というか勝てる人います?…映画『犯罪都市2 THE ROUNDUP』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:韓国(2022年)
日本公開日:2022年11月3日
監督:イ・サンヨン
犯罪都市 THE ROUNDUP
はんざいとし ざらうんどあっぷ
『犯罪都市 THE ROUNDUP』あらすじ
『犯罪都市 THE ROUNDUP』感想(ネタバレなし)
2022年もマブリー・パンチで一発
今は往年のような映画スターなんてもういないという声もありますが、どんな国でもやっぱり映画スターとしか言いようがない輝きを放つ俳優は、現在においても健在です。その俳優が主演している映画にドっと観客が押し寄せている光景をみると、まだまだそう思います。
現行のハリウッドでは映画スターとして挙げられる筆頭は“トム・クルーズ”です。
では韓国では? それは間違いなくこの人です。そう、“マ・ドンソク”。愛称は「マブリー」!
2022年の韓国映画界はこの“マ・ドンソク”が主演する作品がぶっちぎりで国内興行収入トップにとなりました。
その映画が本作『犯罪都市 THE ROUNDUP』です。
まず「“マ・ドンソク”? 誰それ?」という初心者のために、マブリーの簡単紹介から始めましょう。
“マ・ドンソク”は1971年に韓国で生まれるも、18歳で家庭の事情でアメリカに移住し(英語名は“ドン・リー”)、フィットネストレーナーとして仕事を積み、自身の肉体も作り上げます。そして俳優への道を進むのですが、やはりアジア系に俳優の仕事はなかなかなく、母国の韓国に戻って俳優業を続けます。
『悪いやつら』(2012年)、『隣人 -The Neighbors-』(2012年)、『殺されたミンジュ』(2014年)、『群盗』(2014年)など着実にキャリアを重ねていき、何と言っても2016年の『新感染 ファイナル・エクスプレス』で大ブレイクし、この映画が国際的にも注目されたので、ワールドクラスな知名度を獲得。“マ・ドンソク”が映画スターへと特急快速で爆走することになります。
以降も“マ・ドンソク”はそれはたくさんの韓国映画に出演し、『エターナルズ』では盛大にハリウッドに返り咲いたりもしました。
そしてその“マ・ドンソク”が主演映画シリーズとして成功してみせたのが、この『犯罪都市』シリーズ。このシリーズにおける“マ・ドンソク”は刑事を演じており、この主人公の特徴はとにかく剛腕ということ。もう腕っぷしだけでねじ伏せるという、ひたすらにパワープレイで事件を解決します。
真面目に考えると「警察としてこの行動はさすがにマズいんじゃ…」と思うのですけど、このシリーズの“マ・ドンソク”は前提として常に絶対正義の立ち位置にあり、なので観客は安心して見られるという、接待的な勧善懲悪モノになっています。
1作目の『犯罪都市』は2017年に公開され、2022年、2作目の『犯罪都市 THE ROUNDUP』がついに公開。この続編もやっていることは1作目とほぼ同じなんですが、“マ・ドンソク”が悪人をボッコボコにしている風景で観客はストレスを解消できればそれでいいのです。逆にそれを求めていない人が本作を観ても意味はないかな…。
『犯罪都市 THE ROUNDUP』を監督したのは、前作で助監督を務めて、これが監督デビュー作となった“イ・サンヨン”。それにしても“マ・ドンソク”人気の波に乗ったとはいえ、デビュー作で観客動員数1千万人超を達成しちゃったのは棚から牡丹餅でしたね。
“マ・ドンソク”・フィーバーに乗り遅れた人もまだまだ全然間に合います。その顔より太い上腕筋力で、あなたのことをがっちりホールドしてくれますよ(悪人だと締め上げられます)。
『犯罪都市 THE ROUNDUP』を観る前のQ&A
A:2作目ですが、1作目を鑑賞しないと物語がわからないということもあまりないので、この映画からいきなり観ても問題ないです。
オススメ度のチェック
ひとり | :俳優を好きになる |
友人 | :一緒にワイワイと |
恋人 | :マブリー愛を深めて |
キッズ | :殺人描写あり |
『犯罪都市 THE ROUNDUP』感想(ネタバレあり)
あらすじ(前半):次の相手は?
