」に対する不満がどす黒くダイレクトに映像化されているはず。

その作品が『ザ・ボーイズ』というドラマシリーズです。

詳細はとにかく見てくれ!としか言えないのですが、この作品はどんな内容なのかと言うと、ヒーロー的な特殊能力を持った人間が少数ながら実在する現代社会を舞台にした物語です。ここで普通だったら、別の超人的な能力で悪さをする敵を倒すのかな?と思うのですが、『ザ・ボーイズ』はそうなりません。

この『ザ・ボーイズ』のヒーローたちはひとつの巨大企業に所属しており、そこで犯罪事件や事故の解決に派遣されることもあれば、映画出演や歌手活動、はたまたモデルやテーマパーク、政治的なロビー活動まで、あらゆる事業に駆り出される、言ってしまえば“映画スター”みたいなポジションにいるのです。そして、この大企業はヒーロー・ビジネスによって巨万の富と権力を得ている…、あれ?どこかでこんな会社を見たような気が…という現実社会とシンクロしまくりの世界観。登場するヒーローたちも、某あのキャラこのキャラを連想させるものばかりです。

しかも、この大企業&ヒーローたちはどうやら善行だけをしているわけではなく、そこには表沙汰にできないような、汚れた裏側もあって…。そんな感じで、いわゆるヒーロー版ディストピアが描かれていきます。その描き方が非常に露悪的で、ヒーローに夢見ている子どもが見たら、絶望して生気を失うくらい。ちなみに「R18+」のレーティングなので、残酷&性的描写の連続です。このあたりからも本作のディストピア感をお察しください。

そんな腐ったヒーロー業界に噛みつこうと過激な行動に出る、「ザ・ボーイズ」という普通の人間たちが中心になって物語が進みます。つまり「ヒーロー嫌いのアンチ」が主人公なんですね。

本作自体がコミック原作であり、ここまで現在のヒーロー文化を強烈に皮肉った作品を作れてしまうのも、アメリカという国の創作のスゴイところですよ。

『ザ・ボーイズ』の企画に名を連ねるのは“エリック・クリプキ”という、『スーパーナチュラル』や『レボリューション』を手がけた人物で、他に忖度しないコメディでおなじみの“セス・ローゲン”も参加しています。また、エグゼクティブプロデューサーには『10クローバーフィールド・レーン』を監督した“ダン・トラクテンバーグ”も関わっており、本作の第1話の監督もしています。

本作は以下のとおり、全8話で各1時間程度の長さ。ドラマシリーズの中では見やすいボリュームだと思います。

シーズン1の各エピソードタイトル(邦題)

  • The Name of the Game(発端)
  • Cherry(始動)
  • Get Some(収穫)
  • The Female of the Species(彼女)
  • Good for the Soul(信念)
  • The Innocents(無垢)
  • The Self-Preservation Society(防衛)
  • You Found Me(発覚)

キャスト陣は、『スター・トレック』シリーズでおなじみの“カール・アーバン”が強面な主役で登場するほか、“ジャック・クエイド”、“エリザベス・シュー”、“エリン・モリアーティ”、“サイモン・ペグ”、意外なところだと“福原かれん”も思わぬ役どころで出演しています。

ヒーロー大好きな人も、大嫌いな人も、この過激な話題作を見逃すのはもったいないです。繰り返しますが「R18+」なので子どもは見れません。MCUでも見てましょう。

『ザ・ボーイズ』は「Amazonプライムビデオ」でシーズン1~シーズン3が配信中です。

オススメ度のチェック

ひとり 5.0:好きな人はドハマりする
友人 5.0:過激なネタで盛り上がる
恋人 4.0:好き好みは別れやすいけど
キッズ 1.0:MCUを観ましょう
↓ここからネタバレが含まれます↓

『ザ・ボーイズ』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(序盤):闇が深すぎるヒーロー業界

さっそくシーズン1の1話目から衝撃&衝撃のヘビーパンチのコンボをキメられる『ザ・ボーイズ』。

ごく普通の平凡な青年ヒューイ・キャンベルは、各地で活躍するヒーローたち…とくにヴォート社の「セブン」というトップクラスのヒーローチームの大ファンで、グッズもたくさん持っています。そんな彼が何気なく恋人のロビンと歩道で談笑し、将来のことを楽しく語っていると…。

血しぶきと何かの欠片が目の前で散乱。そして自分の正面にいて向かい合っていたはずのロビンの姿はそこになく、手には彼女のもげた腕の一部だけが握られていて…。

突然すぎて全く状況がつかめないヒューイ。実はたまたまそこを何かの理由で急いで通りかかった「Aトレイン」という高速移動ができるヒーローが、ロビンの体に衝突し、一瞬にしてロビンは無残にも四散したのでした。

その後、定型的なお悔やみをTVの報道陣の前で述べるAトレインと、賠償で示談にしようとする弁護士を、ヒューイは見つめながら、自分ではどうすることもできない怒りだけを心を貯め込むしかなく…。

一方、アイオワ州の田舎では、ヒーローを夢見て育ったアニー・ジャニュアリーという若い女性がその夢への切符を手にしていました。「スターライト」という名でセブンに新規加入することになったアニーは、支えてくれた母と喜びを分かち合い、心を弾ませながら、ヴォート社のオフィスビルへ。

セブンのメンバーである「ディープ」という男に施設を案内されるアニーは、ディープに憧れていたと熱を持って語ります。すると、何を思ったのかディープは何食わぬ顔で自分の下半身を見せ、「ちょっとくわえてくれよ」と一言。突然の目の前の行為に言葉を失うアニーでしたが、「俺に逆らうとクビになるぞ」「ほんの少し我慢すれば夢が叶うぞ」と言われ、逆らうこともできず…。

世界が熱狂しているヒーローの世界の裏の顔を知ってしまい、絶望する二人の若い男女。しかし、これはほんの序の口にすぎないのでした。

ヒューイはその後、「ブッチャー」といういかにも怪しい男と知り合い、ヴォート社の悪行を暴く手伝いをさせられます。その過程で「トランスルーセント」という透明になれる不死身の皮膚を持つセブンの一員であるヒーローに目を付けられ、職場の家電ストアで襲われます。しかし、偶然的にトランスルーセントを捕らえることに成功したヒューイとブッチャーは、対処に困り、フレンチという男のもとへ。そこでトランスルーセントから、Aトレインは「ポップクロウ」というガールフレンドのところへよく行くことを聞きだし、あのロビンの死の日もそこへ行っていたことが判明。憎しみにかられるも暴力で手を汚すことだけはしまいと自分を抑えていましたが、ついにヒューイはトランスルーセントのケツに入った爆弾のスイッチを押してしまい、今度は逆に自分が相手を四散させる側に。

対するアニーは、全て会社の決めたとおりにしか行動できない現実に直面し、レイプされそうになった女性を夜中に偶然助け出しても、会社に怒られる現状に不満MAX。ついに自分の性被害を告発し、会社に反旗を翻すようになっていきます。

そしてたまたま出会ったヒューイとアニーは互いの心に抱えたものを知らないまま親密になり…。ブッチャーと、セブンのリーダーであるヒーロー「ホームランダー」との確執が明らかになり…。

やがて絶対に知ってはいけない秘密…ヒーロー誕生にも関わる「コンパウンドV」という物質と、赤ん坊との関係を知ることになり…。

このヒーロー業界はどこまで闇が深いのか…。

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アメリカを体現するヴォート社

普段、実際にアメコミ映画を観て「アッセンブル!」とかお気楽にワイワイやっている、言い換えるとヒーロー業界の掌の上で言いように酔いしれている私たちにしてみれば、『ザ・ボーイズ』を見ていると、言葉にできない気まずさを抱かざるを得ないです。

こういうヒーローが権力に掌握されて汚れ仕事もしているという描写は、『キャプテン・アメリカ ザ・ファースト・アベンジャー』でも描かれていましたが、一番連想するのは2009年に映画にもなった『ウォッチメン』ですね。あれはあらゆる歴史の裏に国家にコントロールされたヒーローの暗躍があって…という内容で、一種のヒーロー風刺であり、幻想破壊でもありました。

『ザ・ボーイズ』はその完全な現代版。今まさに起こっている時事的な社会問題がそのままヒーロービジネスとしてクロスオーバーしています。

スーパーヒーロービジネスを成功させ、タレント事務所化している「ヴォート社」はまさにその極み。アベンジャーズ・タワーみたいなオフィスビルを構えるこの大企業は、所属ヒーローが200名以上もおり、それぞれでマーケティング部署がPR戦略を立案。商品とのタイアップだけでなく、自治体との独占契約を結ばせたり、さらには個々のヒーローの支持率を気にしながら、白人保守層を中心に宣伝していこうと練ったり、もう完全にこれはアメリカの選挙システムそのままです。自分たちに有利になるように法案を通そうとしたりと、ちょっとした政治団体ですね。

この商業と政治の関わり方といい、ものすごくアメリカっぽさを体現しているし、経営トップにいる「マデリン・スティルウェル」という女性は、それこそヒラリー・クリントンのような支配者層にいる“やりて”としての存在感です。しかも、さらに生命倫理に反するコンパウンドVの実態は、ある種の危険な起業家思想さえも暗示させる、実に多層的な風刺だと思います。