2008年、ベトナムのホーチミン。少し遠くに都市が見える草地に2人の男が立ちます。ひとりは裕福な韓国人実業家のチェ・ヨンギ。そこへチェは迎えに来た車が1台。しかし、チェが乗り込むと中に異様に不穏な空気を漂わす男がひとりいました。
その男は、車内でいきなりチェを容赦なく殴りつけ始めます。ナイフで切りつけ脅され、チェは自分が誘拐されたと理解します。
ところかわって韓国。女性を人質に包丁を持って店の前で暴れているひとりの男に、商店街は騒然としていました。警察も落ち着かせようとオロオロするばかり。
そこへ衿川(クムチョン)署の強力班に所属する刑事であるマ・ソクトがゆったり駆け付けます。マ・ソクトは店の裏手からゆっくり近づこうとしますが、大きい体で思いっきり棚を倒してしまい、気づかれます。
しょうがないので作戦変更。近づいて説得し、相手が刃物を振り回したところで腕を掴み、一気に投げ飛ばします。さらにワンパンチ。ノックアウトです。
それは新聞で報じられ、拳ひとつで強行解決してしまったマ・ソクトはすっかり世間の変な奴扱いにされます。
マ・ソクトはこの拳と肉体でこの地域の治安を守ってきた実績があり、以前は韓国と中国の暴力団の抗争を叩き潰したこともありました。
そのマ・ソクトですが、チョン・イルマン警部からユ・ジョンフン容疑者の身柄引き渡しのため、ベトナムのホーチミン市へ行くように命令されます。英語がたいして上手くもないチョンも同行するそうです。
いざベトナムへ。空港ではきっちり身体チェックをされてしまい、韓国の警察だとわかってもらえません。なんとか領事館常駐職員のパク・チャンスが迎えに来たので助かります。
このベトナムの地の犯罪事情は韓国とは全然違うもののようです。警察もアサルトライフルで武装するのが当たり前。犯罪者も当然銃を持っています。
ひとまずジョンフンを尋問。行方不明者続出事件との関与が疑われていました。ジョンフンはこちらをバカにしているのか態度が横柄です。そこでマ・ソクトは笑顔で尋問方法を変え始めます。チョンがカメラを隠し、マ・ソクトがジョンフンの首を机に押さえつけ、耳を捻ります。顔の前で拳を机に叩きつけ、相手はあっけなく自白。
ジョンフンの証言から辿り着いた隠れ家に2人でやってきますが、ドアをうっかり壊しつつ、その中にはジョンフンの仲間のジョンドゥが無惨に首を切られ殺されているだけでした。
再びジョンフンを尋問にかけ、逆さに抱きかかえて、全てを吐かせます。
なんでもジョンフンは殺人鬼として悪名のあるカン・ヘサンと組んでいたそうです。誘拐時、暴走したカンが誘拐し身代金を要求するだけのはずだったチェを殺してしまい、殺意しかないカンに怯えたジョンフンとジョンドゥは、言われるがまま遺体を埋めて従ったとのこと。
確かにそれは事実でした。ジョンフンに聞いた場所を掘り返し、間違いなく行方不明だった被害者の遺体を発見したマ・ソクトたち。
しかし、あの狂気の殺人鬼の暴走は韓国にまで飛び火していき…。
ノワールすらもギャグにする
ここから『犯罪都市 THE ROUNDUP』のネタバレありの感想本文です。
前作も2作目の『犯罪都市 THE ROUNDUP』もそうなのですが、このシリーズは一応、題材となっている実在の犯罪事件があります。
『犯罪都市 THE ROUNDUP』の場合は、2007年に韓国で殺人を犯した加害者がフィリピンに逃走し、そこでさらに観光客の韓国人を次々と誘拐して殺したという凶悪な事件で、少なくとも累計10人が犠牲になったとのこと。
日本でも近年は闇バイトで犯罪を指示するリーダーが東南アジアを拠点しているなど、組織的な犯罪が報道され、注目を浴びていますが、東アジア諸国と東南アジア諸国はこうした犯罪ネットワークでも切っても切れない関係にあるのは事実です。
『犯罪都市 THE ROUNDUP』は舞台はベトナムに変更されていますが、ただ、それ以前に着想元になった実在の犯罪事件をリアルに描こうとは毛頭考えていないのは明らかです。
本作はノンフィクションでもなく、ましてやノワールでもない…完全にクライムサスペンスの皮を被ったコメディになっています。
冒頭はものすごく凄惨なショッキングさで始まります。ビジョンを抱く若い韓国人実業家が誘拐され、猟奇的な殺人衝動を持つカン・ヘサンによってあっけなく殺されてしまう…。バイオレンス描写といい、いつものヘビーな韓国ノワールが始まったなと思わせる…ある意味では平常運転です。
ところが、ひとたびスクリーン画面に“マ・ドンソク”演じる主人公のマ・ソクトが映るとあら不思議。ノワールは消し飛び、いきなりアグレッシブなコメディに転身します。