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ダメだ、このヒーローたち…

そしてそのヴォート社の肝入りのヒーローであるメンバーたちもこれまた強烈な奴らばかり。アイコンとして極端に抽象化されがちなヒーローを、くるっと裏返しにして、本当にあられもない生の姿を見せてきます。

まず、セブンの中心的存在「ホームランダー」。スーパーマンとキャプテン・アメリカを合体させたようなビジュアルを持つ彼ですが、見た目だけでなく、思想面でも最初はそんな風に見えます。セブン会議の場で「違法にアップロードされた私の映画がある」とか、自己利益の心配ばかりする仲間のヒーローの前で、誰を助けるかが重要だと、正義を説くホームランダー。

しかし、その実態は最悪の中の最悪。それがハッキリ示される第1話のラストの衝撃。ヴォート社の方針に反発するボルチモア市長が子どもと乗る飛行機を容赦なく“目ビーム”で撃墜。自分のためならどんな命も奪う、どう考えても悪役です。これならバットマンも容赦なく怒れるだろうに…。

さらに話数が進むにつれ、ヴォート社のマデリンの意向にすら反発して独断行動をとるようになるホームランダー。あのビリーブ・エキスポでのキリスト教サポーターへの演説は、彼の容姿と相まって、非常にドナルド・トランプ的な雰囲気に重なります。彼は既存権力を踏み台にして、独自の支配基盤を確立しようとする。これを見ると、”あ、トランプ支持者にとってトランプ大統領はまさにヒーローなんだな”ということがよくわかりますね。

続いて「ディープ」。彼は水中を得意とし、魚など海洋生物と会話できる、完全に『アクアマン』です。序盤からいきなりのクソ野郎っぷりを見せてくるわけですが、単なる悪役で終わらないのが面白いです。実はセブンの中では全然居場所がなく、自分のやっている活動にもやりがいを見いだせていないことが判明してきます。それこそ海洋生物保護が本当はしたく、熱意のままにイルカやロブスターを助けようとするも裏目に出続ける。友達も海洋生物しかいない。ホームランダーからは「シャチとでもヤりにいけよ」と言われる始末。確かに実際にこんなヒーローがいたら、現実(陸上)では疎外感しか感じないですよね。性犯罪加害者だった彼が、終盤には無自覚な女性に鰓に指を突っ込まれる不快なプレイをさせられるというくだりは、ヒーロー的なマイノリティゆえの性犯罪の立場逆転を見せる、なんともトリッキーな見せ方でした。

もうひとり大きな主要人物として描かれる「Aトレイン」。彼はヒーローの能力を強化できるコンパウンドVの使用がやめられない、いわば薬物依存症患者的な描かれ方をされています。それはもちろんアフリカ系アメリカ人の社会問題としてのドラッグであり、高速移動という観点においてはスポーツマンとしてのドラッグでもあります。結局、Aトレインはドラッグに溺れて、命を危うくするという自滅をたどるのも、ヒーローの思わぬ弱点を見せる、シニカルな結末でした。

また、主要ではないにせよセブンのヒーローとして「トランスルーセント」と「ブラックノワール」という二人がいました。トランスルーセントはいつもはどんな活動をしているのか謎ですが、透明になれるということで、作中ではトイレを覗く趣味があり、もはやただの変態(透明になる以上、裸になるので余計に変態性が増す)。ブラックノワールにいたっては、強そうでしたけど、ピアノができたり、茶道ができたり、なんかも多趣味すぎて、意味不明。なんだったんだろう…。

一方、女性である「クイーン・メイヴ」。セブンの男性陣はみんな自己顕示欲に憑りつかれている奴らだらけなのですが、女性陣はその逆で表面的なキャンペーンガールのように使われているだけで、彼女たち自身にどんな能力があるのかもイマイチわからないほど。この扱いも非常に現代における男尊女卑の社会で生きる女性そのものです。クイーン・メイブは能力を発揮できずに消費されるやさぐれた『ワンダーウーマン』みたいなものですね。

そんなセブンに加わった若き女性の「スターライト」ことアニー。思い描いていた世界とは異なるヒーロー業界に嫌気がさしながら、“フェミニストというイメージで”なんて作られた自分像をばらまかれつつ、最後は委縮せずに声をあげる道を選ぶ。男をぶっ倒すだけでない、彼女なりのヒーロー精神の芽生えが全エピソードを通して描かれていたと思います。「スター誕生」ならぬ「ヒーロー誕生」です。

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アンチはただの陰湿なダークヒーロー

対するヒーロー業界に刃を向ける「ザ・ボーイズ」の面々。彼らを真の正義として描くほど単純なことをしていないのも本作の良さ。

ヒーロー・アンチズムをこじらせにこじらせてしまった「ブッチャー」という存在がまさにその体現者。“俺に仇なす権力者は許せない”と自己中心的な個人正義を振りかざし、ある種のダークヒーロー的な行為に突き進む彼もまた、結局は憎んでいるホームランダーと大して変わらないという本質の問題。単に権力のお墨付きを得ているか、得ていないかの違いです。

そんな中で、本作もまた、やっぱり「ヒーローとは何か」という根幹を問うことになります。

世界にいるヒーローはコンパウンドVを赤ん坊の頃から注入された人工の存在だと判明し、「生まれながらのヒーローはいない」という事実が判明する終盤。でも本当にヒーローは“特殊能力”で決まるのか、と。
作中で描かれる、ヒューイとアニー、フレンチとキミコの関係性は、異なる者同士でも融和できるという“希望”であり、そこに唯一のヒーローの本質が見えるかもしれません。

しかし、そうは問屋が卸さない本作。最後の最後に融和と言っていいのかわからない、とんでもない衝撃の産物を見せつけることで、新たな波乱を残します。融和を単純に融和として喜んでいいのか、それともこれは既存の価値観の崩壊を意味するパンドラの箱なのか。

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シーズン2:男たちはよりキモく! そしてザ・ガールズ?

※シーズン2に関する以下の感想は2020年10月に追記されたものです。

シーズン1が口コミで話題沸騰となり、絶好調でシーズン2を迎えた『ザ・ボーイズ』。シーズン2もファンの期待に満面の笑みで対応し、露悪性が数倍をパワーアップさせてきました。製作陣はコンパウンドVでハイになっているのかな?

スーパーテロリスト(またの名はスーパーヴィラン)が暗躍する中、やはり物語の主軸にいるのはこの人、ホームランダーでしょう。シーズン2では各所で「キモイ、キモイ」とキャーキャー言われていたとおり、第1話から最終話となる第8話まで全部にキモさがギッチリ詰まっていました。なんかもうどれだけキモくなれるか勝負している感じですよね。シーズン1の頃は恐怖の象徴の面もあったのに、完全にシーズン2はキモイだけのネタキャラと化してきている…。

ホームランダーは愛国主義を通り越して究極の自己愛主義(ナルシスト)を発症しており、誰よりも愛されたいという欲求に飢えています。男らしさを拗らせた極みです。みんなになんて愛されなくていい…でもやっぱり愛されたい!っていう、面倒くさいよ…。

そんなホームランダーを手玉にとる存在としてストームフロントという女性ヒーローが新参。彼女との化学反応でホームランダーのキモダメさがより露骨になっちゃってもう酷い酷い。

シーズン2ではホームランダーを始め、ディープもAトレインもブラック・ノワールでさえも男性陣ヒーローはみなダメさが際立っているのですが、対する女性陣ヒーローは「ヒーロー」としてのパプリックイメージと自分らしさとのズレに苦しむことに。

その際たるシーンは映画撮影場面ですね。ヴォート社は強い女性像を売り込もうと商魂全開です。付き合わされるスターライトやメイヴの虚しさといったら…。しかし今回はメイヴが明確に反撃を見せます。メイヴはバイセクシュアルなのですが(でも映画ではレズビアンとして売り込むことに:これも実際にバイセクシュアル当事者がよく経験する差別のひとつ)、糞ホームランダーのアウティングでやられ放題。

その怒りが頂点に達した女性3人がストームフロントをボッコボコにする最終話のシーンはシーズン2の象徴です。もうタイトルは「ザ・ガールズ」でいいんじゃないか…。

ただシーズン2を観ていて苦言があるとすれば、アジア系キャラクターであるキミコの描かれ方は気になります。今回は弟が出てきたり、掘り下げがあるのですが、いかんせん喋らないキャラなのでアジア系のステレオタイプそのまんまなんですよね。これだけ風刺を売りにする作品なら、もっと昨今のハリウッドにおけるアジア系描写の珍妙さとかを嘲笑うとかしてほしかったです。

また、これだけ好き勝手やっている『ザ・ボーイズ』が唯一絶対に風刺できない存在があるなと思ったり。それは…Amazon…。やっぱり自分の土台の大企業には逆らえないのか。本作がAmazonをコケにできたら、真のヒーローですよ…。