以降はずっとマ・ソクト無双です。本作はご丁寧に「刃物」や「銃」といった狂気の危険性をこれ見よがしに描きつつ、それらに一切びびらずに拳オンリーでぶちのめしていくマ・ソクトの戦闘を見せつけることで、この天下無敵を誇張しまくります。
さすがに遠くから銃撃されたらおしまいのはずなんですが、しっかり絶対に接近戦になるようなシチュエーションを用意。終盤のバス戦なんかも明らかにマ・ソクトに有利なフィールドです。
そしてこの終盤戦でのマ・ソクトとカン・ヘサンの対峙。普通、セオリーとしてはこういう最終戦は主人公が凶悪な相手にギリギリの戦いをして、からくも勝つことで緊張感を観客に与えるものです。しかし、この映画はもうそういう振りすらする気はゼロ。
ここまで一方的に優勢でボコりまくる主人公、やっぱりこのシリーズならではですよね。『エターナルズ』の設定を引き継いでいるのかってくらいです。
なんかカン・ヘサンを演じた“ソン・ソック”がちょっと可愛そうになってきます。こういう凶悪犯の役って本来は印象に残りやすいはずなのに、木端微塵にされてしまっている…。チャン・イスを演じた“パク・ジファン”は前回に続いてオモチャにしがいのある役で美味しいですけどね。
新時代のマッチョイズム
戦闘面だけでなく、尋問のシーンでもこのシリーズならではの個性が浮き出ます。
マ・ソクトが作中でやっている強引な尋問は、警察の職業倫理的にアウトなのですけど、“マ・ドンソク”はここでも微妙に可愛げのある尋問方法をとるのがミソ。耳をつねったり、逆さまに抱っこしたり、“おいたが過ぎる”大の大人にしつけをしていくみたいな感じです。
なんていうんだろう…バイオレンスというよりは、“マ・ドンソク”流のギャグ・プレイのような…。
こういうのさえも不快に思う観客もいるでしょうし、それはそれで全然真っ当な反応だと思いますが、このシリーズはそこを楽しめるかどうかに全部かかってきますね。
『悪人伝』では悪の“マ・ドンソク”、『犯罪都市』シリーズでは善の“マ・ドンソク”。“触らぬ神に祟りなし”ならぬ“触らぬマ・ドンソクに祟りなし”の状態であるのは一緒でも、こうも正反対をだせる。“マ・ドンソク”の演技の巧みさを実感できます。
あらためて“マ・ドンソク”の魅力って何だろうかと考えると、おそらく最新のマッチョイズムのトレンドをトップランナーで突っ走れているからなんだと思います。
この『犯罪都市』シリーズも方向性としては、“アーノルド・シュワルツェネッガー”や“シルヴェスター・スタローン”なんかの80年代マッチョイズム男性主人公映画の系譜です。
ただし、それらとは違い、“マ・ドンソク”のマッチョイズムは筋肉質な男がその剛腕だけで正義を成す一方で、ステレオタイプな男らしさに当てはまらないキュートさもセットになっているのが特徴で…。
最近はこういう新時代のマッチョイズムを上手くパーソナリティとして取り入れている男性俳優がどんどん登場しており、“ジェイソン・モモア”や“ジョン・シナ”なんかが挙げられます。“デイヴ・バウティスタ”は愛嬌だけに終わらず、もっと深みのある俳優としてのセンスを見せようとさえしていますし、要するに今の時代は男性だって多様化しているということです。「男はマッチョであればとりあえず良し!」ってことでもない。「いろいろなマッチョがいていいよね?」というマッチョイズム・ダイバーシティです。
“マ・ドンソク”はアジア系としてそのニュー・スタンダードの最前線で大健闘しているからこそ、現状の唯一無二な存在感を我が物にできています。
『犯罪都市』シリーズも2023年に韓国で3作目が公開され、4作目へと続いていくだけでなくスピンオフなどの構想もあるみたいなので、これはもう韓国映画最大のフランチャイズとして『ワイルド・スピード』シリーズ化していくのかな…。
まだまだ鍛え上げられている“マ・ドンソク”のさらなる飛躍も楽しみです。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 96% Audience 100%
IMDb
7.0 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
関連作品紹介
マ・ドンソクが出演する映画の感想記事です。
・『白頭山大噴火』
作品ポスター・画像 (C)ABO Entertainment Co.,Ltd. & BIGPUNCH PICTURES & HONG FILM & B.A.ENTERTAINMENT CORPORATION 犯罪都市ザラウンドアップ
以上、『犯罪都市 THE ROUNDUP』の感想でした。
The Roundup (2022) [Japanese Review] 『犯罪都市 THE ROUNDUP』考察・評価レビュー