なんとも続きの気になる幕引き。シーズン3だけでなくスピンオフ展開もあるとか(観たら感想を追記します)。

ともあれ、本作はヒーロー業界産業を描いた話でしたが、こういう利権と反権力、支持者とアンチ、夢と現実という二項対立はどの業界でもあると思いますから、いろいろ応用できますよね。少なくともこういうカウンター作品を作れる“表現の自由”がある限りは、世の中は安泰です。

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シーズン3:最恐の敵は“男らしさ”

※シーズン3に関する以下の感想は2022年7月30日に追記されたものです。

シーズン2から1年が経過したシーズン3の始まり。構図は大きく激変。ザ・ボーイズは立場が変わり、ヒューイはビクトリア・ニューマンが立ち上げた超能力管理局に就職。MMは引退し、ブッチャーとフレンチーとキミコからなるザ・ボーイズはこの超能力管理局の下で大人しく働くことに。一方、ホームランダーはメイヴとスターライトの画策で飛行機内での野蛮な行いの証拠動画を抑えられ、元ナチスのストームフロントとの関係が暴露されたこともであって人気がガタ落ち。

これまでも『ザ・ボーイズ』は「トキシック・マスキュリニティ(有害な男らしさ)」をテーマにしていたのですが、シーズン3はそれがあからさまに露骨なまでにハッキリ提示されています。

やはりブッチャーとホームランダーの2人です。結局この2人は対立はしていても本質的には同類で、男らしさを歪みに歪ませまくっています。今回は父子の関係としてそれが構造的に明らかになり、「俺は俺の理想の家族の愛が欲しい」という欲望をぶつけあいます。小さくなって尿道へダイブとか、ヒーローガズムとか、タコとヤるとか、変な映像を今回もオンパレードで届けてくれましたが、黙々と牛の乳を絞って飲むホームランダーが一番笑ったかな…。

一方の他の男性キャラクターはその男らしさから脱しようと頑張っています。ヒューイは「男は女を守るものだ」という価値観から何とか足を抜いて文字どおりの全裸の弱さを曝け出し、MMもまた自分の復讐心の愚かさを娘に素直に吐露できるようになります。しかし、ヒーロー側の男性たちはあまり上手くいかず、Aトレインやディープの努力はしたけど醜態を晒してしまった姿もあったり…(ノワール、さようなら)。

アレックス(スーパーソニック)という案外と理想的な男性像のキャラがでてきたと思ったら惨たらしく死ぬしね…。

加えて今回のホームランダーはこれまた明確にQアノンから支持を得るドナルド・トランプと重ねる風刺のしかたをしてきましたね。ディープステート的な陰謀論をメディアで訴えたり、キャンセル・カルチャーに抗うと得意げに言ってみたり、恐怖支配で企業統治に乗りだしたり…。

『ザ・ボーイズ』がシーズン3で風刺の立ち位置をこれほど明快に作中で表明するようになったのは、やっぱりトキシック・ファンダムが寄り付かないようにするためなんじゃないのかな、と。製作陣も気を遣っているのでしょうね。まあ、実際のところ、日本でも「“ザ・ボーイズ”はポリコレを気にしていない最高のドラマだ!」と嬉々として持論で評している声をたまに見かけるけど、たぶんこういう人はドラマの中身がどうであれもう何も見えてないと思う…。

シーズン3はソルジャーボーイという男らしさの諸悪の根源みたいな奴との戦いの章でした。最終的には時効性Vに依存するブッチャーでもホームランダーでもなく、スターライトやメイヴの健闘あってソルジャーボーイを消沈させるのですけど(男らしさの後始末をさせられるのはいつも女性という皮肉)。

そういえばキミコは今作ではミュージカル演出があったり、アジア系女性のステレオタイプから抜け出そうともがくさまが物語化されている感じで前回より良かったです。

役割を演じるのに疲れたアニーはヒーロー衣装を破棄し、ザ・ボーイズの仲間になりました。対するホームランダーは支持者を獲得し、息子ライアンを取り込み、人前で一般人を殺しても支持はやまない最高の環境を手に入れて…。これはさらなる暴走の予感…。

『ザ・ボーイズ』は次は今の時代の何を風刺するのかな…。

『ザ・ボーイズ』
ROTTEN TOMATOES
S1: Tomatometer 84% Audience 91%
S2: Tomatometer 97% Audience 80%
S3: Tomatometer 98% Audience 86%
IMDb
9.0 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
9.0

作品ポスター・画像 (C)Amazon Studios

以上、『ザ・ボーイズ』の感想でした。

The Boys (2019) [Japanese Review] 『ザ・ボーイズ』考察・評価レビュー